その男に触れるべからず ~過去にやらかし過ぎた最強男の結婚生活 反省しているので化け物呼ばわりは勘弁してください~

福郎

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敵討ち編

少女に伸びる影

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剣の国 街道

剣の国の街道を歩く5人ほどの一行が居た。老いも若いも居り、一見家族で行動しているかのように思えたが…。

「あれ?」

「どうしたアベル」

その中で最も若いアベルが困惑した様子で立ち止まり、他の面々も立ち止まる。

「いえ、"予想"してたらリガの街に入った途端先の事が分からなくなって」

「なに?」

「おいおい、一応、そう、一応役に立ってるんだからしっかりしろよ」

「そんな一応って連呼しないでくださいよ。僕だってこのあやふやに振り回されてるんですから」

この一行、特殊な魔具によって人間種へと姿を変えた、魔の国の秘密工作部隊はある人物の勧誘のためにリガの街へと移動している最中であった。
そんな中立ち止まったアベルであるが、彼はその日起きる事をかなりおおざっぱではあるが、ある程度予知することができるのだ。
もっとも貶されているように、精度がおおざっぱすぎて、少しの変化で全く違う予知の結果となってしまうため、ここのいる誰もが予知は一応有用であるが信頼するに値はしないと思っていた。

「でも全く予知できないのは初めてなんですよ」

「まあ別に普段と変わらんだろ?」

「ブラウンさんひどいなあ」

「まあ予知に振り回されるより案外こっちの方がいいかもしれんの」

「もう、ダイアナお婆ちゃんまで」

同僚である同じく若い男ブラウンに老婆のダイアナも同意していた。よほど予知関係で面倒な思いをしたのだろう。

「どうするクラウツ?」

「予定は変わらん。このままリガの街に入る」

「分かった」

今まで黙っていた巨漢の男アイデンと、鋭い目の隊長であるクラウツの間でも予知に関係なく予定を進める事が決まった。やはり彼等も予知で苦労したのであろう。

「もうすぐ街だ。予定通りまずダークエルフの姉妹、ジネットとルーの所在を確認する。ジネットには接触はするな。お前達では気が付かれる」

「はいよ」

人間種の国への破壊工作を命じられている彼らは、事前に見せられた人相書きを思い出しながらリガの街へと侵入した。
ジネットとルーを利用し、騎士の国の王を暗殺することによって彼らの母国、魔の国への人間種の圧力を減らそうとしているのだ。

しかし…。
彼らはもう少し考えるべきだった。
予知の先が見えないのはどういう意味であるかと…。

つがいが孕み、気が立っている怪物の縄張りの中へと彼らは侵入することとなってしまった…



…使い手が5人来たな。
…何の用だ?


早速彼らは姉妹の居所を街の者に聞いていた。
出来るだけ家族に見えるように変装しており、昔、家族みんなが世話になった恩返しにと所在を訪ねていた。

「ダークエルフ?それならユーゴさんの所のジネットさん達だよ。街のちょっと中央の大きな屋敷さ」

「ああ、ルーちゃんかい?さっき商店街で旦那さんと一緒に居たよ。え?結婚してるのかって?そうそう、お姉さんのジネットさんと一緒にユーゴの所に嫁いでるよ。やっぱりあの外見同士で結婚してるのはいかんでしょ。犯罪だよ犯罪」

やはり人間種の街だけに、ダークエルフは目立つようですぐに所在は割れた。

「おいクラウツさんよぉ。どうやらすぐに片付きそうじゃねえか。妹の方どころか旦那までいるなんてなあ」

「ああ、両方確保してジネットへの交渉材料にする」
(そしてあわよくば…)

ダークエルフに王族は無いが、月の女神の娘とまるで姫の様に扱われ自分が手を出せなかったジネットが、ひょっとすると自分の思うが儘に出来るかもしれないという考えがクラウツの頭をかすめる。



…。
魔族。
ダークエルフが1人…。
知人か?



「いたぞ。旦那の方はいないな…。まあそっちはついでだ。ダイアナ、路地裏に入って倒れていろ。そして呼ぶんだ。奴が近づいてきたらそのまま攫うぞ」

「はいはい、倒れてりゃいいんなら楽させてもらおうかねえ」

商店街を歩いていればすぐにターゲットを彼らは見つけることが出来たが、もう1人の旦那と見られる男はいなかったが、構わず進める事になった。
作戦が決まり、各々が獲物をそれとなく確認したときであった。
一瞬、ほんの一瞬だけ裏の者達の癖というか、道にいる市民から認識できないように動いてしまった。

「ちょっと話を聞かせてくれる?」

そしてその一瞬は化け物が獲物を腹の中に収めるには十分すぎた…。

「!?」 「なんじゃ!?」 「おい何処だよここ!?」 「うわ!?」 「転移だ!」

工作員達が辺りを見回すと、リガの街が遠くに見える平原に転移させられていた。

「申し訳ない。すこし余人を交えずに話をしたくて。私、ユーゴと申します。貴方方が攫おうと言っていたルーの旦那でしてね。いや、最初はダークエルフのようでしたから彼女達の知人かと思ったのですがどうもそうじゃない。獲物まで確認してましたからね。それでお話をしたくて」

混乱する一行であったが、少し前に黒髪黒目の男が岩に座っていた。しかも、どうやってか会話も聞かれていたらしい。

「貴様、何者だ?」
(やれ)

正体不明の男であったが、会話を聞かれていたからには消すしかない。クラウツは気を引こうと会話しながら仲間たちにサインを出す。

ガギン!!

「!?」

「ああ!?なんで刺さらねえ!?」 「なんじゃと!?」 「そんな!?」 「馬鹿な!」

閃く5つの光。それらが首や心臓、頭部に吸い込まれる。
しかし、短剣や暗器などが完全に決まったはずなのに男の体には傷一つなかった。

「昔馴染みのルーへの不意打ちの訓練って事も無いわけね。じゃあ死ねや」

ヒョボッ

「ぎ!?」

クラウツはその瞬間何も知覚できなかった。
しかし結果だけははっきりと分かった。
さっきまで確かにいた仲間たちの姿はどこにもなく、服の切れ端だけが舞っているだけであった。
そして己も…。

「ああああああああああああ!!??」

「昔は人相手の加減が上手くいかなくて吹き飛んでたから薬を使えなかったけど、流石に成長してるな」

「ぐうううううううう!?」

へし折れてあらぬ方向を向いた手足を使って必死に逃げようとするクラウツであったが、当然逃げ切れるはずがない。

「おら口開けろや。大丈夫だって、正直に話さなかったらちょっと痛いだけの薬だからさ」

……………………

辺りに絶叫が数度響き渡った。



「ごめんルー。ちょっと野暮用が」

「あ、はい分かりましたご主人様!」

「ごめんね、すぐ終わると思うから」

「いえ行ってらっしゃい!」

「ホントにごめんね」

ご主人様はたまに野暮用と言ってどこかへ行ってしまう事がある。ついこの間も夜中に抜け出してどこかへ行っていたらしい。
ちょっと興味あるけど、出来る奥さんは夫の内緒を黙っていてあげるのだ。そうアレクシアさんも言っていた。あれ?お姉ちゃんだっけ?まあいっか。

1人になってしまったが、それなら少し探してみよう。

あの人は…違うや。
あっちも違う。

あ、八百屋のおば様こんにちわ

向こうの人も違う。

やっぱりいないなあ。
あの人の望みにぴったり合う人。
家族が欲しくてみんなと仲良くして、そんでもって赤ちゃんも産んでみんなで幸せな家族になってくれる人。

あれ?

「ああ、ごめん。ユーゴさんじゃないね。彼はこんな鋭い顔じゃなくて、こう、なんというか垢抜けない顔してるから」

「え…」

「ごめんね」

「いえ…ありがとうございました…」

「あの!今ちょっといいですか?なんだかお困りだと思って声を掛けさせてもらいました!」

「え、ええ…あの、貴女は?」

「はい!名前はルーって言います!」








みつけた
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