「‥君に気安く話しかけられたくないな。」初恋の人に使用人と間違えられて、塩対応されちゃいました。

みるみる

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叶わぬ恋を諦めた男達…

 社交界全体をざわつかせた衝撃的なゴディバル公爵のお披露目式、兼エリーゼとの婚約発表の翌日…

 新聞には若い2人の婚約を祝う記事よりも、ゴディバル公爵の劇的な外観の変化や謎の美女エリーゼの登場についての記事がとてもスキャンダラスに書かれていました。

 今この2人が世間の話題を独占していたのです。

 エリーゼの元には早速たくさんのお茶会の誘いや求婚状が届いていました。

「いや、求婚状はさすがにおかしいでしょ!」

 そう言ってたくさんの手紙の中から求婚状だけを選びなげ捨てようとすると、それを止めようとがっしりとした手がエリーゼの背後からの伸びてきました。

「おかしくないよ。婚約が正式な結婚の約束とは限らないからね。回りはエリーゼの気が変わってしまう事もあり得ると判断した上で求婚状を送って来るんだよ。」

「…というか、カルディ!あなた相変わらず我が家の屋敷内を自分の家のように自由に出入りしてるのね。」

 エリーゼは自分の部屋に勝手に入ってきたカルディを叱るでもなく、諦めた口調で諌めます。

「まあ良いじゃないか。それにもう少ししたら君はこの屋敷を出てしまうんだから、それまでは自由に過ごさせてよ。」

「…呆れた。もう良いわ!明日こそ職人に頼んで頑丈な鍵をつけてもらうんだから!」

 そんなくだらないやり取りをしつつも2人は仕事の話を進めていきます。

「カルディ、例の離島の施設は結局あなたが精神科の研究室兼病院として利用する事にしたのよね。引き継ぎや改装の話はすすんでるの?」

「ああ、父さんが僕の開業の手続きや施設の改装については積極的に手伝ってくれてるよ。それに…かつての教え子達も何人か助手としてついてきてくれるしね。何の心配もいらないよ。それよりも…。」

「ああ、私の美容サロン開業のことが聞きたいのかしら。例の騒ぎのおかげで宣伝効果抜群よ。私たちみたいに美しくなりたいという人達が大勢問い合わせしてくれてるの。」

 そう言うと、エリーゼはお茶会や求婚状とは別の事務的な大きな封筒をカルディに見せました。

 エリーゼはナポリ医師に開業の事で相談した際に、彼から何名かのお客様を紹介してもらい、それに対する対価を彼に少々支払っていたのです。

「全員先生の紹介で私にお仕事を依頼してくれた方々なの。先生は確かにお金の事になると少々がめつくなるけど、その代わり一応はきちんとこちらの要望には毎回応えてくれるのよね。」

「…ああ、そうだったな。父さんはこれまでにもお金のために散々色んなところで怪しげな薬をたくさん売りつけていたみたいだけど…それらの薬はかろうじて合法的な範囲の物ではあったらしいよ。」

「そうね…。その辺に関しては先生は抜かりないわよね。」

「ああ、そうだな。…まっ、まあ父さんの話はさておき、とにかく婚約おめでとう。本当は僕と結婚して欲しかったんだけどな。」

 そう言うと、いつかエリーゼにくれた可愛いクマのぬいぐるみをお祝いとしてカルディが渡してくれました。

「ありがとう。可愛いわね。これもこの前のブローチの時のようにあなたの手作り?」

「こんな安っぽい手作りの品は嫌い?君はお金持ちでなんでも持ってるから、せめて僕の真心だけでも渡したかったんだけど迷惑ならやめておくよ。」

「ううん、嬉しいから貰っておくね。ありがとう。」

「…そうか、なら良かった。…僕だと思って仕事部屋か君の部屋に飾っておいてよ。君の心が疲れた時に少しでも癒されるようにと思って頑張って作ったんだ。」

「うん、分かった。」

 エリーゼはそう言うと素直にカルディからのプレゼントを受け取りました。

 その様子をエリーゼの部屋の扉の影から覗き見ていたのは弟のガルーナでした。

「…エリーゼの奴、よくあんな気持ち悪い手作りのプレゼントを受け取るよな。まあ、せっかく幸せそうにしてるんだから下手に水を刺すのはやめておいてやろう。」

 ガルーナはそう言うとそっとエリーゼの部屋の扉を閉めて自室へと戻っていきました。

 ガルーナとカルディはカルディがこの屋敷に来るようになってからしばらくして、お互いに意気投合して時々ガルーナの部屋で夜通し語り合う事もある程打ち解けていたのです。

 ガルーナは以前カルディが酔った勢いでつぶやいた言葉を思い出していました。

「もうさぁ、2人は相思相愛なんだよ。僕の入る隙なんてないじゃん。それにゴディバル公爵って何だよ!もう僕が頑張っても対抗出来る相手じゃないし。だからさぁ…せめて自分の分身でも作ってエリーゼの元に置いておいてもらうんだ。

僕の分身だけでもせめてエリーゼと常に一緒にいてくれたら、僕がエリーゼと添い遂げたかったという願望が叶ったものとして僕は満足する事にするよ。」

 カルディ曰く、これは医療で言うところの代替療法の応用なのだそうです。

 代替療法とは、本来なら手術や治療で治すべき病気をおまじないなどの心理的療法や栄養補助食品で栄養を補って治すような行為なのです。

 つまり、本来なら事業で大成功を収めて堂々とエリーゼにプロポーズして結婚したかったという願望を… 

 カルディは真心を込めて手作りしたぬいぐるみ等のプレゼントをエリーゼに受け取ってもらう事によって擬似的に自身の願望を叶えたという訳なのです。

 ただその行為の説明がガルーナにはうまく伝わらなかったようですが…。

 そんなガルーナも、実は血の繋がらない姉であるエリーゼに密かに恋心を抱いていたのですが…

 彼はエリーゼの事を本当の姉として受け入れる事で、自分の姉であるエリーゼへの恋心を抱く事は禁忌だと言い訳を作る事でエリーゼへの恋心を諦める事にしたのでした。

 

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