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5.雨

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 宇都木と一対一でビーチバレーの対決をしてどれくらい経ったのか、かなり汗だくになるまでやっていたから一時間くらいは回ったと思う。孤島の午後の良く晴れていたビーチに陰りが出てきて、ぽつ、ぽつぽつぽつ。と、雨が降り出してきた。だから海に入って戯れていた部員たちも引き上げてきて、サンオイルを塗って日を浴びていた部長も上着を羽織り直して、段々と強くなっていく雨脚に、声を上げてみんなを集める。

「皆! メンバーが風邪を引いたら大変、屋敷に引き上げましょう」
「「「はーい」」」

 相変わらずいい子でお返事をする部長のしもべたる映研部員たちである。皆も上着を着て、夕立にしてはどんより重くなった空模様に『わぁ』『きゃあ』と楽しく声を上げながら競うように屋敷までの坂道を駆けあがる。屋敷に着いて安来先輩が皆(十名)が居ることを確認すると、また部長が口紅を塗った口をひん曲げて、窓から外の景色を覗いて言った。

「おかしいわね。ここ一週間は東京に、雨なんか降らないはずだったんだけれど」
「お嬢様」

 と言ったところで、無表情な淡い色のウェーブヘアーのメイドさんが気配なく部長の後ろに立って、部長に声をかけるから部長も『きゃ』と短く声を上げる。

「この島の気候は都心部とは違い、不安定なのでございます。良く晴れていたと思ったら三十分後にはどんより雲に大雨……ということも珍しくはありません」
「そうだったかしら? 最後にここに来たのはずいぶん小さい頃だったから、すっかり忘れていたわ」
「しかし、逆もしかりです。これだけの大雨も、明日になったらカンカン照りの快晴へと変わる可能性もなくはありませんよ」
「そうだと良いんだけれど」

 確かに俺もここ一週間の天気予報は見てきたのだ。東京の最高気温はいずれも三十度超えで、空模様は快晴。東京都心部から一時間のこの島でも、だから雨が降るとは俺だって思っていなかった。

「まあ良いわ。今日はどうせ、あとは休憩するだけだから……大広間で大富豪でもしましょうか、皆?」

 部長の提案に、まだ午後も三時を回ったくらいで手持無沙汰な一同だから皆が賛成して、屋敷の一階にある大広間で俺たちは、持ってきていたトランプでもって二グループに分かれて、大富豪を始めたのだった。

***

 みんなで私服に戻って大富豪やほかのトランプゲームを続けて午後七時。食堂の方から老年の執事さんがやってきて『お食事の準備が整いました』とのことだ。そう言えば昼は何も食べていなかった部員たちはいずれもお腹を空かせていて、ゾロゾロと並んで向かった広い食堂には長く広いテーブルの上、ホテルのように上品な人数分のディナーが広がっていた。

「直ぐにスープをお持ちいたします」

 いただきますをして前菜を嗜んでいる所で、それだけは冷めてしまうからまだテーブルに出してはいなかったコーンスープを、執事さんとメイドさんが二人で手分けして十名分運んできてくれた。しかし俺が思うに、

「これだけの豪勢な食事、こんな孤島で五日間も続けるんだったら大変だよなぁ」

 そういうと、何の因果か俺の隣の席についていた主演俳優の宇都木が『はは』と乾いた笑いを零して、特に返事をすることはせずスープを口に含む。

「そういえば宇都木。罰ゲームの件はどうなったんだよ」
「……ん、ああ。どっちが勝っていたかってそりゃあ、俺の方が優勢だったから市原、お前が罰ゲームな」
「お前、結構本当に汚かったぞ。人の気を逸らしてからのサーブが当たり前だった」
「響に言われてただろ。それでも引っかかるお前が迂闊なんだって」

 食事をとりながらの会話だが、他のメンバーも別にお行儀よく黙っているわけじゃないから俺たちだけが目立つってわけでもない。メインディッシュの肉料理がそれぞれに運ばれてきて、その牛肉のワイン煮込みに唾をのんで手を付けようとしたところ、宇都木に言いつけられる。

「ここじゃなんだから、罰ゲームはまた後でな」
「はあ、そうか?」

 宇都木の言葉と罰ゲームの内容も大して気にせず、俺は牛肉を口に放り込んではホロホロのそれに『うまっ』と感嘆の声を上げた。
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