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第49話 不安
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クロを殺したことは後悔していなかった。
苦しい思いをさせていたことは反省していたけれど……
だけど、可愛がっていたペットを殺してしまう僕は、どこかまずい気がする。
「あれ、キルルさん、ここにいたんですか。冬休みなので帰省してしまったかと」
僕がロビーのソファーに座ってぼんやりしていたところに、校長先生がやってきた。他の生徒は帰省してしまっていて、ロビーにいるのは僕だけだった。
「クロのことがあるので、冬休みは帰省をしないつもりでした。だけど……」
「クロ、死んじゃったんですよね。コール先生から聞いています」
「はい。即死魔法で殺しました」
「そうですか」
「先生、ペットって、普通は殺しませんよね。殺処分になった犬すら僕のところに依頼がくるのだし……」
「普通はね」
僕は淡々と話し、校長先生も淡々と答えた。
「先生、僕、もう普通がわかりません」
この言葉を言った途端、涙がぼろぼろこぼれた。クロが死んで、いや、即死魔道士になって初めて、泣いた。不安でたまらなかった。僕は何かが狂っている。このままレベルを上げたら、僕は世界で一人きりになりそうで怖くてたまらない。
「キルルくん、今回に関してはね、あのモンスターを飼うこと自体が普通じゃないので、その先に起こることはすべて普通じゃありません。なので仕方がないですよ」
「うう……」
校長先生は僕に目線が合うように屈んだ。僕の目線の先にある校長先生の顔は、いつの間にかピエロではなくなっていた。服装はピエロのままだったが、顔のペイントが消えていた。あっさりした雰囲気だけど恐ろしく整った顔だった。僕はびっくりして、涙が止まってしまった。
「それ、先生の素顔ですか」
「はい、少し真面目に話そうと思ったのでメイクを取りました」
校長先生は話を続ける。
「キルルくん、この学校はね、とにかく魔法のレベルを上げることに特化した学校です。そして、わたくしはその学校の校長です。だからね、魔法のレベルをちゃんと上げている生徒を決して否定しません。君はちゃんと進級できる水準までレベルを上げている、優秀な生徒です。たとえ、この先人の道から外れても、即死魔法を極めようとしている君を、先生は肯定します。味方でいます」
「はい」
校長先生はやはりよく見ている。僕が何を心配しているか、よくわかっていた。
「『即死魔道士の素質』と、『殺すことへの抵抗のなさ』は、セットになっている素質です。普通の感覚の人が『即死魔道士』になったら、身が持ちません。これは生まれ持ったもので、誰も悪くありません」
「はい」
「キルルくんは、しっかりしたご両親がいて、分別がちゃんとあるだけに苦しい部分がありますね。だけどそれが君の良さですよ」
「はい」
「わたくし、以前は疑問に思っていたんです。魔法の素質って、生まれつき決まっているのに、どうして15歳の適性検査のときまで教えないのか、と。産まれてすぐに検査をして幼いうちから魔法を覚えた方が合理的じゃないかと思っていました。だけど、君を見ていると、国の方針は正しいと感じます。魔法というのは、ある程度人としてのきちんとした土台があった上で使うようにしないと、とんでもないことになってしまうのですね。そして、この学校が、魔法のレベル上げだけを軸に運営できるのも、それまでにある程度の教育があってこそだと思うんです。キルルくん、あなたは『即死魔道士』ですが、それが君のすべてではない。それは、『15歳までの君』が、一番わかっているはずです」
15歳までの僕……何もなかったころの僕……あの頃僕は、自分が嫌いだった。何をやっても冴えなくて、いじめられていたころ。なのに、今は、そのころの僕に会いたいと思った。
「先生、ありがとうございます。僕、一旦帰省しようと思います」
先生は柔和な顔で僕を見つめて、
「はい。そして、冬休みが終わったら、学校に来てくださいね。先生待っていますから」
「はい」
僕がロビーを出ようと立ち上がると、先生も立ち上がった。顔はピエロに戻っていた。
「あの、先生って何歳ですか」
「34歳です」
想像通り、若かった。
「ということは、その、『旧即死魔道士』の人は33歳で死んでしまったんですか」
「はい、そうなります」
「……どうして、亡くなったんですか」
「不慮の事故です。発見が遅くて蘇生魔法も間に合いませんでした。『即死魔道士』が寿命が短いとか、そういうことではないので、心配しないでくださいね」
「はい……あと、先生ってどうしてピエロなんですか?」
「カラフルだし、柄のバリエーション多いからなんですけど、変ですか?」
「変じゃないですけど、素顔を隠してる先生って不思議だなって……」
「素顔で生徒と接してしまうと生徒に言い寄られてしまうことが多かったので、こうしました。先生来るもの拒まずタイプでして、素顔で先生やってたらすぐ生徒と間違いが起こるので……」
「せ、先生……」
前から思っていたけど、校長先生もなかなか常識ない人だと思う。僕にとってはそれがありがたい方向に作用していると思うけど……
というわけで僕は冬休みも帰省することにした。馬車を頼んで、静かに故郷に向かった。
苦しい思いをさせていたことは反省していたけれど……
だけど、可愛がっていたペットを殺してしまう僕は、どこかまずい気がする。
「あれ、キルルさん、ここにいたんですか。冬休みなので帰省してしまったかと」
僕がロビーのソファーに座ってぼんやりしていたところに、校長先生がやってきた。他の生徒は帰省してしまっていて、ロビーにいるのは僕だけだった。
「クロのことがあるので、冬休みは帰省をしないつもりでした。だけど……」
「クロ、死んじゃったんですよね。コール先生から聞いています」
「はい。即死魔法で殺しました」
「そうですか」
「先生、ペットって、普通は殺しませんよね。殺処分になった犬すら僕のところに依頼がくるのだし……」
「普通はね」
僕は淡々と話し、校長先生も淡々と答えた。
「先生、僕、もう普通がわかりません」
この言葉を言った途端、涙がぼろぼろこぼれた。クロが死んで、いや、即死魔道士になって初めて、泣いた。不安でたまらなかった。僕は何かが狂っている。このままレベルを上げたら、僕は世界で一人きりになりそうで怖くてたまらない。
「キルルくん、今回に関してはね、あのモンスターを飼うこと自体が普通じゃないので、その先に起こることはすべて普通じゃありません。なので仕方がないですよ」
「うう……」
校長先生は僕に目線が合うように屈んだ。僕の目線の先にある校長先生の顔は、いつの間にかピエロではなくなっていた。服装はピエロのままだったが、顔のペイントが消えていた。あっさりした雰囲気だけど恐ろしく整った顔だった。僕はびっくりして、涙が止まってしまった。
「それ、先生の素顔ですか」
「はい、少し真面目に話そうと思ったのでメイクを取りました」
校長先生は話を続ける。
「キルルくん、この学校はね、とにかく魔法のレベルを上げることに特化した学校です。そして、わたくしはその学校の校長です。だからね、魔法のレベルをちゃんと上げている生徒を決して否定しません。君はちゃんと進級できる水準までレベルを上げている、優秀な生徒です。たとえ、この先人の道から外れても、即死魔法を極めようとしている君を、先生は肯定します。味方でいます」
「はい」
校長先生はやはりよく見ている。僕が何を心配しているか、よくわかっていた。
「『即死魔道士の素質』と、『殺すことへの抵抗のなさ』は、セットになっている素質です。普通の感覚の人が『即死魔道士』になったら、身が持ちません。これは生まれ持ったもので、誰も悪くありません」
「はい」
「キルルくんは、しっかりしたご両親がいて、分別がちゃんとあるだけに苦しい部分がありますね。だけどそれが君の良さですよ」
「はい」
「わたくし、以前は疑問に思っていたんです。魔法の素質って、生まれつき決まっているのに、どうして15歳の適性検査のときまで教えないのか、と。産まれてすぐに検査をして幼いうちから魔法を覚えた方が合理的じゃないかと思っていました。だけど、君を見ていると、国の方針は正しいと感じます。魔法というのは、ある程度人としてのきちんとした土台があった上で使うようにしないと、とんでもないことになってしまうのですね。そして、この学校が、魔法のレベル上げだけを軸に運営できるのも、それまでにある程度の教育があってこそだと思うんです。キルルくん、あなたは『即死魔道士』ですが、それが君のすべてではない。それは、『15歳までの君』が、一番わかっているはずです」
15歳までの僕……何もなかったころの僕……あの頃僕は、自分が嫌いだった。何をやっても冴えなくて、いじめられていたころ。なのに、今は、そのころの僕に会いたいと思った。
「先生、ありがとうございます。僕、一旦帰省しようと思います」
先生は柔和な顔で僕を見つめて、
「はい。そして、冬休みが終わったら、学校に来てくださいね。先生待っていますから」
「はい」
僕がロビーを出ようと立ち上がると、先生も立ち上がった。顔はピエロに戻っていた。
「あの、先生って何歳ですか」
「34歳です」
想像通り、若かった。
「ということは、その、『旧即死魔道士』の人は33歳で死んでしまったんですか」
「はい、そうなります」
「……どうして、亡くなったんですか」
「不慮の事故です。発見が遅くて蘇生魔法も間に合いませんでした。『即死魔道士』が寿命が短いとか、そういうことではないので、心配しないでくださいね」
「はい……あと、先生ってどうしてピエロなんですか?」
「カラフルだし、柄のバリエーション多いからなんですけど、変ですか?」
「変じゃないですけど、素顔を隠してる先生って不思議だなって……」
「素顔で生徒と接してしまうと生徒に言い寄られてしまうことが多かったので、こうしました。先生来るもの拒まずタイプでして、素顔で先生やってたらすぐ生徒と間違いが起こるので……」
「せ、先生……」
前から思っていたけど、校長先生もなかなか常識ない人だと思う。僕にとってはそれがありがたい方向に作用していると思うけど……
というわけで僕は冬休みも帰省することにした。馬車を頼んで、静かに故郷に向かった。
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