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第3章
七話
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「………ゴブリンの………群が近付いて………います」
水をもらい、なんとか掠れた声を出せたのは、ネクスの大門に着いてから五分後の事だった。
「なに?!」
「オーガに率いられたゴブリンが百体程、こちらに向かっています。協会に報せて」
「おい、しっかりしろ!協会ってのは冒険者支援協会の事だな!」
「…………はい」
朦朧とする意識を必死で繋ぎ止める。
自分の使命を果たすまでは気絶する訳にはいかない。
男性と幾らかのやり取りを行う。
「もう良い。よく頑張った。少し休め」
男性の言葉で、キールは意識を手放した。
「聞いたか!誰か協会に行ってこい!急げよ!」
「へい!親方!」
若い衆が走る。
キールを寝かせると、親方と呼ばれた男性は次々と指示を飛ばす。
町はまだ建設を始めたばかりだ。
防壁はまだ半分も出来てはいない。
そんな状態で百体ものゴブリンが襲撃して来たらどうなる事か。しかも、強靭なホブゴブリンや魔法を操るゴブリンメイジ、更にはオーガまでいると言う。
ここにいる冒険者を総動員すれば、なんとか撃退は出来るだろうが、町への被害は避けられないだろう。
親方はキールのやって来た方角を睨むのだった。
「うおおおおおおおっっっ!」
三郎が吼える。
ホブゴブリンが中空に舞ったかと思うと、地面に叩き付けられた。数体のゴブリンが巻き添えをくらい、潰される。
すかさずホブゴブリンの手から剣を奪い取る。
緑青の浮いた銅の剣だ。
思いっきり叩きつけ、ホブゴブリンの太い頸を刈り取る。
「むっ」
嫌な気配を感じ、前方へと回転しながら移動する。
立ち上がる際に石を拾い、嫌な気配のする方へと投げる。
「ギャ!」
魔法の詠唱をしていたゴブリンメイジの頭が割れる。
術者が倒れると同時に、練り上げられた魔力が霧散する。
「ふっ」
もう一発、別のゴブリンメイジに投げるが、盾を持ったホブゴブリンが間に入って守る。
盾にぶつかった石は砕け、鋼鉄で出来た盾がへこむ。しかし、それだけだ。
よろめいたホブゴブリンの後で、呪文の詠唱が終わる。
空中に突然、冷気の塊が現れる。
「ギィガァァァ!!」
ゴブリンメイジの叫びと共に、無数の氷塊が降り注ぐ。
「なんと!」
初めて見る魔法攻撃にも動じず、三郎は一瞬でゴブリンメイジを守るホブゴブリンとの距離を詰める。
銅の剣で盾に斬りつける。
盾ごと真っ二つにされたホブゴブリンの向こうで、魔法の制御に集中して無防備なゴブリンメイジの顔が青ざめる。
「ぎぃ!」
ゴブリンメイジはこの群の攻撃の要だ。その要を守る為、ゴブリンが仕掛けてくる。
なかなか上手い連係だ。
しかし、三郎には通じない。
複数同時に攻撃されないような位置取りをし、次から次へと一刀の元に斬り伏せる。
目まぐるしく場所を変え、大群の中にあっても一対一になるように立ち回る。
この間の取り方こそが、三郎の強味であった。
更に追撃してくるゴブリンの腕を取って投げる。宙を飛ぶゴブリンは、再度呪文の詠唱に入っていたゴブリンメイジにぶつかる。
後続を牽制しながら倒れた二体に近付き、止めをしっかりと刺す。
既にゴブリンの群は半減していた。
「そろそろ頃合いかの。団子の分は働いて貰わねばな」
三郎は上空を見る。
蒼穹にはミドリがいた。魔法も届かない高度を悠然と飛んでいる。
合図を送るとミドリは一声鳴いた。
シローはひたすら潜んでいた。
三郎がゴブリンに斬り込んでいる間、身を低くし茂みの中でただただじっとしていた。
「ピィィィ」
上空からミドリの鳴き声が聞こえてきた。
解放の合図だ。
「ワン!」
即座に起き上がり、疾駆する。
一体のゴブリンの背中が見えた。
注意は三郎に向けられており、シローには全く気付いていない。作戦通りだ。
躊躇する事なく飛び掛かり、首筋に牙をたてる。
「ガ………」
声も上げれず事切れる。
そのままゴブリンの身体を蹴り、隣のゴブリンに躍りかかる。
三体倒した所で、ホブゴブリンに気付かれた。
鎧を装備しているホブゴブリンは、自慢の牙でも通るかわからないので相手にしない。
力は負けるが、速度はシローの方が遥かに上だ。直ぐに離れれば追い付かれる心配は殆ど無い。
防御力の高いホブゴブリンは避け、貧弱な装備のゴブリンのみを標的にし続ける。
集団の外周を走りながら、隙を見つけてゴブリンに襲いかかる。
「ピィィィ」
ミドリは空から状況を見ていた。
三郎は危なげもなくゴブリンを倒していっている。時には投げてから踏み砕き、時には奪い取った武器で切り裂いて。
シローもゴブリンを倒してはいるが、やはり危ない場面が少なからずある。その時はミドリがアシストする。
今も、喉笛を噛み千切ったゴブリンから離れるのに手間取り、一緒に倒れてしまっていた。
それを棍棒を振り上げたホブゴブリンが狙っていた。
「ケーン」
ある程度の高度を保ちながら、スキルの斬撃を飛ばす。
ホブゴブリンの首筋が浅く切り裂かれる。その傷は直ぐに塞がるが、シローが体勢を整える時間稼ぎには充分だった。
三郎達の連係は、危うい綱渡りながらも、まだ上手く機能していた。
キールは頬を叩かれる不快感で目を覚ました。
体が重く、上手く起き上がれない。
「これを飲みなさい」
女性の声だ。
差し出されたコップを反射的に受け取る。
「体力回復のポーションだ」
一気に飲み干すと、口の中に苦さと甘さが同時に広がる。なんとも形容できない味だ。
効果は覿面で、飲んだ瞬間から身体中が熱くなり、活力が沸いてきた。
「大丈夫そうだな。では、時間も無いことだし、少し質問に答えてくれ」
水をもらい、なんとか掠れた声を出せたのは、ネクスの大門に着いてから五分後の事だった。
「なに?!」
「オーガに率いられたゴブリンが百体程、こちらに向かっています。協会に報せて」
「おい、しっかりしろ!協会ってのは冒険者支援協会の事だな!」
「…………はい」
朦朧とする意識を必死で繋ぎ止める。
自分の使命を果たすまでは気絶する訳にはいかない。
男性と幾らかのやり取りを行う。
「もう良い。よく頑張った。少し休め」
男性の言葉で、キールは意識を手放した。
「聞いたか!誰か協会に行ってこい!急げよ!」
「へい!親方!」
若い衆が走る。
キールを寝かせると、親方と呼ばれた男性は次々と指示を飛ばす。
町はまだ建設を始めたばかりだ。
防壁はまだ半分も出来てはいない。
そんな状態で百体ものゴブリンが襲撃して来たらどうなる事か。しかも、強靭なホブゴブリンや魔法を操るゴブリンメイジ、更にはオーガまでいると言う。
ここにいる冒険者を総動員すれば、なんとか撃退は出来るだろうが、町への被害は避けられないだろう。
親方はキールのやって来た方角を睨むのだった。
「うおおおおおおおっっっ!」
三郎が吼える。
ホブゴブリンが中空に舞ったかと思うと、地面に叩き付けられた。数体のゴブリンが巻き添えをくらい、潰される。
すかさずホブゴブリンの手から剣を奪い取る。
緑青の浮いた銅の剣だ。
思いっきり叩きつけ、ホブゴブリンの太い頸を刈り取る。
「むっ」
嫌な気配を感じ、前方へと回転しながら移動する。
立ち上がる際に石を拾い、嫌な気配のする方へと投げる。
「ギャ!」
魔法の詠唱をしていたゴブリンメイジの頭が割れる。
術者が倒れると同時に、練り上げられた魔力が霧散する。
「ふっ」
もう一発、別のゴブリンメイジに投げるが、盾を持ったホブゴブリンが間に入って守る。
盾にぶつかった石は砕け、鋼鉄で出来た盾がへこむ。しかし、それだけだ。
よろめいたホブゴブリンの後で、呪文の詠唱が終わる。
空中に突然、冷気の塊が現れる。
「ギィガァァァ!!」
ゴブリンメイジの叫びと共に、無数の氷塊が降り注ぐ。
「なんと!」
初めて見る魔法攻撃にも動じず、三郎は一瞬でゴブリンメイジを守るホブゴブリンとの距離を詰める。
銅の剣で盾に斬りつける。
盾ごと真っ二つにされたホブゴブリンの向こうで、魔法の制御に集中して無防備なゴブリンメイジの顔が青ざめる。
「ぎぃ!」
ゴブリンメイジはこの群の攻撃の要だ。その要を守る為、ゴブリンが仕掛けてくる。
なかなか上手い連係だ。
しかし、三郎には通じない。
複数同時に攻撃されないような位置取りをし、次から次へと一刀の元に斬り伏せる。
目まぐるしく場所を変え、大群の中にあっても一対一になるように立ち回る。
この間の取り方こそが、三郎の強味であった。
更に追撃してくるゴブリンの腕を取って投げる。宙を飛ぶゴブリンは、再度呪文の詠唱に入っていたゴブリンメイジにぶつかる。
後続を牽制しながら倒れた二体に近付き、止めをしっかりと刺す。
既にゴブリンの群は半減していた。
「そろそろ頃合いかの。団子の分は働いて貰わねばな」
三郎は上空を見る。
蒼穹にはミドリがいた。魔法も届かない高度を悠然と飛んでいる。
合図を送るとミドリは一声鳴いた。
シローはひたすら潜んでいた。
三郎がゴブリンに斬り込んでいる間、身を低くし茂みの中でただただじっとしていた。
「ピィィィ」
上空からミドリの鳴き声が聞こえてきた。
解放の合図だ。
「ワン!」
即座に起き上がり、疾駆する。
一体のゴブリンの背中が見えた。
注意は三郎に向けられており、シローには全く気付いていない。作戦通りだ。
躊躇する事なく飛び掛かり、首筋に牙をたてる。
「ガ………」
声も上げれず事切れる。
そのままゴブリンの身体を蹴り、隣のゴブリンに躍りかかる。
三体倒した所で、ホブゴブリンに気付かれた。
鎧を装備しているホブゴブリンは、自慢の牙でも通るかわからないので相手にしない。
力は負けるが、速度はシローの方が遥かに上だ。直ぐに離れれば追い付かれる心配は殆ど無い。
防御力の高いホブゴブリンは避け、貧弱な装備のゴブリンのみを標的にし続ける。
集団の外周を走りながら、隙を見つけてゴブリンに襲いかかる。
「ピィィィ」
ミドリは空から状況を見ていた。
三郎は危なげもなくゴブリンを倒していっている。時には投げてから踏み砕き、時には奪い取った武器で切り裂いて。
シローもゴブリンを倒してはいるが、やはり危ない場面が少なからずある。その時はミドリがアシストする。
今も、喉笛を噛み千切ったゴブリンから離れるのに手間取り、一緒に倒れてしまっていた。
それを棍棒を振り上げたホブゴブリンが狙っていた。
「ケーン」
ある程度の高度を保ちながら、スキルの斬撃を飛ばす。
ホブゴブリンの首筋が浅く切り裂かれる。その傷は直ぐに塞がるが、シローが体勢を整える時間稼ぎには充分だった。
三郎達の連係は、危うい綱渡りながらも、まだ上手く機能していた。
キールは頬を叩かれる不快感で目を覚ました。
体が重く、上手く起き上がれない。
「これを飲みなさい」
女性の声だ。
差し出されたコップを反射的に受け取る。
「体力回復のポーションだ」
一気に飲み干すと、口の中に苦さと甘さが同時に広がる。なんとも形容できない味だ。
効果は覿面で、飲んだ瞬間から身体中が熱くなり、活力が沸いてきた。
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