その男に触れるべからず ~過去にやらかし過ぎた最強男の結婚生活 反省しているので化け物呼ばわりは勘弁してください~

福郎

文字の大きさ
166 / 172
ちょっとしたサプライズ

侍女は聞いた

しおりを挟む
 未来の坊ちゃまとお嬢様が帰られて早数日、昨夜はソフィアお嬢様がドロテア様と共にお母様に会いに行き、屋敷を留守にしていたため、久方ぶりに夜の営みがあった。あったのだが……。

「今日から凜ちゃんの事、むっつ凜ちゃんって呼びますね」

「なんだとルー!? どういう意味だ!?」

「自分の胸に手を当てたら、答えは自ずと分かるはずなのです」

「うぐっ!?」

 最初に目を覚ました私が、身を清め終わって朝食の準備をしていると、浴室へ向かうルー様とリン様の声が聞こえてきた。
 そう。他でもないむっつ、じゃなかった、リン様の……。いや、これ以上は止めておこう。リン様の名誉に関わる。ですがご安心くださいリン様。例え10つ子でも、お子様はこのアレクシアが立派に育てて見せますので。

 ◆

 しかし、ソフィアお嬢様とそのお母様の会う頻度が最近多いという事は、それだけ小大陸での仕事に余裕が出来始めたという事で、ソフィアお嬢様との別れが近づいてきているのだろう。ご家族の下へ帰れるのは祝福すべきなのだが……。

「ママ!」

「ママ!ママ!」

 キッチンで考え事をしながら食材の在庫を確認していると、足元で自分を呼ぶ坊ちゃまとお嬢様の声で我に返る。いけない。全く気が付かなかった。しかし、ソフィア様とのお別れの時の坊ちゃま達のことを思うと……。

「どうされました?」

「あのねあのね」

「えっへ。だいすき!」

「だいすき!」

「クリス坊ちゃま!? コレットお嬢様!?」

 しゃがんで坊ちゃま達に視線を合わせて何事か伺うと、その可愛らしいお口から飛び出した言葉に、雷を受けたような衝撃が全身を走り抜ける。

「坊ちゃま……お嬢様……ぐすっ」

 恐らく未来のコレットお嬢様の別れの言葉を真似されているのだろうが、感極まって思わずしゃがんだままお坊ちゃま達を抱きしめてしまった。

「ママ?」

 いけない。どうやら不安にさせてしまったようだ。坊ちゃま達が私の顔を覗き込んで呼びかけて来る。

「嬉しくて嬉しくて……ありがとうございます」

「えへへ!」

「えっへ!」

 意識しないと動かない表情筋を全力で動かして笑顔を作ると、坊ちゃま達も同じく笑顔になられた。

「よかったねアリー」

「ユーゴ様!?」

「パパ!」

「パパ!」

 少しの間坊ちゃま達を抱きしめたままでいると、キッチンの扉から顔だけを出しているユーゴ様に声を掛けられた。普段屋敷の中では気配を消していない、ユーゴ様に気が付かない程感激していたらしい。恥ずかしくて、ほんのり頬が赤くなるのが自分でもわかった。

「はい、コレット、クリス。パパはもう準備万端です」

「パパ?」

 そのままユーゴ様はキッチンの中へ入ると、両手を大きく広げて、まるで何かを待っているような仕草をされるが、坊ちゃま達もよく分からないと首を傾げていた。

「パパの事大好きって言って欲しいなー。うっかり心臓止まっちゃうかもしれないけど、大丈夫ってことは実証済みだから、いつでも言っていいよ!」

 なるほど。坊ちゃま達が、私に大好きと仰られたから、次は御自分の番だと主張されているようだった。

「だいすき?」

「だいすきー」

「ぐはっ!? へへっ……。へっへっへっ……。パパも大好きだよおおおおおおおお!そおれ大回転ーーーー!」

「えへへ!」

「えっへえっへ!」

 坊ちゃま達に大好きといわれたユーゴ様は、体をぐらりと崩してしまったが、すぐさま体勢を立て直すと、坊ちゃま達を抱き上げてその場でぐるぐると回転し始め、坊ちゃま達も大喜びで笑い声をあげられている。
 以前ユーゴ様は、回転して喜ばない子供は居ないと力説されていたが、坊ちゃま達もその例に洩れないらしい。

「もちろんアリーも大好き!」

「きゃあ!?」

 微笑ましくユーゴ様達を見ていると、坊ちゃま達を降ろしたユーゴ様が私を抱き上げて、同じように回転されてしまった。完全に不意を突かれて悲鳴を上げてしまったが、ユーゴ様は笑顔で私を見ており、胸がときめいてしまった。

「パパ!もっと!」

「もっと!」

「よーしパパと遊ぼうねー!」

 まだまだ足りないとばかりに、坊ちゃま達がユーゴ様の足に抱き着くと、ユーゴ様は坊ちゃま達を抱き上げて、スキップをしながらキッチンを出て行かれてしまった。

「ふんふん。およ?アレクシアどうしたんじゃ?顔が真っ赤じゃが」

「……いえ。何でもありません」

 ……ただ、胸板が逞しかったです。

 ◆

「だいすき!」

「だいすきー!」

 恐らく大好きという意味自体はまだよく分かっていない坊ちゃま達だが、こういうと皆が喜んでくれて遊んでくれると思われたようで、屋敷の皆様にそう言われていた。

「コレット、クリス……。私も、ママも大好きよ」

「あはは!ルーも大好きですよ!さあさあ、ルーお姉ちゃんと遊びましょうね!」

「まあまあ。まあまあまあまあ。うふふ。うふふ。クリス、コレットちゃん。ママも大好きよ」

「ぬおおお!? アレクシア!聞いたかの!? わしのこと大好きって!」

「少し待っててくれ。凜お姉ちゃんが、お菓子とジュースを買ってくるから」

「わん!」
(ボクもボクも!撫でて撫でて!)

「にゃあ」
(私も)

「ただいまー!わあ!クリスくん、コレットちゃん!私も大好きだよ!」

「フェッフェッフェッ。フェッフェッフェッ」

 坊ちゃま達が大好きという度に、お屋敷の中に喜びと笑い声が溢れる。
 私はこのご家族に仕える事が出来て本当に果報者だ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます

難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』" ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。 社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー…… ……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!? ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。 「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」 「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族! 「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」 かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、 竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。 「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」 人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、 やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。 ——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、 「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。 世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、 最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕! ※小説家になろう様にも掲載しています。

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

辺境の最強魔導師   ~魔術大学を13歳で首席卒業した私が辺境に6年引きこもっていたら最強になってた~

日の丸
ファンタジー
ウィーラ大陸にある大国アクセリア帝国は大陸の約4割の国土を持つ大国である。 アクセリア帝国の帝都アクセリアにある魔術大学セルストーレ・・・・そこは魔術師を目指す誰もが憧れそして目指す大学・・・・その大学に13歳で首席をとるほどの天才がいた。 その天才がセレストーレを卒業する時から物語が始まる。

処理中です...