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ギルセナ王国脱出
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時間が止まった静寂の中、私達4人の無言が場を支配する。その静寂を破ったのはクラウス様だった。
「サクラ。とにかく元気になったようで良かった。体が動くようであれば、表にある馬車の馬を動かしてくれないか?アイシスだけでなく、キアヌス騎士、マリス騎士、ヘルミーナ・・・いや、ヘル騎士もここに来ている。連れてきた近衛兵たちは、数時間前に王城を発つように指示したから、今頃はウェースプ王国の国境まで半分位の距離に来ているだろう。だから今は彼らを馬車に乗せて、とにかく王城を出よう」
まあ、そうだよね。時間はいくらでも止めておけるとしても、いつまでもこの場に居る必要はない。・・・というか早くここを出て、ウェースプ王国に帰らなければいけない。
クラウス様の台詞を聞いたとたん、ユーリが私を膝の上に乗せたままの状態で、横抱きに抱き上げて立ち上がった。
あ・・・お姫様抱っこだ。
けれど長いウェディングドレスの裾が垂れ下がって地面についてもなお、その存在を床の上で主張していた。アルフリード王子が何も言わずに突然その裾を持っていた剣で切り取った。
「ああ・・・せっかく綺麗なドレスだったのに・・・」
私が思わず残念そうにつぶやくと、アルフリード王子が無表情だけど少し口角を上げて笑ういつもの顔で言った。
「こんなのより、もっと綺麗なドレスをオレとの結婚式には着せてやる。心配するな」
ユーリまでが憎々しげな声で物騒なことをいう。
「本当はこんなドレス脱いでもらいたいのですがね。他の男と結婚する為のドレスなんか、引き裂いてやりたい気持ちで一杯です」
裸で帰るのだけは勘弁です・・・はい・・・。
私はユーリに抱かれて外に出た。2週間ぶりに見た外の景色は久しぶりで、心が温かくなった。ウェースプ王国と違い、街の風景の後ろに沢山の山々が連なっているのが見える。あれが魔獣が出ると有名な森なのね。
何百ものギルセナ王国の兵士が、教会に駆けつける途中で時が止まったようだ。向こうのほうにもう人では無くて、あまりの人数に黒い塊にしか見えない兵士達が見える。
あれだけの人数の兵士が相手では、いくら優秀な騎士でも危なかったに違いない。私が麻薬でブレント君の言いなりになって、時を止めないかもしれない危険を冒してまで、彼らは私のためにギルセナ王国まで来てくれたんだ。
私は皆への感謝の気持ちを抱くと共に、浅い考えでウェースプ王宮を飛び出した自分が恥ずかしくなった。私は早速指定された馬に手を触れ、馬を動かした。4頭動かした後で、馬車の中に運ばれて長座席の上で寝かされる。
2台の馬車で向かうつもりのようだ。ユーリはその内の一台に私を寝かせた後、他の人たちを馬車に運ぶためにすぐに教会に引き返していった。どれほどの時間が経ったのかわからないが、暫くしてクラウス様が私が乗っている馬車に、固まったままのマリス騎士を連れて乗り込んできた。
「アルフリード王子がこの馬車を操縦される。ユーリスはキアヌス騎士と、アイシスとヘルミーナを乗せて隣の馬車で行くそうだ」
なんでも3人で話し合って決めたようで、アルフリード王子もユーリも私の傍で居たいと主張したらしいが、話し合いは平行線になり決着がつかなかった。なので結局クラウス様が私と一緒に乗る事になったらしい。
そうこうしているうちに、馬車が動き出した。私は長座席の上で横になっていて、反対側の座席にはクラウス様が座っている。そしてその床の上にはマリス騎士が転がされている。
アルフリードってば王子様なのに御者席に座って、2頭の馬をうまく操縦している。でもさすが王室御用達の馬車だ。私がこの世界に来て初めて乗った乗り合い馬車とは揺れもクッションも全然違う。
マリス騎士も床の上だけどあとで体中が痛むということはなさそうだ・・・あ・・時が止まっているから痛くならないのか?いや・・魔獣は止まっていても刺したら死ぬんだから、やっぱり後で痛むに違いない。後で聞いておこう。
「ところでクラウス様。ヘルミーナ様って誰のことなんですか?」
私は疑問に思ったのでたずねてみた。するとクラウス様は顔を赤くされて、心底残念そうに話してくれた。
「あ・・・・ああ、ヘルミーナは私の婚約者だ。昔から騎士になるのが夢でとうとう男装して7年かけて騎士になった女性で・・・彼女が君も知っているヘル騎士なんだ。本当は私が同じ馬車に乗りたかったのだが、動かない彼女に何をするか信用できないといって、ユーリの方の馬車に乗せられた」
えーーーー!!ヘル騎士って女の人だったの?しかもクラウス様の婚約者で・・・。なんかこんがらがってきた。っていうかヘル騎士様ってばクラマの仲間ってことか。ふふふ。騎士訓練所って男装率高いよね。
「でもアルフリード王子もユーリもひどいですよね。クラウス様が固まっているヘル騎士様に何かするなんて、あり得ないじゃないですか」
そうだこんなに紳士的で、どちらかといえば堅物なクラウス騎士団総長の彼が、そんなことを考えるはずも無い。
「ありがとう。そういってくれて嬉しいよ、サクラ嬢。ところで今度私が頼んだ時に、10分・・・いや5分でいい。時間を止めてくれないか?」
「もちろんいいですよ。簡単なんでまかせてください」
私は何も考えずに返事を返した。
この時の約束が後になって大変な事になろうとは、この時は思っても見なかったからだ。後悔先に立たず・・・だ。
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