「‥君に気安く話しかけられたくないな。」初恋の人に使用人と間違えられて、塩対応されちゃいました。

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街でのハプニング

 
 エリーゼがグスタフ卿を街中で押し倒すハプニングが起きる数十分前、彼女は監禁部屋でのんびりと読書を楽しもうとしていました。ですが、突然カルディの襲撃に会い、読書どころではなくなっていました。


「エリーゼ、もう限界だ!夜更かしは肌にも良くないんだぞ、見てみろよこのニキビを!」


 そう言ってカルディは顎にできたニキビを指さしました。


「‥ああ、これね。直せるわよ。私の母直伝の薬を塗ってあげるわ。」


「‥おい、それお前の手作りだろ。大丈夫なのか?」


「あなたのお父さんも作り方を聞いてくるぐらい効き目抜群の薬よ。」


「‥へえ、じゃあ早く塗ってくれ。」


 カルディはそう言うと目を閉じて、大人しくエリーゼの処置を待ちました。


 エリーゼが独特の匂いを放つ薬を指にとり、カルディのニキビにそっとのせて伸ばしてやると彼はとても気持ち良さそうな表情を浮かべました。


「なんだかスーッとして来たな。」


「これを一日数回患部にぬれば二、三日で治りますよ。少し分けてあげるから次からは自分で塗ってね。」


「えー、面倒くさいなぁ。それに見た目が緑でグロテスクだから触りたくないや。だからニキビが治るまでエリーゼが塗ってよ。」


「‥だって、私が夢遊病ではない事はもうはっきり分かった事だし、私としてはそろそろ帰って貰っても良いんだけど‥。」


「なにそれ!ひどいよ、用無しになった途端僕を捨てるわけ?」


「‥あなただってもう自宅に帰りたいでしょ?」


「‥まあ帰りたいのは山々なんだけど、勝手に帰れないんだよ。だからもしエリーゼが僕をこの屋敷から追い出したいんなら、父さんに僕がもう家に帰ってもいいか聞いて来てよ。」


「‥まあ良いけど‥。」


「じゃあすぐに行ってきて。僕はもう寝るか‥ら‥。」


スー、スー、


 カルディはエリーゼのベッドに横になり、すでにもう寝息を立てていました。


「‥って言うか、なんで自分の部屋で眠らないかな。」


 エリーゼはカルディの顎が枕にあたり、枕が薬のせいで緑色に滲みになっていくのを見ながらそうぼやきました。


 エリーゼはいつものごとく、地味な服装で堂々と屋敷を出ると、カルディに言われた通り医師のナポリ先生のもとへと向かいました。


「‥ナポリ先生がカルディを屋敷に連れてきてくれたおかげで、私が夢遊病じゃなかった事が分かったんだもの‥これぐらいのお礼はしなきゃね。」


 そう言ってエリーゼは洋服のポケットに入れておいた小瓶を取り出しました。

 
 小瓶にはナポリ先生が以前から欲しがっていた顔のシミ取り用の白いドロドロの液体が入っていました。


 エリーゼは小瓶を眺めながら、ナポリ先生が薬を貰って喜ぶ姿を想像してほくそ笑みながら街を歩いていました。


 すると、医院の方角から急足でやってきた男性とぶつかってしまいました。

 
 その男性はぶつかった拍子に後ろへ倒れかけたエリーゼを受け止めようと手を伸ばしてくれましたが、エリーゼは手に持っていた小瓶を落としそうになって焦っていました。その為、せっかくエリーゼの体を受け止めようとしてくれた彼を押し倒しながら前のめりになって倒れてしまいました。


「‥あっ、薬が‥。」


 エリーゼが彼を押し倒してまで守ろうとした薬の小瓶は、不幸にも彼の股間の上で蓋が外れた状態で倒れていました。お陰で彼の股間は白いドロドロの液体まみれになっていました。

 
 それを見たエリーゼは、持っていたハンカチを彼の股間にあてて、慌ててこぼれた薬を拭き始めました。


「ごめんなさいっ、私の薬のせいで‥!」


 そう言ってハンカチで必死になって彼の股間を擦っていると‥、その彼の股間が少しずつ膨らんできました。


「‥おいやめろ、やめろって!」


 彼がそう言ってエリーゼの手を掴んできたので、エリーゼが驚いて顔を上げると、フードの隙間からグスタフ卿の顔が見えました。

 
 彼の顔は怒りからなのか、恥ずかしさのせいか、とても紅潮しており息使いも少し荒くなっていました。


「グスタフ卿‥!」


 グスタフ卿と久しぶりに再会できて嬉しそうな表情を浮かべるエリーゼとは対象的に、エリーゼの顔を見るなり彼は深いため息をついていました。


「‥君は‥僕にとっての災禍なのか。」


「ごめんなさい‥。」



クスクス、クスクス、

「見てあの二人、あんな往来で何をしてるのかしら?それに彼の股間を見た?フフフ。」

「‥おいおい、お二人さん欲求不満か?そういうことはお家の中でしなよ。」
 
「ヒュー、ヒュー、お姉さん積極的だね~。」

クスクス、クスクス、



 エリーゼとグスタフ卿はいつのまにか野次馬達に囲まれて笑い者にされていました。


 グスタフ卿はこの屈辱的な状況に耐えられなくなり、フードを目深に被り直すと自分の上に乗っかったままのエリーゼを払い除けて走り去って行きました。そして少し行った所で従者と合流すると、エリーゼの方を振り返る事もなくさっさと馬車で去っていきました。


 野次馬達は、一人取り残されたエリーゼを更に馬鹿にして笑いました。


「おいおい、お姉さん置いてかれちゃったよ、良いのかい?アハハハ。」

「お姉さん、地味な顔だけど‥俺で良ければいつでも相手してやるよ。欲求不満なんだろ?アハハハ。」

「‥あんた達、振られた女性を馬鹿にして笑うんじゃないよ!」

「‥お嬢さんもあんな薄情な男は忘れて次の男を見つけなよ。」


 野次馬達は、好きな事を好きなだけ言い放つと、気が済んだのかさっさと街の中へと散らばって行きました。


 ‥ですが、エリーゼは違いました。まだその場に座りこんだまま青い顔をして言葉を失っていました。


『‥グスタフ卿にとんでもない恥をかかせてしまったわ。‥もう完全に彼に嫌われたわよね。もう二度と私とは口をきいてくれないわよね‥。』

 
 エリーゼはこの時、自身のラッキースケベ体質の恐ろしさを改めて知ることになりました。

 
 そして、グスタフ卿への恋がこの先叶う事はないだろうと‥‥絶望の淵に突き落とされていたのでした。






 

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