76 / 138
第76話 嫉妬
しおりを挟む
レベル49、いよいよ待ちに待ったレベル50まであと少しというところまで来た。しかし、今はレベル上げが思うように進められない。二年生の前期の一般教養のテストが近づいていたので、勉強の方が忙しいのだ。
とはいえテスト期間も悪いことばかりではない。相変わらず国語以外の成績が壊滅的なリリイは、僕を頼ってくれているのだ。テスト期間はリリイと一緒に勉強できる。
うちのクラスは、頭のいいやつが多い。トイは学年トップだし、リャ、ポールトーマス、キャサリン、カランド、ワープマンは僕より成績が上なのだ。つまり僕は一般教養の成績はクラス7位で、下から数えた方が早い位置にいる。しかもリリイは国語はできるのでクラス8位なのだ。7位が8位を教えているとはなんとも不思議な状況である。
なぜリリイが僕をあてにしているかというと、トイはクイズ作成魔法を使ってくるので間違えるとダメージを受けるトラップ付きの問題を出して来るから面倒だし、リャは計算式を完全に端折って答えだけ弾き出すタイプで教えるのに向いてない。ポールトーマスはネルの勉強を見てやるので手一杯だし、キャサリンはショウを見ている。カランドは音楽学校、ワープマンは戦士学校があるので超忙しいのだ。リリイが頼れるのは僕しか残っていない、という見も蓋もない理由である。
だけど、理由なんてなんでもいい。リリイと過ごせる機会があるだけで十分だ。
「ねえ、リリイ、ロビーで勉強ばかりだと飽きちゃうし、街の図書館で勉強でもしない?」
「あら、いいわね。そうしましょう」
リリイは、勉強の気晴らしになることだと圧倒的に乗り気になることがわかってきた。とにかくリリイと出かけることになった。一応学生なんだから、勉強にかこつけて出かければ良いことに、ようやく気がついた僕だった。
図書館に向かう道中で、ばったりアレンとあった。
「アレン! どうしたの?」
「図書館で勉強です」
「そうなんだ。僕たちもだよ」
「あの、そちらは?」
アレンは、僕の横にいるリリイを見つめた。
「えっと、クラスメイトのリリイだよ」
「なるほど、こちらが……はじめまして、アレンです。キルルさんの学校の話を聞く際に名前は伺っていました」
アレンが丁寧に挨拶した。
「リリイ、この子はアレン、僕の友達なんだ」
リリイもアレンに挨拶した。アレンと共に図書館に向かう。
僕とリリイは図書館の自習用の机に座り、勉強を始めた。アレンは図書館の本を物色したいようで、僕たちの側を離れた。
「ねえ、キルル。あの子、式典の時に飛び降りた子じゃない?」
「あ……気づいてたの?」
「ええ、見た目は覚えていたから。今は元気に過ごしているのかしら?」
「うん」
「そう、ならよかった」
本当はアレンは今も死ぬ気満々であるが、リリイにはこう言うしかない。
勉強を始めよう……と思った瞬間、図書館の中で爆発するような音が聞こえた。図書館にふさわしくない叫び声が響き渡る。アレンが僕たちの方へ向かって走ってくる。
「アレン、何があったの」
「向こうで、変な色の肌の人が暴れています」
アレンが指差した方へ向かうと、赤色の肌の男が暴れていた。
「ええい! ここにある本は読んだことがあるものばかりだ! つまらん! つまらん!」
人型モンスターだった。知能の高いモンスターは、知識欲が満たされないと暴れだすという困った性質をしているのだ。
くそ、よりによってレベル49の時に人型モンスターに遭遇なんて、なんてタイミング悪いんだ。レベル50なら、あの人型モンスターを即死させられたのに!
僕が悔やんでいる間に、リリイは呪文を唱え出した。なんと土のゴーレムを二体作り出し、人型モンスターをゴーレムで挟み撃ちをした。
人型モンスターは本棚の角に追いやられ、本棚に体をぶつけると、人型モンスターの頭上に分厚い図鑑が雪崩れ落ちた。人型モンスターは完全に気を失ってしまった。リリイは間髪入れずに草魔法で蔓を生み出し、人型モンスターをぐるぐる巻きにして、さらに、風魔法を使って落ちた図鑑を本棚に戻した。
「これでいいかしら。あとは人型モンスターの対処が得意な魔道士におまかせしましょう」
あれだけ魔法を乱発しておきながら、涼しい顔でリリイが言った。
「な……すごい」
隣で見ていたアレンが呆気に取られている。
「ああ、リリイは魔法はすごく才能あるんだ。うちの学校でトップなんだよ」
「……もしかして、僕の飛び降りを風魔法で妨げたのって、リリイさんですか?」
僕は思わずアレンを見た。
「そうなんですね」
しまった。表情で悟られてしまった。自分の自殺の邪魔をした人間なんて、いい印象なわけがない。それも、アレンは風魔法のせいでゆっくり地面に落ちたことがトラウマになっているのだ。
「僕、あの人嫌いだな……」
アレンは思っていることを隠しもせず呟いた。
「え、えっと、アレン、落ち着いて」
僕は慌てたが、
「心配しなくても、あんな強い魔法使い、僕じゃ太刀打ちできないし、何もしませんよ。ただの嫉妬です。僕が欲しかったもの、全て持っているんですから」
「アレン……」
僕も、アレンの気持ち、多少はわかる。僕も
できることなら、一般魔法も使いたかった。多彩な魔法が使えるのは羨ましい限りだ。
即死魔道士の僕は一般魔法が全く使えなくて、蘇生魔道士のリリイは一般魔法が全てレベル100で才能抜群ってどうなってるんだろう。一応対の魔道士だというのに、僕の分が悪いのはちょっと腑に落ちない。なんて、よく考えているのだ。
だから、アレンにかける言葉が見つからなかった。
とはいえテスト期間も悪いことばかりではない。相変わらず国語以外の成績が壊滅的なリリイは、僕を頼ってくれているのだ。テスト期間はリリイと一緒に勉強できる。
うちのクラスは、頭のいいやつが多い。トイは学年トップだし、リャ、ポールトーマス、キャサリン、カランド、ワープマンは僕より成績が上なのだ。つまり僕は一般教養の成績はクラス7位で、下から数えた方が早い位置にいる。しかもリリイは国語はできるのでクラス8位なのだ。7位が8位を教えているとはなんとも不思議な状況である。
なぜリリイが僕をあてにしているかというと、トイはクイズ作成魔法を使ってくるので間違えるとダメージを受けるトラップ付きの問題を出して来るから面倒だし、リャは計算式を完全に端折って答えだけ弾き出すタイプで教えるのに向いてない。ポールトーマスはネルの勉強を見てやるので手一杯だし、キャサリンはショウを見ている。カランドは音楽学校、ワープマンは戦士学校があるので超忙しいのだ。リリイが頼れるのは僕しか残っていない、という見も蓋もない理由である。
だけど、理由なんてなんでもいい。リリイと過ごせる機会があるだけで十分だ。
「ねえ、リリイ、ロビーで勉強ばかりだと飽きちゃうし、街の図書館で勉強でもしない?」
「あら、いいわね。そうしましょう」
リリイは、勉強の気晴らしになることだと圧倒的に乗り気になることがわかってきた。とにかくリリイと出かけることになった。一応学生なんだから、勉強にかこつけて出かければ良いことに、ようやく気がついた僕だった。
図書館に向かう道中で、ばったりアレンとあった。
「アレン! どうしたの?」
「図書館で勉強です」
「そうなんだ。僕たちもだよ」
「あの、そちらは?」
アレンは、僕の横にいるリリイを見つめた。
「えっと、クラスメイトのリリイだよ」
「なるほど、こちらが……はじめまして、アレンです。キルルさんの学校の話を聞く際に名前は伺っていました」
アレンが丁寧に挨拶した。
「リリイ、この子はアレン、僕の友達なんだ」
リリイもアレンに挨拶した。アレンと共に図書館に向かう。
僕とリリイは図書館の自習用の机に座り、勉強を始めた。アレンは図書館の本を物色したいようで、僕たちの側を離れた。
「ねえ、キルル。あの子、式典の時に飛び降りた子じゃない?」
「あ……気づいてたの?」
「ええ、見た目は覚えていたから。今は元気に過ごしているのかしら?」
「うん」
「そう、ならよかった」
本当はアレンは今も死ぬ気満々であるが、リリイにはこう言うしかない。
勉強を始めよう……と思った瞬間、図書館の中で爆発するような音が聞こえた。図書館にふさわしくない叫び声が響き渡る。アレンが僕たちの方へ向かって走ってくる。
「アレン、何があったの」
「向こうで、変な色の肌の人が暴れています」
アレンが指差した方へ向かうと、赤色の肌の男が暴れていた。
「ええい! ここにある本は読んだことがあるものばかりだ! つまらん! つまらん!」
人型モンスターだった。知能の高いモンスターは、知識欲が満たされないと暴れだすという困った性質をしているのだ。
くそ、よりによってレベル49の時に人型モンスターに遭遇なんて、なんてタイミング悪いんだ。レベル50なら、あの人型モンスターを即死させられたのに!
僕が悔やんでいる間に、リリイは呪文を唱え出した。なんと土のゴーレムを二体作り出し、人型モンスターをゴーレムで挟み撃ちをした。
人型モンスターは本棚の角に追いやられ、本棚に体をぶつけると、人型モンスターの頭上に分厚い図鑑が雪崩れ落ちた。人型モンスターは完全に気を失ってしまった。リリイは間髪入れずに草魔法で蔓を生み出し、人型モンスターをぐるぐる巻きにして、さらに、風魔法を使って落ちた図鑑を本棚に戻した。
「これでいいかしら。あとは人型モンスターの対処が得意な魔道士におまかせしましょう」
あれだけ魔法を乱発しておきながら、涼しい顔でリリイが言った。
「な……すごい」
隣で見ていたアレンが呆気に取られている。
「ああ、リリイは魔法はすごく才能あるんだ。うちの学校でトップなんだよ」
「……もしかして、僕の飛び降りを風魔法で妨げたのって、リリイさんですか?」
僕は思わずアレンを見た。
「そうなんですね」
しまった。表情で悟られてしまった。自分の自殺の邪魔をした人間なんて、いい印象なわけがない。それも、アレンは風魔法のせいでゆっくり地面に落ちたことがトラウマになっているのだ。
「僕、あの人嫌いだな……」
アレンは思っていることを隠しもせず呟いた。
「え、えっと、アレン、落ち着いて」
僕は慌てたが、
「心配しなくても、あんな強い魔法使い、僕じゃ太刀打ちできないし、何もしませんよ。ただの嫉妬です。僕が欲しかったもの、全て持っているんですから」
「アレン……」
僕も、アレンの気持ち、多少はわかる。僕も
できることなら、一般魔法も使いたかった。多彩な魔法が使えるのは羨ましい限りだ。
即死魔道士の僕は一般魔法が全く使えなくて、蘇生魔道士のリリイは一般魔法が全てレベル100で才能抜群ってどうなってるんだろう。一応対の魔道士だというのに、僕の分が悪いのはちょっと腑に落ちない。なんて、よく考えているのだ。
だから、アレンにかける言葉が見つからなかった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
詠唱? それ、気合を入れるためのおまじないですよね? ~勘違い貴族の規格外魔法譚~
Gaku
ファンタジー
「次の人生は、自由に走り回れる丈夫な体が欲しい」
病室で短い生涯を終えた僕、ガクの切実な願いは、神様のちょっとした(?)サービスで、とんでもなく盛大な形で叶えられた。
気がつけば、そこは剣と魔法が息づく異世界。貴族の三男として、念願の健康な体と、ついでに規格外の魔力を手に入れていた!
これでようやく、平和で自堕落なスローライフが送れる――はずだった。
だが、僕には一つ、致命的な欠点があった。それは、この世界の魔法に関する常識が、綺麗さっぱりゼロだったこと。
皆が必死に唱える「詠唱」を、僕は「気合を入れるためのおまじない」だと勘違い。僕の魔法理論は、いつだって「体内のエネルギーを、ぐわーっと集めて、どーん!」。
その結果、
うっかり放った火の玉で、屋敷の壁に風穴を開けてしまう。
慌てて土魔法で修復すれば、なぜか元の壁より遥かに豪華絢爛な『匠の壁』が爆誕し、屋敷の新たな観光名所に。
「友達が欲しいな」と軽い気持ちで召喚魔法を使えば、天変地異の末に伝説の魔獣フェンリル(ただし、手のひらサイズの超絶可愛い子犬)を呼び出してしまう始末。
僕はただ、健康な体でのんびり暮らしたいだけなのに!
行く先々で無自覚に「やりすぎ」てしまい、気づけば周囲からは「無詠唱の暴君」「歩く災害」など、実に不名誉なあだ名で呼ばれるようになっていた……。
そんな僕が、ついに魔法学園へ入学!
当然のように入学試験では的を“消滅”させて試験官を絶句させ、「関わってはいけないヤバい奴」として輝かしい孤立生活をスタート!
しかし、そんな規格外な僕に興味を持つ、二人の変わり者が現れた。
魔法の真理を探求する理論オタクの「レオ」と、強者との戦いを求める猪突猛進な武闘派女子の「アンナ」。
この二人との出会いが、モノクロだった僕の世界を、一気に鮮やかな色に変えていく――!
勘違いと無自覚チートで、知らず知らずのうちに世界を震撼させる!
腹筋崩壊のドタバタコメディを軸に、個性的な仲間たちとの友情、そして、世界の謎に迫る大冒険が、今、始まる!
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる