捨てられたお姫様

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8、ラナン王子の話

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リナとラナン王子はトランタ王国を出て、隣国のニルバァナ大国に入りました。ラナン王子が街役場で色々と交渉したところ、二人はしばらくここに滞在できる事になりました。

「‥僕はこういう時の交渉は得意なんだ。」

ラナン王子は、そう言って詳しい事は教えてはくれませんでしたが、滞在先を紹介する代わりに何かの依頼を引き受けたようでした。

「さあ、ここが今日からしばらく僕らが滞在する宿だ。二人同室だから安心すると良い。」

「‥普通なら男女二人同室なんて、安心どころか警戒するべきところなんですよ‥。」

「まあ、僕らは親子だからね。気になるなら、女性に変身していようか?」

「‥そういう問題ではないような‥‥、もう良いです。」

リナは、自分一人がラナン王子を異性として意識しているようで恥ずかしくなった為、悔しいけど、ラナン王子の言う通りにする事にしました。

「‥リナ、下の食堂に行って夕食をとろう。」

「‥その事ですけど、私はお金を全く持っていません。このままお父さんのお世話になるのは気がひけます。‥何か私もお金を稼ぎたいです。」

「‥いや、お金には全く困らないんだけど‥、リナが気になるっていうなら、僕にきた依頼をリナにも手伝ってもらう事にしようかな。」

「はい。宜しくお願いします。」

「‥あと、お父さんに敬語は駄目だよ。それに僕が王子だという事は忘れて。」

「はい‥じゃなくて、うん。分かった。」

リナのお金の問題も解決したところで、二人は食堂へ行き奥のテーブルにつきました。席に着くなりラナン王子、いえ‥ラナンはさっさと料理注文を済ませ、一人でワインを飲み始めました。

「‥ごめんね、僕だけ飲んで。‥リナももう少し大人になったら、ワインを飲めるからね。」

ラナンはそう言って、ご機嫌な様子でワインを飲むと、すぐさまおかわりをしていました。

しばらく待つと、宿の女将さんが作ったビーフシチューとパンとラム肉が提供されました。

リナはご馳走を前にして少し戸惑いましたが、ラナンが美味しそうに食べる姿を見てるうちに我慢できず、気付けば肉にむしゃぶりついていました。

そんなリナを、ラナンは微笑ましく見ていました。

「‥しっかり食べてしっかり寝て、明日に備えよう。明日は早速依頼された仕事をしに行くからね。」

「依頼って何をするんですか?」

「‥街中の井戸水の瘴気を払って浄化をしに行くんだ。最近では、井戸の水を飲んで食中毒を起こす人が多いらしいからね。」

「‥魔法で浄化するんですね。っていうか、お父さんは浄化魔法も使えたんですね!‥‥で、魔法の使えない私は何をすれば?」

「‥良ければ、リナにも魔法を教えてあげるよ。一緒に井戸の水の浄化をしよう。」

「‥えっ?」

「‥僕だってまるっきりの素人だったのに、魔法使いになれたんだからね。」

リナは、ラナンにどうやって魔法使いになったのかを詳しく聞きたいとせがみました。

ラナンはワインで酔ったせいか、少し気分が良くなっていました。その為‥リナにあれこれと自分の身の上話をしてしまいました。


「僕はね、3歳の頃から絵本の中に出てくる魔王や魔女、魔法使いに憧れを抱いていたんだよ。それで一人で魔法の勉強をしていたんだ。

そんな僕が5歳になった時、ある王国で赤ちゃんが産まれて、その王国中の魔女が祝福を与える行事が行われる事を知ったんだ。

‥僕は衝動的に家出をしていた。だってそんな凄い行事、見ない手はないよね。

僕はやっとの思いで、その王国へ着いたんだ。そこで、運命的な一人目の師匠との出会いがあったんだ。彼女は偉大な魔女だった。僕が真剣に頼むと魔法を教えてくれた。それで変身魔法と空を飛ぶ魔法を覚えたんだ。

彼女は言ったんだ。真剣な思いがあれば、必ず願いは叶うとね。

それからしばらくすると、いよいよ師匠が赤ちゃんに祝福を与える日が来たんだ。‥僕はその様子を建物の外から空中に浮いて覗き見していた。

祝福の行事が終わると、師匠は僕にとあるプレートを渡してきた。それは、ぼくに守べきものができた時に使う物だと言った。‥僕が君にあげたプレートの事だよ。

そして運命的な日がやってきた。ある日突然僕は空を飛んでみたい衝動に駆られたんだ。師匠は、僕に自分の中の衝動に従ってみろ、と言ったんだ。僕は衝動のままに、とある建物の上空まで飛んでいったんだ。‥空は真っ暗で雷まで鳴っていた。

僕はそこで可愛い赤ちゃんが、大人に殺されそうになってるのを見つけた。僕はとっさに大人に変身してその場に降りたんだ。

そしてその赤ちゃんを殺すぐらいなら、僕にくれ、と言ってやったんだ。すると、大人達は泣きながら‥本当は殺したくなかったと言ったんだ。赤ちゃんが国にいたらマズい事も教えてくれた。‥だから僕が赤ちゃんを外国へ逃す事を提案したら、すぐに賛同してくれたんだ。

僕は大人に変身したまま赤ちゃんを抱っこして、自分の国に連れ帰ったんだ。だが、そんな僕らを悪い魔女が追いかけて来たんだ。‥怖かったよ。だけど、赤ちゃんを守りたくて必死だった。

‥僕はその赤ちゃんを教会の牧師に預けて、魔女と戦った。‥でも全く勝てなかった。命からがら一旦逃げてきた僕は、次の師匠のもとで16年修行して、悪い魔女をやっつけれる程に頑張って成長したんだ。」


ラナンは、そこまで話すとウトウトし始めました。リナはラナンを支えながら部屋に戻る事にしました。


部屋に着くと、ラナンをベッドに寝かせてやりました。そして自分も横になってみましたが、なかなか寝付く事は出来ませんでした。先程のラナンの話が頭から離れなかったのです。


‥‥ラナンが5歳ながらに、赤ちゃんの自分を命がけで守ってくれた事、悪い魔女を倒すために16年間も修行した事は、普通の人間ならできません‥というより、やろうと思う人はいないと思いました。


‥‥リナは、ラナンに感謝しました。そして尊敬の思いを抱きました。


「お父さん、私を守ってくれてありがとう。‥いつかきっと恩返ししますから。」


リナは眠っているラナンにそう言うと、自分もようやく眠りについたのでした。
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