「‥君に気安く話しかけられたくないな。」初恋の人に使用人と間違えられて、塩対応されちゃいました。

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カルディの態度の変化

 エリーゼは最近のカルディの態度に少し辟易していました。

 彼はまるでルモンド侯爵家の一員であるかのように、エリーゼの家族達と共に食事をとっていましたし、それに‥夜になれば当然のようにエリーゼの部屋で眠ろうとするのです。

 そんな日が何日も続くものですから、エリーゼは募り募った苛々をとうとう爆発させてしまいました。


「‥もう嫌、限界よ!カルディ、いいかげんにもう家へ帰ったらどう?私が夢遊病でない事が分かったのはカルディのおかげなんだけど‥それは感謝してるけど‥。これじゃあ、私の息が詰まってしまうわ!」

 エリーゼは、寝間着を着て部屋に入ってきたカルディに対してそう言って声を荒げました。

 ですがカルディはニヤニヤと不敵に笑うだけで、エリーゼの折角の抗議も不発に終わってしまいました。

「何言ってんの?だって僕らはいずれ夫婦になるんだろ。別に問題はないだろ。」

「‥私達は絶対に夫婦にはならないから。」

「なるよ。それにこれはもう決定事項だ。」

「‥カルディ、あなたはそれで本当にいいの?」

「勿論いいよ。‥逆にエリーゼはどうなの?もしかして嫌なのか。」

「‥嫌よ。カルディって結婚しても浮気しそうだし、それに毎日こうしてフラフラしてて仕事をしてないじゃないの。‥私は真面目で働き者の旦那様がいいの。」

「エリーゼ、僕は浮気はしないよ。それに、誤解があるようだけど僕はこう見えても医療の大学で教鞭を取っているんだ。国内外で僕の書いた論文はとても評価されていて本だって何冊も出版しているんだぞ。‥つまり、僕は仕事が出来る男なんだ。」

「‥えっ、そうなの。‥‥それでもやっぱりカルディが旦那様になるのは嫌だわ。」

「‥嫌ってはっきり言っちゃうんだ。何だか傷つくな。」
 
「‥ごめんなさい。でも、嫌なものは嫌なの。」

「‥まあ、エリーゼの気持ちは分かった。とりあえず寝よう。」

 カルディはそう言って、今日もエリーゼのベッドで眠ってしまいました。

「‥だから、これは私のベッドだって言ってるのに‥。」

 ベッドの片側に横向きになって眠ってしまったカルディを見ながら、エリーゼはため息をつきました。

「‥何よ、なんでベッドの半分を律儀に空けているのよ。‥一緒に寝ようってこと?寝るわけないでしょ!」

 エリーゼはそう言って、いつものように毛布を持ってソファーに横になりました。ここ何日か部屋にカルディがいるせいで、顔の化粧が落とせずに肌が荒れてしまったようで、手で触るとざらざらとしていました。

「‥嫌だわ。早くカルディを追い出さなきゃ。」

 そう思うエリーゼでしたが、エリーゼ以外の家族は皆カルディに懐柔されてしまっており、カルディをエリーゼの将来の夫のように扱っていました。その為、家族にカルディとの結婚をやめたいと言っても、全く聞き入れては貰えませんでした。それどころかカルディがいかに素晴らしいのかを語り、エリーゼを洗脳しようとしてくるのです。

『こうなったら‥明日の朝一番でナポリ先生の所へ直談判をしに行こう。‥それとも朝まで待たずに今から行ってしまおうかしら。家族もカルディも寝てる今なら‥誰にも邪魔されずに先生の所へ行けるんじゃないかしら。』

 そう思ったエリーゼは、すぐにソファーから起き上がり、クローゼットからマントを取ると静かに部屋を出て行きました。

 屋敷を抜け出す事に手慣れたエリーゼでしたので、まだ起きている使用人達の目をかいくぐり、誰にもばれずに外へ出る事ができました。

「‥ナポリ先生は夜の患者さんにも対応してくれてるから、今行っても大丈夫ね。」

 エリーゼは懐中時計で時刻を確認すると、街灯で照らされ明るい通りだけを歩いて行きました。

 そして、医院につくなり扉を思いっきり開けました。

 医院の中は静かでした。

 待合室には受付嬢や看護師、それに患者さんが誰一人いませんでした。

「‥ナポリ先生!エリーゼです!」

 静かな待合室でエリーゼが大きな声でナポリ先生を呼ぶと、診察室から先生が飛び出してきました。

「エリーゼさん、何かあったのですか!」

「先生、どうにかして下さい!先生のご子息の事で困ってるんです。」

「えっと‥そうか。何事かと思ったら、その話か。‥その話なら、とりあえず診察室へ入ってから話そうか。」

 ナポリ先生はエリーゼを診察室の椅子に腰掛けさせると、頭をかきながら腕組みをして俯いてしまいました。

「‥先生、実は何日か前にここへ来ようとしたんです。カルディさんがここに帰りたがっていたので。

‥ですが、今彼はここへ帰ろうとしません。それどころか、うちの屋敷にずっと居続けるつもりでいます。私と彼が結婚する事がすでに両家で決められているからって言って‥。」

「‥‥エリーゼさんはそれが嫌で、ここへ抗議に来た訳ですね。」

「はい。本当は明日の朝に来ようと思っていたのですが、もうストレスが溜まってて朝まで待てずに今来ちゃいました。」

「‥いい話だと思ったんです。親馬鹿かもしれませんが、うちの息子は貴族ではありませんが外見も頭も良いと思ってます。それに、根っからのスケベ‥じゃなくてある程度のラッキースケベなハプニングにも動じない性質なので、お似合いの二人だと思ったんですが‥そうか、駄目でしたか。」

「‥先生、もしかして最初から私と彼をくっつけようと思ってました?」

「‥はい。それにもうそろそろラッキースケベハプニングがおきてて、既成事実も出来てるかなって‥思っていました。息子は手が早い事で街でも有名でしたから。」

「先生!絶対に無理です。あと、彼にはラッキースケベは一切発動しませんでした。」

「えっ、軽めのハプニングも起きなかった?」

「はい。」

「‥そうか。‥弟さんにもうちの息子にも発動しないとなると、やはりエリーゼさんのラッキースケベは、エリーゼさんの気になる異性にだけ発動するようだね。」

「‥あっ‥。」

「‥誰か思い当たる人がいましたか。」

「はい。‥一人だけいます。でもその方にはラッキースケベが発動しすぎて嫌われてしまいました。」

「‥その方は、エリーゼさんの事を迷惑に思っている可能性があるんですね。」

「‥とても迷惑してるそうです。」

「‥その方は貴族ですか?」

「‥はい。」

「なんて事だ。大変だ‥。これは1日も早くエリーゼさんとうちの息子を結婚させなきゃならないな。」

 ナポリ医師は、エリーゼの肩を両手で掴んで真剣な面持ちで言葉を続けました。

「‥エリーゼさんのラッキースケベは、好きな異性にだけその威力を発揮するんです。その威力は日に日に上がってきます。あなたの思いがその異性にある限りは誰も止める事はできません。」

「‥そんな‥。」

「‥このラッキースケベは、両思いの相手に発動したなら、その名の通りラッキーなのですが、万が一発動した相手がこの上なくエリーゼさんを嫌いだったら‥しかもそれが高位貴族の方なら‥下手すれば、訴訟問題になりかねません。それほど危険なものなのです。」

「‥先生、怖いです。私‥好きな人に振られただけでなくて、訴訟まで起こされてしまうかもしれません。」

「‥だからうちの息子と早く‥」

「先生、その話はもうやめて下さい!それよりもラッキースケベが発動しない薬とかはないんですか?」

「‥可哀想だけど、薬なんてないよ。それはエリーゼさんが好きな異性を自分のものにする為に備わった、動物の種保存の為に備わった‥本能的なものだから‥。止めようがないんだ。」

「そんな‥。」

「‥とりあえず、エリーゼさんはその方とはもう会わない方がいい。次に会えば、さらにとんでもないハプニングが起きてしまいそうだから‥。」

「‥‥。」

 エリーゼは、ショックのあまり言葉を失いました。

『次にグスタフ卿と会ったら、とんでもないハプニングが起きてしまうかもしれないの?‥ああ、彼に会いたいのに、それを考えると会いたくないわ。‥だってもうこれ以上彼に迷惑をかけて嫌われたくない‥。』

 エリーゼは、長いため息をつきました。ナポリ先生に会釈をして、そのまま医院を出ました。

「‥馬車を呼ぼう。流石にこの時間じゃ物騒だ。」

 ナポリ医師がそう言ったのに、エリーゼはその言葉を振り切るかのように走って帰ってしまいました。

「‥まあ、侯爵家までは街灯の灯りも続いてるし大丈夫かな。」

 ナポリ医師が医院の入り口でエリーゼの後ろ姿を心配そうにずっと見つめていると、患者さんがやってきました。

「‥あの、先生。怪我をしてしまったんですが‥。」

「‥あっ、すみません。すぐにみますね。」

 そう言ってナポリ医師は、足を怪我した中年の男性を支えながら、診察室兼処置室へと戻っていきました。

 エリーゼが無事に侯爵邸へ帰っている事を信じて‥。

 

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