その男に触れるべからず ~過去にやらかし過ぎた最強男の結婚生活 反省しているので化け物呼ばわりは勘弁してください~

福郎

文字の大きさ
140 / 172
お家騒動編

かつての暴力の化身

しおりを挟む
ブチリ

そう聞こえてきた音は、怪物が切れた音だったのか…。
それとも…

「ぎゃあああああああああ!?」

ウィルソンの手足がもげた音だったのか。

「おいコラ。いまなんつった?」

ウィルソンの叫び声が外に漏れないように、机に消音の魔道具を置いたユーゴが、椅子からゆらりと立ち上がる。

「あ?誰を殺すだって?ええ!?言ってみろや!」

「ぎゃあああ!?」

そのままユーゴは、床に這い蹲っていたウィルソンの髪を掴むと、自分の目の前まで持ち上げる。

「子供を殺すなって、当たり前のことを頼んだよな!?ああ!?そうだろ!?」

「ぎいいいいい!」

痛みでそれどころでは無いウィルソンであったが、ユーゴはお構いなしに続ける。

「それで俺の家族を殺すだあ!?いいだろう!とことんまでやってやるよクソボケ!」

「ぎぎぎ」

そう宣言すると、ユーゴはウィルソンを床に投げ捨て、自分の"倉庫"からドロテア特製の自白剤と、鏡の破片の様な特殊な転移触媒を取り出す。

この鏡の様な触媒を使用すれば、ある場所に行った者の記憶を触媒に焼き付けて、そこに行ったことのない者でも、転移魔具にセットすることで、転移が可能になる代物であった。
しかし、使用された者の脳と視神経に多大な負荷がかかり、ユーゴもジネットと"杯"の一件以来使っていない、非常に危険かつ希少な物であった。

「くそったれが!どいつもこいつも俺の家族を…!」

だがユーゴは、そんなことお構いなしに、もう一つの危険な代物の自白剤を、ウィルソンの口に押し込み、無理やり飲ませる。

「組織!人員!拠点!全部喋ってもらうぞ!」

「ひいいいいい!?」

ウィルソンに最低限の止血だけしながら、ユーゴは暗い昏い黒い瞳に関わらず、真っ赤な真紅に輝いている目を彼に向けて、怨敵全てを暴き立てる。

「皆殺しだ!」

毛を逆立たせて夜に吠える怪物を止められる存在など、この世界のどこにも存在しなかった。



「ウィル…」

「クソが!てめえら一枚岩じゃねえのかよ!?めんどくせえ!」

ウィルソンに報告を上げに来た、彼の部下を消滅させながら、ユーゴは苛々と吠える。
さっさとこんなことを終わらせて、手を止めている子供達の成長記録のアルバム作成に戻りたい彼にしてみれば、組織内で2つに争っている"満月"は、手間を増やすとんでもない害虫であった。

「一々、2つがそれぞれ準備した拠点を潰せってか!?クソ!」

全てを喋らされ、本拠地の座標も無理やり脳から抜き取られたウィルソンは、最早虫の息であった。

「おまけに、どっちか死んでも、後継者争いは止まらないと来た!」

ウィルソンとルーカスの次期党首争いで、どちらかの死での決着にすると、必ずお互い殺し合うと確信していた満月の幹部達は、ルールを作る際に、どちらかが死んでも、次期党首の承認にはターゲットの首が必要であると決めていた。

下手をするとかなり長引くルールであったが、長引くなら自分が下克上するという、野心を秘めた何人かの幹部の思惑もあり作成された。
それが今回裏目に出た

「安心しろ!兄弟仲良くあの世に送ってやる!そこで決着を付けるんだな!」

「ぎゅ」

苛立ちを更なる燃料として燃え上がった怪物は、足元の汚物を踏み砕くと、テントを出て月を恐怖させながら、周りにいた満月の面々を瞬時に食い散らかす。

「クソ!クソ!クソ!」

魔の国との件では違う点。
それは、子が生まれた事により、更に過敏となっていた怪物が、怒り狂ってかつての"暴力の化身"に戻りかけている事だった。

そして、怒れる怪物が去った後に、何かが残るはずも無かった。



「ルーカス様。どうやらウィルソン派が、聞き込みを強化しているようです」

「ふんっ。焦ったなウィルソン。動きが丸わかりだ」

一方、ルーカス派のテントでは、ルーカスが部下からウィルソン派が聞き込みを強化しているため、大体のウィルソン派の人員の、把握が出来たことを報告されていた。

「幸い、数は殆ど変わりないようだな。このまま監視を続けさせろ。奴等がターゲットを見つけたら、美味しい所を頂くとしよう」

「はっ。では私はこれで」

「ああ」

「てめえがルーカスだな?」

「は?」

部下がテントから出て行こうとした瞬間であった。その部下は、まるで最初からいなかったように消え失せると、変わりに怒れる怪物がテントへと入って来た。

「誰っぎゃあああああ!?」

「クソが!やっぱりめんどくせえ!同じことを、またやらなきゃならないのかよ!クソ!」

ルーカスもまた、ウィルソンと同じように四肢をもがれ…。

「知っていることを吐け!」

怪物の腹に収まるのであった…。


ユーゴ邸

「あら?置手紙?旦那様かしら?」

所変わって、クリスを抱いてリビングに入って来たリリアーナは、机の上に置手紙があるのを発見する。
自分の夫が、よく仕事や野暮用と言って急に屋敷を飛び出す事が多いため、置手紙を書いた人物が、夫ではないかとリリアーナにはすぐに分かった。

「一度戻ったのかしら?」

夕方過ぎにユーゴが出て行った時、この置手紙は無かったため、一旦戻って置手紙を書いたようだ。

「『皆へ。ちょっとお仕事に行ってきます。今日の夕食は食べられそうにないです。急な話でごめんなさい。どうも思ったより長引くかもしれません。本当にごめんなさい。追伸、子供達がパパが居ないって泣き出したら、パパも寂しいって言っておいてください。ユーゴより』あらあら。私も寂しいのに、酷い人」

「ぱぱ?」

「ええクリス。パパはお仕事ですって。あら?裏に?」

子供達だけでなく、自分も寂しいと後で言っておこうと思ったリリアーナであったが、手紙の裏にも走り書きがあるのに気がついた。

「『恥ずかしいので裏に書きます。もちろん奥さん達に会えないのも寂しいです』あらあら。うふふ」

「まま!ぱぱ!」

「そうよクリス。ママとパパはとっても仲良しなの」

夫の気遣いに、思わず笑顔になりながらクリスに頬擦りするリリアーナ。
そんな母の様子に、クリスも笑顔でママと呼ぶのであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます

難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』" ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。 社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー…… ……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!? ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。 「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」 「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族! 「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」 かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、 竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。 「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」 人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、 やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。 ——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、 「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。 世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、 最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕! ※小説家になろう様にも掲載しています。

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

辺境の最強魔導師   ~魔術大学を13歳で首席卒業した私が辺境に6年引きこもっていたら最強になってた~

日の丸
ファンタジー
ウィーラ大陸にある大国アクセリア帝国は大陸の約4割の国土を持つ大国である。 アクセリア帝国の帝都アクセリアにある魔術大学セルストーレ・・・・そこは魔術師を目指す誰もが憧れそして目指す大学・・・・その大学に13歳で首席をとるほどの天才がいた。 その天才がセレストーレを卒業する時から物語が始まる。

処理中です...