レベル1からレベル100-即死魔道士成長物語-

コサキサク

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第19話 殺しの扉

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「キルル、待ってたよ。これでいいかい?」
 僕がスーの部屋を尋ねるなり、スーは籠を差し出した。籠の中には小さなネズミが三匹いた。皆籠の中狭しと元気に走り回っている。
「いいね。ありがとう」
 僕は今日、レベル6になった。入学して二ヶ月経っていた。レベル5までは草木を枯らすことしかできなかったが、とうとう手のひらに乗るぐらいの小動物なら殺せるようになったのである。レベル5になったときから、レベル6に備えて、殺しても良さそうな小動物をスーに用意してもらっていたのだ。
 僕はネズミを一匹、しっぽをつまんで取り出した。ネズミはじたばたしている。振り切って逃げられないよう、僕は指先に力を入れた。
「よし、スー、早速試すよ。いいかい」
「うん」
 僕は、早速呪文を唱えた。草木を枯らせる呪文とは、また別の呪文だ。
 
 呪文が終わると、ネズミは衝撃を受けたように一瞬びっくりした表情を見せたあと、パタリと動かなくなった。僕にしっぽをつままれたまま静かにぶら下がっている。
「お、おおー!」
 息を呑んで見守っていたスーが歓声をあげた。
 僕は、死んだネズミを左手に乗せた。死んだネズミはただ眠っているように見えた。だんだん冷たく、硬くなり、死骸らしくなったが、それはかわいらしい置物のようでもあった。
「かわいい。持って帰りたいな」
 僕は反射的にそう言っていた。
「ええ?」
 珍しく、僕の発言にスーが驚いている。僕がスーの顔を見ると、スーは少し怪訝そうなかおで僕を見ていた。しばらく僕とスーは沈黙し、少し妙な空気になった。
「あ、ああ、気持ちはわからなくもないけど、そのまま持って帰っても腐っちゃうよ」
「たしかに、困ったな」
「こういうのは、剥製にしてもらうか、薬品に浸けて液浸標本にしてもらうといいんじゃないかな」
「なるほど、そういうことも勉強しておくんだったな……」
 スーはやはりいろいろ知っていると思った。
「だけど、どこで剥製にしてくれるのか知らないや。また調べておいてあげるよ」
「ああ。とりあえずこれは、持って帰るよ」
「ええ?」
 最初の会話に戻ってしまった。またしばらく沈黙になった。
「一日部屋で眺めるぐらい大丈夫でしょ。明日に剥製にできるならするし、先に腐りそうなら埋葬するよ。残りの二匹ももらっていい?」
「ああ。いいよ」
 僕は、ネズミの死骸一つと、籠に入った生きたネズミ二匹を携え、すぐに寮の部屋に帰った。新しい呪文を使ったため、久しぶりに疲弊していた。
 
 部屋に入ると、籠も死骸もベットの横にある棚に並べて、僕はベットで休みながら死骸をぼんやり眺めた。
 草木は「枯らした」ものだが、ネズミは「殺した」ものだ。今までとは違うことをしたことを自覚しつつあった。
 しかし、「殺したネズミ」は僕の勲章である。この死骸がここ二ヶ月の僕のすべてなのだ。僕は満足してネズミの死骸をつついた。

 ネズミなんて、食物庫に現れて食べ物を食い荒らされたら、誰でも殺すだろう。

 しかし、「即死魔法の書」に「即死魔道士は殺すことによる罪悪感などは生まれつき持ち合わせていない」と書かれていたのが気にかかっている。 
 僕は、自分が気づかないところで他の人と感覚がずれているかもしれない。
 ネズミの死骸を持ち帰ると言ったときのスーの反応から見て、あの発言はそのずれている部分の一つだろう。ネズミは殺すのはいいが持ち帰っちゃいけないのか?よくわからなくなってきてしまった。

 僕の部屋をノックする音が聞こえた。何かと思って応対すると、瞬間移動魔道士ワープマンがいた。
「キルル宛の手紙が来てるよ」
 ワープマンは僕に手紙を渡すと、あっと言う間にいなくなった。ワープマンはその能力を活かして、特殊クラスの生徒宛の郵便物を配る係をやっているのだ。

 手紙は母さんからだった。
「キルルへ。学校生活は楽しいそうで、母さんはとても嬉しく思っています。母さんと父さんも元気に過ごしていますよ。キルルの才能である『即死魔法』を極めるのはいいことだけど、やはり無益な殺生はいけませんよ。決して焦らず、皆を困らせているモンスターや動物だけ殺すようにしなさいね。そして、学校では国語や数学、歴史の勉強も決しておろそかにしないこと。せっかく無償で学ばせてもらえているんですもの、『即死魔法』以外のことも、大いに学んでちょうだい。あとは体に気をつけること。夏休みになったら家に一度は帰ってきなさいね」
 と、書かれていた。
「母さん……」
 僕の心を何もかも見透かしたような手紙だった。やはり親だから僕が何を考えているのかわかるのだろうか。

 僕は、返事の手紙に、元気に過ごしていることと、夏には帰省することだけ書いて出した。
 それ以外はどう書けばいいのかわからなかった。母さんに嘘はつきたくなかったから、どう書いたらいいのかわからないことは伏せた。



 


 
 
 

 
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