0のくせに、生意気。

コサキサク

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第8話 涙

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僕がトモヤのマンションを出ると、雨が降っていた。傘なんか持っていなかったし、持っていたとしても差す気力なんかなかった。僕は雨に濡れながらとぼとぼ歩いた。

僕にも、コンプレックスぐらいある。男なのにチビだし女顔だし童顔だし超色白だし。女みたいで気持ち悪いなんて死ぬほど言われた。だけど、それと同じぐらい、かわいいと言ってくれる人がいた。幼稚園のころからずっと身内からも友人知人からもちやほやされてきて、子供のころから彼女が途切れずにいた。スカウトされて芸能界にも入れた。芸能界は運の強い人間が多くて、だんだん運の強い人に惹かれるようになっていった。高校生のときにとうとう運の強い男の人と付き合った。楽しかったけど、あれから、僕はだんだん女の子に興味をなくしてる。

僕も、自分が怖い。トモヤの気持ち、ほんとはわかる。だから、別れた。

トモヤ、優柔不断で少しイライラしたりもしたけど、かっこよくて優しくて、運が強くて、やっぱり、好きだった。

「うわーん!!」

だめだ。もう雨でごまかしきれないぐらい涙が出てくる。もう、こんなの嫌だ。こんな失恋、何度目だっけ。今まで何回泣いただろう。僕と付き合う男って、本来はゲイではない人がほとんどだ。レイはかわいいからいいよって、そう言われて始まる。だけど結局終わる。僕はもう女の子との恋愛に戻るつもりないのに、みんなは戻ってく。僕はどうすればいいんだろう。事務所もどうしよう。トモヤの事務所は辞めた方がいいよね。この先どうしよう。

「レイくん!?どうしたの!?」
トラジロウが目の前に立っていた。
「トラジロウこそ・・・」
「今日の面接のあと近くで遊んでたんだ。この辺普段こないから。」
「そう・・・」
「レイくん、泣いてるじゃない。」
トラジロウが心配そうな顔で僕を見ている。持っている傘に僕を入れた。
「うん、ちょっとね。」

「社長と、別れた?」

僕はびっくりして涙が引っ込んだ。
「なんでわかったの!?」
「レイくん、あの時と同じ顔してる。」
「あの時?」
「うちのお姉ちゃんとアタルくんが、結婚したとき。」 
僕は、トラジロウの姉の夫の、アタルという男に片思いしていたことがあるのだ。アタル、めちゃくちゃ運強かったから。アタルはそっちの気ゼロで、振られたけど。
「あの時もレイくん、今みたいに、寂しそうな顔してた。」
僕はボロボロ泣いた。
「トラジロウはなんでそんなに僕の気持ちがわかるのさあー!!うわあああん!!」
「当たり前でしょ。僕はレイくんの友達だし、なによりファンなんだから。」
「うう・・・ありがと。」
「レイくんの家ここから近い?」
「うん、わりと・・・」 
「送ってく。」

僕のマンションの部屋に送ってくれるだけかと思いきや、トラジロウは強引に中に入ってきた。シャワーを浴びるように促され、シャワーから出てくると、トラジロウは勝手にココアを作って待っていた。
「ありがと。」
僕は、机を挟んでトラジロウの正面に座り、ココアをすすった。
「レイくんの家、コーヒーないんだね。相変わらず子供舌なんだから。」
「もう、ほっといて。」
トラジロウは昔から結構毒舌だ。
「で?何があったのさ。社長と。」
トラジロウは年上の男のようなテンションで聞いて来た。お前ほんとに中学生か!?と思ったが、せっかくなのでトモヤとのいきさつを聞いてもらった。
「なるほどねえ。女装までさせといて、レイくんと付き合うのが精神的にキツいって、なんか身勝手だなあ。」
トラジロウは感想を述べた。
「いや、あの女装は、僕が頼んだというか・・・」
「レイくん、女装癖なの?」
「えっと、じゃなくて、その、僕、マゾっていうの?好きな人から嫌がらせされたくていろいろ付き合わせてて・・・」
「レイくん・・・」
ちょっと、気まずい空気になった。
「レイくんって、運が強い男好きなんだよね?」
「うん。」
「僕たしか運3000だっけ?」
「いや、今7000あるよ。」
「そうなんだ?だったらいけるよね?」
「何が?」

トラジロウは僕に急に近づいてきて、ささやいた。

「僕がレイくんのこといじめてあげるよ。何がいい?」








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