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ユーリの出征
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私は再びルベージュ子爵家の一室で、薄紫の華やかなドレスに身を包まれ、高級な長いすに腰掛けて、今にも泣きそうな顔で王城からの馬車を待っているところです。目の前にはユーリが私のほうを向いて床に片ひざを付き、切なそうな眼でずーっと私を見つめています。
「お願いだ。サクラ。出征の前に君からの口付けが欲しい」
先ほどからそう言って、私の左手を撫でながら懇願しています。
「出征すると他の騎士とも話題になるのです。別れのとき恋人とどうしたとか・・・。みな様々なのですが、総合してみるとその殆どが恋人からの口付けなのです。私だけ口付けがないと、魔獣が出たときに一歩出遅れてしまう可能性が、確実に絶対に上がります。そうならない為にも是非セシリアからの口付けが欲しいのです・・・」
そういって捨てられた子犬のような目をして、かれこれ20分は私に懇願している。しかも屋敷の表には出征に行く為の、騎士団の馬車を待たせていながらである。彼らももう慣れたもので、諦めて呼びにくることさえしなくなった。
大体出征から帰ってくると、いつも無理やりキスをするではないか。どうして行く前もしなくてはいけないのか理解に苦しむ。しかも私からというのはハードルが高すぎる。
「・・・恥ずかしいから・・やだ・・」
私はもう何回目だろうか・・・毎回聞かれる度に同じ返事を返す。その繰り返しが、永遠と続いている。
だって私は初めてのキスだって、たった3ヶ月くらい前で、いつもユーリやアルから強引にされているといっても過言ではない。そりゃアルが瀕死のときに、自分からしたキスはノーカウントだろう。あの状況でキスしないほうが人間ではない。
「サクラ・・。お願いです。このままでは外の兵士たちが、ルベージュ家で夜を明かす事になってしまいます」
えっ!それは困る。大いに困る。現在この子爵家には、ダイクレール公爵家や宰相のボロヌイエール侯爵家の援助があるとはいえ、いまだルベージュ子爵の作った借金をすべて返せてはいない。
これ以上お金のかかるような事を、あのアイシス様がよしとする訳がない。兵士たちがこのお屋敷に寝泊りする理由がこんな事だと分かれば、私を裸で絨毯です巻きにしてユーリに献上することくらい、女王様ならやりかねない。仕方がない。ここは私が大人になってキスすればいいだけの事だ。
私は一大決心をして、ユーリが両手で握ったままの左手を振り払い、それから両手でユーリの両頬に手を添えた。ひざまずいている為、ユーリの顔は私の顔より少し下にある。少しかがみながら自分の顔をユーリの顔に寄せる。
「・・・どうして目を開けたままなの?」
どの段階で閉じるものなのか分からないので、お互いの唇の距離が10センチの所で、聞いてみた。
「・・だって目を閉じてしまうとサクラの顔が見えないじゃないですか」
と当然のようにいってのける。ってことはずっと開けたままということなのですか?ユーリ・・。
「や・・普通閉じるでしょう」
「私は普通ではありません。異常な程に君を愛している男です」
「目を閉じないとキスしないわよ」
そういうとしぶしぶユーリは目を閉じた。私は信用できないので左手でユーリの両目を覆って右手をユーリの左肩にのせてから、唇を寄せる。触れるか触れないかの距離になった時に、そぅっと目を開けて様子を伺ってみた。
ユーリは言われたとおりに目をつぶったままのようだった。よし。さっとキスして魔獣退治に行ってもらおう。そう思ったとたんに触れる寸前のユーリの唇が動いた。
「サクラ・・・まだですか?」
そのくらい待てないのか!!そんな事を言われると、照れくささが増してくるではないか。もうこの状況どうしたらいいの?!
ユーリの息と私の息が至近距離で混ざり合う。そのままの状態で数分が経ったころ、私は意を決して頭を傾けた。唇同士が触れる感覚が脳に伝わる。すぐに唇を離そうと思った瞬間、ユーリが私の後頭部に右手を回してそれを阻止する。
「んんんんんん・・・!!!」
私は声にならない声を上げて抵抗するも、ユーリはその手の力を緩めない。
どれほどの時間が経ったのだろう。ようやくユーリの右手の力が抜けて、唇が離れた。私は耳たぶまで真っ赤な顔をしているに違いない。頭全体が熱がこもったように熱い。怒ろうとして口を開いた私の言葉を待たずに、ユーリが先にいった。
「ありがとう、サクラ。これで思い残すことなく戦闘にいけるよ」
またまた例の溺愛マックススマイルでいう。怒っていたはずの気持ちが、その顔を見ているとだんだん萎えていくのがわかる。
っていうかなんか、死亡フラグたった人の台詞だよ。それ・・・。心配になったので、私はまたいつもの台詞を繰り返した。
「でもユーリ。危なくなったら必ず私に連絡してね。そうしたら時を止めるから・・・」
「大丈夫です。大魔獣が現れない限りはサクラの力は必要ありません。素早く仕事を終わらせてきますので、また帰ったら口付けをお願いします」
そういってユーリは、満面の笑みで騎士団の馬車に乗って戦闘に向かった。
いまだに頬に赤みが残る私を見て騎士団の兵士が生暖かい目で見てくるので、私は居たたまれなくなってその場からすぐに離れた。
「お願いだ。サクラ。出征の前に君からの口付けが欲しい」
先ほどからそう言って、私の左手を撫でながら懇願しています。
「出征すると他の騎士とも話題になるのです。別れのとき恋人とどうしたとか・・・。みな様々なのですが、総合してみるとその殆どが恋人からの口付けなのです。私だけ口付けがないと、魔獣が出たときに一歩出遅れてしまう可能性が、確実に絶対に上がります。そうならない為にも是非セシリアからの口付けが欲しいのです・・・」
そういって捨てられた子犬のような目をして、かれこれ20分は私に懇願している。しかも屋敷の表には出征に行く為の、騎士団の馬車を待たせていながらである。彼らももう慣れたもので、諦めて呼びにくることさえしなくなった。
大体出征から帰ってくると、いつも無理やりキスをするではないか。どうして行く前もしなくてはいけないのか理解に苦しむ。しかも私からというのはハードルが高すぎる。
「・・・恥ずかしいから・・やだ・・」
私はもう何回目だろうか・・・毎回聞かれる度に同じ返事を返す。その繰り返しが、永遠と続いている。
だって私は初めてのキスだって、たった3ヶ月くらい前で、いつもユーリやアルから強引にされているといっても過言ではない。そりゃアルが瀕死のときに、自分からしたキスはノーカウントだろう。あの状況でキスしないほうが人間ではない。
「サクラ・・。お願いです。このままでは外の兵士たちが、ルベージュ家で夜を明かす事になってしまいます」
えっ!それは困る。大いに困る。現在この子爵家には、ダイクレール公爵家や宰相のボロヌイエール侯爵家の援助があるとはいえ、いまだルベージュ子爵の作った借金をすべて返せてはいない。
これ以上お金のかかるような事を、あのアイシス様がよしとする訳がない。兵士たちがこのお屋敷に寝泊りする理由がこんな事だと分かれば、私を裸で絨毯です巻きにしてユーリに献上することくらい、女王様ならやりかねない。仕方がない。ここは私が大人になってキスすればいいだけの事だ。
私は一大決心をして、ユーリが両手で握ったままの左手を振り払い、それから両手でユーリの両頬に手を添えた。ひざまずいている為、ユーリの顔は私の顔より少し下にある。少しかがみながら自分の顔をユーリの顔に寄せる。
「・・・どうして目を開けたままなの?」
どの段階で閉じるものなのか分からないので、お互いの唇の距離が10センチの所で、聞いてみた。
「・・だって目を閉じてしまうとサクラの顔が見えないじゃないですか」
と当然のようにいってのける。ってことはずっと開けたままということなのですか?ユーリ・・。
「や・・普通閉じるでしょう」
「私は普通ではありません。異常な程に君を愛している男です」
「目を閉じないとキスしないわよ」
そういうとしぶしぶユーリは目を閉じた。私は信用できないので左手でユーリの両目を覆って右手をユーリの左肩にのせてから、唇を寄せる。触れるか触れないかの距離になった時に、そぅっと目を開けて様子を伺ってみた。
ユーリは言われたとおりに目をつぶったままのようだった。よし。さっとキスして魔獣退治に行ってもらおう。そう思ったとたんに触れる寸前のユーリの唇が動いた。
「サクラ・・・まだですか?」
そのくらい待てないのか!!そんな事を言われると、照れくささが増してくるではないか。もうこの状況どうしたらいいの?!
ユーリの息と私の息が至近距離で混ざり合う。そのままの状態で数分が経ったころ、私は意を決して頭を傾けた。唇同士が触れる感覚が脳に伝わる。すぐに唇を離そうと思った瞬間、ユーリが私の後頭部に右手を回してそれを阻止する。
「んんんんんん・・・!!!」
私は声にならない声を上げて抵抗するも、ユーリはその手の力を緩めない。
どれほどの時間が経ったのだろう。ようやくユーリの右手の力が抜けて、唇が離れた。私は耳たぶまで真っ赤な顔をしているに違いない。頭全体が熱がこもったように熱い。怒ろうとして口を開いた私の言葉を待たずに、ユーリが先にいった。
「ありがとう、サクラ。これで思い残すことなく戦闘にいけるよ」
またまた例の溺愛マックススマイルでいう。怒っていたはずの気持ちが、その顔を見ているとだんだん萎えていくのがわかる。
っていうかなんか、死亡フラグたった人の台詞だよ。それ・・・。心配になったので、私はまたいつもの台詞を繰り返した。
「でもユーリ。危なくなったら必ず私に連絡してね。そうしたら時を止めるから・・・」
「大丈夫です。大魔獣が現れない限りはサクラの力は必要ありません。素早く仕事を終わらせてきますので、また帰ったら口付けをお願いします」
そういってユーリは、満面の笑みで騎士団の馬車に乗って戦闘に向かった。
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