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聖女リリアーナ編
予兆、あるいは最初の戦い
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祈りの国、辺境の小さな監視所で10人ほどの警備の兵が夜食の準備をしていた。
「今度の聖女様はどんな方だと思う?」
「さて…、リリアーナ様が美しすぎたからな。次の方と言われても想像が出来ん」
「はは、確かにな。次の方は少々気の毒だ」
「だろう?」
男達は女神とまで言われたハイエルフの女性を思い浮かべた。
祈りの国における目下の話題と言えば、次の聖女は誰かということだ。人が選ぶのではなく、"告知のベル"が自ら選ぶことは知られているため、予想が付きにくいのだ。
「俺も儀式を見に行きたいんだがなあ」
「悲しいかな、下っ端だ。守護騎士か"勇者"になるんだな」
「ガキの頃の予定では成ってたんだがな」
「言えてる、俺もだ」
辺境とはいえ国境からは離れている。兵達の会話には笑いが漏れている。
「おーい、手を動かせ」
「すまんすまん。…おいお前のせいだぞ」
「乗って来たお前が悪い」
日中の巡回も終わり、夕食前ということもあって、仲間内での気楽な会話だ。
そんな時監視所に響き渡る声が発せられる。
「警戒!魔力が高まりつつある!警戒!魔力が高まりつつある!」
魔法の心得のある兵士からの警告。
「総員武器をとれ!臨戦態勢!」
隊長の大声で全員が武装を整え始めた。
「光を上げろ!」
「はっ!」【光よ 打ちあがれ】
魔法使いより打ち上げられた光が辺りを明るく照らし出す。
「……いた!南だ!魔力が集まっている!何か出るぞ!」
街の外で、は魔力溜まりから"門"が発生し、精霊か何かが出てくるのは、それほど珍しいことではない。
「……出た!"悪魔"だ!"出てきたのは悪魔"だ!一体!四足!腕が長い!」
しかし、今回出てきたのは選(よ)りに選(よ)って"悪魔"だった。別次元"枯れた荒野"より現れる、この世界全てに対して敵対的な存在。自らの糧とすべく、生ある者を殺戮するのだ。
おおよそ全長2メートル、灰の肌に、筋肉で盛り上がった体、捻じれた様な長い腕には鋭い鉤爪があり、頭部は犬を醜くしたような悪魔だった。
「緊急信号を上げろ!弓は射撃開始!」
都合3回の赤色の光が空に打ち上げられる。一応、緊急信号が見える位置に、別の監視所を作ることになっているが、果たして気が付いてくれるだろうか。
「ダメだ!矢が刺さらない!」
明らかに矢は弾かれていた。それに早い!
【氷よ 我が敵を 貫け】
魔法使いより放たれた尖った氷が、"悪魔"の左腕に突き刺さるも、気にせず兵士達に走り寄る。
「やれ!」
隊長の号令の下、前線の兵達が槍で突くも、刃が肌を通らない。
「ダメだ!刺さらない!」
その隙に、"悪魔"は近づいていた兵に、その長い腕を振りかぶり爪でもって切り裂く。革の胸当ても意味をなさなかった。
「ハンス!?」
気を逸らしてしまった兵の首に、"悪魔"の歯が突き刺さる。
「火だ!アロルド!火を使え!燃やすんだ!」
隊長が、普段は、煙や炎で味方を巻き込む可能性があり、厳禁されている炎の魔法を使う許可を出す。
【炎よ 我が敵を 燃やせ】
炎の塊が、上手く悪魔に着弾する。
gyaaaa■■■■!!!
耳を劈くような悲鳴が木霊する。
「アロルドを守れ!槍は目を突くんだ!やれ!」
突破口が見えた瞬間だった。しかし、彼らにとっては長い夜となった。
◆ ◆ ◆
祈りの国 神殿 会議室
円卓に座る複数の男達。大司教達だけでなく枢機卿まで参加していた。
「悪魔の襲撃で死傷者多数…偶然かな?」
「分からん、一体だけだからな…しかし交代の儀を考えると警戒するべきだ」
確かに悪魔の襲撃は重要だが、通常ならここまで会議にはならない。しかし、時期が悪かった。聖女の交代で一時的に結界が綻び、神々の残り香に反応した悪魔が活発化する恐れがあったのだ。
「懸念点ではあったが、今まで起こらなかったのだ。というのは傲慢だったな。」
この会議に唯一出席していた枢機卿が発言する。
「しかし、バルナバ枢機卿。これだけでは各地に警戒を促す程度しか出来ないのでは?」
「確かにな…情報が少なすぎる。我々の取り越し苦労であればいいが。一応、守護騎士団の総長に、気を引き締めろと言ってもらうよう頼んでおこう。」
「はい、おねがいします」
「ほかに案件は?…よし、では解散しよう」
種族辞典
悪魔:別次元"枯れた荒野"に生息する生命体。弱肉強食の世界であり、相手の魔力を奪い取ろうと日夜生存競争をしてるため、強力な個体が多い。
魔力を多く得た個体は、体長、または知能が向上する傾向にあり、高位の存在となると、多数の悪魔を支配下に置いている場合がある。
大陸に現れるには、自然発生した"門"の付近に偶然いたか、魔法使いによる召喚が必要であるが、強力な分、制御が難しいため、よほど力が必要な邪悪な目的がない限り、魔法使いは悪魔と関わらない。
万が一、高位の悪魔を愚か者が大陸に招いた場合、特級または勇者が召集される。
「悪魔は確かに非常に強力ですが、その代わり非常に制御が困難です。一応契約や魔法などで縛ることもできますが、虎視眈々と術者の命を狙っており、隙あらば襲い掛かって来るでしょう。ですので召喚魔法を専攻する貴方達に、悪魔の召喚による注意点を説明します。そもそも呼ぶな。です」
魔法学院召喚科による授業
「今度の聖女様はどんな方だと思う?」
「さて…、リリアーナ様が美しすぎたからな。次の方と言われても想像が出来ん」
「はは、確かにな。次の方は少々気の毒だ」
「だろう?」
男達は女神とまで言われたハイエルフの女性を思い浮かべた。
祈りの国における目下の話題と言えば、次の聖女は誰かということだ。人が選ぶのではなく、"告知のベル"が自ら選ぶことは知られているため、予想が付きにくいのだ。
「俺も儀式を見に行きたいんだがなあ」
「悲しいかな、下っ端だ。守護騎士か"勇者"になるんだな」
「ガキの頃の予定では成ってたんだがな」
「言えてる、俺もだ」
辺境とはいえ国境からは離れている。兵達の会話には笑いが漏れている。
「おーい、手を動かせ」
「すまんすまん。…おいお前のせいだぞ」
「乗って来たお前が悪い」
日中の巡回も終わり、夕食前ということもあって、仲間内での気楽な会話だ。
そんな時監視所に響き渡る声が発せられる。
「警戒!魔力が高まりつつある!警戒!魔力が高まりつつある!」
魔法の心得のある兵士からの警告。
「総員武器をとれ!臨戦態勢!」
隊長の大声で全員が武装を整え始めた。
「光を上げろ!」
「はっ!」【光よ 打ちあがれ】
魔法使いより打ち上げられた光が辺りを明るく照らし出す。
「……いた!南だ!魔力が集まっている!何か出るぞ!」
街の外で、は魔力溜まりから"門"が発生し、精霊か何かが出てくるのは、それほど珍しいことではない。
「……出た!"悪魔"だ!"出てきたのは悪魔"だ!一体!四足!腕が長い!」
しかし、今回出てきたのは選(よ)りに選(よ)って"悪魔"だった。別次元"枯れた荒野"より現れる、この世界全てに対して敵対的な存在。自らの糧とすべく、生ある者を殺戮するのだ。
おおよそ全長2メートル、灰の肌に、筋肉で盛り上がった体、捻じれた様な長い腕には鋭い鉤爪があり、頭部は犬を醜くしたような悪魔だった。
「緊急信号を上げろ!弓は射撃開始!」
都合3回の赤色の光が空に打ち上げられる。一応、緊急信号が見える位置に、別の監視所を作ることになっているが、果たして気が付いてくれるだろうか。
「ダメだ!矢が刺さらない!」
明らかに矢は弾かれていた。それに早い!
【氷よ 我が敵を 貫け】
魔法使いより放たれた尖った氷が、"悪魔"の左腕に突き刺さるも、気にせず兵士達に走り寄る。
「やれ!」
隊長の号令の下、前線の兵達が槍で突くも、刃が肌を通らない。
「ダメだ!刺さらない!」
その隙に、"悪魔"は近づいていた兵に、その長い腕を振りかぶり爪でもって切り裂く。革の胸当ても意味をなさなかった。
「ハンス!?」
気を逸らしてしまった兵の首に、"悪魔"の歯が突き刺さる。
「火だ!アロルド!火を使え!燃やすんだ!」
隊長が、普段は、煙や炎で味方を巻き込む可能性があり、厳禁されている炎の魔法を使う許可を出す。
【炎よ 我が敵を 燃やせ】
炎の塊が、上手く悪魔に着弾する。
gyaaaa■■■■!!!
耳を劈くような悲鳴が木霊する。
「アロルドを守れ!槍は目を突くんだ!やれ!」
突破口が見えた瞬間だった。しかし、彼らにとっては長い夜となった。
◆ ◆ ◆
祈りの国 神殿 会議室
円卓に座る複数の男達。大司教達だけでなく枢機卿まで参加していた。
「悪魔の襲撃で死傷者多数…偶然かな?」
「分からん、一体だけだからな…しかし交代の儀を考えると警戒するべきだ」
確かに悪魔の襲撃は重要だが、通常ならここまで会議にはならない。しかし、時期が悪かった。聖女の交代で一時的に結界が綻び、神々の残り香に反応した悪魔が活発化する恐れがあったのだ。
「懸念点ではあったが、今まで起こらなかったのだ。というのは傲慢だったな。」
この会議に唯一出席していた枢機卿が発言する。
「しかし、バルナバ枢機卿。これだけでは各地に警戒を促す程度しか出来ないのでは?」
「確かにな…情報が少なすぎる。我々の取り越し苦労であればいいが。一応、守護騎士団の総長に、気を引き締めろと言ってもらうよう頼んでおこう。」
「はい、おねがいします」
「ほかに案件は?…よし、では解散しよう」
種族辞典
悪魔:別次元"枯れた荒野"に生息する生命体。弱肉強食の世界であり、相手の魔力を奪い取ろうと日夜生存競争をしてるため、強力な個体が多い。
魔力を多く得た個体は、体長、または知能が向上する傾向にあり、高位の存在となると、多数の悪魔を支配下に置いている場合がある。
大陸に現れるには、自然発生した"門"の付近に偶然いたか、魔法使いによる召喚が必要であるが、強力な分、制御が難しいため、よほど力が必要な邪悪な目的がない限り、魔法使いは悪魔と関わらない。
万が一、高位の悪魔を愚か者が大陸に招いた場合、特級または勇者が召集される。
「悪魔は確かに非常に強力ですが、その代わり非常に制御が困難です。一応契約や魔法などで縛ることもできますが、虎視眈々と術者の命を狙っており、隙あらば襲い掛かって来るでしょう。ですので召喚魔法を専攻する貴方達に、悪魔の召喚による注意点を説明します。そもそも呼ぶな。です」
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ご購入はこちらから:
Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/
楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/
【作者より、感謝を込めて】
この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。
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