妹プロIFストーリー 柚希END

白石マサル

文字の大きさ
24 / 51

第24話

しおりを挟む
 案内された座敷には1人1人に食膳が用意されていた。
 小ぶりなお皿がいくつも並べられ、お刺身や山菜の煮つけ、海老の入った小さい海鮮鍋が目にも鮮やかだった。

「わぁ、美味しそう!」
「写真撮って皆に自慢しよっと」
「ねぇねぇ、これご飯お代わりできるのかな~?」

 一通りはしゃいだところで乾杯をする。
 まるで修学旅行みたいに賑やかな夕食だった。

 食事を終えて余韻に浸る。
 明日の予定などを話していると、外から花火の音が聞こえてきた。
 音の出所を窓越しに探していると

「近くで花火大会やってるんですよ。縁日もありますよ」

 と仲居さんが言ってきた。

「トモ行こうよ!」
「私も行きたいです!」

 水瀬先輩と沙月ちゃんがいち早く反応した。
 お兄ちゃんの両手をグイグイと引っ張っている。

「よし、せっかくだから行ってみるか」

 仲居さんから場所を聞きみんなで旅館を出る。

 花火が上がる海を背に、提灯(ちょうちん)の灯りが道を作っていた。
 その道を辿っていくと遠くにお社が見えてきた。

 お社を目指し階段を登り切ると、目の前には華やかな縁日が広がっていた。

「結構広いな」
「そ、そうですね。迷わないようにしないと……」
「ねぇトモ! たこ焼きあるよ! それと焼きそばとクレープも!」
「ダメよ南。友也くんは私と金魚すくいするんだから」

 みんなが好き放題言っていると

「そ、そういえば、次の花火までまだ時間があるみたいですよ」

 と言いながら友華さんがどこからか持ってきたチラシを見せてきた。
 みんなで話し合った結果、2組に分かれて縁日を周る事になった。

「それじゃあ30分後にここで待ち合わせよう」
「「「はーい」」」

 私は沙月ちゃんと一緒に射的や金魚すくいなどのゲームものを周っている。
 甘いものは別腹だけど食後に炭水化物はさすがにムリだし。

「そういえば友華さん、綺麗になったよね」
「まぁね。ファミレスにいてもたまに声かけられるくらいにはなったみたいだし」

 以前お兄ちゃんからも聞いたけど、沙月ちゃんはある時を境に男遊びをするようになったらしい。
 それがきっかけで友華さんと大喧嘩をして疎遠になったというのも、沙月ちゃんから聞いている。
 喧嘩といっても、鬱陶しく感じた沙月ちゃんが一方的に友華さんを嫌っているだけらしいけど。
 
「やっぱり気になる?」
「うん。友達としてはやっぱり仲のいい姉妹でいて欲しいと思ってるよ」
「そっかぁ」
 
 出会った頃の沙月ちゃんなら、こんな素直な回答はしなかったと思う。
 だけど今ここにいる桐谷沙月は違う。
 お兄ちゃんと出会い変わろうとする友華さんを見て、自分も変わろうとしている。
 
「正直言うとね、お姉ちゃんの事はもう嫌ってはいないんだ。むしろ嫌われてないかビクビクしてるのは私の方」
「そんな事ないと思うよ。じゃなかったら沙月ちゃんにプロデュースのお願いなんかしないよ」
「うん、わかってる。私も頼られた時は悪い気しなかったし」

 そう言って私に笑顔で返す。

「でも、あれだけヒドイ態度取ってたのにいきなり仲よくしようっていうのも虫が良すぎる気がして……どうしていいかわからないんだよねぇ」

 沙月ちゃんはそう言って夜空を眺める。
 少し他人事のように振る舞いながらも、その表情はどこか悲しげにみえた。
  
「あーもうやめやめ! この話は終わり! 次は射的行くよ、柚希ちゃん!」 

 そう言って沙月ちゃんは私の手を取り走り出した。
 まるで自分の気持ちを無理やり引きはがすかのように。

 沙月ちゃんと友華さんの力になってあげたい。
 私が2人に出来る事は何だろう。
 
 その後も沙月ちゃんと出店を周りながら色々と考えていたけど、結局答えは出なかった。


 一通り遊んで時間を確認すると、待ち合わせ5分前だった。

「沙月ちゃん、そろそろ行こ――」

 と言いながら顔を上げると沙月ちゃんの姿が見えない。
 来た道を少し戻ると、7歳くらいの女の子と話している沙月ちゃんが居た。

「沙月ちゃん、その子どうしたの? 迷子?」
「そうみたいなんだよね~。お嬢ちゃん、お名前は?」
「ぐずっ……ミカ……」
「ミカちゃんか。可愛い名前だね! 良かったらお姉ちゃん達とお話しない?」

 さすが沙月ちゃん。
 小さい子ともすんなり打ち解けていった。

 どうやらミカちゃんは小学生のお兄ちゃんと2人で来ていたらしい。
 そして金魚に見とれていたらはぐれてしまったようだ。

 まぁ、これだけ人が密集してたら無理もないか。
 現に私も一瞬沙月ちゃんとはぐれたし。
 
「ねぇ、ミカちゃん。お兄さんはどういう人なの?」
「とっても優しいお兄ちゃんだよ」
「そうなんだ。どんな服来てるの?」
「うぅん……かわいくないの着てるの。いつもと同じなの」

 優しいけどいつも同じお洋服……。
 まるでウチのお兄ちゃんみたいだ。

「いつもと同じで可愛くない……そうか、そういう事か!」
「どうしたの沙月ちゃん?」
「きっとお兄ちゃんは浴衣じゃなくて洋服を着てるはずだよ! しかも短パン!」

 そう言って「ふふん」と得意げに推理を披露する。
 それにしても短パンはどこから来たのだろうか。

 ミカちゃんの証言を基にお兄さん探しを再開する。
 しかし結局お兄さんは見つからず、花火が上がってしまった。

「うぅ……花火、始まっちゃった……」 
「ミカちゃん……」

 涙を堪えるミカちゃんの頭を沙月ちゃんは優しく撫でる。

「心配しないで、ミカちゃん。お姉ちゃん達が一緒にいるから、ね?」 
「……うん。ありがとう、お姉ちゃん」
「ふふ、どういたしまして!」

 花火が鳴り響く中、私達は案内所に向かって歩き出した。

 沙月ちゃんは終始柔らかい表情でミカちゃんを励まし続けていた。
 出会ってまだ30分も経っていないのに、2人はまるで本当の姉妹のように見える。
  
 案内所に着いた私達は役員に事情を説明し、残りの花火を3人で見上げていた。
 夜空に花が咲く毎に、ミカちゃんにも笑顔が戻っていった。

 花火が終わり、案内所の前を人だかりが通っていく。
 その中にお兄さんらしき人がいないか目を凝らしていると

「ミカー! ミカ―!」

 という男の子の声が近付いてきた。
 するとミカちゃんは「お兄ちゃんだ!」と言って立ち上がる。
 短パンを履いた男の子がこっちに向かってきた。
 これで一件落着、かな?
 
「どこ行ってたんだよ! 心配したんだぞ!」
「ひぅ! ご、ごめんなさい……」
「あ~もう。泣くなって! ほら、行くぞ!」

 そう言ってミカちゃんの腕をグイッと引っ張っていこうとする。
 ちょっと強引じゃないかな?

 私が口を出そうとしたその瞬間、沙月ちゃんのチョップが炸裂した。

「コラ! 女の子に乱暴しちゃダメでしょ!」
「いて! なにすんだよぉ!」
「あ~ゴメンね、軽くしたつもりなんだけど」

 沙月ちゃんはお兄さんの手をさする。

「だけどね、ミカちゃんもさっき痛かったと思うよ? 腕をいきなり引っ張られて」
「あっ……」

 何かを察したお兄さんを見た後、沙月ちゃんはミカちゃんに向き直った。

「お兄ちゃんはね、ミカちゃんと同じくらい心配してたんだよ? その気持ちが強いから引っ張る力も強くなっちゃったの」
「そうなの……?」
「うん。だからね――」

 一瞬だけ沙月ちゃんの言葉が止まる。
 まるで何か大事な事を思い出したかのような。
 そんな風に感じた。

「だから、お兄ちゃんはミカちゃんが……妹が大好きだから怒っちゃったの。どこかに行っちゃうと寂しいから、心配して色々言っちゃうだけなんだよ。だからお兄ちゃんの事、許してあげてね?」

 そう語り掛ける沙月ちゃんの表情は優しく、悲しげに見えた。

「うん。大丈夫だよ、お姉ちゃん」
「そっか。よしよし」
「ミカはね、お兄ちゃんの事キライになんてなった事一度もないもん!」

 笑顔で明るく言い放つミカちゃんに、胸が少しキュッとなった。
 私も妹だから分かる気がする。
 沙月ちゃんも同じ気持ちかもしれない。

「そっか……そうだよね」
「どうしたの? お姉ちゃん」
「ううん。何でもないよ。ほら、またお兄ちゃんに置いてかれちゃうぞ~」

 そう言って笑顔でミカちゃんを送り出す。
 小さな兄妹はこちらに頭を下げると、手をしっかりと繋いだまま去っていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。 「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく…

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

優しい雨が降る夜は

葉月 まい
恋愛
浮世離れした地味子 × 外資系ITコンサルのエリートイケメン 無自覚にモテる地味子に 余裕もなく翻弄されるイケメン 二人の恋は一筋縄ではいかなくて…… 雨降る夜に心に届いた 優しい恋の物語 ⟡☾·̩͙⋆☔┈┈┈ 登場人物 ┈┈┈ ☔⋆·̩͙☽⟡ 風間 美月(24歳)……コミュニティセンター勤務・地味でお堅い性格 雨宮 優吾(28歳)……外資系ITコンサルティング会社勤務のエリートイケメン

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

処理中です...