その男に触れるべからず ~過去にやらかし過ぎた最強男の結婚生活 反省しているので化け物呼ばわりは勘弁してください~

福郎

文字の大きさ
100 / 172
全てを食らうもの編

溢れ出した海

しおりを挟む
海の国 赤砂の浜

「まだ息の根がある海魔を探し出せ!止めを刺すんだ!」

赤砂の浜は前回の襲撃から数日後に、またしても海魔が押し寄せていた。
既に撃退されていたが、痙攣している個体や、死に瀕してもまだ陸地を目指そうとする個体が存在し、掃討を行っている所であった。

「いやあ、ちょっと多すぎじゃねえか?海魔の襲撃っつうのは話に聞いてたが、聞いてたよりずっとタフな仕事だったぜ。なあ、勇者さんよ」

「同意する、特級冒険者ブラッド。祈りの国にも海魔の資料はあるが、記載されていたのより3倍は多い」

スキンヘッドの大男、特級冒険者のブラッドと、祈りの国勇者のビアジが話をしていた。

このブラッドと言う男、街中では女と見れば誰彼構わず口説き煙たがられていたが、反面現場の男達からは非常に受けが良かった。常に一番に突撃し、必要とあらば最後まで戦場に残っていることがその要因であろう。前回のバジリスクでの騒動でも、退却の指揮を執るために最後まで残った司令官をキッチリと後方まで送り届けていた。

そしてビアジだが、海の国はこの異常事態に、自国の軍と勇者だけでは対処は困難と判断し、特級冒険者の雇用どころか、祈りの国にも救援を要請。祈りの国もこれに応えて、年若いが勇者を務めるビアジと複数の守護騎士団団員を派遣していた。

「しっかし、確かに魚人種の連中の言ってた通り、必死さっつうのを感じたな。とにかく海から遠くへってな」

「それは私も感じた。繁殖地に邪魔だから排除しようとしていたのではない。何かから逃げていたのだ…。彼等の噂は確かかもしれん」

現場では一つの噂があった。魚人種達が中心のその噂は、海魔達の襲撃は繁殖地を求めているのではなく、何かから逃げているというものだった

海の国は公式にはこの噂に対して反応を示していなかったが、軍からも次々と同じような意見が上がっており、なんとか原因調査に役立てようとしていた。
しかし、水中でも呼吸ができる魚人種の手助けがあるとはいえ、母なる海はあまりにも広大で、何処から手を付けてよいか見当がつかなかった。

「んん?」

「どうした?」

「なんかデカイのが来てねえか?」

「なに?…いやこれは!?」

ブラッドとビアジは、何かとてつもなく巨大なものが、接近しているのに気がついた。

「てめえら離れろお!海からなんか来るぞ!」

「総員退避!退避せよ!」

大声で警告を発する2人。
勇者と特級冒険者が揃って退避を指示いているのだ。波打ち際で海魔の掃討をしていた兵達も、慌てて陸地に避難する。

「なんだ?波が…」

遠目から見ていた兵が、浜に大量の波が流れ込んできているのに気がつく。

「そんな馬鹿な!ここは陸地だぞ!」

「あの足!クラーケンだああああ!」

海からまず出て来たのはタコの足だった。それだけなら問題なかっただろうが、その足はどう見ても海の国を行きかう大型船よりも大きかった。足の一本がである。
徐々に海面から表れる全体の姿はまさしくタコであった。しかし体色は深い蒼で、足を除いた胴体だけでも、そこらの島よりも大きなタコが上陸しようとしていた。

「攻撃開始!陸地に上げるな!」

司令官の号令の下で放たれ始める魔法の光。
外洋で遭遇したら、命を諦めろと言われるような海の怪物が、陸地に這い上がろうとしていたのだ。付近には村や町がある。到底見過ごせるものでは無かった。

「こいつは大物だ。お先に行くぜ」

「流石だな。私も行こう」

そう言いながら駆け出す2人の最高戦力。この地にいた他の特級冒険者達も、集団から飛び出している。

「【俺様がぶった切れねえ物は無え】!」

「【高鳴る 雷が 我が刃に 宿り 敵を討つ】!」

ブラッドが力ある言葉を叫びながら、その巨大な戦斧でクラーケンの足の一本を半ばまで断ち切り、勇者ビアジはその雷の宿った剣をクラーケンに突き刺し、筋と神経に誤作動を起こさせながら足を止めようとする。

「おいブラッド!俺らの契約は海魔の対処だったよな?なんでタコ退治してんだ?」

「はっはっ!その他要請にも、必要とあれば応じられたしってあったろ!」

「要請されてねえよな?」

「違いねえ!」

続いて他の特級達もクラーケンに取り付き始め、中にはブラッドと軽口を言い合うものもいた。
しかし、クラーケンは魔法が着弾しようと足が切られようと、構わず陸地を進み続ける。

「こいつも何かにビビってやがる!エドガーを見た双子みてえだ!」

「おいブラッド!居ねえからいいが本人達の前で言うなよ!」

人種達を捕食しようとする分けでも無く、ただ一心不乱に海から遠ざかろうとするクラーケンに、ブラッドもこの生物が何かから逃げていると感じる。

「勇者さんよお!こいつが片付いたら祈りの国に連絡してくれや!タコがビビる奴が海に居ないかってよ!」

「ちょうど私もそう思っていた!」

海の上で、船と足場を守りながらならともかく、しっかりと足を付けて呼吸の心配もする必要が無いのだ。陸の上では、ただ巨大で力が強いだけの存在となっていた。
自然と混じる会話の最中にも、クラーケンはその巨大な足を大陸が誇る戦力達に削られていく。

さしもの怪物も次第に動きが鈍くなり始め、ブラッドが振り落とした斧が止めとなり息絶えた。


人物事典

"足りないのは品性だけ"特級冒険者ブラッド

魔法の国出身でありながら、全身が筋肉で覆われたスキンヘッドの大男。彼の出身地を知ると、最初は皆が冗談と判断してしまう。
魔物との戦いでは、巨大な戦斧を操りながら常に一番槍を務め、最後まで戦場に残る男。そのため現場での受けは最高だが、街中だろうが社交場だろうが、とにかく女を口説きまわるので、貴族や女性からの受けは最悪である。
常に最前線に身を置いているためか、常人よりも戦場での勘が鋭く、彼に付いて命を拾った者は多い。

「はっはっは!俺様に任せとけ!」
ー特級冒険者ブラッドー

「品性と頼もしさは、何の関係も無いって教えられたよ」
ーある特級冒険者ー


魔物辞典
クラーケン
海の死神とも呼ばれる巨大タコ。
普段は深海に生息している海の頂点捕食者。
稀に海面に浮上することがあるが知性が低く、大型船を餌と思い込み食べてしまうが、何の栄養になって無いことに気がついていない。
しかし、海の上で遭遇すると船ごと破壊されるという事でもあり、遭遇は死を意味する。

ー1つで船を叩き壊し、8つで国を叩き壊すー
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

Sランクパーティを引退したおっさんは故郷でスローライフがしたい。~王都に残した仲間が事あるごとに呼び出してくる~

味のないお茶
ファンタジー
Sランクパーティのリーダーだったベルフォードは、冒険者歴二十年のベテランだった。 しかし、加齢による衰えを感じていた彼は後人に愛弟子のエリックを指名し一年間見守っていた。 彼のリーダー能力に安心したベルフォードは、冒険者家業の引退を決意する。 故郷に帰ってゆっくりと日々を過しながら、剣術道場を開いて結婚相手を探そう。 そう考えていたベルフォードだったが、周りは彼をほっておいてはくれなかった。 これはスローライフがしたい凄腕のおっさんと、彼を慕う人達が織り成す物語。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます

難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』" ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。 社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー…… ……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!? ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。 「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」 「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族! 「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」 かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、 竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。 「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」 人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、 やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。 ——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、 「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。 世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、 最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕! ※小説家になろう様にも掲載しています。

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

処理中です...