召喚勇者は怪人でした

一章 変身

１話

「ここが異世界ス―ルアか」

 無機質だった部屋から、緑あふれる自然のただ中にいきなり転移させられた俺は、少しの緊張感を持って辺りを見回した。

 森の中の一本道、それが今いる場所だ。

 道幅はそれなりに広く、車が四台は余裕でスレ違える程で、鬱蒼とした森の中の道にしては明るかった。

 しかし、ここスールアは地球とは違い、魔物が蔓延る世界だそうだ。

 俺をここに送り込んだ監察官を名乗る女性がそう教えてくれた。

 魔物がいるかもと思うと自然に緊張して身構えてしまうな。

 そんなことを考えながら改めて自分の姿を見ると、少し硬めの布のシャツとズボン。シャツの上から革製の胸当てを装備し、ベルトの背中側には大ぶりのナイフが付けられている。

 その上からフード付きのマントを羽織り、足元は革のショートブーツで固めている。

 俺としてはジャージにトレッキングシューズくらいが良いのだが、これがこの世界の標準的な初心者冒険者の格好なんだそうだ。

 魔物と聞くと少し不安が残る装備だが、この辺りはそこまで強い魔物は出ないらしいから、取り敢えず大丈夫だと思いたい。

「冒険者として旅をして魔王を倒す、か」

 そう、魔王を倒すのが俺の使命らしい。

 なんでも俺が彼女の所属する軍のパワードスーツを持っているから、勝手に軍属になってしまったようなのだ。

 俺にはそんなものを所持した覚えはなかったのだが、見せられた鏡には化物のような姿が映っていた。

 どうやらそれがパワードスーツを纏った俺だったらしい。

「地球で制御装置の移植手術を受けていたはずって言われたけど、そんな覚えこれっぽっちもないしなぁ」

 それはともかく、そのパワードスーツは型遅れな上に不完全な物だったらしく、監察官によって再調整を受けた。

 危うく元の姿に戻れなくなるところだったようだ。

 まぁ、その再調整を恩に着せられてここに送られたんだけど………。

「まぁ、やるだけやりましょうかね」