「‥君に気安く話しかけられたくないな。」初恋の人に使用人と間違えられて、塩対応されちゃいました。

みるみる

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グスタフ卿と怪しい女性を追いかけて

 エリーゼ達がカフェの窓際の席で話していると、窓ガラス越しに1人の女性がしきりに顔を掻きながら何かをブツブツと呟きながら猫背で歩いていくのが見えました。

 彼女の顔の傷と、その異様な姿に2人は自然と見入ってしまいました。

「エリーゼ、僕がよくカフェを利用するのは実は人間観察をする為でもあるんだよ。」

 窓の外に見えた怪しい女性を目で追いながらカルディが言います。

「人間観察?ただ他人をじーっと見てるだけって事?」

「‥いや、ただ見てるだけじゃなくて、その人の職業や家族構成を想像したり、何の悩みを抱えているかとか考えるんだ。」

「観察ねぇ‥少し悪趣味なような気もするけど。」

「これは立派な人間心理の研究でもあるんだよ。さあ、エリーゼも窓の外を観察してみなよ。初心者には、まあカップルとかの観察がお勧めかな。」

「何でカップル?」

「訳ありカップルや付き合って間もないカップル、間もなく別れが近いだろうカップルは凄く分かりやすいんだ。だからエリーゼも1時間も観察していれば、だいたいは分かるようになるよ。」

「うわぁ、下世話‥。」

 エリーゼは口では文句を言いつつも、内心ではカルディの話にとても興味を持っていました。

 カルディの話はとても面白いし、初めて聞く内容ばかりだし、それよりも何よりもカルディの話し方は上手いな‥と思いました。

 カルディの窓の外を眺める悪戯っぽい横顔も、以前のエリーゼだったら憎らしく感じたであろうに、今では可愛らしいとさえ感じてしまうのでした。

「ああ。ほら、あそこの黒づくめの背の高い男を見て。さっきこの窓の外を歩いて行った変な女の連れの男だよ。」

 エリーゼがカルディの指さす方を見ると、先程の女性が歩いて行った先に、黒づくめの格好の男性が立っているのが見えました。

 女性は男性の元に小走りに駆け寄ると、甘えたような仕草を見せながら男性の服の袖をそっと掴みました。

 男性は終始無反応でしたが、女性が自分の後をついて歩く様子を何度か振り返り確認しては歩いているようでした。

「‥‥!」

 エリーゼは男性の背格好に見覚えがあるような気がしてはいたのですが、振り返ったその顔を見てすぐにそれが気のせいではない事が分かりました。

『グスタフ卿!』

「ああ‥あの二人は多分付き合ってはいないな。女の一方的な片思いだ。男は女の保護者か上司だな。‥でもまあ引き合うべくして引き合った2人とも言えるな。」

「‥引き合うべくして引き合う?」

「ああ。以前からあの女は父の医院に頻繁に来ていたんだ。毎回大した傷でもない傷を自傷行為で悪化させたり、仮病なのに大きな病気を患っていると診断書に書けと父を脅したりする精神病の女だ。

恐らくあの女は人から心配される事で精神的安定を感じ、同じ行為を繰り返してしまう精神疾患‥つまりミュンヒハウゼン症候群だ。」

「あの女性を知ってるのね。彼女は誰なの?あの男性とはどういう関係?」

「‥エリーゼ、この話にはやたらと食いつくな。あの女がそんなに気になるなんて、君も下世話だな。」

「いいから、教えて!」

「‥駄目だよ。父の患者のプライバシーは守らなきゃならないからな。」

「素性までは教えてくれなくていいから、さっきの男性とどんな関係なのかだけでも教えてよ。」

「あの二人‥確かにエリーゼも気になるよな。‥あとをつけてみる?まあ、付いてったところできっと行き先はうちの医院なんだろうけどね。まあ、冗談は置いといて。他のカップルも観察してみようよ。」

「ねえ、それならいっその事忘れ物を取りに行った体で、またナポリ医師のもとへ戻ってみない?」

 エリーゼは立ち上がってそう言うと、カルディの腕を引っ張りました。

「早く行こう、カルディ!」

「えっ、あっ‥。って言うか僕の話聞いてた?他のカップルも観察してみよう‥。」

 エリーゼはまごつくカルディに舌打ちをすると、先に店を出てしまいました。

 カルディは困った顔をしながらエリーゼの護衛騎士の顔を見つめました。

 騎士はカルディの顔を見ると無言で頷き、そして‥エリーゼのあとを追って店を出てしまいました。

「‥って、お前もか!」

 カルディは3人分のお茶代を支払うと、渋々とナポリ医師のいる医院へと戻る道を歩き出しました。

「また父さんに会いに行く事になるなんて‥。さっき喧嘩別れしたばかりだというのに、一体どんな顔して会いに行けばいいんだか。」

 カルディは自分の前方を早歩きで歩いていくエリーゼと護衛の騎士の背中を見つめながら、思わずそうぼやいてしまいました。

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