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グイド・ムーア・ヒルデン

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ミュリエルは午前中の授業を終えると、すぐにグイドを探しに出かけた。こっそり彼にミュリエル特製の発信魔虫をつけておいたので、グイドの居場所はすぐに分かった。そこは学園の中庭の奥にある池だった。何もない学園の最奥の場所で、たまに悪さをする魔兎が出たりするので生徒はあまり近づかない場所だ。

ミュリエルは学園の東棟を抜け、噴水と庭園を超えてまだまだ先に進んだ。こんなところで一体何をしているのだろう?不思議に思ったが、とにかく出会って見なければ恋は始まらない。早くミュリエルに恋してもらって、結婚したいと言ってもらわないとお話にならない。

バラのいばらの垣根を抜けて、少し広い場所に出た。そこに人影が見える。

あ、あそこにいた。

ミュリエルは足早に駆け寄って近くに行くと、途中で足を止めた。そこにはグイドはいたが彼一人ではなかった。グイドの傍にもうひとり人がいて、なにやら二人で絡み合っている。

「ひっ!!!」

ミュリエルはその二人が行っている行為を見て、小さな悲鳴を上げた。二人は夢中で互いに唇をむさぼりあって、既にズボンを降ろして下着が丸見えになっていた。しかもグイドの相手は同じ男子生徒。つまりBLだということだ。

男女交際ですらまだ未知の領域だというのに、初めて間近で見た愛の行為が男同士のものだったなんて!!ミュリエルは頭の中が混乱して、何が何だか分からないうちに走り出していた。

草むらをかき分けて、花の生垣の間を駆け抜ける。そうしているうちに何か大きなものにつまずいてミュリエルは転んでしまった。

「きゃっつ!!!!!」

猛スピードで走っていたので転んだ時の衝撃も半端なかった。思い切り全身を地面に打ち付けて、振り返ったミュリエルは両手で目を覆ってからもう一度悲鳴を上げた。

「きゃぁぁぁぁぁ!!!」

そこには絡み合う男女がいた。女生徒は上半身裸で男の上にまたがり、男子生徒は彼女の体を両手で支えながら突然乱入してきたミュリエルの方を見つめる。男子生徒のズボンはチャックを降ろされていて、そこを覆っている女生徒のスカートの裾は乱れていた。

次の瞬間女生徒が顔を真っ赤にしたと思ったら、ミュリエルに見られないように顔を隠しながらその場を飛び出していった。

「あーあ、お前のせいだぞ。これどうしてくれるんだ?」

男子生徒はよく見るとかなり端正な顔をしていて、黒い髪に黒い瞳をした切れる様に鋭い感じの美形の男だった。その男子生徒が制服の前を全部はだけて、その下にある筋肉をちらりとのぞかせている。見かけによらずかなり筋肉質のようで、隙間から体の動きに合わせて時々見える腹筋が、彼のセクシーさを際立たせる。

「あ・・・・あああ・・」

「お前処女か。ちっ、使えないな。じゃあせめて口で処理してくれ」

ミュリエルには男子生徒のいう言葉の意味がさっぱり分からなかったので、取り敢えず彼の言ったセリフは無視して会話をつづけた。

「と・・・とにかく落ち着きましょう。あの・・ごめんなさい。彼女行ってしまったけど追いかけなくてもいいの?」

「ああ、名前も知らん女だ。もうどうでもいい。それより中途半端で終わってしまって困ってるんだ。お前どうにかしてくれ」

どうして男子生徒が名前さえ知らない女生徒とこんな行為をしていたのか?何が中途半端で困っているのか?分からないことだらけだ。

「名前も知らない相手とこういう事はしてはいけないと思うわ。相手に失礼よ」

「知らないからいいんだよ。どうせ女なんてみんな同じだ。お互い気持ちよきゃいいんだろ?」

ミュリエルの一番嫌いな女性蔑視の言葉を聞いて、ムッとして反抗を開始する。

「気持ちよくなるだけなら一人で充分できるでしょ?それに女の子は皆一緒じゃないわ。男の子も一緒じゃないようにね」

男子生徒はミュリエルの台詞に興味を持ったようで目を見開いてミュリエルを観察し始めた。

「お前あの噂の氷の女王か・・。お前にはわからないだろうが、一人で気持ちよくなるだけじゃ退屈なんだよ」

氷の女王。これはミュリエルの二つ名で、学園に入学して最初に受けた授業で氷の魔法を暴走させてしまい、建物を一棟全部氷漬けにしたほどの多大なる魔力を揶揄して彼女につけられたものだ。あの時はかなり先生に怒られた。なので彼女にとってあまり望ましくない二つ名だ。

しかしここにきてミュリエルは、だんだんと男子生徒の言った言葉の意味を理解してきた。彼女には知識だけは充分すぎるほどにあったからだ。男性の性の仕組みでさえも・・・。

彼女は指を一本立てて魔力を生成する。空中にその指で魔方陣を描いてミュリエルの欲しい魔法を発動させた。

「うっ!!!」

男子生徒がくぐもった叫び声をあげた。しばらくそのまま身悶えていたかと思うと、次の瞬間男の性が解き放たれた。男子生徒がほてった頬を赤く染めて信じられないといった目つきでミュリエルを見る。

「一人でも充分すぎるほどに気持ちよくなったはずよ。これからはああいう行為は好きな女性とだけすることね。この魔方陣形成法を教えてほしければいつでも来て。特別に教えてあげるから」


男子生徒は先ほど行われた屈辱的な行為に怒りをたぎらせて、まるで手負いの獣のように睨みつけてくる。ミュリエルはそんな様子の彼を一瞥した後、すぐにその場を離れた。

その時ミュリエルは慌てていたので気が付かなかった。彼女がポケットから一枚の紙を落としてしまっていたことに・・・。
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