召喚魔王様がんばる

雑草弁士

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第104話 御前会議

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 マードック三世との会見から1週間が経った。わたしはまたもや、コンザウ大陸のガナンズ基地にやって来ている。本当は今回はザウエルも来てほしかったんだが、バルゾラ大陸の本部基地での留守番を任せられるのは彼しか居ない。

 いや、『JOKER剣魔国』も大きくなったからね。以前であれば、ゼロであっても留守番任せられたんだけど、今はザウエルかガウルグルクのどちらかじゃないと、政庁でもある本部基地は任せられない。

 それにガウルグルクもゼロも、コンザウ大陸に侵攻軍として来てるからね。

「魔道軍団、魔道士アンブローズ。いよいよ作戦開始だ。トチらないでくれよ?」

「はい、魔王様! 大丈夫であります!」

 以前、文官たちが着任する前に、魔王軍幹部たちの会議の議事録を取らせていた魔道士アンブローズだが、彼は今かなり出世している。今回の『カンザ・アド王国』接収作戦において、魔道軍団の一部隊を率いて参陣しているのだ。

「そうか。今回の作戦の要だからな、貴官らは。頼んだぞ、アンブローズ中佐相当官」

「ははっ!!」

 そしてわたしの目の前には、マードック三世に付けてやった小鳥の使い魔が視た様子が、映像として浮かび上がっていた。映し出されているのは、『カンザ・アド王国』の御前会議の様子だ。ただし現場には、第1騎士団長バウルスと第2騎士団長ランドルフは居ない。

 更には小鳥の使い魔が聞いた音も、その場に流れている。マードック三世の声が、その場に響いた。

『……これより重大発表を行う』

 いよいよやるのか、マードック三世……。わたしも動くとしよう。あらかじめマードック三世の手の者が、『カンザ・アド王国』国内の要所に魔法仕掛けのビーコンを設置してあるのだ。それを目印に、中佐相当官魔道士アンブローズ率いる魔道軍団員たちが、ゼロの魔像軍団やガウルグルクの魔獣軍団の部隊を転移魔法で送り込む手はずになっている。

「アンブローズ中佐相当官、作戦開始。集団転移魔法、詠唱開始せよ」

「了解!」

「さて、わたしも出発するか」

 わたしもまた、わたしの周辺に配置してある親衛隊の高位戦闘ドロイドの1小隊を対象に、転移系の術法を発動させる。使うのはこの世界の魔法ではなく、魔道の術法だ。何故って、『カンザ・アド王国』の王城には転移魔法に対する結界が張られてるからね。

 ちなみにマードック三世の肩にとまらせている小鳥の使い魔が送って来る情報があるから、ビーコンはいらない。わたしの転移系術法が、親衛隊の高位戦闘ドロイドたちに行き渡った。

 そしてわたしと親衛隊1小隊は、転移する。



 空間転移した先では、マードック三世が演説を締めくくっていた。

「……そしてわたし、マードック・ゼン・カンザ・アド三世は退位し、魔王ブレイド・JOKER陛下に『カンザ・アド王国』の王位を禅譲。この国の『JOKER剣魔国』への併合を願い出る!
 皆の者! 魔王ブレイド・JOKER陛下のおなりである!」

「ただ今紹介にあずかった、魔王ブレイド・JOKERだ。われは従う者には寛容である事を約束する。そうでない者には、それなりに、な?」

 わたしの突然の出現に、御前会議に出席を許されている大臣や将軍クラスの軍人たちが騒めく。だがわたしが一瞥すると、皆がつばを飲み込んで押し黙る。しかしその内の1人、おそらく大臣……胸に着けている徽章から、経済担当の大臣だと思われる人物が声を上げた。

「ま、魔王様におかれましてはご機嫌麗しゅう……。魔王陛下は、この国をいかがするおつもりでしょうや?」

「そうさの……。まず最初に……。
 食糧支援から、かの?」

「「「「「「!!」」」」」」

「何を驚いておる。こちらのマードック三世と、約束しておるのだ。大規模食糧支援、上下水道網や電力網や道路交通網などのインフラ整備、そして『リューム・ナアド神聖国』並びに周辺国に対抗すべく軍事支援もな。
 おお、それと民の暮らしが立ち直るまで、最低1年間の免税もあったな。お前たちは、良い王を持った。惜しむらくは、周辺の環境があまりにも悪すぎた事か……」

 マードック三世の家臣たちは、皆で肩を落とす。と、別の大臣が口を開いた。

「マードック三世陛下に、アーカル大陸などの調査結果を最初にお伝えし、更にその後も引き続きの調査を命じられたのは、わたしでございます。陛下はその調査結果を聞き、魔王陛下への……『JOKER剣魔国』への併合を願い出る事を考えたのでございます。
 陛下は国民を護るために、最善の道をお選びなされた……。なれど、陛下の名は人類国家において、地に落ちましょう。それが悔しくてなりません。
 わたしが……。わたしが最初に、良かれと思ってアーカル大陸の調査などしなければ!」

「それは違う!」

 マードック三世が叫ぶ。

「お前はその事で、我が国民を多数救ったのだ! それは間違いが無い事なのだ! わたしは魔王様との交渉に出向き、魔王軍の……。『JOKER剣魔国』の軍隊の強大さ、精強さを目の当たりにしてきた。……勝てるはずもない。あれほどとは、見るまでは思わなかった。
 そしてお前のおかげで、わたしは『リューム・ナアド神聖国』と手を切る事を覚悟できたのだ。お前は、良い事をしてくれたのだよ」

「……。」

「陛下、それに魔王陛下。お聞きしておきたい事がございます。我らの扱いは、どうなるのでございますか? 『JOKER剣魔国』には貴族制が無いそうですな。いえ、国を魔王軍からどころか、『リューム・ナアド神聖国』からも護れぬ貴族の名など、捨ててもかまいませぬ。
 なれど、我らにも養わねばならぬ一族郎党らがおりますれば。我ら自身の命や地位が惜しい気持ちも、勿論ございます。なれどそれは諦めもつきまする。しかし一族郎党たちは、見捨てられませぬ」

 そう言ったのは、また別の大臣だ。胸に着いた徽章からは、おそらくは軍務大臣あたりか?わたしは彼に答える。

「大丈夫だ。ここに居る者たちと第2騎士団長は、マードック三世より推挙がなされておる。コンザウ大陸南岸地域は『JOKER剣魔国』が支配しておるが……。最初はお前たちは、マードック三世と共に相談役として支配地域の総督を補佐する役割に就いてもらう。
 そして成果を上げれば、近い将来に各地の代官などや魔王軍……『JOKER剣魔国』の軍隊で、地位を与えられる事もあり得る。全てはお前たちの努力次第だが、不当に虐げたりはせぬよ」

「ははっ! ありがたき……」

 ここで、この場に居た将軍級の高位軍人らしき者が口を開く。何やら不安げな様子だ。

「しかし……。陛下、それに魔王様。第1騎士団長はいかがなさいますか? あやつは魔王様への降伏など、絶対に認めはしないでしょう。下手をすると、どこぞの街にでも立てこもり、民人を巻き添えにして……。
 それに今も南の国境線を割って侵攻してきた、魔王様の軍勢の一部を血祭りにあげると称して、陛下の承認も得ずに出撃を。暴走を憂いた第2騎士団長が第2騎士団を率いて後を追い申したが」

「安心するが良い。それはわれとマードック三世の策ぞ。見るが良い……」

 そしてわたしは、アオイ率いる親衛隊本隊の上空を飛ばせている、烏の使い魔の視界を、魔法で立体映像にしてその場に映し出した。御前会議の面々が、驚き騒ぐ。

 映像の中で、アオイとミズホが親衛隊の本隊を率いて進軍する。その行く手には、第1騎士団長バウルスと第2騎士団長ランドルフが、既に両騎士団を布陣させていた。

 アオイとミズホの軍団指揮の練習って事もあって、わざと連れて行った親衛隊の数は絞っている。故に第1騎士団長バウルスから見れば、第1騎士団だけであっても楽勝と思うはずだ。



 勿論、そんなわけ無いんだけどね。
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