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第55話 式典デート
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「ねえ、キルル、今式典とかで賑やかなんでしょう? 少し遊びにいかない?」
リリイはペンを置いて僕に話しかけた。
今僕たちがいるロビーには、窓がないけれど、リリイは外が恋しいとばかりに遠くを眺めている。
リリイからデートのお誘い。嬉しいのはやまやまなのだけど……
「リリイ、テスト終わってからね。再々試験なんだから落ちたらやばいから」
「ええ? だけど、今の方が面白そうじゃない?」
「リリイ、テスト勉強から逃れることばっか考えないの。もう少しなんだから、頑張って」
「……はあ、わかったわ」
僕は、補講期の間、リリイのテスト勉強に付き合っていた。テスト勉強中のリリイは、何度もしれっと勉強を切り上げようとするので、なだめるのが大変だった。リリイは、苦手なものはとことん避けて通りたい性分らしい。
惚れた弱みというのは恐ろしいもので、リリイの多少の欠点を見たところで嫌いになれないものである。むしろ、魔法ではどうあがいてもかなわない存在だったリリイの欠点を目の当たりにして、僕は少し和んでいた。
他の生徒はすでにパトロールにまわっていたから、テスト勉強はロビーで二人きりだったし、勉強を通してだいぶ仲良くなれたというのもある。要するにテスト勉強に付き合うのを結構楽しんでいた。
リリイは数日後、無事テストに合格して単位を取った。
「じゃあ、リリイ、式典見に行こっか」
「えっと……私、人混みはちょっと……」
「リリイ、こないだのお誘いは何だったの……?」
まあ、勉強を逃れる口実なのはわかってたけどさ……リリイってば結構自分勝手なんだよね。
「そ、そうね、行きましょうか。パトロールもするように言われてるし」
「だけど、リリイ人混み苦手なのはほんとだもんね。あんまり人が多くないところに行こうか」
「そうね。人気のないところをパトロールする人も必要だし」
しかし、式典期はどこも普段の王都より人が多く、人気がないところがあまりない。
「リリイ、大丈夫? 人酔いしてない?」
「大丈夫よ」
式典期か。あの適性検査の日から一年たったのか。あれから一年経った今、僕は国立魔道士養成学校の腕章を着けて王都のパトロールをしていることも、好きな女の子と二人で王都を歩いていることも、なんだか夢のようだ。
最初は、デート気分で王都の街中を二人で歩いていた。
「……なんだか、嫌な予感がするわ」
突然、リリイがつぶやいた。
「え? どうしたの?」
「私、どういうわけか昔から、嫌なところに遭遇しやすいの。だから人の多いところが苦手なんたけど……」
そう言うリリイの目線の先には、高い建物の屋上があった。その屋上には中学生ぐらいの男の子がいた。男の子は屋上の柵の外側に立っていて、いつ屋上から落ちてもおかしくない状態だった。
「ま、まさか……あれ……」
僕が動揺している隣で、リリイが呪文を唱えだした。
あっという間にその男の子は屋上の建物から飛び降りた。周りにいた人達から悲鳴が上がる。
しかし、その男の子は、真っ直ぐ地面に落ちることなく、不自然な軌道を描いてゆっくり地面に落下した。
「風魔法で少し衝撃を和らげたから死んではいないはずよ。行きましょう」
リリイは冷静にそう言った。目の前で人間が飛び降りたというのになんの動揺もしていないことに違和感を感じたが、それより飛び降りた子が気になる。リリイと建物の下に様子を見に向かった。
男の子が飛び降りたところに行くと、人だかりが出来ていた。人だかりをわけて男の子が落下した場所を見ると、血の跡はあるが男の子の姿がない。
「あの、さっきここで男の子の飛び降りがありましたよね。どうなりました?」
近くにいる人に尋ねると、
「ああ、近くに水魔道士さんがいて、その人に回復されたあと病院に運ばれたよ」
リリイの言うとおり死んではいないようだ。
「病院に運ばれたのなら後は病院の人に任せたほうがいいかしら……」
「そうだね。病院にも魔道士はいるし、そっちに任せたほうがいいよ。それに、この騒ぎなら多分明日の新聞の記事になるよ」
僕とリリイは静かに学校に帰ることにした。
リリイはさっき、「嫌なことに遭遇しやすい」と言っていたが、飛び降りを目撃してもあれほど冷静なのは、あのような出来事によく遭遇するということだろうか。気になったが、なんとなく聞けなかった。辛いことばかり聞き出すことになるかもしれないし……
僕の予想通り、この飛び降り事件は新聞記事になっていた。男の子は命に別状はないようだ。それより僕は新聞記事に書かれた飛び降りの動機が目に留まった。
「少年の話によると、適性検査で魔法の素質がなかったことによる失望が飛び降りの原因とのこと」
リリイはペンを置いて僕に話しかけた。
今僕たちがいるロビーには、窓がないけれど、リリイは外が恋しいとばかりに遠くを眺めている。
リリイからデートのお誘い。嬉しいのはやまやまなのだけど……
「リリイ、テスト終わってからね。再々試験なんだから落ちたらやばいから」
「ええ? だけど、今の方が面白そうじゃない?」
「リリイ、テスト勉強から逃れることばっか考えないの。もう少しなんだから、頑張って」
「……はあ、わかったわ」
僕は、補講期の間、リリイのテスト勉強に付き合っていた。テスト勉強中のリリイは、何度もしれっと勉強を切り上げようとするので、なだめるのが大変だった。リリイは、苦手なものはとことん避けて通りたい性分らしい。
惚れた弱みというのは恐ろしいもので、リリイの多少の欠点を見たところで嫌いになれないものである。むしろ、魔法ではどうあがいてもかなわない存在だったリリイの欠点を目の当たりにして、僕は少し和んでいた。
他の生徒はすでにパトロールにまわっていたから、テスト勉強はロビーで二人きりだったし、勉強を通してだいぶ仲良くなれたというのもある。要するにテスト勉強に付き合うのを結構楽しんでいた。
リリイは数日後、無事テストに合格して単位を取った。
「じゃあ、リリイ、式典見に行こっか」
「えっと……私、人混みはちょっと……」
「リリイ、こないだのお誘いは何だったの……?」
まあ、勉強を逃れる口実なのはわかってたけどさ……リリイってば結構自分勝手なんだよね。
「そ、そうね、行きましょうか。パトロールもするように言われてるし」
「だけど、リリイ人混み苦手なのはほんとだもんね。あんまり人が多くないところに行こうか」
「そうね。人気のないところをパトロールする人も必要だし」
しかし、式典期はどこも普段の王都より人が多く、人気がないところがあまりない。
「リリイ、大丈夫? 人酔いしてない?」
「大丈夫よ」
式典期か。あの適性検査の日から一年たったのか。あれから一年経った今、僕は国立魔道士養成学校の腕章を着けて王都のパトロールをしていることも、好きな女の子と二人で王都を歩いていることも、なんだか夢のようだ。
最初は、デート気分で王都の街中を二人で歩いていた。
「……なんだか、嫌な予感がするわ」
突然、リリイがつぶやいた。
「え? どうしたの?」
「私、どういうわけか昔から、嫌なところに遭遇しやすいの。だから人の多いところが苦手なんたけど……」
そう言うリリイの目線の先には、高い建物の屋上があった。その屋上には中学生ぐらいの男の子がいた。男の子は屋上の柵の外側に立っていて、いつ屋上から落ちてもおかしくない状態だった。
「ま、まさか……あれ……」
僕が動揺している隣で、リリイが呪文を唱えだした。
あっという間にその男の子は屋上の建物から飛び降りた。周りにいた人達から悲鳴が上がる。
しかし、その男の子は、真っ直ぐ地面に落ちることなく、不自然な軌道を描いてゆっくり地面に落下した。
「風魔法で少し衝撃を和らげたから死んではいないはずよ。行きましょう」
リリイは冷静にそう言った。目の前で人間が飛び降りたというのになんの動揺もしていないことに違和感を感じたが、それより飛び降りた子が気になる。リリイと建物の下に様子を見に向かった。
男の子が飛び降りたところに行くと、人だかりが出来ていた。人だかりをわけて男の子が落下した場所を見ると、血の跡はあるが男の子の姿がない。
「あの、さっきここで男の子の飛び降りがありましたよね。どうなりました?」
近くにいる人に尋ねると、
「ああ、近くに水魔道士さんがいて、その人に回復されたあと病院に運ばれたよ」
リリイの言うとおり死んではいないようだ。
「病院に運ばれたのなら後は病院の人に任せたほうがいいかしら……」
「そうだね。病院にも魔道士はいるし、そっちに任せたほうがいいよ。それに、この騒ぎなら多分明日の新聞の記事になるよ」
僕とリリイは静かに学校に帰ることにした。
リリイはさっき、「嫌なことに遭遇しやすい」と言っていたが、飛び降りを目撃してもあれほど冷静なのは、あのような出来事によく遭遇するということだろうか。気になったが、なんとなく聞けなかった。辛いことばかり聞き出すことになるかもしれないし……
僕の予想通り、この飛び降り事件は新聞記事になっていた。男の子は命に別状はないようだ。それより僕は新聞記事に書かれた飛び降りの動機が目に留まった。
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