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第9話 スーとの出会い
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養成学校の寮に入ってから約二週間たった。両親は先週故郷の町に帰って行った。寮に入って気がついたことなのだが、僕は朝弱く夜更かし好きらしい。実家にいた頃は母さんが起こしてくれているからわからなかった。養成学校の中でも特殊クラスは個性尊重を理念にしているため、寮の規則も緩く、特に起床時間や消灯時間が決まっていない。夜に街を徘徊してもいいらしい。
僕は最近夜の王都を一人で徘徊するのに凝っていた。故郷の町は田舎だったから、夜はただ真っ暗で出歩いてもしかたなかったが、王都は夜になっても街灯も建物の明かりも多くついており、賑やかだった。夜の街は昼の街以上に新鮮で、僕はすっかり夜の王都が気にいってしまった。
今の僕は国立魔道士養成学校の腕章をつけている。僕はまだ魔法を習得する前だが、そんなのは、見た側にはわからない。この腕章を見た者は明らかに警戒してくる。おかげで夜の王都を一人で徘徊できていた。
こうやって、王都の街を歩く度、もし、あの適性検査の日、僕になんの才能も見つからなかったらどうなっていたのかと考えていた。考えてもわからなかったし、あまり考えると暗い気持ちになるから途中でやめてしまうのだけれど。
店と店の間を通り過ぎようとしたとき、喧嘩のような声が聞こえた。声のした方を見ると、僕と同じぐらいの年の少年が、数人の少年からボコボコに殴られていた。助けたかったが、僕の腕力では太刀打ちできないし、魔法もまだ使えない。だけど、殴っている方が僕に気づき、
「やべえ、国立の魔道士がいる」
と、僕の腕章に反応して去っていった。その場には殴られていた少年だけが残った。
「大丈夫?」
僕は話しかけた。
「大丈夫じゃないけど、助かったよ。ありがとう」
僕は特に何もしていなかったけど、その少年は礼を言った。
「国立魔道士養成学校か、いいなあ。その学校、すごく魔法の才能ある人しか入れないんだよね」
と、少年は呟いた。
「僕、こないだの適性検査で魔法の才能、全くないって言われたんだ。どの魔法も才能ゼロ。魔法は欠片も使えないって」
僕はその言葉を聞いて、目を見開いた。
「君、さっき殴られてたのって、もしかして、それが原因?」
「そうだよ。元々力が弱いし、のろまだったからいじめられていたのに、魔法までダメってわかってもう最悪」
この少年は、僕が恐れた事態に立たされている身なのか。僕がもし、才能がないとなっていたら今ごろこうなっていたかもしれない。
そう思うと、とても他人事とは思えなかった。
「僕は、キルル。君は?」
「スー」
スーは小柄で、丸い眼鏡をかけていた。僕も小柄だけど、スーはさらに小柄だった。
「キルルは、何かの魔法がレベル100まで上がるんでしょ? 何の素質があったんだい?」
「僕は、即死魔法」
「即死魔法? なにそれ!?」
「相手を即死させる魔法だって。特殊魔法の一種らしい」
「即死! すごい! 超かっこいい!! いいなあ!」
スーは感激していた。
「僕もこれから授業を受けるから、まだなにも使えないよ」
「才能があるだけでもかっこいいよ!……いいなあ。即死魔法が使えたら、あいつらのこと、殺せるのに」
スーは呟いた。
僕は、その言葉に反応した。
「殺してあげようか?」
「え?」
「今すぐは無理だけど、僕が人を即死させる魔法を覚えたら、あいつらのこと殺してあげようか?」
「……いいの?」
「うん。僕も、適性検査受けるまでは、チビでのろまだからっていじめられてた。精霊が見えないから魔法もできっこないって言われて、ずっといじめられてたんだ。こないだ適性検査でたまたま特殊魔道士の才能が見つかったから助かったけど、僕は、君の気持ち、すごくわかるんだ」
「ほんとに!? じゃあ、殺して! やった! ありがとう!」
そうだ。ほんとうは、思っていた。即死魔法の才能があると知ったあの日、僕は心底喜んだ。
即死魔法があれば、僕をいじめていたやつらを殺せる、と。
いや、殺してやるって。
僕はすぐにスーと意気投合した。特殊クラスのみんなとも馴染みかけてはいたが、それ以上にスーと気が合った。その日以降、僕は昼間スーと過ごすようになった。
スーは王都で暮らしているから、すぐに自宅に呼んでくれた。スーの部屋に行ってすぐ気がついたのだが、スーは毒物や、残虐な拷問の本や、スプラッタ系の本のコレクターだった。
「毒物でも使ったらあいつら殺せるかなって」
スーは結構サラッと話した。
「あと、この本、面白いんだよ! キルルも読んでみない?」
僕は興味本位でスーが貸してくれたの小説を読んだ。スーの本は、見事なまでに復讐ものとスプラッタ物が揃っていた。
僕はその本を夢中になって読んだ。と、いうのも、僕が今まで過ごした町には、こんな本なかった。田舎町だったから、大ベストセラー本しかなかったし、その大ベストセラー本は、主人公がやたら優しかったり、理不尽な目に合っても相手を許すような、ペラペラの綺麗事しか並んでいなかった。どれもこれも気に入らなかった。だから僕は魔導書は好きだけど小説は好きじゃないと思っていた。だけど、スーの持っている小説はなんて痛快で面白いんだろう。
僕は残虐なものが大好きだったようだ。ただ単に気づく機会がなかったらしい。
僕はさらに即死魔法を身につけるのが楽しみになった。明日、南の地方の式典と適性検査がある。そしたらいよいよ授業が始まる。
僕は最近夜の王都を一人で徘徊するのに凝っていた。故郷の町は田舎だったから、夜はただ真っ暗で出歩いてもしかたなかったが、王都は夜になっても街灯も建物の明かりも多くついており、賑やかだった。夜の街は昼の街以上に新鮮で、僕はすっかり夜の王都が気にいってしまった。
今の僕は国立魔道士養成学校の腕章をつけている。僕はまだ魔法を習得する前だが、そんなのは、見た側にはわからない。この腕章を見た者は明らかに警戒してくる。おかげで夜の王都を一人で徘徊できていた。
こうやって、王都の街を歩く度、もし、あの適性検査の日、僕になんの才能も見つからなかったらどうなっていたのかと考えていた。考えてもわからなかったし、あまり考えると暗い気持ちになるから途中でやめてしまうのだけれど。
店と店の間を通り過ぎようとしたとき、喧嘩のような声が聞こえた。声のした方を見ると、僕と同じぐらいの年の少年が、数人の少年からボコボコに殴られていた。助けたかったが、僕の腕力では太刀打ちできないし、魔法もまだ使えない。だけど、殴っている方が僕に気づき、
「やべえ、国立の魔道士がいる」
と、僕の腕章に反応して去っていった。その場には殴られていた少年だけが残った。
「大丈夫?」
僕は話しかけた。
「大丈夫じゃないけど、助かったよ。ありがとう」
僕は特に何もしていなかったけど、その少年は礼を言った。
「国立魔道士養成学校か、いいなあ。その学校、すごく魔法の才能ある人しか入れないんだよね」
と、少年は呟いた。
「僕、こないだの適性検査で魔法の才能、全くないって言われたんだ。どの魔法も才能ゼロ。魔法は欠片も使えないって」
僕はその言葉を聞いて、目を見開いた。
「君、さっき殴られてたのって、もしかして、それが原因?」
「そうだよ。元々力が弱いし、のろまだったからいじめられていたのに、魔法までダメってわかってもう最悪」
この少年は、僕が恐れた事態に立たされている身なのか。僕がもし、才能がないとなっていたら今ごろこうなっていたかもしれない。
そう思うと、とても他人事とは思えなかった。
「僕は、キルル。君は?」
「スー」
スーは小柄で、丸い眼鏡をかけていた。僕も小柄だけど、スーはさらに小柄だった。
「キルルは、何かの魔法がレベル100まで上がるんでしょ? 何の素質があったんだい?」
「僕は、即死魔法」
「即死魔法? なにそれ!?」
「相手を即死させる魔法だって。特殊魔法の一種らしい」
「即死! すごい! 超かっこいい!! いいなあ!」
スーは感激していた。
「僕もこれから授業を受けるから、まだなにも使えないよ」
「才能があるだけでもかっこいいよ!……いいなあ。即死魔法が使えたら、あいつらのこと、殺せるのに」
スーは呟いた。
僕は、その言葉に反応した。
「殺してあげようか?」
「え?」
「今すぐは無理だけど、僕が人を即死させる魔法を覚えたら、あいつらのこと殺してあげようか?」
「……いいの?」
「うん。僕も、適性検査受けるまでは、チビでのろまだからっていじめられてた。精霊が見えないから魔法もできっこないって言われて、ずっといじめられてたんだ。こないだ適性検査でたまたま特殊魔道士の才能が見つかったから助かったけど、僕は、君の気持ち、すごくわかるんだ」
「ほんとに!? じゃあ、殺して! やった! ありがとう!」
そうだ。ほんとうは、思っていた。即死魔法の才能があると知ったあの日、僕は心底喜んだ。
即死魔法があれば、僕をいじめていたやつらを殺せる、と。
いや、殺してやるって。
僕はすぐにスーと意気投合した。特殊クラスのみんなとも馴染みかけてはいたが、それ以上にスーと気が合った。その日以降、僕は昼間スーと過ごすようになった。
スーは王都で暮らしているから、すぐに自宅に呼んでくれた。スーの部屋に行ってすぐ気がついたのだが、スーは毒物や、残虐な拷問の本や、スプラッタ系の本のコレクターだった。
「毒物でも使ったらあいつら殺せるかなって」
スーは結構サラッと話した。
「あと、この本、面白いんだよ! キルルも読んでみない?」
僕は興味本位でスーが貸してくれたの小説を読んだ。スーの本は、見事なまでに復讐ものとスプラッタ物が揃っていた。
僕はその本を夢中になって読んだ。と、いうのも、僕が今まで過ごした町には、こんな本なかった。田舎町だったから、大ベストセラー本しかなかったし、その大ベストセラー本は、主人公がやたら優しかったり、理不尽な目に合っても相手を許すような、ペラペラの綺麗事しか並んでいなかった。どれもこれも気に入らなかった。だから僕は魔導書は好きだけど小説は好きじゃないと思っていた。だけど、スーの持っている小説はなんて痛快で面白いんだろう。
僕は残虐なものが大好きだったようだ。ただ単に気づく機会がなかったらしい。
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