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サクラ羞恥プレイに赤面

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余りの反応のなさに心配になってくる。もしかして私が重すぎて腕がつったとか!!?ユーリが一転して物凄く辛そうな顔で言う。

「・・・この間、アルフリード王子と何かあったのですか?」

え・・・何かって?私がきょとんとした顔をしていると、ユーリはそのまま続けていった。

「緊急会議の後です。執務室から出てきた時、サクラは真っ赤な顔をして胸元を押さえていたでしょう。殿下と何かあったのですか?もしかして、私の婚約者であることを撤回してアルフリード王子と婚約しようとかいわれたのですか?」

む・・・胸元って・・・あれを気付かれていたのか!?っていうか何の想像をしているんだユーリは!!??私があの時アルと、いけない関係になっちゃったとか・・・?!駄目だ、ここは完全否定しておかないと!

「ユーリ、あれは何でもないの!なんていうか私がアルにやっちゃったことを、アルに仕返しされたというか・・・ユーリが考えているような大人の遊びじゃなくて、子供の遊びの延長っていうか・・・」

いかん。説明しようとすればするほど、おかしな感じになってくる。ユーリの顔がだんだん曇ってきた。

「サクラがアルフリード王子になにかやったのですね。それで同じことを返された。それで間違いないですか?」

「そ・・・そうそう。よくあることだよね」

よかった、よくあんな言い訳で納得してくれたもんだ。私ってば誤魔化すテクニックスキルが上がったのかも知れない。うふふふ。

そう一人で喜んでいたらユーリの爆弾発言が投下された。

「じゃあ、私にも同じことをしてください。子供の遊びの延長なんですよね?」

「くっ・・・・・・・・・!!!!」

確かに私はそう言った・・・言ったけど・・・。あれをユーリにやれというのか?それは余りにも羞恥プレイすぎる。大体あの時は夢中だったから躊躇なく噛めたけど、冷静になっているいまやるとなると、一体どのくらい加減して噛めばいいのかも分からない。いや、私はいま冷静ではない、物凄く動揺している。なら大丈夫か・・・。

私は顔を真っ赤にしてしばらく考えを巡らせた後、観念していった。

「わかった。じゃあ、ユーリ。私を地面に下ろしてから、隊服の上着の前を開けてちょうだい」

「・・・・・?」

ユーリが余りにも突拍子もない私の言葉に一瞬固まったが、その後すぐに素直に従った。胸の上部から順番にホックが外されていく。緑の隊服の上着の前がはだけられて下に着ているシャツがあらわになった。

ええい!もうどうにでもなれ!!

私は身構えると、両手で逃げないようにユーリの体を押さえた後で、思い切りシャツの上からその左胸に噛みついた。ユーリが一瞬びくっとしたのが口元から伝わってきたけれど、構わずに噛んだ。その後、口を離してドヤ顔でユーリの顔を見上げる。

ユーリは何とも形容しがたい顔をして、怒っているのか悲しんでいるのか分からない表情で私を見つめる。

「・・・誤解しないでよ!アルが私を抱きしめたまま離さないから、怒って噛んじゃっただけなんだから!」

私はいまだにユーリの体を両手で押さえたまま、ユーリの目を見据える。

「・・・それで、アルフリード王子に同じことを返されたのですね?」

「・・・そ・・・そーよ」

「だから、胸元を押さえていたということで間違いないですか?」

どこまで羞恥プレイをさせるつもりだ、この男は!!私は恥ずかしさが頂点に達して、ユーリの顔から目を逸らした。これ以上は到底無理だった。するとユーリは肩に手を置いて、横を向いたままの私の耳に囁いた。

「じゃあ、私も同じことを返していいということですね」

「い・・・いいわよ・・こ・・子供の遊びの延長だからね・・」

私はそっぽを向いたまま答えた。ユーリの手がオレンジのドレスの首元にかかる。心臓の音が激しくなってきて、何も考えられなくなってきた。ゆっくりとユーリの顔が胸元に近づいてくるのが目の端で見える。私は両目をつぶってその瞬間を待った。

すると私の左胸に感じたのは、鋭い痛みではなくて柔らかくて温かい感触だった。驚いて目を開けると、そこに群青色の双眸が私を優しく見つめていた。ユーリは私の胸に軽い口づけを落としたのだ。

「これで許してあげます。私の胸には数日は消えないだろうサクラの歯形がついていますがね」

そういいながらユーリはシャツのボタンを3つほど外すと、胸についた赤い歯形を見せた。なんだか喜んでさえいるようなユーリの態度に、私は少し安心した。よかった、怒ってないんだ。

ホッとしたとたん、お腹が物凄い音を立てて鳴り始めた。そう言えば夕ご飯まだだった。私が泣きそうな顔で見つめると、ユーリはいつもの溺愛マックススマイルで答えた。

「夕食を食べに行きましょうか。恐らくもう用意されているはずですよ」

その夜から数日後の葬儀の日まで、ことあるたびにユーリが左胸に手を当てては微笑んでいるのを見かけた。溺愛遺伝子か・・・。本当にそんなのあるんだな。私はまるで他人事のようにユーリを見かける度にそんなことを考えていた。

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