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第二舞 アルフレートお兄様
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「リゼフィーネ様、アルフレート様が騎士団からお戻りになるようです。」
「えっ!?アルフレートお兄様が!?どうして?」
カリナの言葉に、リラは貴族のマナーも忘れて、カリナに詰め寄りそうになる程動揺した。
無理もないことだ。アルフレートは基本、騎士団本部で見習いを住み込みでしている。だから、余程なことがない限り、ミュンヒハウゼン家の屋敷には戻らないのだ。
「おそらく、旦那様とアルフレート様と仲の良いヒルシュビーゲル公爵家がらみでしょう。仲が悪いわけではないので、リゼフィーネ様は安心してよろしいかと。」
(良かった~。見習い、クビになったわけじゃないんだね!!)
「ですが、ヒルシュビーゲル公爵家にはアルフレート様のご友人がいらっしゃいます。リゼフィーネ様も、ご挨拶はきちんとしてくださいね。」
「えっ!?私も行くの?」
「行かないんですか?リゼフィーネ様は、アルフレート様の行くところなら何処へでも……
「カリナっ!!私は、ブラコンじゃないのっ!!」
カリナの言葉を遮り、否定するリラだが、彼女の言葉にカリナは不思議そうに言った。
「……ぶらこん……?」
「な、なんでもないよっ!!気にしないでね?」
自分の失言に気づいたリラは慌てる。だが、カリナは既に興味を失ったようだ。すぐにに向き直る。
「……はぁ、そうですか。ただ、ヒルシュビーゲル公爵のことですから、2人セットで連れてこいと言いそうですね。」
「……カリナ。私、頭が痛い……。」
_____________
ー夕暮れ前に、アルフレートは帰ってきた。
アルフレートは、リラと同じ金髪にマティアスと同じ銀の瞳だ。彼は騎士見習いとだけあり、十歳とは思えないほど背が高く、体格もしっかりしている。
そんなアルフレートに、リラは懐かしさを感じられずにはいられない。
「お帰りなさいませ!アルフレートお兄様!!騎士団本部での生活はどうですか?剣の腕前は上がりましたか?私、アルフレートお兄様が帰っていらっしゃるのを楽しみにしていたんですよ!」
「ただいま、リラ。喜んでくれるのは嬉しいけど、あまり早口だと聞きとれないよ?……まぁ、でもリラはそのままでもいいと思うけど。とにかく、食堂に行こう、リラ。話しはそこでしよう。」
早口でまくし立てるリラに、アルフレートは苦笑しながら答えた。それだけ、それだけなら良かったのだが……。
彼の表情は、すぐにデレッとした表情に変わっていた。
_____________
久しぶりに5人揃っての食事は、リラにとって、最高のひとときだった。何せ料……アルフレートが帰ってきて、久しぶりの家族全員の食事だからだ。
アルフレートは両親と話をし、誰かさんは料理に夢中になっている……さっきの喜びは何処へいった?
それに、今まで影と化していたメイドが、誰かさんを凄い目で睨みつけているのだが……。
ふと、凄い勢いで話していたオリアンヌが急に申し訳なさそうな顔をして言った。
「言いにくいのだけど、ティア、ヒルシュビーゲル公爵家から招待状が来たの……。」
「別にそこまで、申し訳なさそうな顔をしなくていいぞ?……ティアって呼ぶのが申し訳ないんじゃなかったら。」
マティアスも側にいたリラとアルフレートも、不思議そうな顔をしている。
それもそのはず、二大公爵家であるミュンヒハウゼン家、ヒルシュビーゲル家は初代から仲が良い。もちろん、当代も。だから、何故、オリアンヌがそんな顔をするのか分からないのだ。
だが、三人を見てもオリアンヌの表情は変わることが無く、むしろ、酷くなった。
「……違うのよ。ティアはもちろんだけど、アルと……リラのどちらかを必ず連れて来て欲しいって書いてあるのよ。」
「「はぁ!?」」
マティアスとアルフレートは同時に叫んだ。当の本人はと言うと、反応に困っている。今までこんなことなど無かった為、ヒルシュビーゲル家の考えていることが全く分からないのだ。
(……わ、私?なんで??)
「り、リラ、大丈夫だぞ?まだ、こんなに幼いんだ。社交デビューするには早すぎるからな。リラは無理だって返信しておく。それに、アルフレートがいるんだ。それで大丈夫だろう。」
(だ、だよね……。良かったぁ~。)
だが、そう、思う様にはいかなかった。
「父上、母上、リラっ!申し訳ありません!!明後日は、ヒルシュビーゲル公爵家に行くことが出来ません!!」
アルフレートは土下座せん勢いで、三人に向かって謝罪した。予想外の出来事に、彼らは声を上げずにはいられない。
「どうしてなの?」
「何でですか!?」
「何故だ!!」
「……実は、一月前に城内で模擬戦をやるから一緒にやらないかと友人に誘われていて。」
アルフレートはしては、聞き取り辛い、かろうじて聞こえる声で言った。
それがしゃくに触ったのか、マティアスは声を荒げる。その顔は、それぐらいで行けないとか言うな!この馬鹿息子がっ!!と言っている。
「何だと?そんなもの、断ればいいだろうっ!!」
アルフレートは、父親の迫力に負けそうになるが、なんとか声を絞り出す。
「……で、ですが、その友人というのが……第一王子のブルグハルト・ヴェルナー・リンレスホラント様なんです……。」
ー数秒の沈黙。
「はぁぁぁぁあっっ!!」
「あら、凄いわね~。」
「お兄様ぁっ!?いつの間にっ!?」
「そう言うことをなんで、早く俺に言わないんだ!!」
マティアスは聞き捨てならないことを聞いて、血管が滲み出そうな程、真っ赤になる。
その横では、リラがその迫力に圧倒されているのだが、彼は興奮し過ぎて気付かない。
「……友人になったのはつい最近ですし、直接言った方がいいと思ったので……。」
「……そうか。仕方ない、今回は断ろう。」
マティアスは手をヒラヒラと天を仰いで、どこか遠い目をした。なんだか、上の空だ。
息子が、王子の友人だったと言うことへの衝撃が大きすぎたのだ。まぁ、彼が愛娘を他所にやりたく無いからと言うのもあったが。
「それはやめた方がいいわ。」
即座に止めるオリアンヌは、頬に手を当てる。その姿は困ったわと言わんばかりだが、マティアスだけはこの状況を楽しんでいるのに気付いた。
(……おい、アン……。)
「……まだ、何かあるのか……。」
マティアスは、深くため息を吐いた。
それは、妻には頭が上がらないことへの諦めでもあった。
「今回、ちゃんとした理由がない限り、断ったら……。」
「断ったら?」
「リラと、ヒルシュビーゲル公爵家次期当主と婚約させるって書いてあるわ。」
「はっ、何を言っているんだ?婚約は、お互いが同意しないと成立しないんだぞ?」
「……何か考えがあるんじゃないかしら?」
「ったく、あの古狸め!!」
( ふ、古狸!?そんなこと言っていいの!? )
リラが、父親の突然の豹変に戸惑っていると、アルフレートがリラの方を見て言った。
「リラはどうなんだい?嫌ならもちろん断るけど……。」
( う~ん、初対面の人との挨拶って緊張するけど、お父様とお兄様の親しい人なら大丈夫だよね!よし!!)
「私、喜んで、お父様とヒルシュビーゲル公爵家に挨拶に行きます!」
_____________
朝、リラが身支度を終え、朝食を食べていると、コンコンと扉を叩く音がした。
「私が開けてまいります。」
カリナが、ドアの方へ向かった。入ってきたのはオリアンヌだった。彼女は弾む様な声で言った。
「リラ♪早速始めるわよ!」
「えっ?何をですか?」
「挨拶に行く為の淑女教育に決まってるじゃないの。リラには社交はまだ早いと思ってたから、まだしてなかったの。だけど、今日一日で、基礎は叩き込むから覚悟してね♪」
ニッコリと微笑むオリアンヌ。だが、その顔には言葉では言い尽くせない、何かがあった。
( ひぃぃ、お母様がスパルタだぁ~!? )
それから、日が暮れるまでリラは、アンゲリカに礼儀作法、立ち振る舞い、テーブルマナー、ありとあらゆることを叩き込まれた。
特に昼食中は、テーブルマナーをダメ出しされたりして、料理の味を感じるひまもなかった。
彼女は、ある程度までは出来るのだが、他所に出すにはまだまだだった為、こんなことになってしまったのだ。
見るからにげっそりしているリラを見て、カリナが声を掛ける。
「しっかりしてくださいませ。今日は、あれだけ頑張ったんですから、明日はきっと大丈夫でしょう。今日は、アルフレート様との最後のご夕食なんですから、笑ってくださいな。そのようなお顔をさせては、アルフレート様が心配されますよ。」
リラはカリナの言葉を聞き、一気に元に戻る。
( そうだよ!もし、私がお兄様の前で、そんな顔をしてたらお兄様が絶対心配する!!お兄様に絶対心配なんてかけたくない!!)
_____________
リラは席に着くなり、今日教わったテーブルマナーを必死になって復習していた。
( う~ん、確かナイフは、こう持って、フォークはこうだよね。よし!大丈夫!大体全部覚えてる!! )
リラは今日一日、オリアンヌのスパルタ淑女教育を受けた。そのおかげでテーブルマナーも人並み程度には、出来るようになった。
だが、それとは話が別。リラは少し緊張しながら、食事に手をつける。
しばらく横目で見ていたマティアスが、リラを見て、目を見張る。
「リゼフィーネ、どうしたんだ?テーブルマナーが……?一日でこんなに変わるものなのか?」
リラは、喜びで飛び跳ねてしまいたくなった。それをなんとか堪えて、彼女は答える。
「はい!お母様が、教えてくださったおかげで、少し上達しました!でも、それなりに大変でしたね。」
リラは、最後の方は軽く肩を竦めておどけてみせた。
「そうだろうとも……アンは、こう見えても人に教えるとなると、かなり厳しいからな……。」
過去にそう言う経験があるらしく、苦々しくマティアスが呟く。
「まぁっ!あのときは、時間が無かったから少し厳しくしただけじゃない!!失礼しちゃうわ!」
マティアスの言葉に膨れっ面で反論するオリアンヌ。普段、絶対にそんなことはしないはずの彼女のその顔を見て、三人は笑いを堪えきれず、吹き出した。
「ふぐっ……。」
「ブッ……。」
「は、母上っ……アハハッッ!!」
アルフレートが堪えきれず、爆笑する。もちろん、これに、オリアンヌが何も言わないはずが無い。
「アルっ!今、笑ったわねっ!!」
オリアンヌはキッと目をつり上げる。
だが、アルフレートの笑い声は止まらないどころか勢いを増した。
やがて、その笑い声につられて、リラとマティアス、ついにはオリアンヌまでもが笑う。
ーその光景は暖かい、その一言に尽きる。
それを見て、彼女は微笑み、呟く。
「暖かい、ですね……。」
気が付けば彼女は、見守る様な暖かい視線を向けていた。
_____________
更新遅れてすみません!!
待って下さった方、本当に申し訳ないです……!
「えっ!?アルフレートお兄様が!?どうして?」
カリナの言葉に、リラは貴族のマナーも忘れて、カリナに詰め寄りそうになる程動揺した。
無理もないことだ。アルフレートは基本、騎士団本部で見習いを住み込みでしている。だから、余程なことがない限り、ミュンヒハウゼン家の屋敷には戻らないのだ。
「おそらく、旦那様とアルフレート様と仲の良いヒルシュビーゲル公爵家がらみでしょう。仲が悪いわけではないので、リゼフィーネ様は安心してよろしいかと。」
(良かった~。見習い、クビになったわけじゃないんだね!!)
「ですが、ヒルシュビーゲル公爵家にはアルフレート様のご友人がいらっしゃいます。リゼフィーネ様も、ご挨拶はきちんとしてくださいね。」
「えっ!?私も行くの?」
「行かないんですか?リゼフィーネ様は、アルフレート様の行くところなら何処へでも……
「カリナっ!!私は、ブラコンじゃないのっ!!」
カリナの言葉を遮り、否定するリラだが、彼女の言葉にカリナは不思議そうに言った。
「……ぶらこん……?」
「な、なんでもないよっ!!気にしないでね?」
自分の失言に気づいたリラは慌てる。だが、カリナは既に興味を失ったようだ。すぐにに向き直る。
「……はぁ、そうですか。ただ、ヒルシュビーゲル公爵のことですから、2人セットで連れてこいと言いそうですね。」
「……カリナ。私、頭が痛い……。」
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ー夕暮れ前に、アルフレートは帰ってきた。
アルフレートは、リラと同じ金髪にマティアスと同じ銀の瞳だ。彼は騎士見習いとだけあり、十歳とは思えないほど背が高く、体格もしっかりしている。
そんなアルフレートに、リラは懐かしさを感じられずにはいられない。
「お帰りなさいませ!アルフレートお兄様!!騎士団本部での生活はどうですか?剣の腕前は上がりましたか?私、アルフレートお兄様が帰っていらっしゃるのを楽しみにしていたんですよ!」
「ただいま、リラ。喜んでくれるのは嬉しいけど、あまり早口だと聞きとれないよ?……まぁ、でもリラはそのままでもいいと思うけど。とにかく、食堂に行こう、リラ。話しはそこでしよう。」
早口でまくし立てるリラに、アルフレートは苦笑しながら答えた。それだけ、それだけなら良かったのだが……。
彼の表情は、すぐにデレッとした表情に変わっていた。
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久しぶりに5人揃っての食事は、リラにとって、最高のひとときだった。何せ料……アルフレートが帰ってきて、久しぶりの家族全員の食事だからだ。
アルフレートは両親と話をし、誰かさんは料理に夢中になっている……さっきの喜びは何処へいった?
それに、今まで影と化していたメイドが、誰かさんを凄い目で睨みつけているのだが……。
ふと、凄い勢いで話していたオリアンヌが急に申し訳なさそうな顔をして言った。
「言いにくいのだけど、ティア、ヒルシュビーゲル公爵家から招待状が来たの……。」
「別にそこまで、申し訳なさそうな顔をしなくていいぞ?……ティアって呼ぶのが申し訳ないんじゃなかったら。」
マティアスも側にいたリラとアルフレートも、不思議そうな顔をしている。
それもそのはず、二大公爵家であるミュンヒハウゼン家、ヒルシュビーゲル家は初代から仲が良い。もちろん、当代も。だから、何故、オリアンヌがそんな顔をするのか分からないのだ。
だが、三人を見てもオリアンヌの表情は変わることが無く、むしろ、酷くなった。
「……違うのよ。ティアはもちろんだけど、アルと……リラのどちらかを必ず連れて来て欲しいって書いてあるのよ。」
「「はぁ!?」」
マティアスとアルフレートは同時に叫んだ。当の本人はと言うと、反応に困っている。今までこんなことなど無かった為、ヒルシュビーゲル家の考えていることが全く分からないのだ。
(……わ、私?なんで??)
「り、リラ、大丈夫だぞ?まだ、こんなに幼いんだ。社交デビューするには早すぎるからな。リラは無理だって返信しておく。それに、アルフレートがいるんだ。それで大丈夫だろう。」
(だ、だよね……。良かったぁ~。)
だが、そう、思う様にはいかなかった。
「父上、母上、リラっ!申し訳ありません!!明後日は、ヒルシュビーゲル公爵家に行くことが出来ません!!」
アルフレートは土下座せん勢いで、三人に向かって謝罪した。予想外の出来事に、彼らは声を上げずにはいられない。
「どうしてなの?」
「何でですか!?」
「何故だ!!」
「……実は、一月前に城内で模擬戦をやるから一緒にやらないかと友人に誘われていて。」
アルフレートはしては、聞き取り辛い、かろうじて聞こえる声で言った。
それがしゃくに触ったのか、マティアスは声を荒げる。その顔は、それぐらいで行けないとか言うな!この馬鹿息子がっ!!と言っている。
「何だと?そんなもの、断ればいいだろうっ!!」
アルフレートは、父親の迫力に負けそうになるが、なんとか声を絞り出す。
「……で、ですが、その友人というのが……第一王子のブルグハルト・ヴェルナー・リンレスホラント様なんです……。」
ー数秒の沈黙。
「はぁぁぁぁあっっ!!」
「あら、凄いわね~。」
「お兄様ぁっ!?いつの間にっ!?」
「そう言うことをなんで、早く俺に言わないんだ!!」
マティアスは聞き捨てならないことを聞いて、血管が滲み出そうな程、真っ赤になる。
その横では、リラがその迫力に圧倒されているのだが、彼は興奮し過ぎて気付かない。
「……友人になったのはつい最近ですし、直接言った方がいいと思ったので……。」
「……そうか。仕方ない、今回は断ろう。」
マティアスは手をヒラヒラと天を仰いで、どこか遠い目をした。なんだか、上の空だ。
息子が、王子の友人だったと言うことへの衝撃が大きすぎたのだ。まぁ、彼が愛娘を他所にやりたく無いからと言うのもあったが。
「それはやめた方がいいわ。」
即座に止めるオリアンヌは、頬に手を当てる。その姿は困ったわと言わんばかりだが、マティアスだけはこの状況を楽しんでいるのに気付いた。
(……おい、アン……。)
「……まだ、何かあるのか……。」
マティアスは、深くため息を吐いた。
それは、妻には頭が上がらないことへの諦めでもあった。
「今回、ちゃんとした理由がない限り、断ったら……。」
「断ったら?」
「リラと、ヒルシュビーゲル公爵家次期当主と婚約させるって書いてあるわ。」
「はっ、何を言っているんだ?婚約は、お互いが同意しないと成立しないんだぞ?」
「……何か考えがあるんじゃないかしら?」
「ったく、あの古狸め!!」
( ふ、古狸!?そんなこと言っていいの!? )
リラが、父親の突然の豹変に戸惑っていると、アルフレートがリラの方を見て言った。
「リラはどうなんだい?嫌ならもちろん断るけど……。」
( う~ん、初対面の人との挨拶って緊張するけど、お父様とお兄様の親しい人なら大丈夫だよね!よし!!)
「私、喜んで、お父様とヒルシュビーゲル公爵家に挨拶に行きます!」
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朝、リラが身支度を終え、朝食を食べていると、コンコンと扉を叩く音がした。
「私が開けてまいります。」
カリナが、ドアの方へ向かった。入ってきたのはオリアンヌだった。彼女は弾む様な声で言った。
「リラ♪早速始めるわよ!」
「えっ?何をですか?」
「挨拶に行く為の淑女教育に決まってるじゃないの。リラには社交はまだ早いと思ってたから、まだしてなかったの。だけど、今日一日で、基礎は叩き込むから覚悟してね♪」
ニッコリと微笑むオリアンヌ。だが、その顔には言葉では言い尽くせない、何かがあった。
( ひぃぃ、お母様がスパルタだぁ~!? )
それから、日が暮れるまでリラは、アンゲリカに礼儀作法、立ち振る舞い、テーブルマナー、ありとあらゆることを叩き込まれた。
特に昼食中は、テーブルマナーをダメ出しされたりして、料理の味を感じるひまもなかった。
彼女は、ある程度までは出来るのだが、他所に出すにはまだまだだった為、こんなことになってしまったのだ。
見るからにげっそりしているリラを見て、カリナが声を掛ける。
「しっかりしてくださいませ。今日は、あれだけ頑張ったんですから、明日はきっと大丈夫でしょう。今日は、アルフレート様との最後のご夕食なんですから、笑ってくださいな。そのようなお顔をさせては、アルフレート様が心配されますよ。」
リラはカリナの言葉を聞き、一気に元に戻る。
( そうだよ!もし、私がお兄様の前で、そんな顔をしてたらお兄様が絶対心配する!!お兄様に絶対心配なんてかけたくない!!)
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リラは席に着くなり、今日教わったテーブルマナーを必死になって復習していた。
( う~ん、確かナイフは、こう持って、フォークはこうだよね。よし!大丈夫!大体全部覚えてる!! )
リラは今日一日、オリアンヌのスパルタ淑女教育を受けた。そのおかげでテーブルマナーも人並み程度には、出来るようになった。
だが、それとは話が別。リラは少し緊張しながら、食事に手をつける。
しばらく横目で見ていたマティアスが、リラを見て、目を見張る。
「リゼフィーネ、どうしたんだ?テーブルマナーが……?一日でこんなに変わるものなのか?」
リラは、喜びで飛び跳ねてしまいたくなった。それをなんとか堪えて、彼女は答える。
「はい!お母様が、教えてくださったおかげで、少し上達しました!でも、それなりに大変でしたね。」
リラは、最後の方は軽く肩を竦めておどけてみせた。
「そうだろうとも……アンは、こう見えても人に教えるとなると、かなり厳しいからな……。」
過去にそう言う経験があるらしく、苦々しくマティアスが呟く。
「まぁっ!あのときは、時間が無かったから少し厳しくしただけじゃない!!失礼しちゃうわ!」
マティアスの言葉に膨れっ面で反論するオリアンヌ。普段、絶対にそんなことはしないはずの彼女のその顔を見て、三人は笑いを堪えきれず、吹き出した。
「ふぐっ……。」
「ブッ……。」
「は、母上っ……アハハッッ!!」
アルフレートが堪えきれず、爆笑する。もちろん、これに、オリアンヌが何も言わないはずが無い。
「アルっ!今、笑ったわねっ!!」
オリアンヌはキッと目をつり上げる。
だが、アルフレートの笑い声は止まらないどころか勢いを増した。
やがて、その笑い声につられて、リラとマティアス、ついにはオリアンヌまでもが笑う。
ーその光景は暖かい、その一言に尽きる。
それを見て、彼女は微笑み、呟く。
「暖かい、ですね……。」
気が付けば彼女は、見守る様な暖かい視線を向けていた。
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更新遅れてすみません!!
待って下さった方、本当に申し訳ないです……!
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