「‥君に気安く話しかけられたくないな。」初恋の人に使用人と間違えられて、塩対応されちゃいました。

みるみる

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医師ナポリの息子

「ナポリ先生はお父様に何て話したのかしら?」

 医師ナポリが息子をこの屋敷にしばらく泊まらせる事にする、と言ってはいたが、まさかその日のうちにこの屋敷へ寄越すとは、エリーゼは思ってもみなかったので驚いていました。

「‥お父様はナポリ先生に何か弱みでも握られているのかしら?」 

コンコン、

「‥‥誰?」

「エリーゼさん、ここを開けてよ。」

「‥だから誰。」

「‥僕だよ、僕。」

「‥‥。」

 エリーゼは自分の部屋の前に立っている不審者を警戒しながらも、そーっと扉を開けてみました。初めて聞く声の主が誰なのかこの目で見たくなったからです。

「あっ、エリーゼさん。僕だよ、分かる?」

「‥だから、誰?」

「医師ナポリの息子のカルディだよ。」
 
「ああ、あなたが‥そう。」

 エリーゼは扉の前に立つカルディの姿を確認すると、すぐにその扉を閉めようとしました。

「だっ、‥ちょっと!」

 すると、カルディは閉まりそうになる扉を靴を挟んで阻止し、あろうことかエリーゼの部屋に強引に入って来ました。

「エリーゼ、ひどくない?せっかく会いに来てあげたのに、なんで僕を締め出すかな~。」

「えっと‥、ごめんなさい?っていうか、会ってすぐにもう呼び捨てなんだ‥。」

「フン、全く君は僕に対して感謝の欠片もないんだね!」

 カルディはエリーゼを睨むと、テーブルの上にあるクッキーを勝手につまんでベッドに横になりました。

 その様子を黙ってずっと眺めていたエリーゼは、彼になぜか舌打ちをされました。

「‥昨日一晩中エリーゼを見張ってたんだからさぁ、感謝してよ。もう!気が利かないんだから!あっ、あと‥訳あってさぁ自分の部屋では眠れないんだよね~、だからしばらくここで寝かせてよ‥。」

「‥あっ、ちょっと。その事だけど‥。」

 カルディにエリーゼの話しかける声は届かなかったようです。エリーゼのベッドで彼はすでに寝息をたてていました。

 エリーゼは彼に夜中の自分の様子を聞きたかったのですが、仕方なく彼が目覚めるまで待つ事にしました。

 
 外もすっかり暗くなった頃、彼はようやく目を覚ましました。

「はぁ、よく寝た‥。ねえ、喉が渇いた。水ちょうだい。」

「あっ、‥‥ああ、お水ね。はいっ。」

 エリーゼは水入れからグラスに水を注いで彼に渡してやりました。

「プハーッ、ありがと。」

「ねえ、昨日の夜の事なんだけど‥。」

「ああ、エリーゼの夢遊病の事ね。」  

 ゴクリ、

 エリーゼはドキドキしながらカルディからの言葉を待ちました。

「エリーゼはぐっすり眠っていたよ。」

「‥えっ?」

「いやいや、それよりも面白いものを見ちゃったんだけど‥聞きたい?」

「‥ええ、勿論。」

「なんと、夜中に君の妹のロレーヌ嬢が屋敷内を歩き回ってカシュー夫妻の寝室の扉の前にしばらく立ってたんだよ。怪しくない?

それにね、その後屋敷の外でしばらくうろうろしながら使用人棟へ入って行ったんだ。まあ、しばらくして使用人棟からは出てきたんだけど‥今度は弟君のガルーナの部屋に入って行ったんだ!」

「‥ええっ、二人は何をしてたの?」

「エリーゼにはちょっと‥刺激が強い話だから言えないな。」

「‥‥そんな風に言うって事は、何かいやらしい事をしてたのね。」


「いやぁ、分からないな。扉の隙間から覗き見したけど、ロレーヌ嬢がガルーナ君のズボンを脱がせて何かブツブツ言ってたのを見たぐらいだよ。同衾はしてなかったかな。」

「同衾って‥。」

「まあ、とにかくエリーゼに夢遊病の症状は見られなかったんだから良かったんじゃない?」

「‥まだ分からないわ。」

「まあ、今晩も僕が泊まって真相を突き止めるから、焦らずに僕からの報告を待っててよ。」

「‥うん、カルディお願いね。」

「分かった分かった。‥あっ、そうそう僕が優しくて頼りになるからって絶対に惚れないでよ。君が傷つくだけだから。」

「‥惚れる事はないだろうけど、なぜ私が傷つくのかを知りたいわ。」

「僕はとんでもなく面食いなんだ。だから、好みのタイプでない女性には最初にそう言っておくことに決めたんだ。‥だって振られると分かってるのに好きになるなんて‥そんなの彼女らが可哀想だろう?」

「‥‥。」

 カルディはそう言うとエリーゼの頭をポンポンし、笑顔で部屋を去って行きました。

 エリーゼは、カルディのペースにのまれて今日一日を終始彼に振り回されただけで終わらせてしまった事に気付きました。

「カルディ‥恐ろしい男ね。なんて傍若無人で自意識過剰な男なの。」

 エリーゼはこのまま彼に振り回され続けるのはゴメンなので、一日も早く自分の夢遊病の真相が判明して、彼と関わらない平和な日常が戻る事を切に願うのでした。

 



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