「‥君に気安く話しかけられたくないな。」初恋の人に使用人と間違えられて、塩対応されちゃいました。

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グスタフ・ゴディバルside 2


 成人を祝う夜会の日以降、グスタフのもとにはルモンド侯爵家から沢山の謝罪文が届きました。


「‥ルモンド侯爵家‥あの女はルモンド侯爵家の御令嬢なのか。僕をこんなにも苛つかせる女‥忘れないぞ!一生許さない!」


 グスタフはそう言ってルモンド侯爵家から届いた沢山の謝罪文を全て破り捨てました。


 彼はそれからというもの、誰からの誘いであろうと、夜会やお茶会には一切顔を出さなくなりました。


 それに、グスタフは街へ出ていても、誰かが話してたり笑う声が聞こえると自分の陰口を言われて笑われてる気がしてマントで姿を隠さないと街を歩けなくなってしまいました。


 そんな日々をずっと過ごすうちに、グスタフの顔にはいつの間にか大量のニキビができるようになってしまい、彼はますます人目を避けるようになってしまいました。


「‥くそっ!それもこれもあの女のせいだ!」


 そう言ってルモンド侯爵家の令嬢への恨みを日に日に募らせるグスタフでしたが、王宮で騎士として務める日々の中で、ルモンド侯爵家の令嬢があの夜会のハプニングの日以降ずっと屋敷で引きこもり生活を続けている事を知りました。


 そして、令嬢が未だに婚約者もいない事を知ると‥これまで抱いていた彼女への怒りや恨みが薄れて、それどころか少し不憫にも思えてきたのです。


「‥よく考えればあの日の出来事は‥彼女が僕に恥をかかせる為にわざとした事ではないんだし、勢いよく歩いて彼女にぶつかった僕も悪かったのかもしれない。」


 グスタフは彼女への長年の恨みつらみからようやく解放されると、早速ルモンド侯爵家へ令嬢との面会を申し入れました。侯爵に謝罪を受け入れるから令嬢の謹慎を解くように伝える為です。


 ですが、ルモンド侯爵家の当主は何故かそれをずっと断り続けました。


 グスタフはその事に業を煮やして、王宮での騎士の仕事の休みを利用して侯爵家の屋敷へ直接訪ねて行く事にしました。

 ですがいざルモンド侯爵邸まできたものの、つい仕事の時の潜入調査時の癖で取り次ぎを避けて隠密のように庭へ入り込んでしまいました。


『‥困ったな。これでは僕はたんなる侵入者じゃないか。‥人に見つかる前に屋敷内の令嬢の姿を人目見たら帰るとするか。』


 グスタフが困ったように庭をウロウロしていると、突然誰かに声をかけられました。


「グスタフ卿!なぜここに‥。」


「チッ、声を出すな。‥静かにしろ。」


 グスタフは、屋敷の使用人と思われる女の口を咄嗟に塞いで身動き出来ぬように羽交い締めにしてしまいました。


『‥しまった、いつもの癖でつい羽交い締めにしてしまった。』


「ムグムグ‥ムグ‥。」


 すると彼女が突然口元を覆うグスタフの指を舌を突き出してベロリベロリと丁寧に舐め始めたものですから、驚いて思わず彼女を突き飛ばしてしまいました。


「うわぁ!なんだ、お前。」


「フフフ、お久しぶりです。‥グスタフ卿ですよね。‥私の事を覚えていますか。」


 グスタフは訝しがりながら彼女の顔をじーっと眺めました。そして、彼女が以前診察帰りに出くわしたあの破廉恥な女だと知ると、急に怒りが込み上げてきました。


「あっ‥あの時の!‥(意味不明で迷惑な言動しかしない)君に気安く話しかけられたくないな。不愉快だ!」


 グスタフは彼女に文句を沢山言ってやろうと思いましたが、彼女がルモンド侯爵家の使用人なら、令嬢の事を色々聞けるし、それにこのまま自分がここを立ち去れば、彼女が自分の無断侵入を侯爵に告げ口される恐れがあったので、込み上げる怒りをグッと堪えて冷静に振る舞うよう努めました。

 彼は深呼吸を一つして落ち着くと、穏やかな口調で彼女に話しかけました。


「‥そうか、君はここの使用人なんだよな。‥ならこの屋敷のお嬢様について知ってる事を教えてくれ。」


「この家のお嬢様ですか。お二人いますが、どちらのお嬢様について知りたいのですか?」


「‥二人?ああ、‥なら(たぶん)美人なお嬢様の方だ。」


「ああ‥なら妹君のロレーヌ様の方ですね。」


「ああ、そうだ。‥近いうちに結婚の申し込みをしようと思ってな。(まあ、ここは適当に話を合わせておこう。)」


「‥‥ロレーヌお嬢様が好きなのですね。」


「‥好き‥というのかは分からないが、ずっと気にはなっていたな。」


「分かりました。私が知ってるロレーヌお嬢様の事をグスタフ卿にお教えします。

お嬢様は社交会でも美しいと評判で、あと‥かなりの面食いです。正直今のあなたのお姿を見たら、お嬢様はがっかりするでしょう。」


「黙れ!君はつくづく失礼な使用人だな。」


「‥まあ、もう少し私の話を聞いて下さい。あなたはニキビさえなければなかなかの美男子です。

幸いな事に私はあなたのその顔中を覆うニキビを必ず治す事ができます。だから私があなたの恋(ロレーヌ以外の素敵な令嬢との恋)を成就させるお手伝いをします。」


 グスタフはこの言葉を聞いた途端、彼女に自分の容姿を侮辱された気がして再び激しい怒りの感情が湧いてきました。


「‥俺の恋を成就させたいから、手伝うだって?‥君みたいな失礼な使用人は見た事がない!この事は侯爵に報告するから覚悟しておくと良い!

それと‥君は鏡を見た事があるのか?僕の容姿をとやかく言う前に、君こそ自分のその無様な容姿をしっかりと自覚すべきでは?」


 グスタフはあまりの怒りの為、思わず目の前の彼女の容姿を仕返しとばかりに貶してしまいました。


『しまった‥怒りに任せてつい若い女性の容姿を貶してしまった‥。今のは明らかに騎士道に反する行為だった。それに侯爵に報告?僕は不法侵入の身で何を言ってるんだ。ああ‥僕は最低だ。

‥本当に彼女といるとどうして僕はこんなにも惨めな気分にさせられるのだろう。』
 

 自らの言動に後悔して落ち込むグスタフとは対照的に、彼女は傷付くどころか目をキラキラさせて、さらに彼の容姿にケチをつけてきました。


「‥私ならあなたのニキビを治せるんです。だから早くそのニキビを治して、ロレーヌお嬢様だけでなく、これまであなたを避けてきた御令嬢達をも見返してやりましょう!あなたは本当の素顔は美しいのですから!」


 彼女はそう言いながらグスタフの胸ぐらを掴んできました。


 彼女のその真剣な様子から、グスタフは彼女が自分の容姿をたんに貶したいだけなのではなくて、本気で彼の事を心配してなんとかしたいのだという思いが、ようやく伝わりました。


「‥ちょっと待って。君の熱意は何となく通じた。‥君が僕をからかっていない事は分かった。‥だが、なぜだ。なぜ僕の為にそこまでしたがるんだ?」


「‥グスタフ卿は私の初恋の人なんです。」


「まさか、前回会った時に僕を好きになったと言うのか。」


「いいえ、もっと以前に‥私達は会っているのです。」


「‥分からないな、思い出せない。‥とにかく僕はロレーヌ嬢に結婚を申し込む!君の熱意には感謝するが、僕はこの醜いニキビ面のまま彼女と結婚して、彼女を困らせるのも良いと思ってる。だから、君の想いに応える事はできないし、この顔のニキビも治すつもりはない。‥だから、僕の事は放っておいてくれ。」


 グスタフは、彼女が自分に向ける好意がいつからなのか、何故なのか考えても分からず怖気づいてしまいました。そして思わず心にも思っていない事を次々と口にしていたのです。


『‥僕を好きだなんて、嘘に決まってる!それとも僕が公爵家の後継ぎと知ってその妻の座を狙っての言動かもしれない!‥とにかく彼女は何を考えてるかわからない。危険だ。彼女には一瞬の隙も見せられない!』


 そう思いグスタフは彼女に対する警戒心を最大限にしました。


「‥そうですか、残念ですが分かりました。ですが、私は本当に美容の腕は良いのです。私の腕の良し悪しに関してはナポリ先生に聞いて貰えればはっきり分かります。ですので、気持ちが変わったら私に声をかけて下さい。」

 
 グスタフはあっさりと引き下がる彼女にほっとしつつも、何故か少し寂しさも感じていました。


『こんなに簡単に引き下がるなんて‥やはり僕への彼女の好意なんて所詮そんな浅いものなんだな。‥僕の事を好きになる女性なんて絶対にいないのだから‥。』


 グスタフは心の中に矛盾する気持ちを抱えながら、その日は何事もなく侯爵家をあとにしました。



 なのに‥翌日なぜか街中でグスタフはルモンド侯爵家の使用人の彼女に、路上に押し倒されていました。


「‥君は‥僕にとっての災禍なのか。」


「ごめんなさい‥。」


 呆れて彼女を睨みつけるグスタフでしたが、何故か彼女との再会に少しときめく自分がいた事にこの時はまだ気づいていませんでした。


 祖父の屋敷から王都に戻ってからというもの、両親とも職場の同僚達とも深く関わる事を避けて孤立をしていたグスタフにとって、彼女との関わりは煩わしさだけでなく、自分の中に眠っていた様々な感情を揺さぶり起こす貴重な機会でもあったのです。グスタフは後々その事を嫌でも思い知る事になるのでした。
 

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