超強運

コサキサク

文字の大きさ
上 下
13 / 19

第13話 パワーストーンのハヅキ

しおりを挟む
カナメの彼女はハヅキさんと言うらしい。そのハヅキさんのパワーストーンのお店は、大学の近くにある、若者向けの服屋や雑貨屋が並ぶ通りの一角にあった。三畳ぐらいのこじんまりしたお店だ。店に入るとパワーストーンのブレスレットや指輪が並べてある。
「わー、かわいい!」
ウサミちゃんは運が上がるという効果以前にブレスレットのデザインが気に入ったようだ。たしかにどれもいろいろな色のストーンを組み合わせてあり、同じデザインのものがない。開運というより女性向けお洒落アイテムという印象だ。まだ店主のハヅキさんに会っていないが、店と商品の雰囲気だけで店主が女性とわかる。
「あら、カナメ、来てたのね。」
奥から女性が出てきた。
「この人がカナメの彼女か!?」
レイは目を見開いてその女性を見ながら言った。
「そうだよ。」
「はじめまして、ハヅキです。皆さんよくお越しくださいました。」
僕もレイもウサミちゃんもトラジロウもびっくりした。店主のハヅキは和服姿のとんでもない美女だった。オカルトサークルの壮絶な取り合いも納得できる。
「カナメ、やるなあ!!!」
レイがカナメをつついた。いつもは涼しい顔をしているカナメだけど、明らかに照れている。
「ハヅキさんの着物、超かわいい!!」
ウサミちゃんはハヅキさんの姿を見て言った。
ハヅキさんの着物は古風ではなくて、さくらんぼ柄のかわいい物だった。髪型も黒髪のボブでモダンな感じだ。ウサミちゃんとハヅキさんは可愛いギャルと和装美女という真逆のタイプだったが、美的感覚は通じるものがあるようだ。

「カナメからだいたいの話は聞いているわ。うちのブレスレット、本当に開運の効果があるか見てくれるんですって?」
「あ、はい。だけど、もし効果がなかった場合商売に支障出ませんか?」
僕は質問した。
「大丈夫よ。ただ単にアクセサリーとして売ってたのになぜか開運ブレスレットだって評判が勝手に出ただけで、もともと開運売りではないから。パワーストーンは使ってるから、開運効果はあっても不思議ではないと思うけど、評判が良すぎて私の方がびっくりしているの。だから私も実際の効果がわかるなら知りたいわ。」
「ハヅキさん自体運がかなりあるね。5500超えだし、なかなか期待できるね。」
レイが言うと、ハヅキさんもさすがに驚いている。
「あら、そんなにはっきりわかるものなの?すごいわね。」
「じゃあウサミちゃん、なんか試しにつけてみて。」
レイが促すと、ウサミちゃんは数ある商品の中からピンクのストーンと白いストーンを使ったブレスレットを選び腕につけた。
「おおー!130上がってる!効果てきめんじゃん!ウサミちゃん今80あるよ。」
「やった!マイナスじゃなくなったのね!」
ウサミちゃんは大喜びしている。トラジロウアンドブレスレットでウサミちゃんの運はマイナスから脱出した。ちなみにブレスレットを外せば運も元通りになるようだ。
「運がマイナスの人もいるのね?」
ハヅキさんが聞いた。
「ああ、いるよ。ていうかほとんどの人がちょいプラスからちょいマイナスぐらいをウロウロしてるんだけどね。ここにいるウサミちゃん以外のメンバーが運ありすぎなんだよね。」
「ブレスレット一個で130上がるんだったら、何個かつけたらあたしもみんなに追いつくんじゃないの?」
ウサミちゃんがもう一つブレスレットをつけた。
「どう?レイくん。」
「上がってるけど、20ぐらいしか上がってないな。」
「そっかー。」
ウサミちゃんは試しにさらにもう一個つける。
「上がってるけど、3しか上がってない。」
「うーん。いくつもつけりゃいいってもんでもないのね。」
「人それぞれ、体質的な器があるからなあ。多分ウサミちゃんはどんなに運がいい日でも100ぐらいなのかも。」
レイが言う。
「えー、100止まり?もっと欲しい!」
「まあまあ、なにやっても0の僕よりマシだって。」
「それもそうね・・・まあ、プラスになっただけでもいっか!とりあえず二つ買います!」
ウサミちゃんは気に入ったデザインのブレスレットを二つ買った。
「どうもありがとう。」
ハヅキさんが会計する。
「しかし、ウサミちゃんに運の上限があるから100止まりなんだとしたら、運が天井知らずのアタルくんがつけたらどうなるんだ?」
カナメが聞いた。
「たしかに、アタルはどうなるんだろう。アタルなんかつけてみて。」
レイに言われたので、僕は目についたブレスレットに触った。その瞬間にブレスレットについていた全てのパワーストーンが弾け飛んだ。
「うわあああ!なに!?」
「アタルすごい!運が1000上がってる!」
レイがびっくりしている。
「ええー!アタルくんはそんなに上がるの!?」
ウサミちゃんもびっくりしている。
「ていうか、石割れたんだけど、なんで?」 
「パワーストーンって役目を終えると割れるらしいわ。こんなに見事に粉砕するのは見たことないけど・・・。」
ハヅキさんが言う。
「一瞬でアタルに運を奪われて、役目を終えたな・・・。」
レイが笑いをこらえながら言った。
「あの、すみません、粉砕したブレスレットの代金払います・・・。」
「どうもありがとう。」
ハヅキさんはきちんとお代を取った。
「しかし、ブレスレットを外せば運も元通りになるはずが、アタルくんは一瞬で完全に奪い取るのか、恐ろしいな。」
カナメがしみじみ言った。僕も自分が怖い。絶対に商品に触らないように気をつける羽目になり緊張した。
「まあ、これだけ効果があるならすごいよ。代々的に開運ブレスレットで売ってもいいんじゃない?」
レイが言った。
「そうね。せっかくだからそうしてみるわ。それにしても、アタルくんは面白いわね。」
ハヅキさんはにっこり笑った。
「あ、あはは・・・」
こんな面白さ、いらないんだけど・・・

その後、他のパワーストーン屋を見つけたのでそこでも試して見たが、ウサミちゃんの運は3程度しか上がらなかった。どうもハヅキさんのパワーストーンはかなり効果が強いようだ。口コミは伊達じゃなかったんだろう。しかし、その店のパワーストーンも僕は見事に粉砕し、またしても弁償した。ちなみに運は50上がったらしい。

「アタル面白すぎ!今後むしゃくしゃしたらパワーストーン屋巡りしなよ。多分スカッとするよ。」
「レイ、からかわないで。」
僕はちょっとだけ怒った。

そして、もう一個わかったことだが、ウサミちゃんの横にトラジロウがいないときは二個目のブレスレットも130ぐらい運を上げる効果があることがわかった。つまり、ウサミちゃんはブレスレットをたくさんつければトラジロウが近くにいなくても100ぐらいまで運が上がるようだ。ウサミちゃんはハヅキさんの商品を追加で買いに戻った。

「よーし!これであたしもマイナスから完全に抜け出せたのね!」
ウサミちゃんは大満足していた。

満足気にしているウサミちゃんとトラジロウの後ろを歩きながら、レイは僕にささやいた。
「アタル、今ならウサミちゃんと二人きりでデートぐらいできるぜ?」 
「えっ?」
「もう、トラジロウ抜きでウサミちゃんと過ごしても大丈夫だよ。」
「おお・・・」
少しずつ問題が解決している。僕は感動しながら、デートって何するのかと考えていると、
「だけど、アタルくん、ブレスレット粉砕しちゃうから、手も繋げなくなくないか?」
カナメが言った。
「あーっ!ほんとだ!ていうか手も繋げなくないし、エッチも無理じゃん!ブレスレット外したら効果なくなるし、つけたままエッチしてらそのうち触って粉砕しちゃうじゃん!あははは!アタルまだまだ問題山積みだねえ!」
レイが爆笑している。もう完全に面白がっている。
「とはいえ、二人きりで出かけられる状態になったんだから、デートぐらいしたらどうだい?」
カナメが言ってきた。
「デートかあ、トラジロウと一緒ならともかく、ウサミちゃんだけ誘い出すってどうしたらいいんだろ?」
僕が悩んでいると、
「そうだ、僕が出た映画今度公開なんだ!見に来る?R18だからトラジロウ呼べないよ。」
「えっ?レイ映画出たの?すごい!って、R18ってどんな内容なのさ。エロいの?グロいの?」
「エロだね。まあいわゆるBL漫画の実写版で、僕はおっさんに体売ってる男子高校生の役だよ。一応準主役!」
「・・・見に行ってあげたいけど、デートで見たらダメでしょそれ・・・」
というか、内容が想像しただけでキツい。
「そっかあ。でもいつか見てよ?頑張って撮影したのに見てもらえないとか虚しすぎるし。」
「わかったよ・・・」
正直レイのそんな姿を見るのは気が重いけど、レイが見てほしいというのなら見てあげた方がいいだろう。
「またずいぶんヘビーな仕事してるんだな、レイくんは。」
カナメも若干引いている。
「うーん、準主役だし、わざわざ僕にオファー来たから嬉しくて受けちゃったんだよねー。まあ僕バイだし、男相手のラブシーンいけるしね。」
そういえばレイ、前に男女どっちでもいけるって言ってたけど冗談じゃなかったんだ。

「アタルくーん!」
前を歩いていたウサミちゃんが僕の方へ来た。
「ねえ、今度の日曜スロット行かない?運が良くなったから一度やってみたいんだー!その日、トラジロウ子供会の旅行で出かけてるからちょうどいいと思うんだ!」
「えっ、でも僕運うばっ」
レイとカナメに後ろから叩かれた。こないだと同じ失敗するなということだとわかったので、
「う、うん、行くよ!」
細かいことは考えずに了承した。









しおりを挟む

処理中です...