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第112話 さよなら
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気がつけばレベル79になっていた。いよいよレベル80か。
この時を心待ちにしていたはずだけど、いざとなると、僕の心は少しざわついていた。
いろいろな覚悟はもう、決めたはずだった。父さんが前に言っていた、人を殺したときに起きる「波紋」をすべて受け止めるつもりで、元クラスメイト皆殺しの計画を進めている。スーは、自分をいじめたやつらを殺さなくてもいいと結論を出したけど、僕はそうは思わなかった。無能と呼ばれていじめられて、その恨みを晴らそうと思ったら、僕の力を見せるしかない。僕の力は即死魔法一つだけだ。殺す以外の選択肢があろうか。
殺害計画について考えるたび、昔のことを振り返ってしまう。そうすると怒りが湧いてくるて、眠れなくなってしまう。
この日も、なんだか眠れなくて、僕は部屋を出た。ロビーに向かおうとしたが、ふと立ち止まった。リリイの部屋の前で。
「リリイ」
僕は、リリイの部屋の扉を軽く叩いた。もう寝ているだろうけど、できれば顔が見たい。
扉が小さく開いた。
「キルル、どうしたの?」
リリイが穏やかな声で尋ねてきた。白い部屋着姿だ。
「なんだか、眠れないんだ」
「そう……なにか飲みましょう。入って」
「え?」
顔だけ見るつもりだったのに、なんと部屋に入ることになってしまった。リリイの部屋に入るのは、二年ぶりぐらいだ。
リリイの部屋は、手前の部屋は相変わらず、部屋の中とは思えないほど植物がひしめいていた。リリイの部屋の植物は、枯らしたい衝動が起きないのが不思議だ。てっきりここでお茶でもするのかと思っていたが、
「キルル、こっちに」
なんと、その先の生活空間の部屋に入れてくれるようだ。
植物を掻き分け、リリイの生活空間に足を踏み入れた。中は、それはそれは可愛らしい、白を基調とした女の子らしい部屋だった。僕の部屋とは何もかも大違いの、穏やかな空間だ。白い壁紙に、小さいテーブルと、椅子、ソファーがあり、壁際に本棚とクローゼット。そして反対側の壁にはリリイが寝起きしているベッドがある。
「ちょっと待ってね」
リリイは、僕を椅子に座らせた後、紅茶を入れてくれた。水魔法と火魔法で、湯なんて簡単に用意してしまうようだ。一般魔法は便利で羨ましい。
「おいしい?」
「うん」
そう答えたけど、味なんて覚えていない。ひたすらリリイの部屋にどきどきしていた。
僕の対面の椅子に腰掛けたリリイは、話を始めた。
「どうして、眠れなかったの?」
「それは……」
レベル80の先を考えると、いろいろ不安だったからだ。だけど、リリイの部屋に来たため、緊張感から全部吹き飛んでいた。僕の不安なんてそんなものだった。
「やっぱり、不安なんじゃなくて? もうすぐレベル80でしょう」
リリイは優しい声でそう尋ねた。
「うん」
僕は思わず、そう答えていた。
「キルル……」
リリイは、声を詰まらせた。リリイの白いまつ毛に、涙が溜まっている。
「どうして、リリイが泣くの」
「だって、キルルが可哀想なんだもの……」
「リリイ……」
リリイが想像している僕の心と、実際の僕の心の中はかなり乖離していると思う。だけど、リリイが僕を思ってくれているはとても嬉しい。
「リリイ、ありがとう。僕の代わりに泣いてくれて」
そうだ。きっとリリイは、僕の分を代わりに泣いてくれてるんだ。僕が持ち損ねた感情を、リリイは持っている。
「僕は、大丈夫だよ」
紅茶を飲み終えて、僕は部屋に戻ることにした。
「おやすみ、キルル」
「おやすみ、リリイ」
部屋を去る間際、僕は自然にリリイを引き寄せてキスしていた。リリイの柔らかい唇から、紅茶のような甘い味がした。
リリイ、ありがとう。この先、何があっても、後悔しないよ。
翌日、僕はレベル80になった。
今までの自分に、さよならを告げた。
この時を心待ちにしていたはずだけど、いざとなると、僕の心は少しざわついていた。
いろいろな覚悟はもう、決めたはずだった。父さんが前に言っていた、人を殺したときに起きる「波紋」をすべて受け止めるつもりで、元クラスメイト皆殺しの計画を進めている。スーは、自分をいじめたやつらを殺さなくてもいいと結論を出したけど、僕はそうは思わなかった。無能と呼ばれていじめられて、その恨みを晴らそうと思ったら、僕の力を見せるしかない。僕の力は即死魔法一つだけだ。殺す以外の選択肢があろうか。
殺害計画について考えるたび、昔のことを振り返ってしまう。そうすると怒りが湧いてくるて、眠れなくなってしまう。
この日も、なんだか眠れなくて、僕は部屋を出た。ロビーに向かおうとしたが、ふと立ち止まった。リリイの部屋の前で。
「リリイ」
僕は、リリイの部屋の扉を軽く叩いた。もう寝ているだろうけど、できれば顔が見たい。
扉が小さく開いた。
「キルル、どうしたの?」
リリイが穏やかな声で尋ねてきた。白い部屋着姿だ。
「なんだか、眠れないんだ」
「そう……なにか飲みましょう。入って」
「え?」
顔だけ見るつもりだったのに、なんと部屋に入ることになってしまった。リリイの部屋に入るのは、二年ぶりぐらいだ。
リリイの部屋は、手前の部屋は相変わらず、部屋の中とは思えないほど植物がひしめいていた。リリイの部屋の植物は、枯らしたい衝動が起きないのが不思議だ。てっきりここでお茶でもするのかと思っていたが、
「キルル、こっちに」
なんと、その先の生活空間の部屋に入れてくれるようだ。
植物を掻き分け、リリイの生活空間に足を踏み入れた。中は、それはそれは可愛らしい、白を基調とした女の子らしい部屋だった。僕の部屋とは何もかも大違いの、穏やかな空間だ。白い壁紙に、小さいテーブルと、椅子、ソファーがあり、壁際に本棚とクローゼット。そして反対側の壁にはリリイが寝起きしているベッドがある。
「ちょっと待ってね」
リリイは、僕を椅子に座らせた後、紅茶を入れてくれた。水魔法と火魔法で、湯なんて簡単に用意してしまうようだ。一般魔法は便利で羨ましい。
「おいしい?」
「うん」
そう答えたけど、味なんて覚えていない。ひたすらリリイの部屋にどきどきしていた。
僕の対面の椅子に腰掛けたリリイは、話を始めた。
「どうして、眠れなかったの?」
「それは……」
レベル80の先を考えると、いろいろ不安だったからだ。だけど、リリイの部屋に来たため、緊張感から全部吹き飛んでいた。僕の不安なんてそんなものだった。
「やっぱり、不安なんじゃなくて? もうすぐレベル80でしょう」
リリイは優しい声でそう尋ねた。
「うん」
僕は思わず、そう答えていた。
「キルル……」
リリイは、声を詰まらせた。リリイの白いまつ毛に、涙が溜まっている。
「どうして、リリイが泣くの」
「だって、キルルが可哀想なんだもの……」
「リリイ……」
リリイが想像している僕の心と、実際の僕の心の中はかなり乖離していると思う。だけど、リリイが僕を思ってくれているはとても嬉しい。
「リリイ、ありがとう。僕の代わりに泣いてくれて」
そうだ。きっとリリイは、僕の分を代わりに泣いてくれてるんだ。僕が持ち損ねた感情を、リリイは持っている。
「僕は、大丈夫だよ」
紅茶を飲み終えて、僕は部屋に戻ることにした。
「おやすみ、キルル」
「おやすみ、リリイ」
部屋を去る間際、僕は自然にリリイを引き寄せてキスしていた。リリイの柔らかい唇から、紅茶のような甘い味がした。
リリイ、ありがとう。この先、何があっても、後悔しないよ。
翌日、僕はレベル80になった。
今までの自分に、さよならを告げた。
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