召喚魔王様がんばる

雑草弁士

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第90話 新型改造人間を前にして

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 わたしの研究所にて、新しい改造人間が完成した。甲虫カブトムシ型と兜蟹カブトガニ型、毒蛾どくが型の3種類である。これら3体は、設計こそわたしが提供した秘密結社『ジョーカー』による物だが、手術自体はわたしの手によらない初の改造人間となる。

 強力な装甲と圧倒的なハイパワー、それに限定的な飛行能力を備えたブラスト・ビートル1号。そして前者に勝るとも劣らない強靭な重装甲と、深海行動能力を兼ね備えたスチール・キングクラブ1号。蜻蛉トンボ型には一歩譲る物の充分な飛行能力と、強力無比な毒鱗粉を攻撃手段として持つポイゾン・モス1号。

 わたしの研究所に勤めてわたしの研究を補佐している科学者、技術者、医師たち計8名がこれら3体を従えて、わたしとアオイ、ミズホに敬礼をする。わたしは彼らに向かい、答礼を返すと口を開いた。

「ご苦労様。わたしの手を借りずに君らだけの力で、これほどの改造人間を創り出したとは……。素晴らしい成果だよ」

「はっ!いえ、設計基は魔王様より頂いた物でございますれば……。我々だけの力とはとても言えませぬ。
 何時の日にか、本当に我々だけの力で創り上げた改造人間を、魔王様に献じることが叶えばと努力してはおりますが……。我らの力不足を恥じ入るばかりにございます」

 8名のリーダー格である科学者が、生真面目に応える。彼は魔族であるが、魔法よりも科学技術に傾倒している変わり者であった。その名を、アーチボルド・ダヴェンポートと言う。わたしは彼に歩み寄ると、その肩に手を置いた。彼は眼を見張る。

「そう謙遜することは無いともさ。今は君らは、わたしが分け与えた知識の運用法を学んでいる真っ最中なんだよ。本来ならば初期型のバッタ型改造人間あたりを、ようやく創れるかどうかだと思っていたんだよね。にも関わらず、これだけの成果を上げたことは、充分に称賛に値するよ」

「!!」

甲虫カブトムシ型、兜蟹カブトガニ型、毒蛾どくが型は、初期型から更に1歩進んだモデルと言っていい改造人間だからね。これが今現在の施設で創れるならば、改造人間を創造する技術者として、充分に一人前さ。
 まあそれに、これに満足せずに更なる高みを目指そうと言う気概も、頼もしさを感じるよ。これからもよろしく頼むよ」

「はっ! ありがとうございます! 今後とも精進いたしますので、よろしくご指導ご鞭撻のほどを!」

 アーチボルドは直立不動で、叫ぶように言った。わたしはそれに頷くと、3体の改造人間たちに目を遣る。わたしの目から見ても、これらの改造人間は良い出来であった。

「アオイ、ミズホ、どう思う? わたしはこれらの新型改造人間を、一般兵部隊に送り込んで豚鬼オーク人食い鬼オーガーの抑え役にするには、物凄く勿体ないと思うんだよね」

「同感。その役割には、バッタ型や蜘蛛クモ型、百足ムカデ型、アリ型なんかの初期型改造人間で、充分だと思う」

「あたしも同じくです。彼らの性能がこの資料通りなら、彼らの同型で1隊を組織した方が良いと思います」

 わたしはアーチボルドに向き直る。彼は緊張した表情になり、わたしの言葉を待った。わたしは彼に問いかける。

「アーチボルド、この3体と同型の改造人間を量産しろと言われて、可能かい? ああ、無理なら無理とはっきり言ってくれた方が、わたしとしても良い。というか、君らに無理を強いてその結果、他の研究などに支障が出る方がわたしとしては困るんだ」

「……難易度は高いですが、可能、です。ただし素体となる候補者が、高い潜在力を秘めている必要がありますね。その条件さえなんとかなれば、可能であります」

「ふむ……。アオイ?」

「うん。改造の候補者となり得る死刑囚は、数だけならたくさん捕らえてある。基準に合格する者も、充分いると思う。それにそのほとんどがテロリストだから、遠慮もいらないし」

 アーチボルドとアオイの返答に頷いたわたしは、あらためて科学者グループに命令を下す。

「アーチボルド、並びに科学者、技術者、医師諸君。ブラスト・ビートル型、スチール・キングクラブ型、ポイゾン・モス型を、各々あと29体生産してくれ。各タイプ合計30体ずつを持って、陸戦用、海戦用、空戦用の特殊部隊、計3個小隊を編制するつもりだ。
 更に併せて命じよう。アリ型改造人間であるアイアン・アント型の量産を検討し、特殊部隊用改造人間の生産が終了次第、可能ならば君たち自身ではなく君たちの更に部下の手で大量生産させて欲しい。新しい大規模調整培養槽棟の使用を許可する」

「はっ! 了解いたしました! ……ですが、我々ではなく、我々の部下主導で、ですか?」

「ああ。アイアン・アント型は初期型改造人間の中でも改造が容易で、なおかつ改造候補者が低い素養しか持っていなくともかまわない。それに実力も、人食い鬼オーガーたちの指揮官にするにはちょっと難しいかも知れないけれど、豚鬼オークたちに睨みをきかせるぐらいなら充分だ。
 君たちの部下の練習台にはもってこいだと思うんだけれどね?それと特殊部隊用の選に漏れた死刑囚の使い道にも良いだろうしさ。まあこの程度の仕事に、君たち自身を使うのは勿体ない。それに君たちには、他の仕事もやってもらいたいし」

「はっ! 了解であります!」

 と、ここでわたしの背後にいるアオイとミズホが、小さな声で会話しているのが耳に入った。

「もしかして、黒い話にちょっと引いたかな?」

「いえ、あたしは大丈夫です。自分が地獄に落ちる覚悟は、もう済ませてあります」

「うん、わたしもそう。わたしたちが居るのは、どんなに言い繕っても正義の側じゃない。やってる事も、悪逆非道。改造人間の素体になる死刑囚の扱いのことだけじゃない。わたしたちは『リューム・ナアド神聖国』を滅ぼすために、世界中に戦禍を広げてる大罪人……。
 だけど、そんなわたしたちを見捨てずに、それどころか一緒に突っ走ってくれる人がいる。その人の立場だったら、バルゾラ大陸を封鎖してその内部だけで発展させた方がずっと良い選択なのに。その人の実力だったら、アーカル大陸もコンザウ大陸も、支配して統治するよりも、全部吹き飛ばしてしまった方が被害も少なく簡単なのに」

「……魔王様、ですね」

 アオイが頷くのが、気配でわかる。わたしは大仰な表現に、少し背中が痒くなった。だが実際、大仰ではあっても過大な評価ではない。

 バルゾラ大陸のみ繁栄させ、完全な鎖国体制を敷くことは不可能ではないし、その方がずっと楽である。マイクロブラックホール弾を乱射し、アーカル大陸とコンザウ大陸を生物の居住が不可能なまでに破壊してしまうのも、確かに可能だ。

「魔王様は、わたしたちの復讐のために、あえて険しい道を選んでくれてる。あくまで一個人として強いだけのわたしたちが、『リューム・ナアド神聖国』を滅ぼす際に決定的な役割を果たせる様に。そしてたぶん……。ううん、間違いなく……。全てが終わった後も、わたしたちがこの世界で、できるだけ良心の呵責に苛まれずに生きていける様に。
 だから世界を滅ぼさず支配する形で、わたしたちの復讐を遂げさせようとしてくれてる。可能な限り軍隊以外の民間への被害を抑える形で。出来うる限り、ソフトな形で。そんな形で、物事を落着させようとしてくれている」

「……。いつか、恩返しができるといいんですが」

「うん」

 ……わたしは聞こえていないフリをする。まあ、アオイほど聡明なら、理解してるだろうとは思っていたけれどね。でも、聞こえないフリをする。どう反応して良いか、わからないからだ。

 彼女らに、わたしがしてあげられる事は、そんなに多くない。彼女らを本当の意味で救う事は……。彼女らを、元の世界に帰してあげる事は、わたしには不可能だ。そして彼女らを実年齢通りに成長させてあげる事も、できない。

 悔しい……なあ。
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