6 / 46
6、バンデル王子との出会い
リナと男が林の中を歩いていると、前方から馬の蹄の音が聞こえてきました。‥どうやら誰かが馬にのって、こっちにやってきているようです。
「‥お父さん‥誰か来る。」
男はリナを背中に庇いながら、茂みの中へ移動して隠れました。
馬がリナ達の近くで止まり、身なりの良い男性が馬からおりて歩いて来ました。
「‥バンデル兄さん‥。」
「‥お父さん、何か言った?」
「‥‥いや。」
茂みの中で私達は息を潜めて、身なりの良い男性と馬が立ち去るのを待ちました。
馬と男性は近くの湖で休憩をとると、そのまま立ち去って行きました。
「‥行ったな。」
「‥そうだね。」
私達は、茂みから出ると再び歩き出しました。‥‥と、その時‥‥
「‥やっぱり誰かいた。」
先程の身なりの良い男性が馬に乗って、こちらをじーっと見ていました。
「‥‥。」
「あっ、もう立ち去ったと思った?残念だね。僕はこの茂みのあたりには絶対誰かいるって思って、立ち去ったふりをして様子を見てたんだ。
ん?君は‥ナターシャか、いや、ナターシャがこんな所にいる訳ないな。」
身なりの良い男性は、リナを見てナターシャという女性の名前を出しました。
ナターシャ‥‥?私に似てる?リナはその話をもっと聞きたいと思い、無意識に男の方へ身を乗り出していました。
オホン、
「‥僕達は、先を急ぐので‥これで。」
「‥ん?おじさんの声は‥思ったより若い声だな。‥それにその瞳の色は、我がトランタ王国の王族の瞳の色‥。‥二人共凄く怪しいなぁ。‥‥近くにいる騎士達を呼んじゃおうかな。」
「‥バンデル兄さん!頼むからそれはやめてくれ。全て話すから‥。」
男はそう言って、身なりの良い男に懇願しました。
「‥‥兄さん?やっぱり、お前は変身はしているが、5歳で家出したっきりお城へ帰って来なくなったラナンだな!」
「‥‥そうです。」
「‥で、そちらの女性は?」
「‥娘です。」
「‥‥えっ?ラナン、お前の娘にしては大きくないか?‥‥もしかしてお前のその変身は、自分をその子の父親に見せる為?何で?」
「‥‥。」
男二人はそのままその場に座り、話し込んでしまいました。リナは男二人の会話をじっと聞いていました。
お父さんが、本当は「ラナン」という名の、トランタ王国の末の王子だと言う事、そして身なりの良い男性が、その兄のバンデル王子だと言う事を知りました。
‥‥リナは、自分がとんでもない人達と一緒にいる事にようやく気付きました。
「ラナン、その子って姉妹がいたりする?」
「‥!」
「僕の婚約者がその子とそっくりなんだけど‥。」
「‥他人の空似だろ」
「ねぇ、君の名前は?何歳なの?」
バンデル王子が、リナに聞いてきました。
「‥リナです。16歳です。」
「16歳だって!?僕の婚約者と同じだ。‥こんなに似てて、しかも同じ歳‥。君、生まれはどこ?親はどうしたの?」
「‥私は赤ちゃんの頃からずっと、このトランタ王国のペンタス公爵領の教会で暮らしていました。ですが、父はすでに亡くなり、昨日家事で家もなくしました。‥途方に暮れていたところを、お父さんに声をかけてもらったのです。」
バンデル王子は、少し考えこむような仕草を見せましたが、すぐに納得したような顔をして、ラナン王子とリナに笑いかけました。
「‥うん。ラナンと僕の婚約者そっくりのリナさんが、親子のフリして旅に出るというんだね。リナさんの仕事や住処を探してると言うなら、この国で、どこか良さそうな場所を僕が紹介しようか?」
「‥‥僕がリナとこの国を出たいんだ。それと、兄さん、どうかリナの事は誰にも言わないで欲しい。‥兄さんの婚約者のナターシャ姫に似てるなんて、何かのトラブルの種になりそうで怖いんだ。」
「‥分かった。誰にも言わないと誓うよ。‥‥ところでリナさんは?君もやっぱりこの国を出たいの?」
「‥実は私の住んでいる教会の領主様に目をつけられてしまって‥‥。なので、できればこの国から出て、領主様から離れたいです。」
リナはバンデル王子に、住んでいた教会が火事になった理由を話しました。
話を聞いていたバンデル王子は頭を抱えて少し悩んだ様子を見せましたが、すぐに頭を上げてリナに向き合いました。
「‥リナさん、大変だったね。だけど、君の領地の‥‥ペンタス公爵を裁くには証拠もないし、下手に君が騒げば君は間違いなく殺されるだろう。」
「‥‥でしょうね。現に私は追われる身なのです。ですから、こうして逃げているのです。それを‥バンデル王子に引き留められて、今こうして足止めをされてしまってる訳です。」
「‥ごめんね。‥‥それにしても、可哀想な君に僕がしてあげられる事が何もない。」
バンデル王子はそう言うと、身につけていた小刀や装飾具をラナン王子に渡しました。
「‥ラナン、餞別だよ。二人ともどうか無事に!」
バンデル王子は私達にそう言うと、馬に乗り颯爽と去って行きました。二人は近くの茂みに隠れて、続いてやってきた騎士達の群れも通り過ぎた後に、ゆっくりと林道に戻りました。そして、その日のうちにトランタ王国を出たのでした。
あなたにおすすめの小説
「通訳など辞書で足りる」と追放された令嬢——三国会談で、婚約者は一言も話せなくなった
歩人
ファンタジー
宮廷通訳官エレノーラは五つの言語を操り、婚約者クラウスの外交を陰で支えてきた。
だがクラウスは言った。「通訳など辞書で足りる。お前は要らない」
追放されたエレノーラは隣国で新たな道を歩み始める。
一方、クラウスは三国会談の場で辞書片手に立ち往生。
誤訳が外交問題に発展し、窮地に陥ったその場に、隣国の通訳官として現れたのは——。
「その言葉は、もう翻訳できません」
初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後
澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。
ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。
※短いお話です。
※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。
悪役令嬢にされたので婚約破棄を受け入れたら、なぜか全員困っています
かきんとう
恋愛
王城の大広間は、いつも以上に華やいでいた。
磨き上げられた床は燭台の光を反射し、色とりどりのドレスが揺れるたびに、まるで花畑が動いているかのように見える。貴族たちの笑い声、楽団の優雅な旋律、そして、ひそやかな噂話が、空気を満たしていた。
その中心に、私は立っていた。
――今日、この瞬間のために。
「エレノア・フォン・リーベルト嬢」
高らかに呼ばれた私の名に、ざわめきがぴたりと止む。
何もしなかっただけです
希臘楽園
ファンタジー
公爵令嬢であり王太子の婚約者であった私は、「地味だ」という理由で婚約を破棄され、王宮を去った。
それまで私が担っていた役目を、誰も知らないまま。
――ただ何もしなくなっただけで、すべては静かに崩れていく。
AIに書かせてみた第14弾は、「追放ざまぁ」系の短編。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?