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第26話 新勇者パーティー
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わたしは居住まいを正し、人類諸国に対しての情報収集を一手に引き受けているザウエルへと顔を向ける。
「さて、次は懸念の新勇者に関してだ。魔道軍団には色々と、無理を頼んで申し訳ないとは思っているが……。ザウエル、諜報員からの報告は上がっているかね?」
ザウエルが徐に、苦笑しつつ口を開いた。
「新勇者に関する情報は、多少ですが上がって来てますね。まあ、僕もわかってはいるんです。僕のところ、魔道軍団でなければできない仕事ばかりだと言うのは……」
『死霊軍団にも諜報活動や頭脳労働ができる者は、いなくもないがのう。何であれば、それがしのところから人員を貸し出して、おぬしに助力させても良いが?』
「お気持ちだけ、有難く受け取っておきますよ、怨霊将殿。頭脳労働ができる者がいるとは言っても、数はそう多くないはずです。それら死霊軍団の文字通り頭脳を引き抜いてしまっては、死霊軍団の方が機能不全を起こしかねません。それは本意ではありませんよ」
ザウエルは鉄之丞の申し出を感謝しつつ断り、報告を開始する。
「さて、新勇者に関して、新たな情報はさほど多くはありません。ですが新勇者一行のメンバーが判明いたしました。国一番の練達の戦士であるジャン・ブラッドバーン男爵。新進気鋭の宮廷魔道士、エセルバート・クレリヒュー。そして最も神の加護ある神官と謳われているディンク・ジェレマイア司祭。
いずれもかつて親衛隊長殿……勇者アオイ・カンナ殿のパーティーメンバーとして先代魔王ゾーラムを討った、超人的な実力者たちばかりだそうです」
「!!」
アオイの顔が、怒りに歪む。
「ジャンは男爵なんかじゃなくて一介の傭兵だった。エセルバートは才能はあったけど、駆け出しの何の地位もない魔法使いに過ぎなかった。ディンクも司祭じゃない、最下級の神官だった……」
「表向き、魔王討伐の褒章として出世したらしいですがね。間違いなく……」
「間違いなく、アオイを暗殺した報酬と言うわけだね」
ザウエルの台詞に、わたしは被せる様に言った。自分でもちょっと驚いたことに、その声は不機嫌そうにわたし自身の耳に響く。ザウエルは頷いた。わたしはちょっと考え、彼に訊ねる。
「アオイのパーティーメンバーだった彼らを新勇者ミズホに付けてきたと言う事は、もしかして二匹目の泥鰌を狙っているのかな」
「おそらく。魔王様を倒したら、新勇者ミズホの隙を突いて殺してしまうつもりでしょうね。アオイ殿の時と同じく」
「そうか……。ふうん……」
ふと気づくと、ザウエル、オルトラムゥの意識が宿った傀儡人形、ガウルグルク、鉄之丞、おまけに書記の魔道士ブライアンが大きく後ずさりをしていた。下がっていないのは、アオイとゼロだ。わたしは怪訝そうな声音で後ずさりした彼らに訊ねる。
「……なんで下がってるんだい? わたしなにかしたかね」
「む、無意識だったんですか?」
『魔王様、自分で気づいてなかったのか……?』
「もの凄い殺気でしたぞ?」
『霊体であるこの身には、怒気と同時に漏れ出たあの霊圧は、少々こたえましたぞ』
「あー、それは……。なんかすまなかったね」
そうか、つい怒気が漏れたか。アオイの心情とか考えると、元勇者パーティーメンバーにはイラッと来たからなあ。ゼロは魂の無い戦闘ドロイドだからそう言った物を感じ取るのは難しいし、それで下がらなかったのか。でもアオイはなんでだろう?と、そのアオイが口を開く。
「魔王様、ありがとう」
「ん? なんでかね?」
「怒ってくれて」
あー、なるほど。わたしは照れ隠しに、右手人差し指の爪でこめかみの生体装甲板をガリガリと掻く。
「あー、うん。どういたしまして、だね。それでだ。新勇者の一行については監視を怠らないようにしてくれるかな?ザウエル」
「はい、専属の班を編成して、事に当たらせています。あとは変身魔法を持つ者を使い、人間のふりをして現地の犯罪組織に接触させ、そちらから情報を入手したりもしています。予算は少々かかりますが……」
「諜報予算はケチるつもりは無い。収支報告さえしっかりしてくれれば、湯水のように使ってもかまわないよ。資金に余裕はあるからね。貴金属は大量に錬金した」
「ありがとうございます」
しかし新勇者のパーティーをどうすべきかね。まさか、真正面から新勇者を説得しても聞いてくれるとは思えないし。アオイに説得してもらう?いやそれでも不安だな。新勇者の性格もまだ判っていない。ここは腰を据えて、じっくり考えるかな。
おや?議事録を頼んだ、魔道士ブライアンの様子がおかしい。
「どうしたかね?」
「ひっ! あ、い、いいえ何でもありません!」
あー。さっきの怒気が漏れたので、まだ怯えてたのか。かわいそうなこと、しちゃったな。あー、足腰ががくがくいってるよ。やむをえん、この会議が終わったら解放してやるとしよう。結局彼も、会議1回しか保たなかったなあ……。
次の会議で、議事録取る書記役は、誰に頼もうかな。毎回1人、魔道士を潰してたら割に合わないよ。なんとかしないとなあ。
「さて、次は懸念の新勇者に関してだ。魔道軍団には色々と、無理を頼んで申し訳ないとは思っているが……。ザウエル、諜報員からの報告は上がっているかね?」
ザウエルが徐に、苦笑しつつ口を開いた。
「新勇者に関する情報は、多少ですが上がって来てますね。まあ、僕もわかってはいるんです。僕のところ、魔道軍団でなければできない仕事ばかりだと言うのは……」
『死霊軍団にも諜報活動や頭脳労働ができる者は、いなくもないがのう。何であれば、それがしのところから人員を貸し出して、おぬしに助力させても良いが?』
「お気持ちだけ、有難く受け取っておきますよ、怨霊将殿。頭脳労働ができる者がいるとは言っても、数はそう多くないはずです。それら死霊軍団の文字通り頭脳を引き抜いてしまっては、死霊軍団の方が機能不全を起こしかねません。それは本意ではありませんよ」
ザウエルは鉄之丞の申し出を感謝しつつ断り、報告を開始する。
「さて、新勇者に関して、新たな情報はさほど多くはありません。ですが新勇者一行のメンバーが判明いたしました。国一番の練達の戦士であるジャン・ブラッドバーン男爵。新進気鋭の宮廷魔道士、エセルバート・クレリヒュー。そして最も神の加護ある神官と謳われているディンク・ジェレマイア司祭。
いずれもかつて親衛隊長殿……勇者アオイ・カンナ殿のパーティーメンバーとして先代魔王ゾーラムを討った、超人的な実力者たちばかりだそうです」
「!!」
アオイの顔が、怒りに歪む。
「ジャンは男爵なんかじゃなくて一介の傭兵だった。エセルバートは才能はあったけど、駆け出しの何の地位もない魔法使いに過ぎなかった。ディンクも司祭じゃない、最下級の神官だった……」
「表向き、魔王討伐の褒章として出世したらしいですがね。間違いなく……」
「間違いなく、アオイを暗殺した報酬と言うわけだね」
ザウエルの台詞に、わたしは被せる様に言った。自分でもちょっと驚いたことに、その声は不機嫌そうにわたし自身の耳に響く。ザウエルは頷いた。わたしはちょっと考え、彼に訊ねる。
「アオイのパーティーメンバーだった彼らを新勇者ミズホに付けてきたと言う事は、もしかして二匹目の泥鰌を狙っているのかな」
「おそらく。魔王様を倒したら、新勇者ミズホの隙を突いて殺してしまうつもりでしょうね。アオイ殿の時と同じく」
「そうか……。ふうん……」
ふと気づくと、ザウエル、オルトラムゥの意識が宿った傀儡人形、ガウルグルク、鉄之丞、おまけに書記の魔道士ブライアンが大きく後ずさりをしていた。下がっていないのは、アオイとゼロだ。わたしは怪訝そうな声音で後ずさりした彼らに訊ねる。
「……なんで下がってるんだい? わたしなにかしたかね」
「む、無意識だったんですか?」
『魔王様、自分で気づいてなかったのか……?』
「もの凄い殺気でしたぞ?」
『霊体であるこの身には、怒気と同時に漏れ出たあの霊圧は、少々こたえましたぞ』
「あー、それは……。なんかすまなかったね」
そうか、つい怒気が漏れたか。アオイの心情とか考えると、元勇者パーティーメンバーにはイラッと来たからなあ。ゼロは魂の無い戦闘ドロイドだからそう言った物を感じ取るのは難しいし、それで下がらなかったのか。でもアオイはなんでだろう?と、そのアオイが口を開く。
「魔王様、ありがとう」
「ん? なんでかね?」
「怒ってくれて」
あー、なるほど。わたしは照れ隠しに、右手人差し指の爪でこめかみの生体装甲板をガリガリと掻く。
「あー、うん。どういたしまして、だね。それでだ。新勇者の一行については監視を怠らないようにしてくれるかな?ザウエル」
「はい、専属の班を編成して、事に当たらせています。あとは変身魔法を持つ者を使い、人間のふりをして現地の犯罪組織に接触させ、そちらから情報を入手したりもしています。予算は少々かかりますが……」
「諜報予算はケチるつもりは無い。収支報告さえしっかりしてくれれば、湯水のように使ってもかまわないよ。資金に余裕はあるからね。貴金属は大量に錬金した」
「ありがとうございます」
しかし新勇者のパーティーをどうすべきかね。まさか、真正面から新勇者を説得しても聞いてくれるとは思えないし。アオイに説得してもらう?いやそれでも不安だな。新勇者の性格もまだ判っていない。ここは腰を据えて、じっくり考えるかな。
おや?議事録を頼んだ、魔道士ブライアンの様子がおかしい。
「どうしたかね?」
「ひっ! あ、い、いいえ何でもありません!」
あー。さっきの怒気が漏れたので、まだ怯えてたのか。かわいそうなこと、しちゃったな。あー、足腰ががくがくいってるよ。やむをえん、この会議が終わったら解放してやるとしよう。結局彼も、会議1回しか保たなかったなあ……。
次の会議で、議事録取る書記役は、誰に頼もうかな。毎回1人、魔道士を潰してたら割に合わないよ。なんとかしないとなあ。
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