その男に触れるべからず ~過去にやらかし過ぎた最強男の結婚生活 反省しているので化け物呼ばわりは勘弁してください~

福郎

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敵討ち編

混乱を望む者

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善は急げだ。祈りの国のベルトルド総長に会いに行こう。祈りの国の手配書関連は最終的に彼に行きつくはず。一番そういうのに力を入れてるのは祈りの国だしな。
しかし未だに手配書はチェックしてるのが妙なところで役に立ったな。若い頃は見も知らない奴からお礼参りという事が多かったから、せめて有名所はと見てたがその癖がまだ残ってるな…。
さて転移するか。神殿に直接は無理だが街外れでも俺なら一瞬だ。

あの年頃で、1人縁も所縁もない土地でする苦労は知っている…。早く楽にさせてあげよう。


祈りの国 守護騎士団本部

祈りの国に来るのもリリアーナの一件以来だな。
流石にあの時ほどピリついてないが、それでも国家の中枢にある場所だ。警備の兵達もよく訓練されているな。
ああ、居たな。会ってそう日は経ってない、気配は覚えている。アポなしだが勘弁してほしい。あんたくらいの身分になると、電話一本の時代じゃないから会うのに結構かかるんだ。
ノックノック。

「失礼します騎士総長殿」

「…誰だ?」

またとぼけちゃって。心拍数凄いよ?

「ユーゴです。先日はお世話になりました」

「…入ってくれ」

「ありがとうございます」

部屋に入ったが、まさに質実剛健の執務室だ。流石だな。部屋までイメージそのままだ。
俺の姿を見てさらに心拍数を上げやがった。倒れるぞ爺さん。

「事前連絡も無しに申し訳ありません。実は聞きたいことがありまして」

「それは構わんが聞きたいこと?」

そう言えば、前来た時は主にドナート枢機卿が俺の対応だったな。それもあるのかもしれん。

「祈りの国の手配書で最優先抹殺対象に指定されている業魔という男についてです」

「殺してくれるのか?」

話が飛躍しすぎだろ、俺のことどんな風に思ってんだよ。
合ってるが。

「ええ、まあ」

「少し待て、最近更新されたばかりだからそう探さんですむはずだ」

話が早すぎ!理由くらい聞いてくれないか?敵討ちの手助けとか、故郷なら一定の時代だけど名誉なことだよ?多分。
しかし、最近情報の更新があったのか。好都合とはこの事。

「あったこれだ。つい先日騎士の国で目撃されている。お仲間も一緒だ。まとめて渡そう」

「ありがとうございます。しかし仲間ですか?」

凜ちゃんの話では1人だがどれどれ?
あらら、"7つ"に"骸骨"に"拳死"に"切っ先"?有名どころばっかりじゃん。
だがまあ面白いくらいなにがしたいか分かるわ。位階を上げたいけど虐殺なんかしたら即バレて追っ手だらけになるから、騎士の国の混乱のどさくさに紛れたいのね。もうこっそり殺す程度の数じゃ上がらんのだろうな。

「どうも一筋縄ではいかなそうですね。一緒に行動を?」

「ああ、同じ穴の貉だ。気が合うのだろう」

まあ求道系ばっかりだしね。強さのみだが、そのストイックさはそこらの聖職者以上だろう。
しかしそんな奴らとつるんでるのか。

「やはり騎士の国が混乱していた方が都合がいい?」

「そう見ている。すでに焚きつけたり操ったりしている様だが、いかんせん騎士の国が我々に友好的でないのと強者揃いだ。そう簡単に見つける事も出来ん」

参ったな。騎士の国は広い上に強い奴が多いから見分けが着きにくい。街一つずつ当たって探し回るか?…ちょっと現実的じゃないな…。街だけじゃなくて廃村やら洞窟とか探すとなるとそれこそ無理だろ…。

「なるほど…ちなみに捜査の優先度は?」

「それこそ"最優先"だ。政情が不安定な所にこんな奴らが居るのだ。何をしでかすか分からん。騎士の国には悪いが黙ってかなり送り込んである。言ったら絶対断られるからな」

まあそうだろう。祈りの国は騎士の国に、人種同士で争うなと今まで口酸っぱく言い続けてきたのだ。騎士の国にとって鬱陶しい事この上なかっただろう。そのせいでかなり祈りの国は嫌われている。

「分かりました。では1日に1度、こちらに来させて貰いますので最新の情報を頂けませんか?」

「うーむ…まあ…」

血圧上げながらそんな顔しないでくれ。面倒なのが消えるんだ。必要経費だろう。
俺だって街の方は回るつもりなんだ。

「そういえばリリアーナ様は今どうしておられる?」

嫌な話題から逸らしやがったな?
しかしよくぞ聞いてくれた。

「つい先日ですが、妊娠が分かりましてね。いやあ、これで私とリリアーナも父と母です。ジネットも妊娠しておりましてね。ははは、私も2児の父ですよ」

ははははは!

「うん?すまんもう1度言ってくれんか?」

この爺さん血圧も心拍数も変化がねえ。素で理解を拒みやがったな?
なら何度でも言ってくれるわ!

「妊娠しておりましてな!幸せいっぱいですな!」

「…え?」

ボケたか。憐れな…。

「それでは私はこれで」

家族の話をされたから早く帰りたくなった!
凜ちゃんの仇の話も聞けたし帰るか!

「ちょっと待て!リリアーナ様がなんだと!?」

はははは!さらばだご老体!血圧には気を付けろよ!
今帰るからね!音すら置き去りにして!



「ただいまー」

夕飯までには帰れた。よかったよかった。

「お帰りなさいあなた。お夕飯の準備は出来てますよ」

「ありがとうジネット。凜さんは?」

「ルーと部屋の方にいますよ。歳が近いから仲がいいみたいです」

ジネットが出迎えてくれたので凜ちゃんの様子を聞いたがよかった。
しかしルーのは精神年齢が…。いや止めておこう。ルーに変な物飲まされそうだ。


「お帰りなさいご主人様!」

「部屋までありがとうございますユーゴ殿。その、それで業魔は?」

テーブルに座っているとルーと凜ちゃんの2人がやって来た。夕食の前に話を済ませておこう。

「騎士の国にいる事は分かったけど、どこにいるかはまだ分からないんだ」

「騎士の国に!?そうと分かれば!」

「ダメですよ凜ちゃん。騎士の国ってとっても広くてですね。お金もないんでしょ?」

「うぐっ…それは」

凜ちゃんが現実を前に項垂れている。分かる。分かるよその気持ち。俺もこの世界の金なんて一文無しだったもの。

「幸い、そういうことに力を入れている祈りの国の方に伝手があってね。向こうも危険人物と見ていて最優先で追っているらしくて、分かったことを教えてくれるようお願いしたから、ここにいたほうが効率がいいと思う」

「ああ!何から何まで本当にありがとうございます!」

よせやい。そんな潤んだ目で見られると照れちゃうよ。

「旦那様は頼りになります!ね、凜ちゃん!」

「ああ!ルーもありがとう!」

ん?なんか違和感が。

「旦那様。ひょっとしてベルトルド総長と?」

「そうだよリリアーナ。向こうも変わりなかったし、リリアーナが妊娠したことも報告したよ。喜んでた」

そう、血圧が高かったこと以外は変わりなかったし喜んでた。喜んでたよな?

「ふふ。急に表れて驚かせてはいけませんよ?」

「も、もちろんだよ」

流石は奥さんだ…。だが待って欲しい、もう2~30年前の話が原因だから時効のはずだ。あれ?何年だっけか?
ま、いっか。
それよりご飯だ。

「えーそれではお待たせしました。頂きます」

「頂きます。おお!お箸が!」

「ちょっと物作りが本業でね。そんなに変じゃないでしょ?」

「ええ!立派な箸ですとも!」

ははは!やっぱり箸だよね凜殿!
俺の作った箸を見て凜殿が感動している。大陸に来て見る機会なんてなかったのだろう。
ちょっと俺の言う東方と凜殿の東方は違うから、なんちゃってなモンに見える時があるかもしれんがその時は勘弁して下され。

「む、アレクシアよ更に腕を上げよったな?」

「はい。おひい様にどうやってトマトを食べて頂こうと試行錯誤していたら自然に」

「な、なんじゃと!?」

「あら?この間セラちゃんトマトは吸血鬼皆がって?」

「そ、そうじゃぞアレクシアよ!吸血鬼にトマトはいかんのじゃぞ!」

あれ?吸血鬼ってトマト好きなんじゃないの?俺の思い込み?まあ赤いからってトマトってイメージだよな?

「へー。お箸っていうのそうやって使うんですね」

「ああ、馴れがいるからいきなりは無理だと思うぞルー」

「はいリンちゃん。よそって上げますね」

「あ、ありがとうございます」

ルーと凜ちゃん仲良くなったようでよかったよかった。
しかし流石リリアーナだ。まあ俺でも子供扱いしてくるほどなのだ。凜ちゃんなぞ赤ちゃんだろう。

「うっ…」

あれ凜ちゃんどうしたの?泣きそうだけど…。

「も、申し訳ありません。そ、そのこんなに賑やかな食事は初めてで…。母上はお体があまり良くなかったので…」

「じゃあ今日から慣れましょう!ね!旦那様!」

「そうそう。謝る事なんてないよ」

ルーよナイスだ。

「そうですよリンちゃん」

「わっぷ」

あ、リリアーナ抱きしめたせいで胸に溺れた。
経験者から言わせてもらうと幸せなんだけど窒息死しそうになるんだよね。あれ。

「どうせならずっといませんか?ルーはその方が嬉しいです」

「え…。それは…」

「敵討ちが済んで行く当てがないなら喜んでお招きしますよ」

1人で来たんだ。多分親類との関係が薄いのだろう。それなら仲良くなったルーがいるここに居た方がいい。帰る場所もなく彷徨うのはなかなか堪える。

「そ、そのう…考えさせてください…」

「ええ、勿論です」

悩んでいる所を見るに、やはり敵討ちをした後のことを考えてなかったのだろうな。

「あ!今日からルーは凜ちゃんの部屋で寝ますので!」

「ルー!?」

「了解ー」

良きかな良きかな。



夕飯を頂いた上にお風呂まで。
しかし浴室に木のお風呂があったのは驚いた。ルーが言うにはユーゴ殿が必要な物なのだといいながら作った物らしい。風呂へのこだわり、流石は同郷の方だ。

「これで良しっと。さあ!夜の女子会なのです!旦那様には女子会は乙女の秘密だからと防音の遺物も借り受けたのです!」

「いや、ルー。会と言っても2人だけでは」

「まあまあ。それより旦那様は頼りになりますね!」

「ああ!まさかこんなに首尾よくいくとは!」

「えっへん。旦那様に感謝をするといいのですよ」

「ふふ。もちろんだ」

本当に感謝している。見ず知らずの自分のためにこんなに骨を折ってくれるなんて。それに随分と気を使ってもらった…。私をこの家に…。いや、ご夫婦で住んでらっしゃるんだ。私は邪魔になる。

「あ、このお屋敷に住むこと考えてくれましたか?」

「え!?いやしかしご夫婦で住んでいる所に私が来ては迷惑だろう!?」

悩んでいたことを的中され動揺してしまう。
真っ直ぐにルーが私を見ている。

「でも凜ちゃんとっても幸せそうだったです。暖かい所に居たくないですか?」

「うっ」

母上は体が丈夫でなかったため、食事も体調がいいときでなければ一緒でなく、普段は別々で取っていた。そのせいか、今日体験した家族団欒の食事というものに酷く感動してしまった。

「敵討ち終わったらまた1人寂しくなってしまいますよ?」

それは嫌だ…。
母上…。

「そうだ!凜ちゃんが家族の間に入るのを迷惑と思ってるなら凜ちゃんも家族になればいいんです!」

「え!?それはどういう?」

どういう事なんだろう。ルーが自信満々に仁王立ちして宣言する。

「具体的には旦那様と結婚するのです!」

「ええ!?ユ、ユーゴ殿と?そもそも会ってまだ1日しか経っていない殿方と!?」

これだけお世話になっているが!?

「じゃあ東の国には凜ちゃんのお眼鏡にかなう人はいたですか?」

「そ、それは…」

故郷の男性を思い浮かべる。
ダメだ…。母を疎んじ、自分を鬼との忌み子と嫌悪した叔父と一族の者達の姿しか思い浮かべれない…。

「ね?じゃあ旦那様はどんな人でした?」

ユーゴ殿?見ず知らずの自分の力になってくれて、暖かく家に迎え入れてくれた人。ずっと住んでいいと言ってくれた。

「優しい人でしょ?」

そう、食事をしていた時に分かった。とても自分の事を気に掛けていてくれていると。

「凜ちゃんと会った時も、成人したばかりなのに両親の敵討ちで1人知らない土地で彷徨う事なんてさせないって思ってましたよ?」

そうなのか?そうなのだろう…。今思い返せばユーゴ殿の目、あれは私を守ろうとした目でなかろうか…

「寂しく1人じゃなくて、あったかくて幸せな所で家族皆で暮らしませんか?凜ちゃんのお母さんが居た時みたいに」

寂しいのは嫌だ…。
母上が居た時みたいに…?

「そんでもって凜ちゃんにも子供が出来て、凜ちゃんのお母さんみたいに幸せになるんです!」

母上は幸せだったのかな?

「勿論です!凜ちゃんはお母さんの事大好きなんでしょ?」

ああ勿論だ。

「ならそうに決まってます!凜ちゃんもお母さんになったら分かります!」

でも、私、鬼の血が入ってるって皆が…。

「そんなこと何も関係ないです!旦那様なら何でも来いって言ってくれます!」

じゃあ私、父上と同じ血を引いててもいいんだよね?

「勿論です!そんな事を忌む人なんていない場所でずっと一緒に居ましょう!」

でもどうしたら…。

「お任せあれ!まずは旦那様を知ることから始めましょう!」

うん

「まずルーが最初に旦那様に会ったのはですねえ」


夜は更けていく

























ずっと一緒に居ましょう。ずっと。




人物事典

ゴウマ:最優先抹殺対象 国家脅威度中 個人戦闘力最大評価

人間種、身長200cm、肌の色白、瞳の色黒、毛髪黒、200cmの身長と黒髪黒目であり判別は容易。似顔絵は別紙。
"蜘蛛"のゴウマを発見または、それに準ずる有力な情報を入手した場合、即座に帰還し総長に報告すること。万が一戦闘に発展した場合、すぐさま撤退。不可能な場合情報を残す事。
"蜘蛛"のゴウマは10年ほど前から東の国より来訪し、数多くの村または市民の虐殺に関与している。
体の一部を蜘蛛の足の様なモノに変化させることができ、各国から差し向けられた討伐者をすべて撃退している。その中に特級冒険者も複数含まれており最大の注意が必要。
現在は、"7つ"、"骸骨"、"拳死"、"切っ先"と行動を共にしており、最優先での対処が必要である。

総長より追記
騎士の国の混乱に関与しており即急に始末する必要がある。騎士の国の混乱は人種の安全基盤の崩壊につながる恐れがあり、発見次第総力を持って対処する。相手は化け物揃いだ、腹を括れ。

総長より更に追記
知らない所で死刑執行書にサインしていた様だ。代わりに発見に全力を注いでくれ。私の血管が切れる前に。
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