44 / 128
第41話 お菓子とお茶で誤魔化そう
しおりを挟むかくして、蜥蜴人たちの救出作戦は成功裏に終わった。蜥蜴人たちは勤勉で知能も高く、近代的な文化、文明に急速に馴染んで行った。
それに伴い、大陸の西の荒野も開発が進んでいく。今は小規模な村々でしかないが、そのうち人口が増えれば大規模な都市を造ることも計画されている。
優秀な種族が配下に加わってくれたのは、非常にありがたい。残念なのは、数が少ないことか。今後しばらくは、多産を奨励することになるだろう。
それはともかくとして、司令室にてザウエルがあきれ顔でわたしに報告する。
「間諜の報告では、コンザウ大陸の東側で天変地異が起きたそうです。荒野の中央部が大規模な爆風で吹き飛んで、周囲に溶岩が流れ出し、周辺地域では大地震も発生した模様ですよ。特に大きな魔力が検出されなかったから、魔法的現象ではないと見られてますけど。
……一体全体何やったんですか」
「ちょっと、やり過ぎたね」
「そうね」
「やっぱり魔王様の仕業なんですか!?」
わたしとアオイは目を泳がせた。わたしは胡乱げな目で見つめて来るザウエルを誤魔化すため、お茶とお茶菓子の用意を始める。21世紀の地球で作られていた菓子類は、ザウエルのお気に入りになっていた。
……特にシュークリーム。これはアオイも大好物だ。必然的にわたしの菓子作りの腕前は、どんどん向上している。
まあ、だからと言うわけでは無いが、ザウエルのことだから、わざと誤魔化されてくれるだろう。それにコンザウ大陸が混乱するのは、我々にとって悪いことではない。まあ被災地域は基本的に人がいない荒野が大半だし、被害にあったのは蜥蜴人攻撃のためにあの場所に赴いていた軍関係者ぐらいだろう。
新生魔王軍本部基地司令室に、お茶の良い香りと、シュークリームの甘い匂いが満ちて行く。ザウエルがシュークリームを一口食べて、感慨深げに言った。
「はー。美味しいですねえ。お茶や食事のその都度に、思いますよ……。早目に新生魔王軍に参加しておいて、よかったって。
いや、以前は僕は食事など、栄養補給の手段程度にしか考えてませんでしたけど……。魔王様や親衛隊長殿の故郷の世界は、食文化がずいぶん発展してるんですねえ……」
「ああ。これらのレシピはどんどん広めているはずだよね?」
頷いたザウエルは、もう一口シュークリームを齧る。
「ですね。魔王様ほどじゃないですけど、配下の菓子職人も最近は腕を上げてるんですがね。彼らに作らせた菓子を、文官たちや魔道軍団に差し入れとして配ったら、士気と能率が上がりましたよ。
魔王様が言ってた、『福利厚生』でしたか?軽視していい物ではありませんでしたねえ……」
「戦闘糧食にも、クッキーなんかを一緒に詰めるつもりだよ。戦場でも、ちょっとした息抜きになるだろう。戦闘糧食と言えば……。それに詰め込むレトルト食品なんだけど」
わたしは執務机の引き出しから、新規開発関係の書類を引っ張り出す。
「レトルトカレーを筆頭にしたレトルト食品の開発は、レトルトパウチを構成してるプラスチックフィルムの生産が、原料たる石油の採掘量問題とか工業技術が未熟だとかの関係で上手くいかなかったんだよね。だけど、レトルトパウチに拘る必要は無かったよ。
なんの事は無い、カレーペーストを缶詰にしてしまえば良かったんだ。缶詰の技術はできてるから。
あとは缶詰なりインスタント食品なりのお米や、そうでなくともナンやチャパティと一緒に、菓子や粉末ジュース、ティーバッグの茶などオマケも色々付けて1つのパッケージにすれば、戦闘糧食が1種類できあがりだ」
「温めるのも、缶の蓋を開けて湯せんで温めるなり、缶の中身を小鍋にあけて温めるなりすればいいものね。
あ、缶が爆発しないよう、温めるときは蓋を開けることや、缶を直火にかけない様に周知しないと」
わたしとアオイの言葉に、ザウエルは驚く。
「えっ?カレーが戦場で食べられるんですか?
……今までの戦闘糧食は乾パンとかが主でしたけど。いや、それは素晴らしい……。栄養的にも野菜や肉がたっぷり入っているし、完璧じゃないですか」
「まあ、1種類じゃ飽きるから、他にも色々作らないといけないけどね。シチューとか」
ここでアオイが、思い出した様に言った。
「……魔王様。缶の話で思い出したけど、今の内から資源回収とかゴミの分別とかリサイクルとか考えておいた方がいい。今はまだそれほど問題になってないけど、バルゾラ大陸の社会構造の改革によって、ゴミの量が増えて来てる」
「あー、確かに。今まではゴミは燃やすか埋めるかしかやらなかったみたいだけど、『燃えないゴミ』『金属ゴミ』『使用済みガラス瓶』なんかが出現したからねえ。あとゴミ処理場や大規模な焼却施設を各地に建設しないとね。
焼却炉から出る排熱も、温水を沸かして農家に供給しようかね。温室を建設して、それに温水をまわして……。あと工業技術レベルからまだ困難だけど、将来的には排熱で作った温水で、温度差発電装置を……」
「魔王様、また突っ走ってる」
アオイの突込みに、わたしは頭を掻いた。ここでザウエルが別の話題を振って来る。
「ゴミ処理の話は、後の会議で検討するとしまして……。ところで魔王様。真面目な話です。いえ、今までが真面目じゃないと言うわけじゃなかったんですが。
蜥蜴人たちが、大恩ある魔王様のために何かしたい、と申し出ています。なんでも新生魔王軍に志願したいと言う者たちが多い様で……」
「あー、まずは新しい土地での生活を安定させる事と、種族の個体数を増やすことを考える様にって言ったんだけどねえ……。でも完全に無視ってわけには、絶対にいかないな。ならば……。
まず少数を試験採用しよう。最初は蜥蜴人だけで部隊を編成し、経験を積ませよう。そうだな……。蜥蜴人は能力も高いし勤勉だから、徹底した訓練を積ませれば特殊部隊とか創設できるかもね」
特殊部隊は、最初は巨鬼族で編成しようと考えていたのだが、巨鬼族は数が少ない。しかも豚鬼や人食い鬼などの一般の兵たちを纏める将の役割を、一般兵部隊で担ってもらっている。
親衛隊にも回すことができないのに、彼らを一般兵部隊から引き抜いて使う事はできない。……豚鬼やら人食い鬼やらの抑えが外れてしまう。
蜥蜴人は犬妖や豚鬼ほどは多産ではないけれど、魔族や巨鬼族よりかはずっと人口増加率は高い。彼らが新生魔王軍にて、将来の主力の一翼を担う存在になる可能性は、かなり高いだろう。
蜥蜴人たちを助け出したことは、情理双方の面からけっこうな利益になりそうだ。わたしは自作のシュークリームを齧りながら、感慨に耽った。
0
あなたにおすすめの小説
【コミカライズ決定】勇者学園の西園寺オスカー~実力を隠して勇者学園を満喫する俺、美人生徒会長に目をつけられたので最強ムーブをかましたい~
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】
【第5回一二三書房Web小説大賞コミカライズ賞】
~ポルカコミックスでの漫画化(コミカライズ)決定!~
ゼルトル勇者学園に通う少年、西園寺オスカーはかなり変わっている。
学園で、教師をも上回るほどの実力を持っておきながらも、その実力を隠し、他の生徒と同様の、平均的な目立たない存在として振る舞うのだ。
何か実力を隠す特別な理由があるのか。
いや、彼はただ、「かっこよさそう」だから実力を隠す。
そんな中、隣の席の美少女セレナや、生徒会長のアリア、剣術教師であるレイヴンなどは、「西園寺オスカーは何かを隠している」というような疑念を抱き始めるのだった。
貴族出身の傲慢なクラスメイトに、彼と対峙することを選ぶ生徒会〈ガーディアンズ・オブ・ゼルトル〉、さらには魔王まで、西園寺オスカーの前に立ちはだかる。
オスカーはどうやって最強の力を手にしたのか。授業や試験ではどんなムーブをかますのか。彼の実力を知る者は現れるのか。
世界を揺るがす、最強中二病主人公の爆誕を見逃すな!
※小説家になろう、カクヨム、pixivにも投稿中。
異世界帰りの勇者、今度は現代世界でスキル、魔法を使って、無双するスローライフを送ります!?〜ついでに世界も救います!?〜
沢田美
ファンタジー
かつて“異世界”で魔王を討伐し、八年にわたる冒険を終えた青年・ユキヒロ。
数々の死線を乗り越え、勇者として讃えられた彼が帰ってきたのは、元の日本――高校卒業すらしていない、現実世界だった。
クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる
アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。
でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。
でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。
その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。
そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。
異世界召喚は7回目…って、いい加減にしろよ‼︎
アノマロカリス
ファンタジー
『おぉ、勇者達よ! 良くぞ来てくれた‼︎』
見知らぬ城の中、床には魔法陣、王族の服装は中世の時代を感じさせる衣装…
俺こと不知火 朔夜(しらぬい さくや)は、クラスメートの4人と一緒に異世界に召喚された。
突然の事で戸惑うクラスメート達…
だが俺はうんざりした顔で深い溜息を吐いた。
「またか…」
王族達の話では、定番中の定番の魔王が世界を支配しているから倒してくれという話だ。
そして儀式により…イケメンの正義は【勇者】を、ギャルっぽい美紅は【聖戦士】を、クラス委員長の真美は【聖女】を、秀才の悠斗は【賢者】になった。
そして俺はというと…?
『おぉ、伝承にある通り…異世界から召喚された者には、素晴らしい加護が与えられた!』
「それよりも不知火君は何を得たんだ?」
イケメンの正義は爽やかな笑顔で聞いてきた。
俺は儀式の札を見ると、【アンノウン】と書かれていた。
その場にいた者達は、俺の加護を見ると…
「正体不明で気味が悪い」とか、「得体が知れない」とか好き放題言っていた。
『ふむ…朔夜殿だけ分からずじまいか。だが、異世界から来た者達よ、期待しておるぞ!』
王族も前の4人が上位のジョブを引いた物だから、俺の事はどうでも良いらしい。
まぁ、その方が気楽で良い。
そして正義は、リーダーとして皆に言った。
「魔王を倒して元の世界に帰ろう!」
正義の言葉に3人は頷いたが、俺は正義に言った。
「魔王を倒すという志は立派だが、まずは魔物と戦って勝利をしてから言え!」
「僕達には素晴らしい加護の恩恵があるから…」
「肩書きがどんなに立派でも、魔物を前にしたら思う様には動けないんだ。現実を知れ!」
「何よ偉そうに…アンタだったら出来るというの?」
「良いか…殴り合いの喧嘩もしたことがない奴が、いきなり魔物に勝てる訳が無いんだ。お前達は、ゲーム感覚でいるみたいだが現実はそんなに甘く無いぞ!」
「ずいぶん知ったような口を聞くね。不知火は経験があるのか?」
「あるよ、異世界召喚は今回が初めてでは無いからな…」
俺は右手を上げると、頭上から光に照らされて黄金の甲冑と二振の聖剣を手にした。
「その…鎧と剣は?」
「これが証拠だ。この鎧と剣は、今迄の世界を救った報酬として貰った。」
「今迄って…今回が2回目では無いのか?」
「今回で7回目だ!マジでいい加減にして欲しいよ。」
俺はうんざりしながら答えた。
そう…今回の異世界召喚で7回目なのだ。
いずれの世界も救って来た。
そして今度の世界は…?
6月22日
HOTランキングで6位になりました!
6月23日
HOTランキングで4位になりました!
昼過ぎには3位になっていました.°(ಗдಗ。)°.
6月24日
HOTランキングで2位になりました!
皆様、応援有り難う御座いますm(_ _)m
勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
チート魔力を持ったせいで世界を束ねる管理者に目を付けられたが、巻き込まれたくないので金稼ぎします
桜桃-サクランボ-
ファンタジー
金さえあれば人生はどうにでもなる――そう信じている二十八歳の守銭奴、鏡谷知里。
交通事故で意識が朦朧とする中、目を覚ますと見知らぬ異世界で、目の前には見たことがないドラゴン。
そして、なぜか“チート魔力持ち”になっていた。
その莫大な魔力は、もともと自分が持っていた付与魔力に、封印されていた冒険者の魔力が重なってしまった結果らしい。
だが、それが不幸の始まりだった。
世界を恐怖で支配する集団――「世界を束ねる管理者」。
彼らに目をつけられてしまった知里は、巻き込まれたくないのに狙われる羽目になってしまう。
さらに、人を疑うことを知らない純粋すぎる二人と行動を共にすることになり、望んでもいないのに“冒険者”として動くことになってしまった。
金を稼ごうとすれば邪魔が入り、巻き込まれたくないのに事件に引きずられる。
面倒ごとから逃げたい守銭奴と、世界の頂点に立つ管理者。
本来交わらないはずの二つが、過去の冒険者の残した魔力によってぶつかり合う、異世界ファンタジー。
※小説家になろう・カクヨムでも更新中
※表紙:あニキさん
※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ
※月、水、金、更新予定!
神様、ちょっとチートがすぎませんか?
ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】
未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。
本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!
おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!
僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。
しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。
自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。
へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/
---------------
※カクヨムとなろうにも投稿しています
神々の間では異世界転移がブームらしいです。
はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》
楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。
理由は『最近流行ってるから』
数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。
優しくて単純な少女の異世界冒険譚。
第2部 《精霊の紋章》
ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。
それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。
第3部 《交錯する戦場》
各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。
人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。
第4部 《新たなる神話》
戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。
連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。
それは、この世界で最も新しい神話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる