《 ベータ編 》時を止めるって聖女の能力にしてもチートすぎるんじゃないんでしょうか?

南 玲子

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激しい死闘 失われた命

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棚田のように段々と入れ違いに組み合わされたテラスに、その7人は月の光を全身に浴びてその場に立ちすくんだまま、互いの動向を探るように神経を張り詰めていた。端から見れば異様な光景だ。そこに立つ7人のうちの3人には影がないからだ。

アイシスがセシリアを連れて転移魔法で消えたのを見て、ジルは大きくため息をつくと、ユリアナ皇女の手の中にある3種の宝飾のうちの一つのネックレスを見ていう。

「・・・どうする?皇女・・・ネックレスはあんたが持ってるんだったら、指輪もここで奪っておこうぜ」

「聖女はわたしが張りなおした結界からはでられないはずよ。王城内のどこかにいるのは間違いないわ。だからジル、ギア、好きにしてもいいわよ。でもこの人たちを殺しちゃ駄目・・・あの子に時を止めさせるのに必要な人質だから」

アルフリードが左腕にはめている銀の腕輪を見てからギアがいう。

「腕輪までここにあるぜ。まあ、聖女が欲しいのは過去に戻れる指輪だろう。こいつは放っておいていいんじゃないか?ジル」

アルフリードが一連の会話を聞いて、ユリアナ皇女の方を睨みつけた。


「ユリアナ皇女、あなたがこの一連の事件の首謀者なのか?魔法庁長官の張った結界を破って、張りなおしたのも貴方なんだな。ナイメール公国がどうして我が国の聖女の命を狙う理由があるんだ」

ユリアナ皇女はアルフリードの方を一瞥もせずに、天に浮かぶ二つの月を見て歌うように呟いた。

「うふふふふ。あなたたちが知る必要はないわ。これはナイメール公国は関係ないの。聖女の遺志なの・・・。遠い・・・気の遠くなるような時を生きてきた聖女ハナ様のね・・・。聖女は死ななければいけない。世界を滅ぼす悪魔になる前に・・・。さあ、これで説明は終わりよ」

彼女が言い終わるのが合図だったように、ジルとギアが戦いを開始した。それに応えて4人が剣で戦う。

アルフリードが作戦を考える。ユリアナ皇女は剣を持っていない。恐らく戦いの能力は無いのだろう。ということは4対2でこっちが有利だ。だが敵は不死身らしい。刺しても死なないなら、どうすればいい・・・。

「ルーク!!あれをやるぞ!準備しろ!!」

「了解しました!!殿下!!」

アルフリードはルーク補佐官に向かって叫んだ。有能な補佐官であるルークは、それだけでアルフリードがこれからやろうとすることを理解したようだ。すぐに準備にかかって魔力を練る。

その間、時間を稼ぐ為にユーリスとキアヌスがジルとギアの相手をする。ギアはその二つの円状の武器をブーメランのようにして跳ばして攻撃をする。途中で魔力を込めてそれらの軌道を変えるので、どこに跳んでいくのか見当もつかない。

なんとか反射神経を使って避けるものの、避けきれなかった武器の刃先が当たって肉が切れる。ギアの攻撃を避けているその間に、うまいコンビネーションでジルの攻撃が絶え間なく襲ってくる。

「こいつら、かなり腕が立ちます!早くしてくださらないと持ちませんよ!!くっ!!」

ユーリスがキアヌスが避けきれなかった剣を代わりに受けている為、余裕が無い様子で息を切らせながらアルフリードに言う。

「もう少しだ!!ユーリス、もう少し踏ん張れ!!」

ルーク補佐官が準備ができたとばかりに、アルフリードの方を見て頷いた。それを合図にアルフリードが予め罠を張ってあった場所に、ジルとギアを誘導する。敵もかなりの戦闘をくぐりぬけてきた強者だ。簡単に罠の場所には誘導できない。

「ばかか!!こんなちゃちい罠に誰がひっかかるか!!」

ギアが笑いながら罠のある床を踏まないように、空中を壁を蹴りながら移動する。そこにアルフリードがギアの足元に魔力でできた板をわざと踏ませて、本物の罠のある壁に反対の足をつけさせる。床に展開した魔法陣はアルフリードが用意した偽物だった。その瞬間、アルフリードとルークの展開した魔術が起動した。

「ギア!!!」

突然光の檻が壁から手のように生えてきて、ギアの体を包み込む。思いもよらぬ攻撃に動揺して、ギアを助けようと手を伸ばしたジルも中に引きずり込まれた。

「殺しても死なないなら、捕獲するまでだ。これはギアスの檻と言って古代魔法を使ったもので、もうオレにさえ解除するのは不可能だ。どうあがいても出られんぞ。オレもルークもかなりの魔力を食われたがな・・・」

魔力をごっそり取られて疲労している体を、何とか奮い立たせて立っているアルフリードが、ギアスの檻の中にいるジルとギアを見て、勝ったとばかりににやりと笑う。

「・・・・・っ!!!!」

その時、背後から何者かが切りかかってきた!突然の攻撃に一瞬避けるのが遅れたが、背中を少し切っただけでなんとか避け切った。

「一体、何者だ・・・?!」

アルフリードが突然現れた敵の方を見ると、そこにはナイメール公国のソルデア王が、体中から血を流しながら剣を構えて立っていた。その腹には大きな傷があり、止血魔法も聞かないほどの大きな怪我なのか、いまだに血を床に滴らせている。

「・・・ユリアナを傷つけるものは決して許さない。私が命に代えても彼女を守る」

ソルデア王は立っているのもやっとの様子で、青白い顔をしながら力ない声でつぶやく。ユーリスがそんなソルデア王を見て口を開いた。

「ユリアナ皇女は不死の身ですよ。貴方は死んでもユリアナ皇女は生き残るでしょう」

その言葉は思ったよりもソルデア王に・・・しかもユリアナ皇女にさえも衝撃を与えたようだ。ソルデア王は目に見えるほどに動揺した顔をして、そうしてユリアナ皇女の方を愛しそうに見つめた。

ユリアナ皇女は今までの冷静な顔を一瞬崩したかと思うと、すぐに元の能面のような表情に戻るとアルフリードらの方を向いて言った。

「わたしはソルデア王と一緒には死ねませんが、あなたたちは愛しい人と共に死ねるのです。喜んでうけいれるべきでしょう」

「・・・一体どういう意味だ・・・・?」

アルフリードがつぶやいた瞬間、ユリアナ皇女の発した言葉の意味を体の痛みで理解した。背後で絶対に解けないはずの古代魔法を使ったギアスの檻が壊されて、ジルとギアが攻撃をしてきたのだ。

アルフリードは背中を貫かれその場に膝を付く、その瞬間、ユーリスがジルによって右腕を切り取られる光景を目にした。

しまった!ソルデア王に気を取られて、ユリアナ皇女がギアスの檻の術を解いたのに気が付かなかった!ハボット魔法庁長官が張った結界魔法を解いて、張りなおすほどの腕前の術者はこのユリアナ皇女だったというのか!!だが、このギアスの檻を解除するなんてあり得ない!

空には白と赤の満月が二つ輝いていて、地上の者を照らし続けている。王城のあちこちで未だに兵士たちが戦っているようで、爆発音や悲鳴が夜の空気を裂いて絶え間なく聞こえる。そうしてこの王城の中央棟のテラスでも、いままた命が失われそうになっていた。

「ユーリス!!!!!」

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