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それぞれの朝
寝室のベッドにカーテンの隙間から朝の光が刺し込む頃、ルモンド侯爵夫人ミシェルは目覚めます。
隣で眠る夫カシューの無防備な寝顔にキスをしてから侍女を呼びます。夫が起きる前にエリーゼの特殊なメイクで美しくならなければいけないからです。
‥子供二人を連れて、初めて夫の屋敷に来た時は不安で仕方なかったけど‥夫はミシェルをとても大切にしてくれましたし、子供達にもとてもよくしてくれました。
何の取り柄もないミシェルでしたが、夫に愛されて初めて女としての幸せを感じたのです。ミシェルは夫に感謝し、その愛に応えたいと常日頃考えていました。
コンコン、
侍女がミシェルの身支度をする為に寝室の扉をノックします。
「奥様‥。」
「遅かったじゃない。‥あら、エリーゼは一緒じゃないの?」
「それが‥いないのです。お嬢様がどこにも見当たりません。」
「おかしいわね。いつもコソコソと屋敷を抜け出しているのは知っていたけど、いつも私の朝のメイクの時間には律儀に来ていた子よ。それなのに‥。」
「‥とりあえず今日は私が化粧をさせて頂きます。」
「そうね‥仕方ないわ。お願いね。」
ミシェルはエリーゼがいない為仕方なく侍女に化粧を任せる事にしましたが、何だか落ち着かない様子でした。
「あんな変な子だけど、あれでもまだ嫁入り前の女の子だから心配ね。‥へんな男につかまってなきゃいいんだけど。帰ってきたらお相手が誰なのか問い詰めなきゃね。」
ミシェルは、ため息まじりにそうぼやきました。
「‥奥様はエリーゼお嬢様が男性と外泊していると思っているのですか?」
「‥あら、あれくらいの歳の女の子は異性が気になって仕方がない年頃よ。うちのロレーヌだってラサール大公と付き合うまでは貴族や使用人達に散々色目を使いまくってたじゃない。‥まあ、今は結婚も決まって少しは落ち着いたみたいだけど‥。」
「‥‥。」
「あら?エリーゼはロレーヌみたいに美しくないから異性との外泊は考えられないとでも言いたいのかしら。」
「あっ、いえ‥最近不審者がよく出没していますし、それに貴族の令嬢を誘拐して身代金を狙う外国の犯罪者グループもあるようなので‥少し気になりまして‥。」
「そういえば、うちの屋敷の周りでも以前不審者が目撃されてたわね。」
「はい。」
「‥‥やっぱり心配ね、すぐ旦那様に言って捜索願いを出してもらいましょう。」
「あの‥化粧がまだ途中ですが‥。」
「‥これくらいでもう十分よ。」
ミシェルは白粉をはたいただけの顔に、自分でささっと唇に紅をさして眉に薄墨を入れると夫カシューの寝ている側へ行きました。
「‥なんだ、まだ朝早いじゃないか‥。」
「あなた、起きてちょうだい。エリーゼが屋敷にいないの。」
「‥どうせ朝早くからどこかへ行っているんだろう?そのうち帰ってくるさ。」
「‥昨日からずっと帰ってないみたいなのよ。捜索願いを出した方がいいかしら?」
「まあ慌てるな。案外この後すぐにひょっこりと帰って来るかもしれないだろ?」
「そうですよね‥。」
「きっと大丈夫さ。」
「‥分かりました。」
「‥それにしても意外だな。君はエリーゼに対しての物言いがきつかったから、てっきりエリーゼを嫌っていたのかと思ってたんだが‥。」
「心外ですわ。私がエリーゼを嫌うだなんてありえません。まあたしかにエリーゼは愛想はないし可愛げもないし、問題ばかりおこす子ですけど‥だからといって別に嫌ってなんかいませんよ。
‥それに私のエリーゼに対する物言いがきついという事ですが、私は元々誰にでもこんな物言いでしたしこんな性格でしたよ。旦那様だって昔は私のそんなサバサバした性格が好きだと言ってくれたじゃないですか。‥それとももう私の事が嫌いになりましたか?」
「まさか!君の性格もその物言いも‥この魅力的な体も、もちろん全て愛してるさ。」
そう言って侯爵はミシェルを抱き寄せました。
「‥ところでミシェル。‥今日はいつもと化粧が違うな。」
「えっ?あっ‥すみません。エリーゼの事が心配で化粧に集中できずにいい加減に化粧を施してしまいました。‥やはりお気に召しませんか?」
「いや、良いよ。出会った頃の君みたいで好きだ。」
「‥えっ。」
「‥いつもの派手な化粧も華やかで良いけど‥俺はその地味な顔の方が自然で好きだな。」
「‥そっ、そうですか。」
『ロレーヌの恋人のラサール大公といい、旦那様といい、世の男性達は皆‥実は華やかな女性よりも大人しい顔の女性の方が好きなのかしら。』
そう思い首を傾げるミシェルの心中を察したのか、ルモンド侯爵は言葉を付け加えました。
「‥まあ、あれだ。男というのは、『昼間は淑女、夜は娼婦』といった女性が好きなんだ。普段は大人しめの女性が夜ベッドの上でいやらしく乱れる様にグッとくるんだ。」
「そうですか‥。」
「ああ、そうなんだよ。」
その言葉を聞いてミシェルの頬が微かに赤く染まるのをみた侯爵は、ミシェルのその頬にもキスをしました。
「‥愛してるよ、ミシェル。」
「私もです、旦那様愛してます。」
2人は再びキスをし、熱く抱擁を交わしました。
侯爵夫妻が愛を確かめ合っている頃、エリーゼの部屋ではカルディがすでに目覚めて身支度を整えていました。
カルディがルモンド侯爵家に滞在する為にとった有給休暇も昨日で終わってしまったからです。
そもそもカルディがこのルモンド侯爵家に来たのは、父に頼まれたから‥というよりも、むしろ心身共に限界に達していた自分自身を癒す為の休暇の意味合いの方が強かったのです。
「短い間だったけど、ここでエリーゼと過ごせた時間は本当に楽しかった気がする。‥エリーゼ、僕が急に屋敷から消えたら驚くかな?僕の今書いてる論文が賞を取って有名になったら、僕に惚れるかな‥‥。」
カルディはそう言うと、テーブルの上にエリーゼへの簡単な手紙と小さな花の彫刻のブローチを置いて部屋を出ました。
「‥もう理事長やスポンサーのプレッシャーなんかに負ける僕じゃない。‥それに同僚の足の引っ張り合いにも負けないぞ!僕はもっともっと頑張ってエリーゼに認められるぐらい立派な男になってやる!だから‥それまでは君と離れて過ごす事にするよ。」
カルディはこの後ルモンド侯爵夫妻や父にエリーゼとの婚約話の保留を申し出るつもりでした。
それは自分との婚約を嫌がっていたエリーゼの為‥というよりは、エリーゼを外堀をうめるようなかたちで手に入れたくない‥というカルディのプライドの為でした。
「‥エリーゼ、ごめんな。僕は父の許しなんてなくてもいつだって家に帰れたし、君をからかっていたのだって君の事が本当に好きだったからなんだ。‥君といる間僕は本当にリラックスできたし楽しかった。‥しばらくの間だけさようなら。」
カルディはそう言ってエリーゼがよく横になっていたソファーに顔を寄せて、名残惜しそうにその残り香を味わいました。脳裏には‥はからずも知ってしまったエリーゼの美しい素顔が浮かび上がります。
「エリーゼ本当はあんなに美人だったんだな‥。あの素顔を僕以外に知ってる男なんていないんだろうな‥。」
カルディは自分が今一番エリーゼに近い存在の男だということを自覚していたので、エリーゼの屋敷を出てしばらく離れ離れで過ごす事になっても、エリーゼに他の男が出来るなんて心配は全くしていませんでした。
それよりも‥今まで強引に図々しく接してきた自分の悪いイメージを、エリーゼと離れて過ごしながら徐々に良いイメージに変える必要性を強く感じていました。
「まあ、押してダメなら引いてみろ‥ってよく言うしな。」
カルディはそう言って立ち上がり服を整えると、侯爵夫妻の元へ屋敷を出る挨拶と婚約話の保留の申し出をしに向かいました。
まだ朝早かったようでしばらく待たされる事になりましたが、無事に侯爵と話を済ますとその足ですぐに研究室へと向かいました。
こうしてエリーゼのいないルモンド侯爵家の中では、ルモンド侯爵夫妻やカルディがそれぞれの朝を迎えていたのでした。
隣で眠る夫カシューの無防備な寝顔にキスをしてから侍女を呼びます。夫が起きる前にエリーゼの特殊なメイクで美しくならなければいけないからです。
‥子供二人を連れて、初めて夫の屋敷に来た時は不安で仕方なかったけど‥夫はミシェルをとても大切にしてくれましたし、子供達にもとてもよくしてくれました。
何の取り柄もないミシェルでしたが、夫に愛されて初めて女としての幸せを感じたのです。ミシェルは夫に感謝し、その愛に応えたいと常日頃考えていました。
コンコン、
侍女がミシェルの身支度をする為に寝室の扉をノックします。
「奥様‥。」
「遅かったじゃない。‥あら、エリーゼは一緒じゃないの?」
「それが‥いないのです。お嬢様がどこにも見当たりません。」
「おかしいわね。いつもコソコソと屋敷を抜け出しているのは知っていたけど、いつも私の朝のメイクの時間には律儀に来ていた子よ。それなのに‥。」
「‥とりあえず今日は私が化粧をさせて頂きます。」
「そうね‥仕方ないわ。お願いね。」
ミシェルはエリーゼがいない為仕方なく侍女に化粧を任せる事にしましたが、何だか落ち着かない様子でした。
「あんな変な子だけど、あれでもまだ嫁入り前の女の子だから心配ね。‥へんな男につかまってなきゃいいんだけど。帰ってきたらお相手が誰なのか問い詰めなきゃね。」
ミシェルは、ため息まじりにそうぼやきました。
「‥奥様はエリーゼお嬢様が男性と外泊していると思っているのですか?」
「‥あら、あれくらいの歳の女の子は異性が気になって仕方がない年頃よ。うちのロレーヌだってラサール大公と付き合うまでは貴族や使用人達に散々色目を使いまくってたじゃない。‥まあ、今は結婚も決まって少しは落ち着いたみたいだけど‥。」
「‥‥。」
「あら?エリーゼはロレーヌみたいに美しくないから異性との外泊は考えられないとでも言いたいのかしら。」
「あっ、いえ‥最近不審者がよく出没していますし、それに貴族の令嬢を誘拐して身代金を狙う外国の犯罪者グループもあるようなので‥少し気になりまして‥。」
「そういえば、うちの屋敷の周りでも以前不審者が目撃されてたわね。」
「はい。」
「‥‥やっぱり心配ね、すぐ旦那様に言って捜索願いを出してもらいましょう。」
「あの‥化粧がまだ途中ですが‥。」
「‥これくらいでもう十分よ。」
ミシェルは白粉をはたいただけの顔に、自分でささっと唇に紅をさして眉に薄墨を入れると夫カシューの寝ている側へ行きました。
「‥なんだ、まだ朝早いじゃないか‥。」
「あなた、起きてちょうだい。エリーゼが屋敷にいないの。」
「‥どうせ朝早くからどこかへ行っているんだろう?そのうち帰ってくるさ。」
「‥昨日からずっと帰ってないみたいなのよ。捜索願いを出した方がいいかしら?」
「まあ慌てるな。案外この後すぐにひょっこりと帰って来るかもしれないだろ?」
「そうですよね‥。」
「きっと大丈夫さ。」
「‥分かりました。」
「‥それにしても意外だな。君はエリーゼに対しての物言いがきつかったから、てっきりエリーゼを嫌っていたのかと思ってたんだが‥。」
「心外ですわ。私がエリーゼを嫌うだなんてありえません。まあたしかにエリーゼは愛想はないし可愛げもないし、問題ばかりおこす子ですけど‥だからといって別に嫌ってなんかいませんよ。
‥それに私のエリーゼに対する物言いがきついという事ですが、私は元々誰にでもこんな物言いでしたしこんな性格でしたよ。旦那様だって昔は私のそんなサバサバした性格が好きだと言ってくれたじゃないですか。‥それとももう私の事が嫌いになりましたか?」
「まさか!君の性格もその物言いも‥この魅力的な体も、もちろん全て愛してるさ。」
そう言って侯爵はミシェルを抱き寄せました。
「‥ところでミシェル。‥今日はいつもと化粧が違うな。」
「えっ?あっ‥すみません。エリーゼの事が心配で化粧に集中できずにいい加減に化粧を施してしまいました。‥やはりお気に召しませんか?」
「いや、良いよ。出会った頃の君みたいで好きだ。」
「‥えっ。」
「‥いつもの派手な化粧も華やかで良いけど‥俺はその地味な顔の方が自然で好きだな。」
「‥そっ、そうですか。」
『ロレーヌの恋人のラサール大公といい、旦那様といい、世の男性達は皆‥実は華やかな女性よりも大人しい顔の女性の方が好きなのかしら。』
そう思い首を傾げるミシェルの心中を察したのか、ルモンド侯爵は言葉を付け加えました。
「‥まあ、あれだ。男というのは、『昼間は淑女、夜は娼婦』といった女性が好きなんだ。普段は大人しめの女性が夜ベッドの上でいやらしく乱れる様にグッとくるんだ。」
「そうですか‥。」
「ああ、そうなんだよ。」
その言葉を聞いてミシェルの頬が微かに赤く染まるのをみた侯爵は、ミシェルのその頬にもキスをしました。
「‥愛してるよ、ミシェル。」
「私もです、旦那様愛してます。」
2人は再びキスをし、熱く抱擁を交わしました。
侯爵夫妻が愛を確かめ合っている頃、エリーゼの部屋ではカルディがすでに目覚めて身支度を整えていました。
カルディがルモンド侯爵家に滞在する為にとった有給休暇も昨日で終わってしまったからです。
そもそもカルディがこのルモンド侯爵家に来たのは、父に頼まれたから‥というよりも、むしろ心身共に限界に達していた自分自身を癒す為の休暇の意味合いの方が強かったのです。
「短い間だったけど、ここでエリーゼと過ごせた時間は本当に楽しかった気がする。‥エリーゼ、僕が急に屋敷から消えたら驚くかな?僕の今書いてる論文が賞を取って有名になったら、僕に惚れるかな‥‥。」
カルディはそう言うと、テーブルの上にエリーゼへの簡単な手紙と小さな花の彫刻のブローチを置いて部屋を出ました。
「‥もう理事長やスポンサーのプレッシャーなんかに負ける僕じゃない。‥それに同僚の足の引っ張り合いにも負けないぞ!僕はもっともっと頑張ってエリーゼに認められるぐらい立派な男になってやる!だから‥それまでは君と離れて過ごす事にするよ。」
カルディはこの後ルモンド侯爵夫妻や父にエリーゼとの婚約話の保留を申し出るつもりでした。
それは自分との婚約を嫌がっていたエリーゼの為‥というよりは、エリーゼを外堀をうめるようなかたちで手に入れたくない‥というカルディのプライドの為でした。
「‥エリーゼ、ごめんな。僕は父の許しなんてなくてもいつだって家に帰れたし、君をからかっていたのだって君の事が本当に好きだったからなんだ。‥君といる間僕は本当にリラックスできたし楽しかった。‥しばらくの間だけさようなら。」
カルディはそう言ってエリーゼがよく横になっていたソファーに顔を寄せて、名残惜しそうにその残り香を味わいました。脳裏には‥はからずも知ってしまったエリーゼの美しい素顔が浮かび上がります。
「エリーゼ本当はあんなに美人だったんだな‥。あの素顔を僕以外に知ってる男なんていないんだろうな‥。」
カルディは自分が今一番エリーゼに近い存在の男だということを自覚していたので、エリーゼの屋敷を出てしばらく離れ離れで過ごす事になっても、エリーゼに他の男が出来るなんて心配は全くしていませんでした。
それよりも‥今まで強引に図々しく接してきた自分の悪いイメージを、エリーゼと離れて過ごしながら徐々に良いイメージに変える必要性を強く感じていました。
「まあ、押してダメなら引いてみろ‥ってよく言うしな。」
カルディはそう言って立ち上がり服を整えると、侯爵夫妻の元へ屋敷を出る挨拶と婚約話の保留の申し出をしに向かいました。
まだ朝早かったようでしばらく待たされる事になりましたが、無事に侯爵と話を済ますとその足ですぐに研究室へと向かいました。
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