マザーレスチルドレン

カノウマコト

文字の大きさ
9 / 13

最悪の食糧難

しおりを挟む

「ねえマスター食糧難のときってそんなにひどかったの?」

「うん、世界的な大不況が来たかと思うと、翌年には異常気象と家畜病の流行で食料難がきて、世の中からあっという間に食べ物が消えた。そう、いきなり。あっという間にスーパーの棚から食べもんがなくなったんだ」

「へえ」

「あの頃、オレはまだ高校生だったし一番腹減る頃じゃん。部活もやってたし……今思い出してもゾッとする。地獄だった、人間食えないっていうのが一番こたえるな、そこら辺に生えてる草は全部食ったよ。犬や猫も食った。酷いだろ、でも仕方なかったんだ。生きていくためには」

「そうなんだ……ほんとひどいね」

「うん、食べ物がなくなって、食べもん取り合いで略奪や殴り合いもしょっちゅう起こってた」

「……」

「だからさあ、今の方がましなの。確かに今だってろくに仕事もないけど、この街じゃ、飢えてる奴はもういないだろ。今の政府は国民の最低限の生活は保証してくれてる。低所得者にはフードスタンプ。就職難で就労できない若者には支援金、それ以外の失業者や年寄りや病人には失業手当と基本所得保障ベーシックインカム
ギリギリの生活だけど飢え死にすることはなくなった」

「そうだね、今のほうがずいぶんましなのかな……」

「そうそう、その頃。前の政府はさ、膨れ上がる失業者対策として何の社会保障も
できなかった。いや、やろうともしなかった。その時の政治家たちも今と一緒だ。大企業からの賄賂を受け取って自分たちの私腹を肥やす事だけは熱心だった。一般の国民は仕事もなく、あっても低賃金だ。その安い賃金の半分以上は税金として納めさせてたんだからあの頃から格差が急激に拡がっていって自殺者も一気に増えたんだ」

「うん、でもね。今だって施設で働いててると当たり前のように毎日死んでいくじゃん、入居者がさ。なんの治療も受けることなく。これでいいのかって思うよ。人の一生ってなんなのかなって……本当に今がいいのかな」

「放射性物質か……。今はそれが一番の問題だな。 ハルは毎日死んでいく人見ってからな……。貧乏人は安全な食品なんて高くて食えないし、わかんなくなるよな、確かに。大体誰が原発破壊したかすらわかってないんだぜ」

「うん、国内の組織か、他国のテロリストの仕業か」

「案外今の政府の仕業だっていう陰謀論も出廻ってる」

「シンセカイ党の連中が原発破壊したなんてね。まさかだよね」

「いや案外そうかもしれないぜ。政権とりたくてさ」

「この国の水と食品に混入してる放射性物質はまだ除染できないんだ、土壌も汚染が進んでるし、相変わらず政府はこの件に関して正しい情報を開示しない。大体このネオシティの外の世界がどうなってるのかさえわかんないしね。外側にまだ住んでる人たちは放射能を取り込んで体内で濃縮してしまう生体濃縮が進んでひどい有樣だって聞くよ。まあ、あくまで噂レベルだけど……」

「うーん、かと言って、安全な輸入食品は俺たち貧乏人には高嶺《たかね》の花だ」

「うん、リカやユウジが大人になる頃って……。どうなってるんだろうな、良くなってるって思う、マスター?」ハルトはマスターに尋ねる。

「そりゃあ……。あいつらは安全世代は健康だしオレたちと違って長生きもできる。でも今後この国の状況が良くなるのは考えにくいな」

「だよね」

「だからアイツらは頑張って勉強してもらって将来はシンセカイ党員になってもらうしかないって思ってるよ、オレもレイコも。本当は嫌なんだけどさ」

「シンセカイ党員かあ……」ハルは天井を見上げた。


  突然店内の音楽が止んで静寂が訪れた。


「あれ、最近調子悪いなこのCDプレイヤー」

そういいながらプレイヤーをバンバン叩くマスター。

「止めなよ、ますます壊れちゃうよ」

「いや、これでいつも動き出すんだ。ところでどう、お袋さん見つかりそう?」

「いやあ……。 なかなか難しいよ。ぜんぜん手掛かりが無いから」

「そうねえ、別れてからずいぶん経ってるから……。容姿も変わってるだろうしね。ハルだってもう子供の頃とは全然違ってるだろうからね」

「うん、そだね。最近は母さんについての記憶がだんだん曖昧になってきてるんだ……」

「やっぱり、壁の外側にいると思う?」

「うん、昔あっち側に住んでたからね」

「そか、あっち側じゃあ、確かに探すの難しいな。オレたちは自由に行き来できないからね。政府のやつら勝手にこの街をぐるりと高い壁で囲んじゃって。このネオシティは天井のない監獄って呼ばれてるってさ外国からは」

「母さんはもう死んでいるかもしれないし、もし生きていたとしてもはそんなにこの先長くはないだろうし」

「そんなことないよ! 絶対どっかで生きてるって、きっとお袋さんもハルに会いたがってるよ」

「だといいけど。確かにあっち側から搬入されてくる人はいまだに多いんだよ。だから今の仕事続けてるんだ。いつか母さんが運ばれて来るかもって」

「そうだな……。でもさあ、なんでお袋さん、ハル残していなくなっちゃったんだろうな?」

「……」ハルトは無言で目を伏せる。

「あ、ごめん、ハル。今の発言は取り消す」

「いや、いいよ」

「あの頃はまだこの国も革命の後のどさくさで大変だったもんな、きっとハルのお袋さんもいろいろな事情があって、ハルを安全な児童施設に預けたんだろうな」

「うん……」

しばらくの沈黙の後、マスターがしみじみと話し出した。

「でも部活終わってさあ、すげー腹減っててさ、家まで我慢できなくって。それで帰り道のコンビニでお湯もらって作って食ったカップラーメン。あれが一番かな、うまかった思い出ランキングでいうと」

 
「マスターまだ言ってんの」二人は爆笑した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【総集編】未来予測短編集

Grisly
SF
❤️⭐️お願いします。未来はこうなる! 当たったら恐ろしい、未来予測達。 SF短編小説。ショートショート集。 これだけ出せば 1つは当たるかも知れません笑

身体交換

廣瀬純七
SF
大富豪の老人の男性と若い女性が身体を交換する話

サイレント・サブマリン ―虚構の海―

来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。 科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。 電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。 小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。 「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」 しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。 謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か—— そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。 記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える—— これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。 【全17話完結】

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

リボーン&リライフ

廣瀬純七
SF
性別を変えて過去に戻って人生をやり直す男の話

恋愛リベンジャーズ

廣瀬純七
SF
拓也は、かつての恋人・純への後悔を抱えたまま生きてきた。ある日、過去へ戻れる不思議なアプリを手に入れるが戻った先で彼を待っていたのは、若き日の純ではなく――純そのものになってしまった自分自身だった。かつての恋人とやり直すはずが、過去の自分を相手に恋をするという奇妙で切ない関係が始まっていく。時間と心が交差する、不思議な男女入れ替わりストーリー。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

処理中です...