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屋敷の周りをうろつく不審者の正体は‥
翌朝エリーゼは、起きてすぐ侍女の制服を身につけ庭へ向かいました。庭にはエリーゼがこっそりと植えておいたミニトマトがあったのです。今日あたりは真っ赤になって食べごろになっているだろうと思いやって来たのですが‥。
ガサ、ガサ、
「‥‥!」
エリーゼが採れたてのミニトマトを口に運んで幸せを噛みしめていると、誰かが芝生を踏みつけて歩いてくる音が聞こえてきました。足音のする方をそっと見ると、そこにはフードを被った怪しい人物がいました。
『‥まさか、あれがお父様の言ってた不審者なのかしら。』
エリーゼはその人物の顔をもっと近くで見たくて、そっと木陰から木陰へと移動しながら近づいて行きました。そして、いよいよその人物のフードからのぞく横顔を見た時、驚いて思わず声を上げてしまいました。
「グスタフ卿!なぜここに‥。」
「チッ、声を出すな。‥静かにしろ。」
エリーゼはいつの間にかグスタフ卿に後ろから抱きつかれて、彼の大きな手で口を塞がれてしまいました。
「ムグムグ‥ムグ‥。」
『ここで何をしているのですか?』
そう聞きたいのに、口を塞がれて上手く話せません。それどころか口の中に入っていたミニトマトの果汁が彼の手にとんでしまいました。
そこで‥エリーゼは彼の指を舌を突き出してベロリベロリと丁寧に舐めて、トマトの果汁を舐め取りました。
「うわぁ!なんだ、お前‥。」
グスタフ卿はエリーゼの予想外の行動に驚いて手を離してしまいました。
「フフフ、お久しぶりです。‥グスタフ卿ですよね。‥私の事を覚えていますか。」
エリーゼは彼に笑顔で挨拶をしました。
「あっ‥あの時の!‥君に気安く話しかけられたくないな。不愉快だ!」
グスタフ卿はエリーゼを睨み、何か文句を言いかけましたが、ふと真顔に戻り普通の口調で話しかけてきました。
「‥そうか、君はここの使用人なんだよな。‥ならこの屋敷のお嬢様について知ってる事を教えてくれ。」
「この家のお嬢様ですか。お二人いますが、どちらのお嬢様について知りたいのですか?」
「‥二人?ああ、‥なら美人なお嬢様の方だ。」
「ああ‥なら妹君のロレーヌ様の方ですね。」
「ああ、そうだ。‥近いうちに結婚の申し込みをしようと思ってな。」
「‥‥ロレーヌお嬢様が好きなのですね。」
「‥好き‥というのかは分からないが、ずっと気にはなっていたんだ。それに‥彼女と会うのは何年かぶりだから‥その、今の彼女の姿を見てみたくて‥。」
「‥‥そうですか。‥ロレーヌお嬢様は頻繁に夜会に参加されてますよ。グスタフ卿もすでに会っているはずですが‥。」
「‥僕は滅多に夜会には参加しないし、それに‥女性のいる場はなるべく避けてきたから‥。その‥彼女達が僕の顔を見ると怯えるから‥。」
グスタフ卿はそう言うと、ニキビだらけの顔をフードで隠し、気まずそうに俯いてしまいました。
「‥ああ、なるほどね。(その姿では無理もないでしょうね)」
確かにエリーゼから見ても、彼はお世辞にも素敵な男性には見えませんでした。
勿論顔を覆うニキビは見てて気持ちの良いものではありませんでしたが、問題はそれよりも‥ニキビを隠すためであろう長い前髪と、全身を覆い隠す黒いフード付きのマントにある気がしました。
なんというか‥パッと見て彼は不審者感満載なのでした。
エリーゼはグスタフ卿が自分ではなく妹のロレーヌに求婚する事は勿論ショックでしたが、それよりも本当は美しいはずの彼が、その顔を覆う大量のニキビのせいで辛い思いをしている事にとても胸を痛めました。
だから、ニキビのせいでこれまで肩身の狭い思いをしてきたであろうグスタフ卿をもとのイケメンに変身させて、これまでにグスタフ卿を見て怯えてきた女性達を見返してやろうと思いました。
「分かりました。私が知ってるロレーヌお嬢様の事をグスタフ卿にお教えします。
お嬢様は社交会でも美しいと評判で、あと‥かなりの面食いです。正直今のあなたのお姿を見たら、お嬢様はがっかりするでしょう。」
「黙れ!君はつくづく失礼な使用人だな。」
「‥まあ、もう少し私の話を聞いて下さい。あなたはニキビさえなければなかなかの美男子です。
幸いな事に私はあなたのその顔中を覆うニキビを必ず治す事ができます。だから私があなたの恋(ロレーヌ以外の素敵な令嬢との恋)を成就させるお手伝いをします。」
「‥俺の恋を成就させたいから、手伝うだって?‥君みたいな失礼な使用人は見た事がない!この事は侯爵に報告するから覚悟しておくと良い!
それと‥君は鏡を見た事があるのか?僕の容姿をとやかく言う前に、君こそ自分のその無様な容姿をしっかりと自覚すべきでは?」
エリーゼはせっかく勇気を出して彼に協力するべく話しかけたのに、大声で怒鳴られてしまいました。おまけに自分の容姿も貶された気がします。
初恋の人に失恋した挙句に容姿まで貶されたエリーゼは悲しくて泣けてきそうになりましたが、涙が溢れるのをぐっと堪えて、彼の為に再度協力を願い出ました。
「‥どうか私の事を信じて下さい。私なら本当にあなたのニキビを治せるんです。だから早くそのニキビを治して、ロレーヌお嬢様だけでなく、これまであなたを避けてきた御令嬢達をも見返してやりましょう!あなたは本当の素顔は美しいのですから!」
エリーゼはそう言いながら熱くなって思わずグスタフ卿の胸ぐらを掴んでしまいました。
『しまった‥、また怒鳴られてしまうわ‥。』
そう思って怒鳴られる覚悟を決めたのですが‥彼はエリーゼに怒鳴るどころか、戸惑いの表情を浮かべていました。
「‥ちょっと待て、分かったから。‥君の熱意は何となく通じた。‥君が僕をからかっていない事は分かった。‥だが、なぜだ。なぜ僕の為にそこまでしたがるんだ?」
「‥グスタフ卿は私の初恋の人なんです。」
「まさか、前回会った時に僕を好きになったと言うのか。」
「いいえ、もっと以前に‥私達は会っているのです。」
「‥分からないな、思い出せない。‥とにかく僕はロレーヌ嬢に結婚を申し込む!君の熱意には感謝するが、僕はこの醜いニキビ面のまま彼女と結婚して、彼女を困らせるのも良いと思ってる。だから、君の想いに応える事はできないし、この顔のニキビも治すつもりはない。‥だから、僕の事は放っておいてくれ。」
「‥そうですか、残念ですが分かりました。ですが、私は本当に美容の腕は良いのです。私の腕の良し悪しに関してはナポリ先生に聞いて貰えればはっきり分かります。ですので、気持ちが変わったら私に声をかけて下さい。」
『‥とりあえず今は無理強いをしないでおこう。これから少しずつ彼に近づいて行けば良いのだから。‥何にしても、彼にあのわがままなロレーヌはあまりお勧めできないから、せめて彼が他のステキな令嬢と恋できるよう応援しよう。』
エリーゼは健気にもそう思い、今後は彼に対しては慎重に接しようと決意したのですが、その決意はそう長くは続きませんでした。
翌日、なぜかエリーゼは街中でグスタフ卿を路上に押し倒していたのです。
「‥君は‥僕にとっての災禍なのか。」
「ごめんなさい‥。」
エリーゼはこの時、自身のラッキースケベ体質の恐ろしさを改めて知ることになったのでした。
ガサ、ガサ、
「‥‥!」
エリーゼが採れたてのミニトマトを口に運んで幸せを噛みしめていると、誰かが芝生を踏みつけて歩いてくる音が聞こえてきました。足音のする方をそっと見ると、そこにはフードを被った怪しい人物がいました。
『‥まさか、あれがお父様の言ってた不審者なのかしら。』
エリーゼはその人物の顔をもっと近くで見たくて、そっと木陰から木陰へと移動しながら近づいて行きました。そして、いよいよその人物のフードからのぞく横顔を見た時、驚いて思わず声を上げてしまいました。
「グスタフ卿!なぜここに‥。」
「チッ、声を出すな。‥静かにしろ。」
エリーゼはいつの間にかグスタフ卿に後ろから抱きつかれて、彼の大きな手で口を塞がれてしまいました。
「ムグムグ‥ムグ‥。」
『ここで何をしているのですか?』
そう聞きたいのに、口を塞がれて上手く話せません。それどころか口の中に入っていたミニトマトの果汁が彼の手にとんでしまいました。
そこで‥エリーゼは彼の指を舌を突き出してベロリベロリと丁寧に舐めて、トマトの果汁を舐め取りました。
「うわぁ!なんだ、お前‥。」
グスタフ卿はエリーゼの予想外の行動に驚いて手を離してしまいました。
「フフフ、お久しぶりです。‥グスタフ卿ですよね。‥私の事を覚えていますか。」
エリーゼは彼に笑顔で挨拶をしました。
「あっ‥あの時の!‥君に気安く話しかけられたくないな。不愉快だ!」
グスタフ卿はエリーゼを睨み、何か文句を言いかけましたが、ふと真顔に戻り普通の口調で話しかけてきました。
「‥そうか、君はここの使用人なんだよな。‥ならこの屋敷のお嬢様について知ってる事を教えてくれ。」
「この家のお嬢様ですか。お二人いますが、どちらのお嬢様について知りたいのですか?」
「‥二人?ああ、‥なら美人なお嬢様の方だ。」
「ああ‥なら妹君のロレーヌ様の方ですね。」
「ああ、そうだ。‥近いうちに結婚の申し込みをしようと思ってな。」
「‥‥ロレーヌお嬢様が好きなのですね。」
「‥好き‥というのかは分からないが、ずっと気にはなっていたんだ。それに‥彼女と会うのは何年かぶりだから‥その、今の彼女の姿を見てみたくて‥。」
「‥‥そうですか。‥ロレーヌお嬢様は頻繁に夜会に参加されてますよ。グスタフ卿もすでに会っているはずですが‥。」
「‥僕は滅多に夜会には参加しないし、それに‥女性のいる場はなるべく避けてきたから‥。その‥彼女達が僕の顔を見ると怯えるから‥。」
グスタフ卿はそう言うと、ニキビだらけの顔をフードで隠し、気まずそうに俯いてしまいました。
「‥ああ、なるほどね。(その姿では無理もないでしょうね)」
確かにエリーゼから見ても、彼はお世辞にも素敵な男性には見えませんでした。
勿論顔を覆うニキビは見てて気持ちの良いものではありませんでしたが、問題はそれよりも‥ニキビを隠すためであろう長い前髪と、全身を覆い隠す黒いフード付きのマントにある気がしました。
なんというか‥パッと見て彼は不審者感満載なのでした。
エリーゼはグスタフ卿が自分ではなく妹のロレーヌに求婚する事は勿論ショックでしたが、それよりも本当は美しいはずの彼が、その顔を覆う大量のニキビのせいで辛い思いをしている事にとても胸を痛めました。
だから、ニキビのせいでこれまで肩身の狭い思いをしてきたであろうグスタフ卿をもとのイケメンに変身させて、これまでにグスタフ卿を見て怯えてきた女性達を見返してやろうと思いました。
「分かりました。私が知ってるロレーヌお嬢様の事をグスタフ卿にお教えします。
お嬢様は社交会でも美しいと評判で、あと‥かなりの面食いです。正直今のあなたのお姿を見たら、お嬢様はがっかりするでしょう。」
「黙れ!君はつくづく失礼な使用人だな。」
「‥まあ、もう少し私の話を聞いて下さい。あなたはニキビさえなければなかなかの美男子です。
幸いな事に私はあなたのその顔中を覆うニキビを必ず治す事ができます。だから私があなたの恋(ロレーヌ以外の素敵な令嬢との恋)を成就させるお手伝いをします。」
「‥俺の恋を成就させたいから、手伝うだって?‥君みたいな失礼な使用人は見た事がない!この事は侯爵に報告するから覚悟しておくと良い!
それと‥君は鏡を見た事があるのか?僕の容姿をとやかく言う前に、君こそ自分のその無様な容姿をしっかりと自覚すべきでは?」
エリーゼはせっかく勇気を出して彼に協力するべく話しかけたのに、大声で怒鳴られてしまいました。おまけに自分の容姿も貶された気がします。
初恋の人に失恋した挙句に容姿まで貶されたエリーゼは悲しくて泣けてきそうになりましたが、涙が溢れるのをぐっと堪えて、彼の為に再度協力を願い出ました。
「‥どうか私の事を信じて下さい。私なら本当にあなたのニキビを治せるんです。だから早くそのニキビを治して、ロレーヌお嬢様だけでなく、これまであなたを避けてきた御令嬢達をも見返してやりましょう!あなたは本当の素顔は美しいのですから!」
エリーゼはそう言いながら熱くなって思わずグスタフ卿の胸ぐらを掴んでしまいました。
『しまった‥、また怒鳴られてしまうわ‥。』
そう思って怒鳴られる覚悟を決めたのですが‥彼はエリーゼに怒鳴るどころか、戸惑いの表情を浮かべていました。
「‥ちょっと待て、分かったから。‥君の熱意は何となく通じた。‥君が僕をからかっていない事は分かった。‥だが、なぜだ。なぜ僕の為にそこまでしたがるんだ?」
「‥グスタフ卿は私の初恋の人なんです。」
「まさか、前回会った時に僕を好きになったと言うのか。」
「いいえ、もっと以前に‥私達は会っているのです。」
「‥分からないな、思い出せない。‥とにかく僕はロレーヌ嬢に結婚を申し込む!君の熱意には感謝するが、僕はこの醜いニキビ面のまま彼女と結婚して、彼女を困らせるのも良いと思ってる。だから、君の想いに応える事はできないし、この顔のニキビも治すつもりはない。‥だから、僕の事は放っておいてくれ。」
「‥そうですか、残念ですが分かりました。ですが、私は本当に美容の腕は良いのです。私の腕の良し悪しに関してはナポリ先生に聞いて貰えればはっきり分かります。ですので、気持ちが変わったら私に声をかけて下さい。」
『‥とりあえず今は無理強いをしないでおこう。これから少しずつ彼に近づいて行けば良いのだから。‥何にしても、彼にあのわがままなロレーヌはあまりお勧めできないから、せめて彼が他のステキな令嬢と恋できるよう応援しよう。』
エリーゼは健気にもそう思い、今後は彼に対しては慎重に接しようと決意したのですが、その決意はそう長くは続きませんでした。
翌日、なぜかエリーゼは街中でグスタフ卿を路上に押し倒していたのです。
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