召喚勇者は怪人でした

丸八

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二章

28話

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「ん?あれは?」

 森に差し掛かる手前で、俺は走る速度を緩める。

 疎らに生える木々の間に、子供くらいの背丈をした人影が見えたんだ。

 腰の短剣に手を掛け、慎重に人影に近付いていく。

「ゴブリンか?」

 木の影に隠れ、そっと様子を窺えば、一目で人間じゃないと分かるほど、醜悪な顔の魔物だった。

 胴は酷く猫背で折れ曲がり、痩せている。腕は前腕が太く、粗末な棍棒を握っていた。一応、腰簑だけは着けている事から、服を着たり道具を使う程度の知能はあるんだろう。

 きっとあれが噂に聞くゴブリンってやつなんだろう。

「珍しいな………いや、リコラの話だと、アルケニーが出る前はゴブリンくらいしかいなかったらしいな。ってことは、アルケニーがいなくなって戻ってきたのか?」

 見える範囲にゴブリンは一体しかいない。

 ひょとしたら、安全かどうか確認しに来た斥候役なのかもしれないな。

「これは好都合かもな。ダンジョンに入る前に試し撃ちをしよう」

 魔法珠を使って得たのは《雷魔法》だ。その派生スキルで《雷打》《雷刃》《雷弾》の3つだ。《雷打》は初級魔法、《雷刃》《雷弾》は中級魔法のカテゴリーだ。

 《雷魔法》のレベルが育てば他の魔法も覚えるようだ。単発で覚えるよりも確かにお買い得だな。

「さて、行きますか。《身体強化》」

 こっちに意識が向いてないのを確認すると、ステータスを上げて一気に距離を詰める。

 多少の知能はあるようだが、全方向に警戒を向けるのは無理なようで、あっさりとゴブリンは接近を許してくれた。

「《雷打》」

 俺の両拳に雷が宿る。

「ギギッ?」

 流石にゴブリンも俺の声に反応したようで、こちらに身体ごと振り返った。

 振り向いたところを左拳で打つ。

 拳が頬に当たると、バシンと電気が弾ける音がする。

 ゴブリンがふらついたので、右で鳩尾を穿つ。同じく電気が弾ける音がした。

 威力としては弱めのスタンガンってところか。

「《雷刃》」

 短剣に魔力刃が展開し、その上を雷が跳ねる。すかさず棒立ちになっているゴブリンの頚をはねて止めとした。

「ふう。………さて、どんなもんかな?」

 俺はゴブリンを解体すると、頚から身体の内部にはしるように所々火傷になっていた。

「《雷刃》の威力はなかなかだな。でも、ゴブリン程度なら《魔力刃》で充分か」

 雷魔法の威力を確認した後、他にゴブリンがいないのを確かめた俺は、再びダンジョンに向けて走り出した。
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