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第1章 幼少期編

第4話 魔法のいろは

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 ガラク(タ)商店の本を読むようになってから早くも2年、俺の知性はさらに向上していた。もとからあった本は繰り返し読んでしまったから、最近では父が毎月古本を安く仕入れて俺に読ませてくれた。
 俺としては非常にありがたいことだったけど、どうやらこの世界の人間はあまり本を読まないらしい。ガラクとローラが例外的に教育を受けていたから文字が読めただけで、一般家庭には字が読めない大人もたくさんいるそうだ。だから、古本は俺が読んだあとも売れることなく店先に積み上がっていく。

 なんか不良在庫を抱えさせてしまって申し訳ない……

 あとは、この間庭先で見つけた黒くて素早い害虫(名前を呼んではいけないアレ、通称G)を辛くも討伐した俺はついにLvが2になった。あんなものやっつけたくらいでレベルアップするなんて、一体このステータスと言うのはどういう仕組なんだろう。そんなこんなで今のステータスがこちら!

Lv:2
HP:25
MP:10
状態:正常
物理攻撃力:6
物理防御力:6
魔法攻撃力:6
魔法防御力:6
得意属性:無・風・光
苦手属性:闇
素早さ:13
スタミナ:20
知性:451
精神:950
運 :188

保有スキル:(固有)日進月歩(一般)鑑定
保有魔法:--

 特筆すべきはMPが0じゃなくなったことだ!本で得た情報によるとこの世界の人間は誰でも多かれ少なかれ魔力を持って生まれてくるらしい。俺はそもそもこの世界にとってはイレギュラーな存在だろうし、Lv1のときからずっとMPが0だったからてっきり魔力を持たない体質なんだと思いこんでいたけど、そうではなかったようでちょっと嬉しかった。

 こういうファンタジーな世界って金森が読んでたみたいなライトノベルの中じゃメジャーなんだろうけど、俺の中では小学生くらいで止まってる。魔法が使えるかも!と思ったとき一度いってみたかったセリフが、

「今のはメラ◯ーマではない…メ◯だ…」

 だったのはきっとジェネレーションギャップというやつだろう……

 ……なんか悲しくなってきたから、とりあえず気分を切り替えるためにも早速魔法を試してみよう。俺は最近父が手に入れてきた「魔法学(Ⅰ)」と言う本を片手に庭に移動した。早速魔法発動のために必要な情報を確認する。本の冒頭によると……

『魔法は身体の中の魔力を用いて、なにもないところに火や水などを発生させたり、手を触れずにものを動かしたりする力を生むものである』

 とある。なるほど、俺の想像している魔法と違いはなさそうだ。

『そして、魔力を魔法として何らかの現象に変えるには、それをイメージする強い想像力が必要不可欠である』

 ふむふむ、要するに自分にさえ想像もつかないような現象は起こせない、ってことね。

『なにもないところで現象をとっさに想像することは容易ではない。そこで、魔法の発動をより簡易的に行えるように編み出されたのが「詠唱」である。「詠唱」は単にその文言を発すればいいというものではない。例えば、広く使われる火をおこす魔法であれば、自分も炎のゆらめきを表現するようにゆらゆらと身体を揺らしながら詠唱を唱えるのが一般的である』

 ………つまり、自分の体をまるでトイレでも我慢しているかのようにクネクネとさせながら「燃え盛る炎よ…」とかなんとか呪文を唱えろと?

 ………却下だ。そんな恥ずかしいことこの年になってできるか!まぁまだ見た目は4歳だけど。見た目は子供、頭脳は○○な名探偵だって見た目の年相応に砂場でキャッキャと遊んだりはしない。

 それにだ!俺がやってみたいのは◯ラとかメ◯ゾーマであって、大魔王◯ーンは詠唱など唱えなかった。あぁいうカッコいいのをやってみたいんだ!

『しかし、賢者や大魔導師と呼ばれるような高位の魔法術者はこの想像力が卓越しており詠唱を省略して魔法を発動させることができる』

 それだ!なんだ、詠唱なくても行けるんじゃないか!大魔導師はどんなやつかよく知らんが、前世の俺はそれはよく賢者タイムに浸っていたさ!というわけできっと俺はそっち側の人間だ。

 というわけで早速想像力だけで魔法を発動すること試みる俺。うっかり家が消失したら洒落にならんから想像するのは100円ライター程度の弱い炎。

 静電気があたったときのようなバチッとした感覚があったがそれ以降何も起こらない……失敗か。
流石に一発で魔法を成功させられるはずもなく、俺はその後2回挑戦したがやはり静電気止まりだった。

【スキル『日進月歩』の効果により雷魔法Lv1『スタン』を習得しました】

 ……ん?なんか今魔法覚えたな。しかも火と関係ないやつ。

 やってみたかった火魔法ではないが、新しく覚えた魔法を試してみることにしよう。

「スタン!」

 ほんとは魔法の名前すら口にしなくていいんだろうけど、今は一人だし?詠唱とか踊りは嫌だけどこういうのはちょっと楽しそうだ。

 バチッ!

 結構スパークな感じを期待したのに……結局さっきの静電気が起こっただけだった。

 一応ステータスを確認してみると10あったMPが2まで減っているからおそらくさっきの静電気は魔法なんだろう。だとすると、狙い通りじゃなかったにせよ一発で魔法成功できた俺すごくね?

 「魔法学(Ⅰ)」によると魔力が0になるとひどい倦怠感や頭痛に襲われることがあるらしい。俺、この四年くらいずっと0だったんだけどね。まぁ今日のところはこのくらいにして明日また挑戦だ。



 その夜、なぜ火魔法じゃなく雷魔法を覚えたのかしばらくぼーっと考えてみたけど全然わからなかった。ただ、いいことを1つ思いついたから今はちょうどそれを実現できるかの実験中だ。

【スキル『日進月歩』と知性の相乗効果により特技『分析』を習得しました】

 なるほど、こういう結果になるのか。思いついた「いいこと」というのは今の俺のステータスの中で精神力に次いでダントツに高い知性をもっと有効活用出来るんじゃないか、ということだった。

 結果的に特技という形で知性が活かせるならこれは願ったり叶ったりだ。

 ステータスを見ても特技の欄は無いからこれはほんとに「得意なこと」くらいのニュアンスなんだろうな。

 まぁそういうわけで早速さっきと同じようになぜ雷魔法を覚えたのか、ということについて考えてみた。

Q:俺がイメージしたのは火だっただろうか?
A:火だよ!
Q:ほんとか?何をイメージした?
A:そりゃ100円ライターでカチカチやったときのあの小さな炎

…って、あ!

 火をイメージしたつもりがいつの間にかライターをイメージしていて、そのままあのカチカチ(圧電素子というらしい)がそのまま魔法になったのか!

 本に書いてあったとおり、現象を想像するのはたしかに難しいな。


 ーー翌朝ーー

 目が覚めると同時に頭の中のテロップとステータスの変化に気がついた俺。

MP:20

 あれ?倍になった?

【スキル『日進月歩』の効果によりMPが10→20になりました】

 このスキルすげえな……もともとの最大値を倍も超えてくるとは、これがほんとの超回復!

 これで昨日の2倍は練習できるようになった、ってことで早速火魔法を試してみようと思う。ライターじゃだめだったから、今度はマッチでいってみよう。指をパチンと鳴らすとボッと火が出るイメージ……

 ボッ!

 おぉぉ!指先熱っ!でもちゃんと出来た!

【スキル『日進月歩』の効果により火魔法Lv1『火種』を習得しました】

 今度はちゃんと火魔法を覚えることができた。これを皮切りにコツコツ練習していけばいつかきっとメラ○ーマも出せるようになるだろう。 

 そしてステータスを見てみるとMPが17になっていた。……ん?昨日の雷魔法より減りが早いな。
 確か昨日は最初のも入れて計4回、それでMPが8なくなったんだから1回あたり2のMP消費だったはずだ。

 というわけで、分析をフル活用!

 分析先生をフル活用した結果、仮設として魔法の属性と自分の得手不得手によって消費するMPが変わるんじゃないかってことになった。

 よしよし、じゃぁ試してみよう。確か俺の得意な属性は……無?光!風!

 まず……無ってなんだ?分からないから一旦パス!
 次に光……電球が光る感じかな?でもいま昼間だし、分かりにくそうだからこれも一旦パス!
 最後に風……まぁ風なら仮に失敗しても火みたいに大家事になったりすることはないだろう。よし、風いってみよう!

 あとはイメージか、うーん……扇風機?ドライヤー?なんかパッとしないなあ。

 ……………あ!でん○ろう先生が空気砲作ってたじゃん!まぁ「砲」とかついてるけど空気だし?たかが知れてるだろう。

 先に言っておくと、俺はこのときもっと慎重になるべきだった。わざわざ「得意」なんてステータスに書かれてある理由をあまりにも軽く見ていた。

 ……ボン!!

 という爆音とともに庭の塀が吹き飛んだ…


【スキル『日進月歩』の効果により風魔法Lv1『風おこし』を習得しました】
【スキル『日進月歩』の効果により風魔法Lv2『空気砲』を習得しました】

 あわわわ…しまった扇風機にしとけばよかった。
まさか俺がイメージしたのと同じ魔法があったとは…しかもLv2だ。今までの2つと威力の桁が違うぞ。
 肝心のMPはというと……1しか減ってない。これはとんでもないものを覚えてしまったようだ。

 そして庭でアタフタしていると物音に驚いて駆けつけた両親に何があったのかと問いただされた。

 多分しらばっくれればごまかせたんだろうけど、こういうとき素直に謝っちゃうんだよなぁ……
 営業マンたるもの、自分の否は素直に認めて誠実に謝罪!ってやつだ。

 うちの塀吹き飛ばしたんだし、めっちゃ怒られるんだろうなぁと思ってビクビクしながら両親の方を見ると……

「すごいぞ……ほんとに天才だ!」
「すごいわねぇ…」

と逆にめっちゃ感動していた。
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