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ミザリーの幸せな結末‥
しおりを挟む「ピューリッツ、私の幸せな結末って何なの?そもそもなんであなたにそんな事が分かるの?」
「それは‥。」
ピューリッツが少し言い淀みながらもミザリーに語った話は‥あまりにも不思議な話でした。
この世に生を受けた全ての生き物には皆もれなく自分が主人公になっている物語が存在しているのだそうです。
その物語には、各々の人生の大まかなあらすじや使命と幸せな結末だけが書かれているようです。
そしてそれらの物語は、全てアカシックレコードと言われる大きな図書館のような所に納められていると言うのです。
「人生の大まかなあらすじ?使命?‥よく分からないわ。」
ミザリーが困惑した様子でそう言うと、ピューリッツはアリスを例にとって分かりやすく教えてくれました。
「‥例えばミザリーさんの友人のアリスさんは、『異性を外見だけで選んではいけない』という学びを得る為に、別次元の世界からわざわざこの世界へと連れてこられたのですよ。
その際の手引書というか、この世界で生きていく上でのヒントは向こうの世界でいうところの「ゲーム」という媒体を介して彼女には与えてあったようです。
そんな彼女の今後の人生の物語を読んだ事がありますが、彼女は優しい旦那様と子供達に囲まれて、これから先ずっと幸せな人生を歩むようです。」
「そうなんですね。‥ところでそこにはアポロ様の物語もありましたか?」
「勿論。」
「‥アポロ様の物語にはどんな事が書かれていましたか?」
「‥彼は今回の人生で『人生を楽しみながら生きる』事を学ぶはずだったようです。
悲しい事にこれまで彼の魂は、何度生まれ変わっても必ず戦争や病気で早死にしていたんです。
‥だから彼は今世では、戦争のない世界に健康な体で生まれて公爵令嬢のサボンさんと結婚して子供も何人か生まれて幸せに長生きをするはずだったんです。
それなのに‥彼は生きる事に楽しみや喜びを見いだす事なく、つい先程自らその生を絶ってしまったようですね。可哀想に‥。
それに、よほど人間である事に嫌気がさしたのでしょうね‥。動物や植物よりもはるかに人間から遠い鉱石に生まれ変わってしまったのですから。」
「‥アポロ様にも本当なら幸せな結末が待ち受けていたというのですか?」
「‥そうです。ですが、そうやって本来の物語から大きく外れて、自分から幸せを遠ざけてしまう魂もたまにいるのです。アポロ王子のように‥。彼は常に人生を悲観的にしか見られない可哀想な魂の持ち主だったようです。」
「そうなのね。‥‥でも人は未来だけを見つめて生きている訳ではないわ。
つまり‥今この瞬間が苦しくて仕方のない人間にとっては、その苦痛が永遠に感じられてしまうの。‥未来の幸せを求める余裕なんてきっとない人がほとんどだと思うわ。
‥だから私も自ら命を絶ってしまった。アポロ様だってそう。
だから私はアポロ様の死を可哀想だとも残念だとも思わない。彼は彼なりに精一杯生きたわ。‥もう充分に苦しみながらね。」
「‥ミザリーさんの言う通りです。ですが、彼は自分の命を絶っただけでなく、他の沢山の命を絶ってしまった。‥その罪は重いです。それに彼は自らの意志で鉱石に生まれ変わってしまった。
その為彼は今後何千年もかけないと人間には生まれ変われないでしょう。」
ピューリッツはそこまで話すと、ミザリーの枕元に用意されていたグラスの水を一気に飲み干し、無邪気な笑顔をミザリーに向けました。
「‥すみません、勝手に水を頂いてしまいました。僕は喉が乾きやすい体質なのです‥。」
ミザリーはそんな彼の笑顔を見ているうちに、ふと肩の力が抜けていくのを感じました。
「‥不思議。ピューリッツといるとなぜかとてもリラックスするわ。
あっ、そう言えば‥この国に来てピューリッツとよく似た雰囲気を纏った女性と親しくなったのよ。‥今その彼女は私とはあまり親しくしてはくれないけど。」
「‥‥そうですか。ひょっとしてそれはアンという女性ではないですか?」
「えっ、そうだけど‥。」
ミザリーはピューリッツがアンの存在を知っていた事に驚きました。それに何故か胸がチクリと痛むのを感じていました。
『ピューリッツとアンは‥どういう関係なの?』
ミザリーはそう思うと不快な気持ちになりました。
「ピューリッツ、アンを何故知ってるの?」
「‥アンの体には時々お世話になっていたんです。」
ミザリーはこの言葉を聞くなり、怒りと恥ずかしさで顔を真っ赤にさせてピューリッツに怒鳴ってしまいました。
「‥やだっ、いやらしい事言わないで!最低!」
すると、ピューリッツは困った顔で慌てて言い直しました。
「‥あの、本当にいやらしい意味ではなくて、その‥意識体となってアンの体に憑依させて貰っていたのです。」
「‥えっ?」
「僕はファントムの大元と、この世界を創り出した創造神ガイアの息子なんです。そしてミザリーさん、あなたの運命の相手でもあるのです。僕はあなたの事をラクタス王国でもこのカピエラでもずっと見守り続けていたのですよ。」
「‥アンに憑依?」
「そうです。」
ミザリーはピューリッツの言う言葉をすぐに全て受け入れた訳ではありませんでしたが、アンが時折見せた別人格がピューリッツだったとすれば、妙に腑に落ちるものがありました。
「‥ただ、今のアンの状態だともう彼女の体に憑依するのは難しいようです。」
「‥えっ?」
「アンは何らかの洗脳や薬物で精神を操作されているようですので、僕が入り込む隙がありません。」
「‥‥私を庇ったせいだわ。」
「ミザリーさんが気に病む事はありません。ゼウス王子が最近になって少しずつ狂気性を見せてきたせいです。こうなったのは全て彼のせいです。昔はあれほどひどい性格ではなかったのに‥。」
「‥ゼウス王子?」
「‥ここの所長であり、この国の第一王子のゼウス王子の事を言ってるんですよ。‥ゼウス王子が何か?」
「‥いえ、なんでもないの。ただ‥所長が王子だなんて知らなかったから、大分失礼な事をしたかもって思って今更だけど怖くなっちゃった。」
「‥ミザリーさん、彼の事が怖いなら、僕と一緒にここから逃げてしまいましょう!」
「どうやって?それにピューリッツが何故私の為にそこまでしてくれるの?」
「‥ミザリーさん、僕と君はここから逃げて、二人で外国へ行って幸せな結末を迎えるんですよって言ったら‥僕についてきてくれますか?」
そう言うとピューリッツはミザリーが返事をするのを待たずに、突然彼女の体を軽々と横抱きにしてしまいました。
「‥ピューリッツ!?」
「‥ミザリーさん、静かに。誰かがこちらに向かって来ています。あと‥目を閉じて下さい。」
ミザリーはその言葉に頷き、すぐに両手で口を押さえました。そしてギュッと瞳を閉じました。
それから数十秒程経った頃、ようやくピューリッツから声をかけられました。
「もう良いですよ、目を開けて下さい。」
「‥‥‥。」
ミザリーがゆっくりと目を開けてみると‥そこには幻想的な青い色の世界が広がっていました。
青白くどこまでも続く花畑の奥には森があり、その森の奥には青白くキラキラ光る動物達が寛ぐ大きな湖がありました。
その湖はとても不思議な湖でした。湖の真ん中からは天にまで伸びた大木がありましたし、湖面はまるで湖自体が生きているかの様に自由に動いていたのです。
「‥ピューリッツ、ここはどこなの?」
「‥ミザリーさんも一度は来た事があるはずだけど‥ファントムの大元が存在する意識体の世界ですよ。」
「‥私、ここでピューリッツと暮らすの?」
「そうです。この世界と‥あとは地上の比較的平和な国にも僕の名義で家と土地があるので、その両方を自由に行き来して二人で暮らそうと思います。」
「‥これが私の幸せな結末なの?」
「ミザリーさんはこの結末が嫌ですか?」
「‥分からない。でも、ゼウス王子の手が届かない所へ逃げて来れたのだとしたら、それはとても嬉しいわ。それに‥ピューリッツとなら楽しく過ごせそうで嬉しい‥と思う。」
ミザリーは顔を赤らめてモジモジしながらそう言うと‥ピューリッツの腕の中で思わず大きな欠伸をしてしまいました。
「‥あっ、ごめんなさい。大きな欠伸をしちゃった。‥疲れたせいかとても眠たいの。‥このまま眠っても良い?」
「どうぞ。」
ピューリッツは笑顔でそう言うと、自分の腕の中でウトウトと眠りに落ちるミザリーの様子を愛おしそうに眺めました。
「‥ゆっくりお休みなさい、ミザリーさん。」
そう言ってピューリッツはミザリーを抱いたまま大木の元へ近づき、その根元へ彼女を寝かせました。
「‥父上、彼女の体を癒やしてあげて下さい。彼女は‥僕の花嫁になる女性なんです。」
ピューリッツは大木にそう語りかけると、次は湖の中に話しかけました。
「母上、私の花嫁を連れてきました。彼女の事を宜しくお願いしますね。」
ピューリッツは大木と湖に向かい、それだけ言うと、夜空から降り注ぐ月光を浴びてガタイの良い庭師の姿から、神秘的な青白い長髪と白い肌の輝く本来の姿へと変身しました。
「‥この姿、ミザリーさんは気に入ってくれるかな。」
そう言って、ピューリッツは大木の根元に横たわるミザリーに寄り添い、自分も眠りにつきました。
そんな二人を大木が白い靄で優しく包み込み、二人が目覚めるまでずっとその心身を癒やし続けたのでした。
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