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ダークエルフの姉妹 ジネット。ルー編
放っておくのもなあ
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魔光街灯で夜でも明るく騒がしい大通りを歩く一人の男。この大陸では見ない黒髪黒目ではあるが馴染みの町でもあり気にするものはごくわずかである。行先もまた男にとっても馴染みの酒場であった。
(やっぱり酒場はこの国に限るな)
お上品な酒を出す騎士の国や、わけのわからない物を飲める魔法の国もまあ嫌いではないが、自分はこの少々荒っぽい剣の国の喧騒が好きだな。そんなことを考えながら目当ての酒場までたどり着くと、入口からも中の騒ぎが聞こえてくる。
「いらっしゃいませー。あ、お客さんお久しぶりですー」
入るとすぐにこの酒場の娘兼看板娘が声をかけてきた。最近雑貨屋の息子といい感じらしく、店主の血圧が高いらしい。挨拶を返しながらカウンターの店主のところへ行く。
「いらっしゃい。最近町でも見なかったな」
彼は自分が普段目立っていることを、少しは自覚していたが苦笑が漏れる。
「ああ。ちょっと野暮用で」
小指を立てて振る。
「なんとまあ。明日は雹だな」
これは本当だ。ただし相手はよりにもよって繁殖期の大蟷螂のメスだったが。人里近くで発見され知人に泣きつかれたが出来れば相手をしたくなかった。力加減を間違って中途半端に消し飛ばすと、体中から子蟷螂があふれ出すのだ。はっきり言って鳥肌が立つ。
触媒が高額な転移魔具で慌ててやってきたものだから、秘蔵のワインで請け負っていた。帰り道で無くなってしまっていたが。
「ふふ、とりあえずエールを」
「はいよ」
すぐにやってきた。やはり馴染みはいい。
「最近の面白い話はあるかい?」
「なんだ、ほんとにどっか行ってたのか」
「おーい」
「いや、悪い。いつもとそう変わらんさ。どこぞの傭兵同士の殴りあいとか、これで一攫千金だなんて言ってるやつとかな」
(お前さんのところの娘さんは?とは言うまい。興奮しすぎて倒れられたら困る)
「いつも通りだ」
「そうさ。ああ、変わった話だとダークエルフを見たってやつがいたな。見間違いだろと冷やかされてたが」
「そりゃあ見間違いだろ。あの連中が魔の国から出てくるとは思えん。どこぞの美形の役者さ」
褐色で艶のある肌に月の光のようだと形容される髪。総じて男女ともにとてつもない美形だが、ダークエルフは気位がとても高い。わざわざ人間の国に来るやつがいたら頭を打ったなと心配する必要がある。もしくは厄ネタだ……。彼らは最も高度な暗殺術と闇魔法を長い年月鍛え上げた夜の戦士なのだ。
「そうだろうな。はいよ追加だ」
「あんがとさん。変になんぞあるよりそっちがいいか」
「そういうこった」
(日々平穏それでいい。流石に若いころのように毎日刺激を求めるような感性はもう無い。さて料理はなににするか……)
◆
「ありがとうございましたー。また来てくださいねー!」
「ごっそうさん」
満足した男は大通りに出ながら、このまま帰るか夜店を冷やかすかと考えていたが、彼の感覚が異様を察知した。
(んん?)
向かいの建物の上から何者かが高速で移動しているのだ。道がないはずのところを移動しているものだからかなり気配が分かりやすい。
(さて何が出るやら)
好奇心に駆られ、気配が来るであろう方向に目を凝らし少し待つと、目的の存在が建物の端からジャンプし向かいの建物に飛び移った。大通りを跨いでの凄まじい跳躍力であった。
(うわダークエルフの女だ。)
酒場で話に上がっていたがまさか本当にいるとは思っていなかった。人間の国で、遮蔽魔術をかけたダークエルフが、建物の上を走り回っているのだ。どう考えても厄介ごとの臭いしかしなかった。
(さてどうしたものか)
普段なら関わる気も起きなかったが、ちらりと見えたその表情があんまりにも悲痛に染まっていたのだ。昔ほどの情熱はもうないが、あんな表情をするものを放って置くほどにも彼は冷たくなかった。
(しゃあない。話でも聞くか)
決断すると彼は先ほどからずっと追っている彼女の方へ移動を開始した。
好奇心は猫を殺すといったが果たして化け物を殺すことができるのであろうか?
◆
モンスター辞典
大蟷螂:この世界で大蟷螂といえばこのモンスター。5mを超える巨躯、強靭な外骨格に魔法耐性のある外皮、無尽蔵と思えるほどのスタミナ。しかし、最も恐ろしいのはやはりというべきかその鎌で、これにつかまると高位の冒険者の防具も切り裂き致命傷を与えられる。肉食で繁殖期には気が荒くなるうえに餌を確保しようと活発化する。孵った子は冒険者が積極的に駆除している上、自然界的にも上位とは言えないため成虫になるのはごく一握りに過ぎない。対応には複数の高位冒険者が所属するチームか、金に糸目をつけないのであれば特級冒険者を雇う必要がる。
余談 オスはやっぱりメスに食べられる。
「あの鎌につかまるとどうなるかだって?口元に運ばれる前にバラバラさ」ある高位冒険者
(やっぱり酒場はこの国に限るな)
お上品な酒を出す騎士の国や、わけのわからない物を飲める魔法の国もまあ嫌いではないが、自分はこの少々荒っぽい剣の国の喧騒が好きだな。そんなことを考えながら目当ての酒場までたどり着くと、入口からも中の騒ぎが聞こえてくる。
「いらっしゃいませー。あ、お客さんお久しぶりですー」
入るとすぐにこの酒場の娘兼看板娘が声をかけてきた。最近雑貨屋の息子といい感じらしく、店主の血圧が高いらしい。挨拶を返しながらカウンターの店主のところへ行く。
「いらっしゃい。最近町でも見なかったな」
彼は自分が普段目立っていることを、少しは自覚していたが苦笑が漏れる。
「ああ。ちょっと野暮用で」
小指を立てて振る。
「なんとまあ。明日は雹だな」
これは本当だ。ただし相手はよりにもよって繁殖期の大蟷螂のメスだったが。人里近くで発見され知人に泣きつかれたが出来れば相手をしたくなかった。力加減を間違って中途半端に消し飛ばすと、体中から子蟷螂があふれ出すのだ。はっきり言って鳥肌が立つ。
触媒が高額な転移魔具で慌ててやってきたものだから、秘蔵のワインで請け負っていた。帰り道で無くなってしまっていたが。
「ふふ、とりあえずエールを」
「はいよ」
すぐにやってきた。やはり馴染みはいい。
「最近の面白い話はあるかい?」
「なんだ、ほんとにどっか行ってたのか」
「おーい」
「いや、悪い。いつもとそう変わらんさ。どこぞの傭兵同士の殴りあいとか、これで一攫千金だなんて言ってるやつとかな」
(お前さんのところの娘さんは?とは言うまい。興奮しすぎて倒れられたら困る)
「いつも通りだ」
「そうさ。ああ、変わった話だとダークエルフを見たってやつがいたな。見間違いだろと冷やかされてたが」
「そりゃあ見間違いだろ。あの連中が魔の国から出てくるとは思えん。どこぞの美形の役者さ」
褐色で艶のある肌に月の光のようだと形容される髪。総じて男女ともにとてつもない美形だが、ダークエルフは気位がとても高い。わざわざ人間の国に来るやつがいたら頭を打ったなと心配する必要がある。もしくは厄ネタだ……。彼らは最も高度な暗殺術と闇魔法を長い年月鍛え上げた夜の戦士なのだ。
「そうだろうな。はいよ追加だ」
「あんがとさん。変になんぞあるよりそっちがいいか」
「そういうこった」
(日々平穏それでいい。流石に若いころのように毎日刺激を求めるような感性はもう無い。さて料理はなににするか……)
◆
「ありがとうございましたー。また来てくださいねー!」
「ごっそうさん」
満足した男は大通りに出ながら、このまま帰るか夜店を冷やかすかと考えていたが、彼の感覚が異様を察知した。
(んん?)
向かいの建物の上から何者かが高速で移動しているのだ。道がないはずのところを移動しているものだからかなり気配が分かりやすい。
(さて何が出るやら)
好奇心に駆られ、気配が来るであろう方向に目を凝らし少し待つと、目的の存在が建物の端からジャンプし向かいの建物に飛び移った。大通りを跨いでの凄まじい跳躍力であった。
(うわダークエルフの女だ。)
酒場で話に上がっていたがまさか本当にいるとは思っていなかった。人間の国で、遮蔽魔術をかけたダークエルフが、建物の上を走り回っているのだ。どう考えても厄介ごとの臭いしかしなかった。
(さてどうしたものか)
普段なら関わる気も起きなかったが、ちらりと見えたその表情があんまりにも悲痛に染まっていたのだ。昔ほどの情熱はもうないが、あんな表情をするものを放って置くほどにも彼は冷たくなかった。
(しゃあない。話でも聞くか)
決断すると彼は先ほどからずっと追っている彼女の方へ移動を開始した。
好奇心は猫を殺すといったが果たして化け物を殺すことができるのであろうか?
◆
モンスター辞典
大蟷螂:この世界で大蟷螂といえばこのモンスター。5mを超える巨躯、強靭な外骨格に魔法耐性のある外皮、無尽蔵と思えるほどのスタミナ。しかし、最も恐ろしいのはやはりというべきかその鎌で、これにつかまると高位の冒険者の防具も切り裂き致命傷を与えられる。肉食で繁殖期には気が荒くなるうえに餌を確保しようと活発化する。孵った子は冒険者が積極的に駆除している上、自然界的にも上位とは言えないため成虫になるのはごく一握りに過ぎない。対応には複数の高位冒険者が所属するチームか、金に糸目をつけないのであれば特級冒険者を雇う必要がる。
余談 オスはやっぱりメスに食べられる。
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