その男に触れるべからず ~過去にやらかし過ぎた最強男の結婚生活 反省しているので化け物呼ばわりは勘弁してください~

福郎

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紛争もしくは藪蛇

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騎士の国 魔法の国 国境地帯 魔法の国野営地

現在、騎士の国と魔法の国の国境地帯はかつてない緊張状態にあった。
ここ、魔法の国の野営地でもせわしなく兵達が動き回り、万が一の場合に備えていた。
そんな中、一台の馬車が臨時の司令部が置かれたテントの前まで止まる。

「閣下、ヴァン評議魔導師様がご到着成されました」

「分かったすぐ行く」

司令官がテントから出ると、ちょうど老いた魔法使いが馬車から降りる所であった。
長い白髪の髪に、鷲鼻。手には捻じれた杖を持っていた。この、いかにもな魔法使いこそ、魔法の国の政治的指導者である評議会の一員、評議魔導師のヴァンであった。

「司令官。向こうの勇者は?」

「まだ、到着しておりませんが時間の問題かと」

「そうか」

普段は首都から滅多に動かない評議魔導師が、このある意味最前線にいるのは、騎士の国の勇者が国境に現れるという情報を掴んだためであった。
お互い小競り合いはしょっちゅうであったが、今まで勇者が国境に現れたことはなく、このある意味紳士協定が破られたことを重く見た魔法の国は、最大戦力でもある評議魔導師を国境へ派遣することを決定した。

(間に合いはしたが先手を取るわけにもいかん…政治じゃな。だが、勇者が到着してから攻められたとして儂に捌けるか?)

しかし、騎士の国へ過度な刺激をしないよう1名だけであり、もし開戦という事になれば自分達より戦力の大きい騎士の国に敗北する可能性が高いとヴァンは予測していた。

(一応、遺物は持って来ているが…。使うとなれば全面戦争になる。見せ札として機能すれば)

念のため魔法の国は、ヴァンに広域攻撃型の魔法を増幅する遺物を与えていたが、その魔法の国の評議会も、本当に必要な時だけの切り札であり出来れば使うなとヴァンに通達していた。

ド!!!!

突如辺り一面に広がる爆発音。

「なんだ!?」  「攻撃だ!」  「待て落ち着け!」  「各員集合!!」  「敵はどこだ!?」

「状況を報告せよ!!」

野営地全体が混乱する中で、司令官が大声で叫ぶと慌てて参謀の1人が走り寄ってくる。

「報告!我が軍前方にて大規模な爆発を確認!詳細は不明!」

「分かった!全体の掌握に努めろ!こちらから戦端は絶対に開くな!復唱不要、行け!」

「はっ!伝令を走らせろ!落ち着かせるのだ!こちらからの攻撃は現在厳禁!そこのお前!お前も走れ!」

原因が不明なため、とにかく今は混乱している軍を落ち着かせることが先決と考えた司令官は、全体に伝令を走らせた。それと同時に、外交的に不利になる明らかな先制攻撃を全軍に禁止を通達する。

(嫌な流れじゃのう…。!?)

【大いなる 魔力の 奔流よ 我らを 守れ】!!

混乱する野営地全体を見渡しながら、ヴァンが不安を感じた時であった。明らかにこちらに向けて強力な魔力が向けられているのを察知したのだ。そのため、即座に防御魔法を軍前方に展開した。
かなり離れている騎士の国の軍から魔力の高まりを感知し、これまた野営地中心にいるため離れている魔法の国の軍の前方に防御魔法を展開できるのは、流石は最高峰の魔法使いであった。

(5つか!勇者!)

騎士の国から放たれた一筋の光の攻撃魔法を防ぎながら、相手の力量が5つの呪文を唱えられる者と感知、相手方の勇者と当たりをつける。
とはいえ、魔法のみに人生を捧げて来たヴァンの魔法障壁は、同じ5つの呪文に対してでも完璧に防いで見せた。

「ヴァン殿!?今のは!?」

「5つ唱えられた魔法じゃ!恐らく勇者!」

「くそ!全軍防御態勢!」

ヴァンが唱えた呪文と、それにぶつかって来た何かを見た司令官はヴァンに問うが、帰って来た返答は最悪の物であった。

「司令官!敵が移動を開始!天馬も飛び立ちました!あれは!?敵軍!魔法攻撃の予兆無数!」

念のため、司令官が空に飛ばして監視任務に就いていた高位の魔法使いが、騎士の国の明らかな攻撃を報告してくる。

『防御魔法を前方に展開!総員戦闘態勢!』

魔法で声を拡散し、軍全体を戦闘に備えさせる。

「敵、攻撃魔法着弾!司令官どうなさいます!?」

『総員反撃を開始せよ!魔法使用制限なし!』
(最悪だ!)

≪緊急!敵軍全面攻勢!援軍願う!勇者相当の参加も確認!≫

想定していた中で、最悪の状況に陥ってしまった司令官だが、それでも念のため態勢は整えていたため、反撃を指示を下し、連絡用の魔具で首都に連絡をする。返事を待っている余裕はなかったが。
一度命令が下された軍は、混乱が嘘であったかのように機能し始める。

「天馬だ!近づけさせるな!撃て!」 【雷よ 我が敵を 撃て】!

天馬の馬上から射られる風を纏った弓矢が、同じく空に浮かぶ魔法使いや偵察員を狙い、させじと地上から飛び交う弓に攻撃魔法。

「敵前方に煙幕!」 「上空から報告!敵騎馬隊動き始めました!」 「地面を泥にしろ!」 【大地よ
ぬかるめ】! 【水よ 降り注げ】! 「だめだ!上から報告!左右に分かれた!!」 「槍構えええ!」

煙幕に紛れての騎馬突撃を察知した魔法の国は、前方の地面を泥にして勢いを殺そうとするも、騎馬隊は左右に分かれ、準備の整わない正面の端からそれぞれ突撃、正面中央を重点的に魔法を行っていたため、端の方は十分ではなく、結果的に魔法などで強化された騎士の国特有の駿馬達の侵入を許すことになる。

「我が軍前線混乱!また敵本隊前進を開始を確認!足が速い!何らかの強化と推定!」

(これは…使うしかないのう…)

明らかに魔法の国の不利を感じたヴァンは、遺物の使用を決心する。
自分もそうであったが、両軍の全戦力がぶつかり合っての全面潰走までは想定していなかったため、ここで崩れると、国境周辺の街が勢いのまま孤立、最悪陥落する場合があるのだ。

(目標は…敵本隊しかないか。嫌じゃのう、じゃがやるしかあるまい)

この混乱で騎馬隊だけ狙えるはずもなく、また、今の状況で足の速い敵本隊が到着すると決定打になると判断したヴァンは、恐らく大量の人死にを自分の手で出すことに思い悩むも、遺物を併用しての自分の魔法がどれほどのモノかが分からないため、最大効率として敵本隊中央に狙いを定めた。

(よし)

全て燃えよ増幅 6相当

決心したヴァンは、与えられた捻じれた杖の遺物を起動。その魔法を敵本隊に解き放つ。
杖から飛び出た小さな火花は、騎士の国から展開された魔法障壁を薄紙の様に破き、着弾した。

《■■■■■》!!!

全ての者が今まで聞いた事のない音と目の眩む閃光が騎士の国の本陣から発生するが、その着弾点付近にいた者はというと、いや、存在はというと、骨と煤けた金属の鎧や剣だけであった。
遺物によって完璧にコントロールされた熱は、その攻撃範囲以外に一切の熱を逃さぬままに、騎士の国の中央にぽっかりと大きく空いた、焼けた荒野を作り出したのだ。

「おお!?」 「何が!?」 「きっと天罰だ!そうに違いない!」 「本隊が!?」 「いったい何が!?」

『敗残兵を掃討せよ!我々の勝ちだ!我々魔法の国が勝ったのだ!さあ、目の前にいるのは負け犬だぞ!』

一応遺物を知らされていた、魔法の国の司令官は混乱からいち早く立ち直り、自軍が勝っていると宣伝することで、そのまま騎士の国を打ち破ろうと魔法で大声を張り上げる。

「は、はは!死ねやクソッタレ!」 「行け行け!」 「ぎゃあああ!!?」 「退却!全軍退却!」

混乱冷めぬうちであったが、司令官の声に従い兵達は騎士の国の"敗残兵"に今までの恨みを返していた。
全体を見れば、まだ騎士の国のやや不利程度の兵力差であったが、本陣も魔法によって吹き飛ばされた騎士の国は、組織立っての行動が全くとれないまま退却し、被害が拡大していく。

(勝ったかのう)

「勇者がいるぞ!」 「敵の殿は勇者だ!」 

(いや、もう一仕事あったか。巻き込まれていて欲しかったが。遺物は…ダメじゃ、当分使えん)

潰走していく騎士の国の軍を見ながら独り言ちるヴァンであったが、相手方勇者の出現の報に気を入れなおす。
遺物は先ほどの魔法行使で、暫く使えそうになかった。

(どれ、もうひと踏ん張り)

戦いはほとんど終わったも当然であった。



パチリ
何かの目が開かれた。
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