「‥君に気安く話しかけられたくないな。」初恋の人に使用人と間違えられて、塩対応されちゃいました。

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エリーゼの秘密

 グスタフ卿の乗った馬車が見えなくなると、エリーゼはとぼとぼと医院の中へ戻って行きました。

 看護師が医院に戻ってきたエリーゼを見るなりすぐに声をかけてきました。

「エリーゼさん、どこへ行ってたんですか、先生がお待ちですよ。」

「‥すみません。」

 看護師に促されて診察室へ入ると、エリーゼの母も診てくれていた馴染みの医師ナポリがにこやかに彼女を迎えてくれました。

「エリーゼさん、今日はどうしましたか。」

「‥実は私、夢遊病らしいんです。夜中に寝てるはずの私が屋敷内をフラフラ歩いてる姿を‥屋敷の使用人達が目撃してるんです。」

「‥うーん、実際にその現場を見ていないから分かりませんが‥。あっ、なんならうちの息子を監視代わりにエリーゼさんのお宅へしばらく滞在させましょうか。」

「‥それは無理でしょう。お義母さん達が許すはずがありません。」

「アハハハ、大丈夫ですよ。侯爵にはそれらしい理由を伝えて、こちらで何とかしときますから。」

「‥えっ、お父様と知り合いなのですか?」

「‥うーん、患者さんのプライバシーは守りたいから詳しくは言えないけど、エリーゼさんの母上が亡くなられてからしばらくして、侯爵もこの医院へ時々診察に来てるんですよ。」

「‥えっ、お父様は病気なのですか!」

「‥うーん、病気ではないけど‥その‥いまよりもっと元気になる為の薬を処方してます。‥これ以上は言えません。」

「‥?まあ、病気でないのなら良いです。」

「ところでエリーゼさん、例のラッキースケベ体質で何か困った事はありませんか?」

「‥あっ、それなんですけど‥夢遊病でフラフラしてる時にそれが起きたらどうしようかと思うと心配なんです。‥弟が意味深な事を言ってくるし‥。」

「‥エリーゼさんは弟君を異性として意識してますか?」

「全然意識していないです!」


「なら大丈夫です。ラッキースケベとは、その名の通りエリーゼさんにとってラッキーでスケベなハプニングしか起きませんから。‥‥ですので、エリーゼさんにとってスケベなハプニングが起きて欲しくない異性に対しては、決して発動しないのです。」

「‥良かった。それを聞いて安心しました。これで今日から安眠できます。」


「‥ラッキースケベ、これは亡き母君からエリーゼさんへのギフトなのかもしれません。エリーゼさんの母君は、アンラッキースケベ体質のせいでとても苦労したようですからね。

アンラッキースケベ体質‥それはあまり好きではない異性に対してだけ、スケベなハプニングが起こるという‥それはもう恐ろしい体質です。」


「‥それで母は、外国から来た父にアンラッキースケベなハプニングを起こして‥この国へ拉致されて淫獄の中で息絶えたのですからね‥。アンラッキースケベ体質‥確かに恐ろしい体質です。」


「‥拉致、淫獄‥うーん、そこまで物騒な感じでもないんだけど‥。

まあ、とにかくエリーゼさんは、父君の行動力と母君の美しさを兼ね備えた最高のラッキースケベなんですよ。だから、エリーゼさんはいっぱいラッキースケベなハプニングを起こして、素敵な異性をゲットして下さいね。」


「‥いっぱいラッキースケベハプニングを起こして、素敵な異性をゲット‥?そんなに上手くいきますか。‥かえって嫌われそうですけど‥。」


「何を言うんです!スケベな美人が嫌いな男はいません!」


「‥先生、母はスケベな美人は危ないからと言って私に不美人になるメイクを施しました。

‥私は今後も母にそっくりな素顔を晒さずに不美人に見えるメイクを施したまま生きていくつもりです。‥だから私は今スケベな美人ではなく、スケベなただのブスですが‥それでも幸せになれますか?」


「‥‥スケベなただのブスは‥無理かもしれないです。‥幸せになりたいのなら、いつか勇気を出して生まれ持った美しい素顔を晒すべきです。」

「‥。」

 エリーゼはナポリ先生の言葉に何も言い返せませんでした。ただ、黙って苦笑いをするだけでした。


 エリーゼが屋敷へ戻り、自分が監禁されている部屋に入り、いつも通り気ままに過ごしていると、夜になって父のカシューが部屋を訪れました。

「‥あっ、お父様。‥どうされました?」

「‥最近屋敷の周りを変質者がうろついているそうだ。お前も気を付けろ。」

「心配してくれて、ありがとうございます。‥でも私はこの部屋に監禁されているので大丈夫です。」

「‥屋敷の中にも入ってくるかもしれないから、鍵をしっかりかけて気を付けておくんだ。」

「分かりました。」


「‥ところでエリーゼ、お前をここに閉じ込めている俺を恨むか?」


「まさか!全然恨んでないです。寧ろ感謝しています。」


「そうか?‥あっ、そうそう。ナポリ先生の息子さんをしばらくこの屋敷でお預かりする事になった。‥お前もこの部屋にずっといて退屈だろうから、これを機に彼から勉強や若者の流行の事など色々教わるといい。」


「分かりました。‥お父様、私の事を気にかけてくれてありがとう。」


 エリーゼはにっこりと微笑みながら父カシューにお礼を言いました。

「‥あ、ああ。」


 エリーゼの父カシュー侯爵はそれだけ言うと、すぐに部屋から出て行きました。

 エリーゼは、カシューが部屋から遠ざかるのを足音を聞きながら確認すると、先程まで読んでいた恋愛小説を枕の下から取り出して続きを読み耽りました。


 そして、眠る時刻を告げる時計の音が屋敷に響く頃‥エリーゼも読んでいた本を閉じて、ベッド脇のライトを消し布団に潜りました。


「‥ナポリ先生、早速息子さんをこの屋敷に送ってくれたのね。‥私が本当に夢遊病なのかどうか調べる為に。‥これで私が夜中に何をしているのかがはっきりと分かるんだわ。」


 そう言うと、エリーゼは安心して眠りにつきました。








 

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