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第97話 黒いリリイ
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「お母様ー!」
リリイはリリイのお母さんの亡骸と対面すると、遺体にすがりついて泣きじゃくった。
リリイのお母さんの死体は村の人が水魔法で腐敗しないように措置してくれていたらしく、それは美しいものだった。リリイのお母さんもリリイも「蘇生魔道士」にもかかわらず、寿命には逆らえない。せめて冬休みまで持ってくれれば、リリイもお母さんの死に目に会えただろうに、それも叶わなくて気の毒だった。
「この度はご足労おかけしました。うちの娘に付き添っていただいて、ありがとうございます」
リリイを見守っていた僕と校長先生に挨拶にやってきたのは、リリイのお父さんだった。去年リリイの家を訪ねた際は不在だったため、今回が初対面だ。
リリイのお父さんは、メガネをかけていて、髪をきっちり整髪料でまとめていて、とてもお固そうな雰囲気をしていたが、肌の色が少し異質だった。青白いのだ。リリイの肌は色白過ぎて青白いが、リリイのお父さんは、人間の肌の色ではない、水色に近い色だった。
「見ての通り、私は純血の人間ではありません。人型モンスターの血が入っています。人間と人型モンスターのハーフです。このような外見なので、王都までリリイを迎えにも行けず申し訳ありません」
そうだったのか。お父さんがハーフならリリイは4分の1モンスターの血が入っている。リリイがモンスターのクロの言葉がわかったのも多分これが理由だろう。
リリイは、夜になってもお母さんの遺体から離れようとしなかった。
「リリイ、長旅でろくに休めてないし、そろそろ眠ったほうがいいよ」
「だけど……明日になったらお母様の顔を二度と見れないと思うと辛くて……」
明日はお葬式だ。
「冬休みになったら話したいことがたくさん……『蘇生魔道士』としても教わりたいことがたくさんあったのに……」
リリイは未だに泣きはらしている。
僕は、母親を亡くしたリリイに同情はしていても、リリイのお母さんが亡くなったことそのものへの悲しみはだいぶ薄かった。いや、そんな感情ほとんど持ち合わせていないのだ。「即死魔道士」の気質がそうさせているのだろう。そして、それが異質だということは、リリイをはじめ、周りの人の悲しみ樣を見て理解した。
「即死魔道士」の僕が、「死」に対する悲しみをほとんど持ち合わせていないとしたら、その対の存在である「蘇生魔道士」のリリイは、「死」に対する悲しみがとても多く感じる気質なのではないだろうか。僕が持ち合わせ損ねた分の感情も、リリイが背負っているんじゃないだろうか。
「リリイ、リリイ、大丈夫だよ。僕も、先生も、みんなもいるからね」
僕は思わずリリイを抱き寄せていた。
リリイは、僕の腕の中でさらに泣いていた。
僕の冷たい心は、今リリイを支えるために使わなければいけない。そう思った。
皮肉にも、リリイのお母さんの葬式の時のリリイは、今まで見た中で一番綺麗だった。
黒いワンピースの喪服はリリイの白い肌を引き立たせた。初めてリリイに会った時に着ていた紺のワンピースより、最近着ていた緑色のローブより、今来ている喪服の方が似合っている。そして、唐突に母親を亡くし泣きはらした後の暗い表情も、笑顔以上に美しかった。
そして今送り出されようとしているリリイのお母さんの死体も美しかった。
僕が葬式に参列したのは、うんと子供のころ一度きりだ。幼いころに死んだ父方の祖母の葬式だった。その時の記憶はほとんどないし、祖母の遺体も見た記憶がない。
だから、僕が人生最初にきちんと拝んだ死体はリリイのお母さんとなる。
僕は、モンスターや動物の死骸をあれだけ保存していたから、もともと死体に対しての感覚は若干狂っていたと思うのだが、今回のリリイの喪服姿とリリイのお母さんの美しい亡骸により、僕の「死」に関する感覚はさらに歪んだのだ。
リリイはリリイのお母さんの亡骸と対面すると、遺体にすがりついて泣きじゃくった。
リリイのお母さんの死体は村の人が水魔法で腐敗しないように措置してくれていたらしく、それは美しいものだった。リリイのお母さんもリリイも「蘇生魔道士」にもかかわらず、寿命には逆らえない。せめて冬休みまで持ってくれれば、リリイもお母さんの死に目に会えただろうに、それも叶わなくて気の毒だった。
「この度はご足労おかけしました。うちの娘に付き添っていただいて、ありがとうございます」
リリイを見守っていた僕と校長先生に挨拶にやってきたのは、リリイのお父さんだった。去年リリイの家を訪ねた際は不在だったため、今回が初対面だ。
リリイのお父さんは、メガネをかけていて、髪をきっちり整髪料でまとめていて、とてもお固そうな雰囲気をしていたが、肌の色が少し異質だった。青白いのだ。リリイの肌は色白過ぎて青白いが、リリイのお父さんは、人間の肌の色ではない、水色に近い色だった。
「見ての通り、私は純血の人間ではありません。人型モンスターの血が入っています。人間と人型モンスターのハーフです。このような外見なので、王都までリリイを迎えにも行けず申し訳ありません」
そうだったのか。お父さんがハーフならリリイは4分の1モンスターの血が入っている。リリイがモンスターのクロの言葉がわかったのも多分これが理由だろう。
リリイは、夜になってもお母さんの遺体から離れようとしなかった。
「リリイ、長旅でろくに休めてないし、そろそろ眠ったほうがいいよ」
「だけど……明日になったらお母様の顔を二度と見れないと思うと辛くて……」
明日はお葬式だ。
「冬休みになったら話したいことがたくさん……『蘇生魔道士』としても教わりたいことがたくさんあったのに……」
リリイは未だに泣きはらしている。
僕は、母親を亡くしたリリイに同情はしていても、リリイのお母さんが亡くなったことそのものへの悲しみはだいぶ薄かった。いや、そんな感情ほとんど持ち合わせていないのだ。「即死魔道士」の気質がそうさせているのだろう。そして、それが異質だということは、リリイをはじめ、周りの人の悲しみ樣を見て理解した。
「即死魔道士」の僕が、「死」に対する悲しみをほとんど持ち合わせていないとしたら、その対の存在である「蘇生魔道士」のリリイは、「死」に対する悲しみがとても多く感じる気質なのではないだろうか。僕が持ち合わせ損ねた分の感情も、リリイが背負っているんじゃないだろうか。
「リリイ、リリイ、大丈夫だよ。僕も、先生も、みんなもいるからね」
僕は思わずリリイを抱き寄せていた。
リリイは、僕の腕の中でさらに泣いていた。
僕の冷たい心は、今リリイを支えるために使わなければいけない。そう思った。
皮肉にも、リリイのお母さんの葬式の時のリリイは、今まで見た中で一番綺麗だった。
黒いワンピースの喪服はリリイの白い肌を引き立たせた。初めてリリイに会った時に着ていた紺のワンピースより、最近着ていた緑色のローブより、今来ている喪服の方が似合っている。そして、唐突に母親を亡くし泣きはらした後の暗い表情も、笑顔以上に美しかった。
そして今送り出されようとしているリリイのお母さんの死体も美しかった。
僕が葬式に参列したのは、うんと子供のころ一度きりだ。幼いころに死んだ父方の祖母の葬式だった。その時の記憶はほとんどないし、祖母の遺体も見た記憶がない。
だから、僕が人生最初にきちんと拝んだ死体はリリイのお母さんとなる。
僕は、モンスターや動物の死骸をあれだけ保存していたから、もともと死体に対しての感覚は若干狂っていたと思うのだが、今回のリリイの喪服姿とリリイのお母さんの美しい亡骸により、僕の「死」に関する感覚はさらに歪んだのだ。
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