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第23話 新勇者召喚
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アオイは抑揚のない声音で、ザウエルに向かい言葉を紡ぐ。その表情はこわばっていた。
「……もう1度言ってちょうだい、大魔導師ザウエル」
「はぁ……。何度聞いても同じですけど。『リューム・ナアド神聖国』は、新たな勇者を召喚したそうです。自国と周辺各国に、大々的に報じています。『悪逆無道な新魔王を討伐し、この世界に平和と安寧をもたらさんがため』だそうですよ。魔王様の存在は知れても、その御名までは知りえなかったようですが。
ちなみに『先代勇者アオイ・カンナは、新魔王出現の報が届くより前に、残念ながら元の世界に帰還してしまったため、やむなく新たな勇者を召喚するに至った』らしいですよ。ぬけぬけと、まあ……」
ここはいつもの新生魔王軍本部基地司令室である。今ここには、新生魔王軍の幹部が勢揃いしていた。ここにいる幹部たちは、皆が『リューム・ナアド神聖国』からアオイが受けた仕打ちを知っている。
まず最初に激昂したのは、怨霊将たる伊豆見鉄之丞である。彼もまた『リューム・ナアド神聖国』に使い捨てにされた元勇者であり、同国に対し深く深く怨みを抱いていた。
『おのれ怨敵『りゅうむ・なあど神聖国』めが!! 絶対にただでは済まさぬぞ!!』
「落ち着かぬか、怨霊将殿。怒りにまかせては、勝てる戦いも勝てなくなるぞ。無論わしとて、良い気持ちはせぬ。
親衛隊長殿……勇者アオイ殿は、勇敢な武人である。かつては敵同士であったが、尊敬できる好敵手であった。それを使い捨てにして暗殺未遂の果てに、このような……。たしかに腹に据えかねる。
だが、準備が整わぬうちに討ち入りすることはできぬ。それは何度も話し合ったであろう?」
魔獣将ガウルグルクが、鉄之丞を宥める。だがその脚が苛立たし気に、貧乏ゆすりのごとく揺れていた。明らかに、不機嫌な様子である。鉄之丞もまた、未だ腹を立てている様子であったが、渋々と矛を収めた。
ここで魔竜将オルトラムゥが、口を挟んだ。ちなみに無論のこと、『パペット』の魔法で傀儡に意識を移しての会議参加だ。
『だが、どうするよ? 新たな勇者とやらが人類の領域で、粘菌やら獣やら、こちらの制御下にない魔物を相手にしてる間はいいとして、だ。アーカル大陸の戦線にやってきたり、はたまたここバルゾラ大陸に攻め込んできたら、よ』
「わたしは勇者として活動してたとき、コンザウ大陸を出るまでに2年かかった。あの大陸はそれだけ広いし、召喚直後は自分の……勇者の力を上手くコントロールできなくて訓練の必要があったから……。
今回の勇者も、たぶん短く見積もっても1年はコンザウ大陸を出られないと思う」
アオイが少しばかり考え込みながら言った。その右拳は固く握りしめられており、そのため血の気が引いて真っ白になっている。
わたしは幹部たちが話し合うのを見つつ、黙考していた。そして、同時に少しばかり悔やんでもいた。
もし先んじてわたしが単身『リューム・ナアド神聖国』へ攻撃をかけていたならば、どうだったろうか。たとえば、せめて勇者召喚の魔法陣を破壊していれば、新たな勇者は召喚されなかったのではないだろうか。
わたしの様子を見て取ったか、魔像将である強化型の戦闘ドロイド、ゼロが話しかけてきた。
「魔王様、イカガナサイマシタカ?」
「ん? いや、わたしが単身『リューム・ナアド神聖国』に先制攻撃を仕掛けていたら、どうなっていたかと思ってな。そうすればこんな事態は防げたのでは、とちょっとばかり考えてしまったんだ。
王族と神官たち、それに勇者パーティーの面々の首印はアオイと鉄之丞のために預けておくとしても、な。せめて勇者召喚魔法陣を始末するぐらいはできていたのでは、と……」
「ナルホド……。デスガ、ソレハ後知恵トイウモノデゴザイマス」
「……言う様になったな、貴様?」
なんて言うか、人工知能とは思えない。
「ソノヨウナ考エハ、下手ノ考エ休ムニ似タリ、デス。ソレヨリハ前向キに対処スル術ヲ検討スベキカト」
「うわ、ホントに言う様になったよ、こいつ。まあ、確かに貴様の言う通りだな。よし! 方針を決めたぞ」
「いかがなさいますか?」
ザウエルが一同を代表する形で聞いてくる。わたしは皆の顔を見回して、口を開いた。
「わたしはその勇者もまた、我が陣営に招きたく思う。どうかな諸君?」
「「「「『『!!』』」」」」
一同は、皆驚きの表情になった。だがその中でもアオイは、一瞬感謝の色をその瞳に浮かべる。やはり同じ境遇の被害者と戦うのは、躊躇があったのだろう。わたしはアオイに頷いてみせてから、ザウエルに問う。
「で、その新たな勇者の名前は判っているのかね?」
「は。魔王様や親衛隊長殿の故郷の世界で言う、『漢字』とやらでの書き方は判っておりません。ですが名前自体は広く流布されていますので。
その名は、『ミズホ・クオン』だそうです。見た目は人間族の年齢で10代前半の女児ですね」
わたしとアオイは、異口同音に呟いた。
「「勇者ミズホ……」」
再度頷いたわたしは、ザウエルに命じる。
「ザウエル、勇者ミズホに関する情報を、細大漏らさず収集して欲しい。できれば性格や性質など、人格面に関する情報が必要だね。可能ならば、勇者ミズホがコンザウ大陸を出るまでに。その情報をもとにして、彼女をこちらへ取り込む手立てを考えよう」
「了解いたしました。早速、部下に指示を出してきます。ではこれにて」
「頼んだよ」
ザウエルが司令室を出ていく。それを見送りつつ、わたしはアオイの頭に手を置いて、ゆっくりと撫でた。掌の感触から、アオイの緊張がゆっくりと解けていくのがわかる。
さて、勇者ミズホをどの様にして味方に引き入れようか。わたしは色々と頭の中で検討を始めた。
「……もう1度言ってちょうだい、大魔導師ザウエル」
「はぁ……。何度聞いても同じですけど。『リューム・ナアド神聖国』は、新たな勇者を召喚したそうです。自国と周辺各国に、大々的に報じています。『悪逆無道な新魔王を討伐し、この世界に平和と安寧をもたらさんがため』だそうですよ。魔王様の存在は知れても、その御名までは知りえなかったようですが。
ちなみに『先代勇者アオイ・カンナは、新魔王出現の報が届くより前に、残念ながら元の世界に帰還してしまったため、やむなく新たな勇者を召喚するに至った』らしいですよ。ぬけぬけと、まあ……」
ここはいつもの新生魔王軍本部基地司令室である。今ここには、新生魔王軍の幹部が勢揃いしていた。ここにいる幹部たちは、皆が『リューム・ナアド神聖国』からアオイが受けた仕打ちを知っている。
まず最初に激昂したのは、怨霊将たる伊豆見鉄之丞である。彼もまた『リューム・ナアド神聖国』に使い捨てにされた元勇者であり、同国に対し深く深く怨みを抱いていた。
『おのれ怨敵『りゅうむ・なあど神聖国』めが!! 絶対にただでは済まさぬぞ!!』
「落ち着かぬか、怨霊将殿。怒りにまかせては、勝てる戦いも勝てなくなるぞ。無論わしとて、良い気持ちはせぬ。
親衛隊長殿……勇者アオイ殿は、勇敢な武人である。かつては敵同士であったが、尊敬できる好敵手であった。それを使い捨てにして暗殺未遂の果てに、このような……。たしかに腹に据えかねる。
だが、準備が整わぬうちに討ち入りすることはできぬ。それは何度も話し合ったであろう?」
魔獣将ガウルグルクが、鉄之丞を宥める。だがその脚が苛立たし気に、貧乏ゆすりのごとく揺れていた。明らかに、不機嫌な様子である。鉄之丞もまた、未だ腹を立てている様子であったが、渋々と矛を収めた。
ここで魔竜将オルトラムゥが、口を挟んだ。ちなみに無論のこと、『パペット』の魔法で傀儡に意識を移しての会議参加だ。
『だが、どうするよ? 新たな勇者とやらが人類の領域で、粘菌やら獣やら、こちらの制御下にない魔物を相手にしてる間はいいとして、だ。アーカル大陸の戦線にやってきたり、はたまたここバルゾラ大陸に攻め込んできたら、よ』
「わたしは勇者として活動してたとき、コンザウ大陸を出るまでに2年かかった。あの大陸はそれだけ広いし、召喚直後は自分の……勇者の力を上手くコントロールできなくて訓練の必要があったから……。
今回の勇者も、たぶん短く見積もっても1年はコンザウ大陸を出られないと思う」
アオイが少しばかり考え込みながら言った。その右拳は固く握りしめられており、そのため血の気が引いて真っ白になっている。
わたしは幹部たちが話し合うのを見つつ、黙考していた。そして、同時に少しばかり悔やんでもいた。
もし先んじてわたしが単身『リューム・ナアド神聖国』へ攻撃をかけていたならば、どうだったろうか。たとえば、せめて勇者召喚の魔法陣を破壊していれば、新たな勇者は召喚されなかったのではないだろうか。
わたしの様子を見て取ったか、魔像将である強化型の戦闘ドロイド、ゼロが話しかけてきた。
「魔王様、イカガナサイマシタカ?」
「ん? いや、わたしが単身『リューム・ナアド神聖国』に先制攻撃を仕掛けていたら、どうなっていたかと思ってな。そうすればこんな事態は防げたのでは、とちょっとばかり考えてしまったんだ。
王族と神官たち、それに勇者パーティーの面々の首印はアオイと鉄之丞のために預けておくとしても、な。せめて勇者召喚魔法陣を始末するぐらいはできていたのでは、と……」
「ナルホド……。デスガ、ソレハ後知恵トイウモノデゴザイマス」
「……言う様になったな、貴様?」
なんて言うか、人工知能とは思えない。
「ソノヨウナ考エハ、下手ノ考エ休ムニ似タリ、デス。ソレヨリハ前向キに対処スル術ヲ検討スベキカト」
「うわ、ホントに言う様になったよ、こいつ。まあ、確かに貴様の言う通りだな。よし! 方針を決めたぞ」
「いかがなさいますか?」
ザウエルが一同を代表する形で聞いてくる。わたしは皆の顔を見回して、口を開いた。
「わたしはその勇者もまた、我が陣営に招きたく思う。どうかな諸君?」
「「「「『『!!』』」」」」
一同は、皆驚きの表情になった。だがその中でもアオイは、一瞬感謝の色をその瞳に浮かべる。やはり同じ境遇の被害者と戦うのは、躊躇があったのだろう。わたしはアオイに頷いてみせてから、ザウエルに問う。
「で、その新たな勇者の名前は判っているのかね?」
「は。魔王様や親衛隊長殿の故郷の世界で言う、『漢字』とやらでの書き方は判っておりません。ですが名前自体は広く流布されていますので。
その名は、『ミズホ・クオン』だそうです。見た目は人間族の年齢で10代前半の女児ですね」
わたしとアオイは、異口同音に呟いた。
「「勇者ミズホ……」」
再度頷いたわたしは、ザウエルに命じる。
「ザウエル、勇者ミズホに関する情報を、細大漏らさず収集して欲しい。できれば性格や性質など、人格面に関する情報が必要だね。可能ならば、勇者ミズホがコンザウ大陸を出るまでに。その情報をもとにして、彼女をこちらへ取り込む手立てを考えよう」
「了解いたしました。早速、部下に指示を出してきます。ではこれにて」
「頼んだよ」
ザウエルが司令室を出ていく。それを見送りつつ、わたしはアオイの頭に手を置いて、ゆっくりと撫でた。掌の感触から、アオイの緊張がゆっくりと解けていくのがわかる。
さて、勇者ミズホをどの様にして味方に引き入れようか。わたしは色々と頭の中で検討を始めた。
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◇◆◇◆◇◆◇◆◇
――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。
しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。
自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。
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