召喚魔王様がんばる

雑草弁士

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第51話 ちょっとした茶番

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 わたしは今、アーカル大陸『ヴァルタール帝国』の元首都であった都市、リビ・ヴァルタールにやって来ている。無論『ゲート』の魔法陣と、転移魔法『ロングレンジ・テレポート』を併用した、日帰り旅行だ。

 何故こんな所までわざわざやって来たかと言うと、占領地の視察を兼ねたちょっとした息抜きである。いや、当初はそのつもりだったのだ。それが何故に中破状態になった宮殿のその謁見の間で、降伏してきた敵と会わなければならんのだろう。いや、魔王だからなんだけどね。

 今わたしとアオイ、ガウルグルクの眼前では、美麗な服に『着られた』感じの青年が、ガタガタ震えながら平伏している。わたしは少しばかりその様子を妙に思い、ちょっとした術法を使ってみた。

「……うむぅ。」

 そしてわたしは、もう1つ別の魔法と、別の魔道の術を2つ使う。そうしてから、わたしは青年に声をかけた。

「面を上げろ。直答を許す、名を名乗れ」

「は、ははっ!わ、わたしめはセドリック・デ・バラクロフと申します。こ、港湾都市デーゼムを預かるバラクロフ家の次男にございます。
 父母と兄は皇帝陛下、い、いえ皇帝と共に帝国旗艦アデルバート三世号で逃亡いたしましたがゆえ、デーゼムを現在預かっているのは、わ、わたしめにございますれば……」

「ふむ……」

 わたしはガウルグルクに目を向ける。ガウルグルクは頷くと、その口を開いた。

「この者は領主である父親と母親、嫡男である兄がここ、リビ・ヴァルタールにおる間、代官として港湾都市デーゼムとその周辺を預かっておりました。帝国各地で反乱や暴動が起きておる間もなんとか民の暴走を抑えた手腕は、なかなかの物かと存じます。
 されど騎士などの軍人からは腰抜けの次男と侮られており、領主の一族故に形ばかりの敬意は払われておった様ですが、本心では馬鹿にされておった様ですな」

「なるほど。皇帝たちが逃げる際についていかなかったのは何故だ? セドリック」

「は、はっ!わ、わたしめは足手まといになると思われ置いて行かれたのが理由の1つ。も、もう1つは……。わたしめの、りょ、領民に対する未練が理由でございます。はい」

 わたしはあえて笑ってみせる。

「くくく。つまり、なにか? 貴様は領民を置いて逃げるのが嫌だったから、残ったと申すか」

「ど、どうせ父母も兄も、わたしを連れて行くつもりが、あ、ありませぬでしたがゆえ……」

「ふむ。で、何故1戦もせずに降伏する?」

 セドリックは自嘲気味な、儚げな笑みを浮かべて答えた。

「か、勝ち目がありませぬゆえ。皇帝と両親、あ、兄は将兵を全て連れ去りました。いや、兵がおっても魔王様の軍勢には到底勝てませぬことは、い、以前のアーカル大陸諸国連合と魔王様の軍勢との戦いぶりからして、判り切っております」

「なかなか聡いのう。で? 都市を差し出す代わりに命乞いにでも来たか?」

「い、命乞いはいたします。けれど、わ、わたしめのではございませぬ。……どうか、どうかわたしめのそっ首1つで……。どうか事を収めてくださいませ! 民の命だけは、お助けください!」

 わたしは『空間歪曲庫』の術法を行使し、虚空より1振りの美麗な装飾を施された鞘に入った長剣を取り出す。そしてそれを抜き放ち、投げつけた。長剣はセドリックの眼前すれすれの所で赤絨毯が敷かれた床に突き立つ。

 セドリックは悲鳴を上げて腰を抜かした。

「ひいぃっ!」

「……セドリック・デ・バラクロフ。言ったからには、やって見せろ。その剣で自害せよ。さすれば我は、魔王ブレイド=ジョーカーの名において港湾都市デーゼムの民を害するような事もせねば、我が部下に害させるような事もせぬと誓おう。反乱やその他の罪を犯さぬ限りはな」

「……!」

 ごくり、と唾を飲み込む音が、セドリックの喉から聞こえる。彼は震える手で長剣を床から抜く。渾身の力を込めたらしく、後ろにひっくり返ったものの、剣は見事に抜けた。

 正体を隠すための仮面を被ったアオイが、右手を自分の帯剣に伸ばす。わたしはアオイに向かい、首を左右に振ってみせた。アオイは頷き、直立不動の体勢に戻る。

 セドリックはガタガタと震える手で長剣を己の首元に突き付ける。何度も何度も、首を切りそうになっては戻したため、彼の首にはためらい傷が増えて行く。

 だがついに彼は眼を瞑って、思い切り自分の首を斬りつけた。流れ出る鮮血が、彼の服と周囲を汚して行く。セドリックはその場に倒れ伏した。

 そしてわたしは『復元』と『造血』の術法を行使する。セドリックの首の傷は瞬時に塞がり、失われた血も戻った。セドリックは気絶している様だったから、『覚醒』の術も使ってやる。彼は眼を開けた。

「あ、あれ?な、なんで?僕は死んだはず……」

「見たか、港湾都市デーゼムとその周辺に住まう民の諸君!! この男の、命を惜しまぬ気高き様をよ!! 捲土重来けんどちょうらいを期すなどと言う美辞麗句びじれいくに隠れ、こそこそと逃げ出した皇帝や、領主夫妻とその嫡男などに比べ、なんと勇敢なことか!
 この者は、たしかに腰抜けで臆病者かも知れぬ。されど、その様な者だからこそ、今この瞬間振り絞った勇気の輝きは、その尊きこと並ぶものが無いであろうよ! 民よ称えよ! この者を称えよ!」

「え!? あ、あれ? あ?」

 わたしはカメラ目線……カメラなど無いが、その気分で胸を張り、港湾都市デーゼム及びその近郊の民人に向かい、言葉を発する。先ほど会見直前に行使していた魔法は『グレート・スピーチ』、同時に行使した魔道の術法は『千里眼』『千里耳』であったのだ。

 そう、セドリックの行いは『グレート・スピーチ』の効果によりデーゼム周辺の民人全てが見ており、その反応をわたしが遠隔知覚系の術法で見聞きしていたのである。更に言えば、セドリックの覚悟は一番最初に行使した『読心』の術で分かっていたので、この様な芝居を打ったのだ。

「セドリックよ、デーゼムの民は今、貴様の名前を歓呼しておる。中には涙を流して伏し拝んでいる者すらおるぞ。
 ……セドリック、我に仕えよ。この魔王に。貴様が忠義もて我に仕える限り、貴様の民は我が民だ。我が民を、我が傷つけることなど、あるものか」

「あ、え、は……。ははっ! 魔王様にお仕え申し上げ奉ります!」

「我が国には、貴族制は無い。それ故に貴様から家名を取り上げる。そして代わりに新たなる家名、キャナダインを与えよう。今後貴様はセドリック・キャナダインと名乗り、港湾都市デーゼム及び周辺地域の代官となるのだ。元領主の貴様の血縁上の父親の、ではない。我が代官として、励めよセドリック!
 それと貴様の生命をいったん絶ったその剣は、貴様が佩剣とするが良い。……貴様は一度死んで、生まれ変わったのだ。これまでの家族のことは忘れるのだ。良いな?」

 わたしは長剣の鞘をセドリックに投げ渡してやる。セドリックは涙を流して、再度平伏した。

「ははあぁっ!!」

 ……さて、港湾都市デーゼムとその近郊には、まずは上下水道とかガス、電気のインフラを整備させないとな。発電所、作らなきゃなあ。波力発電か潮力発電かなあ。足りなくなるかもしれないから、石炭火力発電所を建設するか。港から石炭を運び込めばいいか。

 あ、忘れてた。

「そう言えば、忘れるところであった。セドリック、これまでの帝国の重税や各地の混乱で、民の暮らしは圧迫されていよう。今後1年間、免税とする。また1年後も、『ヴァルタール帝国』時代よりも税を軽くするつもりだ。足りない資金は我が政府より援助する。そのこと、民衆に対し周知せよ」

「ははあっ! ありがたき仰せ、民も喜びましょう!」

 と言うか、既に喜んでいる様子が『千里眼』で、喜びの声が『千里耳』で分かってるんだけどね。



 セドリックが辞去した後で、わたしはぽつりとつぶやく。

「……ふう。セドリックが、治癒の術が効かない様な死に方しなくて良かったよ」

「あ、やっぱり最初から死なせるつもり、無かったんだ」

 やっぱり隣にいたアオイには、聞こえてたか。まあ、別に聞こえてもいいけどね。わたしはアオイに分かる程度に、小さく頷く。

 何にせよ、即興の茶番劇にしては上手く転がってくれた。まあ、わたしの魔法や魔道の腕前も上がってるし、頭を潰す様な死に方さえされなければ命はとりとめる事はできるはずだったけどね。頭潰しそうだったら、直前で止めるつもりではあったし。

 セドリックが治めている間は、港湾都市デーゼム及びその近郊については心配いらんだろ。それに、人材としても良い拾い物だったかもしれん。

 ほんとに、人材足りないんだよなあ。特に内政官が。ぶっちゃけた話、その事実そのものが、新生魔王軍の最大の敵だ。わたしは肩をすくめ、首を左右に振ったのだった。
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