レベル1からレベル100-即死魔道士成長物語-

コサキサク

文字の大きさ
55 / 138

第55話 式典デート

しおりを挟む
「ねえ、キルル、今式典とかで賑やかなんでしょう? 少し遊びにいかない?」
 リリイはペンを置いて僕に話しかけた。
 今僕たちがいるロビーには、窓がないけれど、リリイは外が恋しいとばかりに遠くを眺めている。
 リリイからデートのお誘い。嬉しいのはやまやまなのだけど……
「リリイ、テスト終わってからね。再々試験なんだから落ちたらやばいから」
「ええ? だけど、今の方が面白そうじゃない?」
「リリイ、テスト勉強から逃れることばっか考えないの。もう少しなんだから、頑張って」
「……はあ、わかったわ」
 僕は、補講期の間、リリイのテスト勉強に付き合っていた。テスト勉強中のリリイは、何度もしれっと勉強を切り上げようとするので、なだめるのが大変だった。リリイは、苦手なものはとことん避けて通りたい性分らしい。
 惚れた弱みというのは恐ろしいもので、リリイの多少の欠点を見たところで嫌いになれないものである。むしろ、魔法ではどうあがいてもかなわない存在だったリリイの欠点を目の当たりにして、僕は少し和んでいた。
 他の生徒はすでにパトロールにまわっていたから、テスト勉強はロビーで二人きりだったし、勉強を通してだいぶ仲良くなれたというのもある。要するにテスト勉強に付き合うのを結構楽しんでいた。

 リリイは数日後、無事テストに合格して単位を取った。
「じゃあ、リリイ、式典見に行こっか」
「えっと……私、人混みはちょっと……」
「リリイ、こないだのお誘いは何だったの……?」
 まあ、勉強を逃れる口実なのはわかってたけどさ……リリイってば結構自分勝手なんだよね。
「そ、そうね、行きましょうか。パトロールもするように言われてるし」
「だけど、リリイ人混み苦手なのはほんとだもんね。あんまり人が多くないところに行こうか」
「そうね。人気のないところをパトロールする人も必要だし」
 しかし、式典期はどこも普段の王都より人が多く、人気がないところがあまりない。
「リリイ、大丈夫? 人酔いしてない?」
「大丈夫よ」
 式典期か。あの適性検査の日から一年たったのか。あれから一年経った今、僕は国立魔道士養成学校の腕章を着けて王都のパトロールをしていることも、好きな女の子と二人で王都を歩いていることも、なんだか夢のようだ。
 最初は、デート気分で王都の街中を二人で歩いていた。 
「……なんだか、嫌な予感がするわ」
 突然、リリイがつぶやいた。
「え? どうしたの?」
「私、どういうわけか昔から、嫌なところに遭遇しやすいの。だから人の多いところが苦手なんたけど……」
 そう言うリリイの目線の先には、高い建物の屋上があった。その屋上には中学生ぐらいの男の子がいた。男の子は屋上の柵の外側に立っていて、いつ屋上から落ちてもおかしくない状態だった。

「ま、まさか……あれ……」
 僕が動揺している隣で、リリイが呪文を唱えだした。
 あっという間にその男の子は屋上の建物から飛び降りた。周りにいた人達から悲鳴が上がる。
 しかし、その男の子は、真っ直ぐ地面に落ちることなく、不自然な軌道を描いてゆっくり地面に落下した。
「風魔法で少し衝撃を和らげたから死んではいないはずよ。行きましょう」
 リリイは冷静にそう言った。目の前で人間が飛び降りたというのになんの動揺もしていないことに違和感を感じたが、それより飛び降りた子が気になる。リリイと建物の下に様子を見に向かった。
 男の子が飛び降りたところに行くと、人だかりが出来ていた。人だかりをわけて男の子が落下した場所を見ると、血の跡はあるが男の子の姿がない。
「あの、さっきここで男の子の飛び降りがありましたよね。どうなりました?」
 近くにいる人に尋ねると、
「ああ、近くに水魔道士さんがいて、その人に回復されたあと病院に運ばれたよ」
 リリイの言うとおり死んではいないようだ。
「病院に運ばれたのなら後は病院の人に任せたほうがいいかしら……」
「そうだね。病院にも魔道士はいるし、そっちに任せたほうがいいよ。それに、この騒ぎなら多分明日の新聞の記事になるよ」
 僕とリリイは静かに学校に帰ることにした。
リリイはさっき、「嫌なことに遭遇しやすい」と言っていたが、飛び降りを目撃してもあれほど冷静なのは、あのような出来事によく遭遇するということだろうか。気になったが、なんとなく聞けなかった。辛いことばかり聞き出すことになるかもしれないし……

 僕の予想通り、この飛び降り事件は新聞記事になっていた。男の子は命に別状はないようだ。それより僕は新聞記事に書かれた飛び降りの動機が目に留まった。

「少年の話によると、適性検査で魔法の素質がなかったことによる失望が飛び降りの原因とのこと」
 
 




しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

詠唱? それ、気合を入れるためのおまじないですよね? ~勘違い貴族の規格外魔法譚~

Gaku
ファンタジー
「次の人生は、自由に走り回れる丈夫な体が欲しい」 病室で短い生涯を終えた僕、ガクの切実な願いは、神様のちょっとした(?)サービスで、とんでもなく盛大な形で叶えられた。 気がつけば、そこは剣と魔法が息づく異世界。貴族の三男として、念願の健康な体と、ついでに規格外の魔力を手に入れていた! これでようやく、平和で自堕落なスローライフが送れる――はずだった。 だが、僕には一つ、致命的な欠点があった。それは、この世界の魔法に関する常識が、綺麗さっぱりゼロだったこと。 皆が必死に唱える「詠唱」を、僕は「気合を入れるためのおまじない」だと勘違い。僕の魔法理論は、いつだって「体内のエネルギーを、ぐわーっと集めて、どーん!」。 その結果、 うっかり放った火の玉で、屋敷の壁に風穴を開けてしまう。 慌てて土魔法で修復すれば、なぜか元の壁より遥かに豪華絢爛な『匠の壁』が爆誕し、屋敷の新たな観光名所に。 「友達が欲しいな」と軽い気持ちで召喚魔法を使えば、天変地異の末に伝説の魔獣フェンリル(ただし、手のひらサイズの超絶可愛い子犬)を呼び出してしまう始末。 僕はただ、健康な体でのんびり暮らしたいだけなのに! 行く先々で無自覚に「やりすぎ」てしまい、気づけば周囲からは「無詠唱の暴君」「歩く災害」など、実に不名誉なあだ名で呼ばれるようになっていた……。 そんな僕が、ついに魔法学園へ入学! 当然のように入学試験では的を“消滅”させて試験官を絶句させ、「関わってはいけないヤバい奴」として輝かしい孤立生活をスタート! しかし、そんな規格外な僕に興味を持つ、二人の変わり者が現れた。 魔法の真理を探求する理論オタクの「レオ」と、強者との戦いを求める猪突猛進な武闘派女子の「アンナ」。 この二人との出会いが、モノクロだった僕の世界を、一気に鮮やかな色に変えていく――! 勘違いと無自覚チートで、知らず知らずのうちに世界を震撼させる! 腹筋崩壊のドタバタコメディを軸に、個性的な仲間たちとの友情、そして、世界の謎に迫る大冒険が、今、始まる!

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

処理中です...