38 / 39
叶わぬ恋を諦めた男達…
しおりを挟む
社交界全体をざわつかせた衝撃的なゴディバル公爵のお披露目式、兼エリーゼとの婚約発表の翌日…
新聞には若い2人の婚約を祝う記事よりも、ゴディバル公爵の劇的な外観の変化や謎の美女エリーゼの登場についての記事がとてもスキャンダラスに書かれていました。
今この2人が世間の話題を独占していたのです。
エリーゼの元には早速たくさんのお茶会の誘いや求婚状が届いていました。
「いや、求婚状はさすがにおかしいでしょ!」
そう言ってたくさんの手紙の中から求婚状だけを選びなげ捨てようとすると、それを止めようとがっしりとした手がエリーゼの背後からの伸びてきました。
「おかしくないよ。婚約が正式な結婚の約束とは限らないからね。回りはエリーゼの気が変わってしまう事もあり得ると判断した上で求婚状を送って来るんだよ。」
「…というか、カルディ!あなた相変わらず我が家の屋敷内を自分の家のように自由に出入りしてるのね。」
エリーゼは自分の部屋に勝手に入ってきたカルディを叱るでもなく、諦めた口調で諌めます。
「まあ良いじゃないか。それにもう少ししたら君はこの屋敷を出てしまうんだから、それまでは自由に過ごさせてよ。」
「…呆れた。もう良いわ!明日こそ職人に頼んで頑丈な鍵をつけてもらうんだから!」
そんなくだらないやり取りをしつつも2人は仕事の話を進めていきます。
「カルディ、例の離島の施設は結局あなたが精神科の研究室兼病院として利用する事にしたのよね。引き継ぎや改装の話はすすんでるの?」
「ああ、父さんが僕の開業の手続きや施設の改装については積極的に手伝ってくれてるよ。それに…かつての教え子達も何人か助手としてついてきてくれるしね。何の心配もいらないよ。それよりも…。」
「ああ、私の美容サロン開業のことが聞きたいのかしら。例の騒ぎのおかげで宣伝効果抜群よ。私たちみたいに美しくなりたいという人達が大勢問い合わせしてくれてるの。」
そう言うと、エリーゼはお茶会や求婚状とは別の事務的な大きな封筒をカルディに見せました。
エリーゼはナポリ医師に開業の事で相談した際に、彼から何名かのお客様を紹介してもらい、それに対する対価を彼に少々支払っていたのです。
「全員先生の紹介で私にお仕事を依頼してくれた方々なの。先生は確かにお金の事になると少々がめつくなるけど、その代わり一応はきちんとこちらの要望には毎回応えてくれるのよね。」
「…ああ、そうだったな。父さんはこれまでにもお金のために散々色んなところで怪しげな薬をたくさん売りつけていたみたいだけど…それらの薬はかろうじて合法的な範囲の物ではあったらしいよ。」
「そうね…。その辺に関しては先生は抜かりないわよね。」
「ああ、そうだな。…まっ、まあ父さんの話はさておき、とにかく婚約おめでとう。本当は僕と結婚して欲しかったんだけどな。」
そう言うと、いつかエリーゼにくれた可愛いクマのぬいぐるみをお祝いとしてカルディが渡してくれました。
「ありがとう。可愛いわね。これもこの前のブローチの時のようにあなたの手作り?」
「こんな安っぽい手作りの品は嫌い?君はお金持ちでなんでも持ってるから、せめて僕の真心だけでも渡したかったんだけど迷惑ならやめておくよ。」
「ううん、嬉しいから貰っておくね。ありがとう。」
「…そうか、なら良かった。…僕だと思って仕事部屋か君の部屋に飾っておいてよ。君の心が疲れた時に少しでも癒されるようにと思って頑張って作ったんだ。」
「うん、分かった。」
エリーゼはそう言うと素直にカルディからのプレゼントを受け取りました。
その様子をエリーゼの部屋の扉の影から覗き見ていたのは弟のガルーナでした。
「…エリーゼの奴、よくあんな気持ち悪い手作りのプレゼントを受け取るよな。まあ、せっかく幸せそうにしてるんだから下手に水を刺すのはやめておいてやろう。」
ガルーナはそう言うとそっとエリーゼの部屋の扉を閉めて自室へと戻っていきました。
ガルーナとカルディはカルディがこの屋敷に来るようになってからしばらくして、お互いに意気投合して時々ガルーナの部屋で夜通し語り合う事もある程打ち解けていたのです。
ガルーナは以前カルディが酔った勢いでつぶやいた言葉を思い出していました。
「もうさぁ、2人は相思相愛なんだよ。僕の入る隙なんてないじゃん。それにゴディバル公爵って何だよ!もう僕が頑張っても対抗出来る相手じゃないし。だからさぁ…せめて自分の分身でも作ってエリーゼの元に置いておいてもらうんだ。
僕の分身だけでもせめてエリーゼと常に一緒にいてくれたら、僕がエリーゼと添い遂げたかったという願望が叶ったものとして僕は満足する事にするよ。」
カルディ曰く、これは医療で言うところの代替療法の応用なのだそうです。
代替療法とは、本来なら手術や治療で治すべき病気をおまじないなどの心理的療法や栄養補助食品で栄養を補って治すような行為なのです。
つまり、本来なら事業で大成功を収めて堂々とエリーゼにプロポーズして結婚したかったという願望を…
カルディは真心を込めて手作りしたぬいぐるみ等のプレゼントをエリーゼに受け取ってもらう事によって擬似的に自身の願望を叶えたという訳なのです。
ただその行為の説明がガルーナにはうまく伝わらなかったようですが…。
そんなガルーナも、実は血の繋がらない姉であるエリーゼに密かに恋心を抱いていたのですが…
彼はエリーゼの事を本当の姉として受け入れる事で、自分の姉であるエリーゼへの恋心を抱く事は禁忌だと言い訳を作る事でエリーゼへの恋心を諦める事にしたのでした。
新聞には若い2人の婚約を祝う記事よりも、ゴディバル公爵の劇的な外観の変化や謎の美女エリーゼの登場についての記事がとてもスキャンダラスに書かれていました。
今この2人が世間の話題を独占していたのです。
エリーゼの元には早速たくさんのお茶会の誘いや求婚状が届いていました。
「いや、求婚状はさすがにおかしいでしょ!」
そう言ってたくさんの手紙の中から求婚状だけを選びなげ捨てようとすると、それを止めようとがっしりとした手がエリーゼの背後からの伸びてきました。
「おかしくないよ。婚約が正式な結婚の約束とは限らないからね。回りはエリーゼの気が変わってしまう事もあり得ると判断した上で求婚状を送って来るんだよ。」
「…というか、カルディ!あなた相変わらず我が家の屋敷内を自分の家のように自由に出入りしてるのね。」
エリーゼは自分の部屋に勝手に入ってきたカルディを叱るでもなく、諦めた口調で諌めます。
「まあ良いじゃないか。それにもう少ししたら君はこの屋敷を出てしまうんだから、それまでは自由に過ごさせてよ。」
「…呆れた。もう良いわ!明日こそ職人に頼んで頑丈な鍵をつけてもらうんだから!」
そんなくだらないやり取りをしつつも2人は仕事の話を進めていきます。
「カルディ、例の離島の施設は結局あなたが精神科の研究室兼病院として利用する事にしたのよね。引き継ぎや改装の話はすすんでるの?」
「ああ、父さんが僕の開業の手続きや施設の改装については積極的に手伝ってくれてるよ。それに…かつての教え子達も何人か助手としてついてきてくれるしね。何の心配もいらないよ。それよりも…。」
「ああ、私の美容サロン開業のことが聞きたいのかしら。例の騒ぎのおかげで宣伝効果抜群よ。私たちみたいに美しくなりたいという人達が大勢問い合わせしてくれてるの。」
そう言うと、エリーゼはお茶会や求婚状とは別の事務的な大きな封筒をカルディに見せました。
エリーゼはナポリ医師に開業の事で相談した際に、彼から何名かのお客様を紹介してもらい、それに対する対価を彼に少々支払っていたのです。
「全員先生の紹介で私にお仕事を依頼してくれた方々なの。先生は確かにお金の事になると少々がめつくなるけど、その代わり一応はきちんとこちらの要望には毎回応えてくれるのよね。」
「…ああ、そうだったな。父さんはこれまでにもお金のために散々色んなところで怪しげな薬をたくさん売りつけていたみたいだけど…それらの薬はかろうじて合法的な範囲の物ではあったらしいよ。」
「そうね…。その辺に関しては先生は抜かりないわよね。」
「ああ、そうだな。…まっ、まあ父さんの話はさておき、とにかく婚約おめでとう。本当は僕と結婚して欲しかったんだけどな。」
そう言うと、いつかエリーゼにくれた可愛いクマのぬいぐるみをお祝いとしてカルディが渡してくれました。
「ありがとう。可愛いわね。これもこの前のブローチの時のようにあなたの手作り?」
「こんな安っぽい手作りの品は嫌い?君はお金持ちでなんでも持ってるから、せめて僕の真心だけでも渡したかったんだけど迷惑ならやめておくよ。」
「ううん、嬉しいから貰っておくね。ありがとう。」
「…そうか、なら良かった。…僕だと思って仕事部屋か君の部屋に飾っておいてよ。君の心が疲れた時に少しでも癒されるようにと思って頑張って作ったんだ。」
「うん、分かった。」
エリーゼはそう言うと素直にカルディからのプレゼントを受け取りました。
その様子をエリーゼの部屋の扉の影から覗き見ていたのは弟のガルーナでした。
「…エリーゼの奴、よくあんな気持ち悪い手作りのプレゼントを受け取るよな。まあ、せっかく幸せそうにしてるんだから下手に水を刺すのはやめておいてやろう。」
ガルーナはそう言うとそっとエリーゼの部屋の扉を閉めて自室へと戻っていきました。
ガルーナとカルディはカルディがこの屋敷に来るようになってからしばらくして、お互いに意気投合して時々ガルーナの部屋で夜通し語り合う事もある程打ち解けていたのです。
ガルーナは以前カルディが酔った勢いでつぶやいた言葉を思い出していました。
「もうさぁ、2人は相思相愛なんだよ。僕の入る隙なんてないじゃん。それにゴディバル公爵って何だよ!もう僕が頑張っても対抗出来る相手じゃないし。だからさぁ…せめて自分の分身でも作ってエリーゼの元に置いておいてもらうんだ。
僕の分身だけでもせめてエリーゼと常に一緒にいてくれたら、僕がエリーゼと添い遂げたかったという願望が叶ったものとして僕は満足する事にするよ。」
カルディ曰く、これは医療で言うところの代替療法の応用なのだそうです。
代替療法とは、本来なら手術や治療で治すべき病気をおまじないなどの心理的療法や栄養補助食品で栄養を補って治すような行為なのです。
つまり、本来なら事業で大成功を収めて堂々とエリーゼにプロポーズして結婚したかったという願望を…
カルディは真心を込めて手作りしたぬいぐるみ等のプレゼントをエリーゼに受け取ってもらう事によって擬似的に自身の願望を叶えたという訳なのです。
ただその行為の説明がガルーナにはうまく伝わらなかったようですが…。
そんなガルーナも、実は血の繋がらない姉であるエリーゼに密かに恋心を抱いていたのですが…
彼はエリーゼの事を本当の姉として受け入れる事で、自分の姉であるエリーゼへの恋心を抱く事は禁忌だと言い訳を作る事でエリーゼへの恋心を諦める事にしたのでした。
6
あなたにおすすめの小説
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
白い結婚は無理でした(涙)
詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。
明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。
白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。
小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。
現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。
どうぞよろしくお願いいたします。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
思い出さなければ良かったのに
田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。
大事なことを忘れたまま。
*本編完結済。不定期で番外編を更新中です。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
今さらやり直しは出来ません
mock
恋愛
3年付き合った斉藤翔平からプロポーズを受けれるかもと心弾ませた小泉彩だったが、当日仕事でどうしても行けないと断りのメールが入り意気消沈してしまう。
落胆しつつ帰る道中、送り主である彼が見知らぬ女性と歩く姿を目撃し、いてもたってもいられず後を追うと二人はさっきまで自身が待っていたホテルへと入っていく。
そんなある日、夢に出てきた高木健人との再会を果たした彩の運命は少しずつ変わっていき……
嘘をつく唇に優しいキスを
松本ユミ
恋愛
いつだって私は本音を隠して嘘をつくーーー。
桜井麻里奈は優しい同期の新庄湊に恋をした。
だけど、湊には学生時代から付き合っている彼女がいることを知りショックを受ける。
麻里奈はこの恋心が叶わないなら自分の気持ちに嘘をつくからせめて同期として隣で笑い合うことだけは許してほしいと密かに思っていた。
そんなある日、湊が『結婚する』という話を聞いてしまい……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる