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プロローグ「銀の弾丸」

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 争いがいつか止むことを、人類はいつの時代も願ってきました。
 
 誰かが言いました。
 
「人間は欲があるから、争うのだ。人間が豊かになったとき、争いはなくなるだろう」
 
 旧石器時代から時は進み、人類の暮らしは十分に豊かになりましたが、争いはなくなりませんでした。なぜなら、豊かになっても、人間の欲は満たされなかったからです。

 皆が言いました。
 
「未来には、きっと戦争はなくなる」

 未来になり、技術は昔よりずっと進みました。しかし、その結果、争いはなくなったでしょうか。

 否、それはーーー。

◇プロローグ「銀の弾丸」

 人の価値が昔に比べて大きく下がったこの時代では、人を殺すことなど倫理的に容易い。犯罪率は昔に比べ、大きく上昇し、政府にとってはロボットの方がよっぽど利口なくらいだ。

 そんな世紀末のお仕事のトレンドは、ズバリ言って、公安警察、これ一択。
弁護士と検事という職業はなくなった。裁判を経ている暇などはないのでね。

 自慢じゃないが、俺はそんなエリートの公安警察の大型新人。

 そして、今おれの目の前にいるのは、ハッキリ言って。

「おい、人間の形したバカ猿よお。詐欺に誘拐、強姦殺人のトリプル役満たぁ、てめえ調子に乗りすぎじゃねえのか」

 バカ猿が命乞いをする。

 最近、刑務所のキャパが限界だとのニュースが流れたからだ。つまり、こいつは刑務所には入ることができないのだ。

「ぜひとも更生して、人間として生まれ変わって欲しいところだが、今の我が国では、そんな余裕はないわけだ。そこでだ。」

 バカ猿の息が荒くなる。

「おめでとう、君は今日からーー」

 バカ猿は膝から崩れ落ち、涙を流す。

銀の弾丸シルバー・ブレッドの一員だ」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 この時代における、特別攻撃隊、通称、銀の弾丸。

 銀の弾丸は敵地に赴いたら最後、生還することはなく、ただ身体がバラバラになるまで戦い続ける。つまり、「生き残る」という概念がない。

 自国の為に戦う誇りはあるか、何の希望があるのか、戦った末に残るものは何か。

ーーそんなものは何一つない。

 人の価値が昔に比べて大きく下がったこの時代では戦争の主役はもはや、人ではない。

銀の弾丸が放たれたるは、遠くの星。
放たれた弾丸は、意思を持たぬ鉄屑を貫き、やがて止まる。

一度放たれた弾丸は

二度と元には戻らない。




 
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