召喚勇者は怪人でした

丸八

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一章 変身

20話

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「ガアアァァァッッ!!!」

「な、あの恐竜、火を吐いてきやがった!?」

 充分森との距離が離れたと思ったからか、それとも苦し紛れなのか分からないが、恐竜は辺り一面に火の玉を吐き出し始めた。

 森の木々に延焼させない為だとしたら、状況判断出来るだけの知能はあるってことか。

「うわっ!?こっちにもきた!?《魔力盾》」

 リコラを庇っていて避けられないから、魔力で作った障壁を出す。

 なんとか相殺出来たが、一撃で砕け散ってしまった。火の玉の威力が強いのか、魔力盾が弱いのか分からないけどね。

 ファミリアスパイダーがどんどん数を減らしていく。まぁ、こっちに来たヤツは俺も処理してたしね。

「キシィッ」

 なんとか少しずつでも距離をとれてきたと思った矢先、アルケニーが吹き飛んできた。

 どうやら大部分の脚が千切れたので、踏ん張りきれずに飛ばされたのだろう。

 魔力盾で勢いを削ぎ、魔力刃で切り捨てる。

 恐竜と同じく弾かれたらどうしようかと思ったけど、なんとか通って良かった。よく見たら外郭は既にボロボロだったから、簡単に切れたんだろうな。

『魔力量が基準値に達しました』

 アルケニーを倒した直後、女性の声が頭に響いた。同時に下腹部が熱を持つ。

 耐え難い高熱が下腹部から全身を駆け巡る。

 俺は思わず地面に膝を着いてしまう。

『闘衣制御機能を一部解放』

 下腹部に拳大の機械が現れた。

『機能名《変身》』

「へん、しん?」

『音声入力確認。闘衣発動』

  直後、俺の背後の空間がひび割れる。

 化物のような像が現れた。バラバラに分割された像は俺の身体に纏わりつく。

 像を纏った瞬間、全身を焼いていた熱が急激に引いていく。

 そして、その代わりに全能感が訪れ、精神が高揚する。

「うぉぉぉぉっ!!!」

 思わず叫んでしまったけど、これで少しは落ち着いた。

 この闘衣と呼ばれる化物像の事は監察官から聞いていた。

 監察官の居住エリアでの調整では、この闘衣を制御する魔力が足りなかった。だから、その機能を封印し、規定値に達したら解放されるようになっていたんだ。

 アルケニーを倒した事でレベルが上がって、魔力の量が増えたんだろう。

 それにしても、ジョブを魔法使いに設定してあったにしろ、まさかスールアに来て二日目で達成出来るとは思わなかったな。

「グロロロロッ!!」

 ようやくファミリアスパイダーを全て潰した恐竜が俺に牙を剥く。

「《魔力刃》」

 俺は短剣に魔力の刃を纏わせる。闘衣を装着してない時と比べ物にならないほどに、刃は長く硬くなっている。

 突進してくる恐竜を軽くいなしながら、魔力刃を振るう。

 刃は苦もなく恐竜の逞しい頚を呆気なく切り裂くのだった。
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